9. 犯罪者の理屈
「なんであんた、こんな所にいるの!」
私は叫んだが、エディの耳にはほとんど届かず、出てくる時、誰かに蹴られでもしたのか、背中を庇うようにさすっていた。
しばらくして、その格好がみっともない事に気が付いたのか、慌ててエディは立ち上がった。
そして、「やあ、ルイ」と、気障に取り繕うような挨拶をした。
「いや、だからなんであんたがここにいるのかって、さっきから聞いてるんだけど」
「追いかけてきたんだ」
「そういう事じゃなくてぇ……ああ。じゃあ、なんで追い掛けてきたの?」
「それはその……お前をだな……」
その先は余りに小声だったので、私にはよく聞こえてこなかった。
その時、エディの背後でドアが開かれた。
「情けねーな。もう既に一度プロポーズした後だろう?」
そう言いながら男が一人、船内から現れた。そして、さらにもう一人。
先に出てきた方には見覚えがあった。
「ゲイリーにハリー、お前ら出てくんなよな」
エディは言った。
「あんまりお前がイライラさせるからだ」
エディと話している男の陰に、もう一人がおどおどした様子で隠れている。
一体、何故この場に出てきたのだろうかと、三人だけで進行している限定的な世界を眺め、私はぼんやりと思った。
「話が拗れるだけだ。帰れ!」
「もともと拗れているような気もしますけど」
ぼそりと、陰に隠れていた方が呟いた。
ここに来て、私には話の内容が見えてきた。話の進まない口論が続く中、私は話を遮った。
「ちょっとちょっと。口論を見せ付けに来たのなら、とっとと帰ってくれる?」
「いや、そんな訳じゃない。話を聞いてくれ」
エディが慌てて言った。
「何の話よ。この前、ちゃんとお断りしたでしょう?」
「その話じゃない……いや、その話しか……。当たらずとも遠からず?」
「言ってる意味が分からねーぞー!」
野次が飛んできた。
「この前は余りにも急だっただろう? だから、あれから俺も反省したんだ」
「確かに急すぎたけど……」
「だろう? お前は俺の事を何も知らない。今日、聞いて欲しい話っていうのは、俺の話だ」
「何言われても、海賊なんかに嫁ぐ気はないからね」
「俺達は確かに海賊だが、義賊だ。そこんとこ、よくわかって欲しいんだけどな。この前のATLASの件でも、正当な理由があった。ATLASの理事長ってのは、連合からの補助金を横領していたんだ。だから、俺等がその横領した金を奪ったに過ぎない」
「でも、強奪が犯罪である事に変わりないでしょ? 大体、横領したお金、自分たちで持っていったんじゃないの。義賊って、もっと困っている人にばら撒いたりするんじゃないの?」
「……俺たちにだって生活がある」
「それが犯罪者の理屈だって言ってるの!」
エディはそこで口を噤んでしまった。
打ち負かしたのだと私が一息吐いていると、突然エディがこちらの船に乗り移ってきた。
「あっ! 住居侵入罪じゃない!」
「俺は海賊だぞ。今更、そんなちゃちい犯罪、痛くも痒くもないんだよ」
「ああ、そっか」
私は、変に納得させられてしまった。
そこへ、「お邪魔しまーす」と言いながら、ゲイリー、ハリーと呼ばれていた男達も乗り込んできた。
もう、どうする事もできず、私は溜め息を吐いて、肩を落とし、首を何度も横に振った。




