謎解きは本編の前で!
今回は混沌とした世界の中でシリーズの伏線を一部回収します。
隠蔽 七人いる この二作品を読めば本作を楽しめるかもしれません。
江角千穂を東京駅まで送迎した後愛澤春樹はあの方に電話する。
「ラグエルです。就職試験が終了いたしました。あの方に会わせていただけますか」
専用車に乗り愛澤はあの方のいる屋敷に向かう。愛澤は玄関の前に立ちあのことを思い出す。一か月前初めてこの屋敷に入りあの方に面会した。屋敷の景色は全く変わっていない。愛澤は深呼吸をして屋敷の中に足を踏み入れる。
一か月前と同じ部屋にあの方はいた。愛澤はドアをノックして中に入る。
「失礼します」
相変わらずマジックミラーが設置されてありあの方の顔は見えなかった。面会時間は十五分。あの方は変声器で声を変えて話しだす。
「ラグエル君。江角千穂の就職試験が終わったそうじゃないか。彼女の実力はどうだ」
「はい。さすがは透明人間が太鼓判を押す実力者です。ここからは質問です。彼女は我々の姉妹組織四人の怪物のメンバーです。なぜ彼女をヘッドハンティングして我々の仲間にしようとしているのでしょう。これまで四人の怪物とは協力関係を築いてきました。態々組織のメンバーとして就職試験をした理由が分かりません。トレードでもよかったのではないですか」
この質問に対しあの方は衝撃の事実を愛澤に伝える。
「彼女の能力を確かめたかったのだよ。それに・・」
この事実に愛澤は驚きを隠せない。
「まさかこんなことが」
「はい。これを回避するためには江角千穂の能力が必要。四人の怪物のボス吸血鬼は彼女を左遷させてでもあれを回避したいそうだ」
愛澤は納得する。
「面白くなってきました。学校で言う転校や卒業を認めるようになるとは。我々の組織では殉職しないかぎり卒業できません」
「卒業。ゼラキエル君のことか」
「はい。私の思惑を現実化させるために彼と取引をしました。透明人間の計画した株式会社センタースペード人質籠城事件が実行出来たのは彼女の高いハッキング能力があったからです。そうでなければあの会社のセキュリティー対策を打ち破ることはできませんでした。ゼラキエルも舌を巻きました」
「それで合格か。透明人間はそんな賭けをしたものだ」
愛澤はあの方の言葉を聞き笑いだす。
「失礼。透明人間は知能犯。そのためハッキング担当が失敗したとしても捜査線上に浮上することはありません。失敗したとしても捨て駒システムを利用して暗殺すればいいという考えでしょう」
愛澤は一呼吸置き最後の質問をする。
「江角千穂のコードネームはどうしましょうか。彼女は私の所属する偵察部隊を希望しています。アカトリエル二代目を彼女に襲名させるわけはいきません」
「それなら簡単。彼女を秘書にすればいい。秘書ならコードネームは不要」
利にかなっているなと愛澤は思った。たしかに秘書にはコードネームは不要だろう。だがそれでいいのだろうか。江角千穂は偵察部隊に就職するためにあの就職試験を受験した。それで結果がラグエルの秘書という結果が届いたらどう思うのか。
「納得できません。我々の組織には秘書が必要ありませんから。コードネームは・・」
愛澤の提案にあの方は乗った。
「それはいいコードネームだ。ポジションは偵察部隊副隊長でいいだろう」
「問題はアカトリエルです」
相談をしようとしたその時黒いスーツを着た男が入室した。
「ラグエル様。時間です」
愛澤は帰る準備をする。そしてあの方に一言伝えた。
「目的については他言しません。それとあの問題の対応は私にお任せください」
それから一週間後江角千穂の元に合格通知が届いた。合格通知は黒い封筒に同封されている。彼女は手紙を開ける。
『江角千穂様。合格』
さらにもう一枚手紙が同封されていた。
『江角千穂様。いいえ。ここは貴方のコードネームでお呼びしましょう。ハニエル。貴方は退屈な天使たちの就職試験に合格しました。では貴方の最初の仕事をお知らせします。最初の仕事は新人研修。内容は後日改めて発表します。では新人研修でお会いしましょう。ラグエルより』
その後彼女はこの手紙を燃やした。情報漏洩を防ぐために。
原作者山本正純です。今まではこの場で十月一日から始まる『混沌とした世界の中でシリーズ』の予告をしていましたが全四話の最終回ということでいつものようにあとがきを書いていきます。
全四話で投降した江角千穂の試験簿のテーマは就職試験。就職試験の定番といえば面接試験と筆記試験。後は書類審査くらいでしょうか。今回は筆記試験ではなく実技試験にしました。実技試験を採用した理由は筆記試験だと話を描きにくいからです。それと筆記試験で聞く問題がないからです。
退屈な天使たちの就職試験は難問ばかり。ネタバレしない程度にまとめてみると。
第一話。誰が面接官なのかを推理する。
第二話。警察に逮捕されたことを想定した面接試験。
第三話。実技試験(暗殺)
どれも一筋縄ではいきそうにない試験でございます。それだけテロ組織に入ることは難しいということでしょうか。
最後に続編である新人研修編の連載は未定です。気が向いたら書き始めます。
宣伝のようになってしまった本作。それでもこの作品を読んでくださる読者様にとても感謝しています。十月一日の新連載でまたお会いしましょう。
江角千穂。ハニエルが本編に登場するのはいつになるのだろうか。
では予告編をお送りします。
混沌とした世界の中でシリーズ第六弾。
凶器は呪い?森を彷徨う死者の魂が愚か者を殺す。
陰陽師伝説殺人事件 十月一日連載開始