6. ソロン研究海域
ルイと僕を乗せた船は、ソロン研究海域へとやって来た。
この研究海域は主に海洋考古学の研究機関が密集しており、同分野では最先端を行っている。
僕は、数十年前までこの海域で研究をしていたが、同じ研究船の女性と結婚し、それを期に独立したのだった。
独立してからも、研究所とは繋がりを持ち続けてきた為か、時々こうして何かあった時にお呼びが掛かる事もあった。
「お父さんったら、着いたって言ってるでしょう!」
「あ? うん、ああ」
どうやら、ルイはさっきから同じような事を言っていたらしいが、僕には覚えがなかった。
「どうしたの? さっきからぼうっとしちゃって」
「いや、何でもないよ」
そう言いながらも、頭に霞がかかったような感じがしていた。
それを振り払うように、頭を強く左右に振った。そして僕は、「懐かしいな」と、小声で呟き、大きく聳える船を見上げた。甲板から乗り出すような格好で、こちらを見ている男がいた。
目を凝らして見てみると、ドミトリーだとわかった。彼は、僕の同僚だった男だ。
船の操縦をルイに任せ、甲板に出る。ドミトリーはこちらの姿を見つけるなり、大きく手を降り始めた。こちらも応じて振り返した。
二隻の船は接舷された。といっても、舷の高さは大きく違っているので、適当な表現とは言えないかもしれなかったが。
僕は降りてきたタラップの上に足を踏み出し、振り返り様に聞いた。
「ルイ、お前はどうする?」
「遠慮しとく。留守番も必要だしね」
「そうか」
僕は言って、研究船の方へと移った。
ルイに操られた船は、エンジンの音を響かせながら離れていった。それを見送っているうちに、ドミトリーが走ってきた。
「レイイチ。よく来たね!」
僕達は握手を交わした。
僕は、ドミトリーの後ろの方に目を遣った。いつもならもう一人出迎えがいる筈だったのだが、今日はその姿がない。
「ドミトリー、リカルドはどうしたんだ?」
リカルド・フォータイナーも、僕の元同僚の一人だった。
「あいつは大きな山を当てたんだよ。当分は現場から離れられないだろうな」
「それは残念だな。久しぶりに三人がそろうと思っていたんだけどな」
ドミトリー、リカルド、そして僕達三人は、年齢の違いこそあれ、よくつるんでいた仲間だった。
どちらからともなく歩き出し、船内に入った。そこは、僕が所属していたのと同じ船ではあったが、内装は随分新しくなっていた。
「綺麗になっただろう?」
ドミトリーは言った。
「ああ、随分変わったよ」
二人は無言で歩き続けた。
不意にドミトリーが口にした言葉が、僕をどきりとさせた。
「ミリーは元気にやっているよ」
僕はやや経ってから、「そうか。元気か」と応じた。そう答えるしかなかった。
「彼女は今、別の船に乗っているよ」
それに対して何も答えないでいると、ドミトリーは、「会いたくないのか?」と、わざわざ立ち止まって訊いてきた。
「そんな事は無い。随分長い間会っていないからな」
「まあ、元妻というのは、そんな存在なのかもしれないな」
ドミトリーは僕から顔を背けながら言うと、また歩き出した。そして、背を向けたままこう言った。
「どうせ、今回の式では会う事になるだろう。ミリーも、先生の教え子だからね」




