表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/68

1. ヘリを追って

 バタバタとけたたましい音を立てながらヘリが一機、水平線の向こうを目指して飛んでいくのを私は見送り、どうしようもない不安に襲われていた。

 頭の中では幾本もの糸が絡み合い、こんがらがって、今自分が何をすべきなのかわからず、その場に立ち尽くしていた。端から見れば、呆然と。

 周囲で誰かが騒いでいるが、それさえどうでもいい事のように思われた。その、騒いでいる誰かが、両方の肩を強く掴んで揺すってくる。

 私はそこで我に返った。

「おい、しっかりしろ!」

叫んだのはエディという男。

 それを認識すると、急に両肩の痛みに気が付いた。

「い、痛い!」

「あ、悪ぃ」

エディは手を離すと、照れ隠しのつもりか後ろを向きながら、部下達を意味もなく睨んだが、そのような事をしている時でないと思い出した彼は、もう一度こちらに向き直り、咳払いをして言った。

「ルイ。とにかく、船を出す準備をするんだ。ヘリだからすぐに見えなくなるけど、今のうちに追っていれば、向かった病院の方角が大体わかるだろ。大丈夫だ!」

 大丈夫。とても無責任な言葉を放つものだと、私はその男を非難したかったが、その時間さえ今は惜しい。

 私はいつものような冷静さを取り戻す事はできなかったが、何とか動かない足を動かせるようになっていた。

 それから、操舵室へ向かい、船のエンジンをかけた。

 既に小さくなり、見えなくなりつつあるヘリの発する光を視認すると、そちらへ向けて船を走らせた。

 遅れて、アルフォンソ一家の面々も操舵室へ入った。

 急加速。舵を掴んでいなかったら、私は後ろへ投げ出されていたに違いなかった。実際、エディ達は壁や床へ叩き付けられていた。

 だが、そんな事に構っていられる余裕が、今の私には無かった。

 やがて、ヘリの光は見えなくなり、星等の光と区別が付かなくなった。その頃には、一隻の医療船の位置が掴めるようになっていたので、そちらに向かうだけだった。

 医療船は、医療法人ワンダリング・ドクターズが運営する『パラケルスス号』と、チャートの備考欄にそう書かれていた。

「パラケルスス号か」

いつの間にか後ろにいたエディが、チャートを覗きながら、そう呟いた。

「いきなり背後から……びっくりするじゃない!」

「ああ、悪ぃ悪ぃ」

「んで、あんた知っているの? この医療船」

「まあ、少し縁があってな」

「まさか、襲撃した事があるとか言わないでよ」

「いや、そうじゃないんだけどな。この話は長くなるから、後で暇な時にでも聞かしてやるよ」

「長くなるならやめとく」

「はは、もういつも通りだな」

私は、ほんの僅かながら心が軽くなっているのを認めざるを得なかった。それが、エディのお陰である事も含めて。

 少しして、未だ遠い水平線上に、光源をいくつも持った船影が浮かび上がった。

「あれがパラケルスス号だ」

エディがまるで自分の船であるかのように自慢げな口ぶりで、そう言った。それを、指摘すると、ゲイリーが便乗した。

「へぇー、あなたの船みたいな口ぶり」

「姐さんの言う通りだぜ。全く恥ずかしいったら……」

いつものように大声を上げてエディがゲイリーを叱りつける。そんな光景を簡単に予想できたのだが、今回は少し様子が違っていた。

「なあ、ゲイリー。後で、俺の弁当でも食うか?」

エディは不穏な笑みを口元に浮かべて、静かな口調で意味のわからない事をゲイリーに言った。

 すると、ゲイリーは両膝を折り、何故か急に見た事もないくらい低姿勢になり、エディに謝罪の言葉を述べた。

「すみません、ヘッド。どうかそれだけはご勘弁を!」

「弁当って、どういう事?」

私の視線は、エディからゲイリーへと遷移し、最後にハリーで止まった。

「ああ、姐さんにはわからないですよね。実は、ヘッドが外出する時は必ず、ギリアムさんがお弁当を作ってくれるんです」

「ギリアムさんって、確か……銀髪の?」

「はい。うちの副長なんです。何でもできてほぼ完璧なんですけど、唯一料理だけは……」

「ああ、壊滅的な料理音痴だ。しかも、厄介なのは自覚が無いって事だ」

エディがそう締め括った。

「ああ、そうなんだ。完璧な人ってなかなかいないよねー」

私は哀れみの目を三人に向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