9. ダウト6
少し婉曲的な聞き方になってしまったが、俺は後悔するような余裕さえ持ち合わせてはいなかった。
「え? そんな事が聞きたかったの?」
ルイは見るからに安堵していて、口元には笑みすら浮かんでいた。
「ああ」
「誰も」
「ああ……。ああ?」
「なぁにぃ? そんなに驚いて。今は私達以外、誰も乗ってないよ」
「どこか出かけてるのか?」
「誰が?」
会話が成り立っていない。
よくわからなくなってしまった俺の脳内は、当に混沌という言葉が相応しく、助けを求めるように、ゲイリーとハリーに視線を向けた。
向けられた二人は実に迷惑そうに顔をしかめたが、やがて仕方ないとゲイリーはルイとエディの間に入って、状況を整理する事にした。
「姐さん、最近この船に誰か来なかったかい?」
「ああ、私のお母さんなら」
「他には?」
「ゲイリー、あなたもなの?」
ルイはうんざりした様子で、ため息を吐いた。
「他に誰が来るっていうの?」
「例えば……その、お兄さんとか」
「お兄さんって、レオの事? よく知ってたね。一体どこで調べて来たの?」
そんな事を言って目を細めた後、彼女はきっぱり答えた。
「来てないよ」
「本当なのか?」
俺は再び会話の舞台に上がって念を押した。
「本当よ。大体、来れる訳ないじゃない」
ルイは悲しい目をした。
男三人は、それを受けて同じように悲しい目をして、彼女から視線を逸らした。俺は、僅かながらも安堵を覚えていた。
ルイは言葉を続けた。
「レオはもう、この船を出た人なんだから」
理由はそれだけではない筈だが。俺は更なるルイの言葉を待ってみたが、彼女はそのまま遠くの水平線に目を奪われていた。
ひょっとしたら、知らないのだろうか。
連合が職員の事故を伝えていない事は十分考えられた。元々連合という組織は隠蔽体質だし、レオはもうキサラギ家の人間ではないのだ。伝えない理由としてはあり得なくは無い。
もう一つ考えられるのが、情報が礼一のところで止まっているという場合。礼一がルイを悲しませない為、もしくは悲しむ姿を見たくなかった為か。
しかし待て。そもそも俺がおかしいと思ったのは、集音機から聞こえてきたルイの声だ。誰かと会話しているような、あの。あれは事実なのだ。
俺はどうしようか思い倦ねた。
その時だった。スピーカーからギリアムの声が鳴った。
「皆さん、ご歓談のところ申し訳ありません。一旦、操舵室へ戻ってくださいますか?」




