4. ブルーという男
その後は、問題なく食料品店も見つけ出し、残すは電灯の替えとなった。しかし、なかなか発見するに至らなかった。
その上、闇雲にだだっ広い船内を歩き回っていた所為で、自分が今何フロアのどの辺りにいるのかさえわからなくなっていた事に、私は気が付いた。
とにかく、フロアの地図を探せば、何フロアにいるかくらいはわかるだろう。今は、灯りの替えくらい後でもいい。そう思い、歩き始めた。
しばらく歩いて、エスカレーターの近くで、フロアの地図を探し当てる事ができた。今は第七フロアにいるらしい。
私が地図を食い入るように見ている時、背後から声を掛けられた。
「重そうだね」と。
声の方に振り向くと、背の高い男が優しそうな笑みを浮かべて立っていた。
私も女性にしては長身の方だったが、それよりもさらに頭一つ高い。
何も言わずに相手を見ていると、彼は話を進めた。
「すぐそこにロッカーがあるから、これからまだ船内にいるのなら、預けたら?」
そう言われると、途端に荷物に漬物石でも入っているかのように、重たく感じ始めた。確かに、大荷物を持って歩き回るのはさすがに辛い。
言われるまま、私はロッカーのある所へやって来た。コインロッカーだとばかり思っていたが、コインの投入口が存在していない。
「このロッカーは、ここで買った品物なら無料で使えるんだ」
「え? そうなの?」
「買った商品に電子タグが付いてるよね。その日買ったものであれば、どれでもいいんだけど。さあ」
つまり、電子タグを読み取る事により、このロッカーを使用する権利があるかどうかを判断するというシステムらしい。
電子タグを読み取らせ、荷物を入れて鍵を閉めた。
「ありがとう。随分この船に詳しいね」
そう言うと、彼は微笑しながら答えた。
「僕、この船のクルーなんだ。今日は非番だけどね」
男はブルーといった。名前の通りに青い瞳が印象的だ。
「何か探し物?」
「うん。電灯の替えを買わないとなんだけど」
「ああ、そういう家電製品のようなものは、このフロアじゃないんだよ。二つ上の第四フロア。案内するよ」
そう言ってブルーは私の前を歩き始めた。
なんだか悪いなあと思いながらも、実際初めての場所なので、かなりありがたい申し出だった。
「エレベーターで行こう」
ブルーは振り返り、また微笑んだ。
彼はさすがにクルーなだけあって、この広いフロアを迷う事なく、私をエレベーターの場所まで導いた。
上行きのボタンを押してしばらく待つと、エレベーターの箱が到着し、扉が開いた。中には、既に一人が乗っていた。背が低くて鼻の高い、童話などに出てくる小人のような男だった。余りじろじろ見る訳にはいかないので確かではないが、どこかオドオドとしていて、挙動が不自然のように見えた。
二人が箱の中に進み入った時、「ヒッ」と、小男は小さな悲鳴のような声にならない声を発したような気がした。
ブルーが四のボタンを押すと、扉が閉じて箱が上へと動き出した。ブルーは気にしていないようだったが、私は箱内の隅っこでより小さくなっている男の存在が、やけに気に掛かっていた。
やがて、エレベーターは第四フロアに到着。何事もなく、エレベーターから降りる事ができた。
私は、一度だけエレベーターの方を振り返った。例の男を残し、扉が閉じるところだった。
おそらく少し経ったら、その男の存在や気に懸かった事自体、忘れてしまうだろう。