13. プラン7
船全体の電気が消えた事により、セキュリティシステムは全ての設定がリセットされた状態になってしまう。そして、「セキュリティ設定が一旦リセットされました」という声がスピーカーから流れ出すという結果に繋がった。
「よし」
セキュリティの再設定には、少なくとも数分は掛かってしまうだろうから、手動であればその間は普段ロックされた扉でも開ける事が可能だった。どこにだって、完璧なセキュリティなどというものは存在しない。どこかに必ず、付け入る隙があるものだ。
フロアに侵入すると、長い廊下が一本延びており、突き当たりに部屋があった。そこが理事長室だと、事前の調べにより解っていた。
俺は、その部屋の中へ勢いよく飛び込んでいった。SPは二人配置されていたが、もはや関係なかった。最初の段階で既に、俺の拳銃が理事長自身を、その銃口で捕らえてしまったからだ。
「お前ら。動くと、護るべき者がいなくなるぞ」
SPの二人はどちらも虚を付かれた形になっていたらしく、拳銃を取り出すという動作にさえ入っていなかった。その二人にまずこう言った。
「後ろを向いて、こちらに銃を投げろ」
二人はどちらも躊躇い無く、素直に要求に従った。
「そうそう。お前らにとっては、この不愉快極まりない狸親父が傷付かなければ、仕事は完了なんだよな。安心しろ、こいつの態度しだいじゃ危害は加えねーよ。だから、この部屋を出ろ」
「やめろぉ!」
その時、半分泣きそうな声で理事長が叫んだ。
「一人にしないでくれぇ」
俺は冷ややかな視線を、眼前のおっさんに向けた。
なんかムカつくな、本当に殺してやろうかな。そんな、計画にない事を勝手に考えたりしていた。
SPの二人は、おとなしく部屋を出て行ってしまった。
「あのSP二人、あいつらも碌でもないよなぁ。まあ、護衛対象がこれじゃあ、モチベーションも上がらねーか」
俺は短く笑った。
理事長はやはり涙声で尋ねる。
「誰なんだ、お前は!」
「ん? 自己紹介がまだだったか。エデュワルト・ファン・デア・アルフォンソ。アルフォンソ一家のヘッドだ。単刀直入に言う。お前の金を貰いに来た」
「金だと?」
「そうだ。だけどな、ただの金じゃねーぞ。お前のものでありながら、お前のものであるべきではない、そういう金だ。あるだろ?」
「こんな時に何を言っているんだ!」
俺は少し間を持たせ、それまでよりも一層低い声で、こう言った。
「補助金の横領、してるだろう?」
理事長の顔色が明らかに変わった。
「わかってるんだよ。連合法第三十二条、商船に関わる規定、第九項。この船はその規定によって、建造費の半分近くが補助金で賄われたはずだ」
見る見るうちに、理事長の額から玉の汗が浮き出てきた。
「実際の建造費よりも高く、七海連合に申告した……」
理事長は、細かく首を左右に振っている。それは、震えているようにさえ見えた。
「しかも! 同じく三十二条、第十一項に記載されている維持費の補助だ!」
自覚済みの俺の悪いクセで、少し悦に入り始めていた。
「ここでの申告も水増ししている!」
と、その時だった。ギリアムから通信が入った。
「なんだよ、ギリアム。今いいところなんだ。邪魔するな」
「申し訳ありません。しかし、緊急事態です。連合に通報されてしまいました」
「何ぃ!」
「今、そちらに数人を向かわせましたので、その者と一緒に脱出してください」
「くそ! わかったよ」
程無くして、四、五人の部下がやって来た。彼らは全員大きな布の袋を持っていた。
「そこの金庫だ。さっさとぶっ壊して、中身を頂いていくぞ」
部下の一人が『鉄鋼』譲りの金属を切断する器具で、金庫を抉じ開け始めると、数分後には金庫は破られた。
部下は数人掛かりで、金庫の中にあるもの全てを、持参した布袋に入れ始めた。
「待て! 金なら持っていくがいい。だが、書類は持っていくな!」
理事長は食い下がった。
それは、この男が横領していた事を示す事のできる物的証拠、つまり裏帳簿という奴だった。これらは、後でばら撒かれる事となる。
「馬鹿が。置いていくわけがねーだろ」
「何故、海賊がそんなものを持っていく必要があるんだ。私の横領など、お前たちには関係ないだろう!」
「関係なんて持ちたくねーよ。だがな、俺の家計は先祖代々義賊なんだよ。この証拠は、あとでメディア関係に送らせて頂くよ」
「ヘッド、準備できました」
部下が言った。
「よっし、ずらかるぞ」
帰る時になると、既にセキュリティは復活していたが、中から外に出る時にロックは掛かっていなかったので、スムーズに出る事ができた。
非常階段を降り、途中でギリアム、ゲイリーらと合流した。
「エディ、よくご無事で」と、ギリアム。
「当たりめーだよ」
「そうですか。それではお急ぎください」
「ああ」




