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束縛  作者: ロゼ
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第二章

三年前、会社の取引先に勤めていた翼がうちの会社へ度々来るようになってひょんな事から付き合う様になった。

当時はわたしも今より情熱的だったし、年上で仕事の出来る翼をとても愛していた。

会社の女子社員からも人気があった翼と付き合う事は、友人の口伝いで広まり、社内の女子社員に羨ましがられ、噂の的になり皆の公認の二人だった。


関係が一年経った頃、婚約して式場も決めて、会社にも寿退社する事を告げて全てトントン拍子にうまくいってた筈だが、ある日わたしは翼の秘密を知ってしまった。


わたしが予定よりも早く残業を終え、翼を驚かせようと彼のマンションへ連絡なしで行った時だ。

それまで連絡なしで翼に逢いに行った事はなかったのだが、その日はなんだか、驚かせたい気分だったのだ。

彼の部屋の前に来て、玄関のチャイムを鳴らした。

しばらく待っても翼は出てこなくて、外から見たら部屋の電気が点いていたので、留守ではないと思いドアノブをまわしてみたら開いていて、「鍵開けっ放しで寝ちゃってるのかしら」と思ったわたしは部屋の中に入った。



あの時は本当に驚愕だった。


翼は本当に寝ていたから。


わたしの知らない人とだ。


しかも男の人・・・・・・。


翼は言い訳しなかった。まあ言い訳なんて出来る状況でもなかったが。

その後は普通に恋人が他の女と浮気をした時の様に、翼を罵ったけれど、どうしようもなかった。

彼はその時一緒に居た男性と出逢ってから、気付いてしまったのだから。自分は女性より男性を愛してしまうんだという事に。


わたしは寿退社を会社に届けていたし、みんな彼をしっていたから会社にはもちろん居られなかった。

式場だって決まっていたし、親にもなんて言っていいか分からなかった。

しばらく会社の側なんて通れなかった。

親にも相当な恥をかかせたし、親戚とも会えなかった。

それよりも何よりももうこの世に生きていたくなかった。


それでも何とか立ち直った。

それ以来、なんだか醒めてしまった気がする、恋愛とかに。

どうでもよくなったわけではないが、熱くなるというのがなくなったんだろう。

醒めたからこそ、翼と友達付き合い出来るようになった。

事実を知った時ははらわたが煮えくりかえりそうなくらい、怒りでいっぱいだったけど、今となれば不幸中の幸いだと思う。

結婚してからでなくてよかった、本当に。








  「で?わたしの事は置いといて、翼の方はどうなの?最近。」

わたしはあれから、自然に翼の恋愛相談を受けている。会う度に必ずこんな聞き方をして、まるで二人だけが通じる挨拶のように。

「ちょっと場所変えないか。ここでは話しにくい。」

翼が眉をひそめたので、巴華の事は心配だったが、元山くんを信じて任せる事にした。



店を出てわたしたちは繁華街の中にある、ラブホテルに入った。

周りから見たら普通のカップルにでも見えるんだろうなと思うと、無性に可笑しくなった。



込み入った話をする時、わたしたちは度々ホテルに来る。

大抵、翼が新しく恋人が出来たり、好きな男ができたりした時がその時だ。

部屋に入るや否や、翼はわたしの顔色を窺うようになかなか話を切り出さないでいる。

「何よ。どうせ誰かいい男性ひとでもできたんでしょ?」

珍しくわたしから話を切り出したのにも関わらず、翼はなおも口を噤んでいる。

「黙って聞くからまず、言ってみてよ。」

「・・・怒らないか?」

「話によるけど、怒らないようにする。」

「・・・巴華ちゃんはいい子だな。」

わたしは眼で翼を威圧した。

「人間付き合いを避ける真琴が気にかけるくらいだから、いい子に決まってるよな。」

わたしは翼が言わんとする事がわかり、今度は睨みつけた。

「元山の事なんだけど・・・。」

「だったら何で紹介なんてするのよ?!あんたバカなんじゃないの?!」

「わ、悪いと思うよ!でも俺が一方的に想ってるだけだし、仕方ないじゃないか。」

「なんでもね、仕方ないの一言で済ませられないの。もし、元山くんが翼と同じ趣味の持ち主だったらどうすんの?その上、巴華が元山くんを気にいったら?」

「そうだよなぁ・・・。俺最低だよな。でも、もし元山が巴華ちゃんを気に入ったとしても、真琴の知り合いなら目の届く範囲にいてくれるだろう?それだったら、俺は別に想いが届かなくてもいいかなとも思って。」

