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12. 海賊

 照明が消え、店内は一瞬静寂に包まれたが、すぐにざわめきが起き始めた。

「どうしたんだろう。停電なんて今まで起きた事無かったのに」

ブルーは言った。

彼は困惑したような表情を浮かべながら、短時間考えた末にこう続けた。

「多分、一時的なものだよ。すぐに戻る」

「そうね」

私は何かが引っかかるような気はしていたが、無難に返した。

 実際ブルーの言った通りで、数分後には照明が煌々と輝き始め、音楽も再び流れ始めた。

 何もかもが元通りに動き始めたと、そう思った時、急に立ち上がった男性客の、叫びにも似た勢いの声が店内に木霊した。

「動くな!」

 声の方に目を向けると、男は銃器と思われるものを両の手に握り締め、その銃口を近くの一般人に向けていた。

 背筋にどっと汗が噴出したように、全身が冷たくなった。

「なっ」と、ブルーが信じられないといった風な声を出した。そして、「何なんだ、あんたは」と、恐れを拭い去るように言う。

「アルフォンソ一家だ」

男はニヤリと口元を歪めた。

 店の入り口から外を見ると、同じように固まっている大勢の人。

 私は悟った。ここと同じ事がこの船全体で起こっているのだと。

 店の奥からもう一人アルフォンソ一家の仲間らしい男が、店員を連れて現れた。銃が一番後ろの店員の後頭部に突き付けられていた。

 新しく現れた方の男が言った。

「これから移動してもらう。抵抗しなければ、危害を加えるような事はしない」

 私達全員は、店を出されて広い廊下を歩き出した。同じ方向に向かわされている人々が、まるで人の川のように見えた。

「ここで止まれ」

そう指示された場所は、廊下の突き当たりだった。

 壁際に、大勢の人が押し合いへし合いしながらひしめき合っていた。その場には十数人の男達がいて、銃をあちらこちらに向けていた。すぐ脇には非常階段と思われる細い階段があった。そちら側には特に多くの人間が配置されていた。

 ブルーが唐突に口を開いた。

「思い出した。アルフォンソ一家」

「え? 有名なの?」

「有名っていうか、海賊だよ。多分、きちんと組織立った唯一の」

「海賊? こんな時代に?」

いささか時代遅れ過ぎると、私は思った。

「だけど、義賊を気取ってるらしいよ」

益々時代遅れ感が漂った気がした。

「ま、不愉快だけど、おとなしくしてれば何もしないみたいだし」

少し投げやり調子で、私は呟いた。

 全く、なんでこんな事に……。そんな事を思いながら。

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