「・・・計算高い男は嫌われるわよ。大体翼が現状でいいなんて言ってても、いつ理性が切れるかわからないじゃない。」

「・・・真琴には本当に悪いと思ってるよ。」

「何が?今日の事?それとも昔わたしを騙していた事?」


「何か今日は特別機嫌が悪いな・・・。生理前じゃないのか?」

「わたしが機嫌悪いのは生理前だからじゃないわよ。あんたのせい!」

わたしはそう叫ぶとベッドに入った。  どうせ家に帰る間に目が覚めてしまうだろうし、今から帰るのも面倒なので、泊まるつもり。

翼は ごめん というとシャワールームの方へ歩いて行った。

いつもいつもそう。翼は謝ればどうにかなると思っている。

わたしもそんな翼の性格に、いつしか慣れてしまっていた。


翼が何処の誰を好きでもわたしには別に関係ない。ただ、わたしの親友を、巴華を巻き込むのはやめて欲しい。

わたしは、今頃巴華と元山くんがどうしているだろうと考えたら、無生にイライラしてきたが何だかひどく疲れてて、もうそれ以上考えないことにした。



気持ちを落ち着けようと煙草に火をつけた。
















「どうだったの?昨日。」

わたしは、いつものように仕事を終えた後、今日は巴華の部屋に来ていた。

昨日わたしと翼が抜けた後、巴華と元山くんがどうなったのか仕事中もずっと気になっていて、巴華の部屋に着くなり待っていましたと言わんばかりに聞いた。

「あっ。昨日ね。真琴ちゃんが居なくなった後ね?」

───わたしはあそこで消えるのは不本意だったけど。───

「そうそう。あれから気になっててね。翼がどうしても大事な話があるっていうもんだから、仕方なかったのよ、悪かったわ。」

「あっ、いいの。それは全然気にしてないから。元山さん、すごくいい人だったし。」

うーん。さては気に入ってしまったか。

「本当?良かった。巴華、お酒あんまり強くないし酔っぱらってお持ち帰りされたりしてたらどうしようかと思って。」

「そんな、大丈夫だよ。わたしも子供じゃないんだしね。」

───昨日翼もそんな事言ってたなぁ。───

「あんたはまだおこちゃまじゃないのぉ!男は所詮男なのよ?可愛い子を見たらどこで豹変するか分からないじゃない。」

「はーい、お姉さま。  でもでも、本当にいい人だったよ。紳士的なの。別に大した話はしてないんだけど、曲がった事が嫌いっていうか真っ直ぐな人っぽいよ。」

「そうなんだ、まあ前も悪い人って感じじゃなかったけどさ、わたしはあんたの事が心配なのよ。でも良かった、気に入ったみたいで。」

「うん。今度食事でもって誘われたし、わたしも別にいいかなぁって。」



あれ?わたしは今何て言ったんだろう。

そして巴華は、何て言ったんだろう。

良かった、気に入ったみたいだし。

うん、わたしも別にいいかなぁって。


それってあんまりよろしくない気がする。

よろしくないというより、絶対に悪いのではないだろうか?

翼の昨日の話を、わたしは記憶を辿って思い出してみた。


翼は元山くんを好きで、その元山くんを巴華は気に入っている。

翼と巴華の二人で元山くんを取り合う?男と女で男を取り合う?

しかし、よく考えたら翼が一方的に元山くんを想っていても、元山くんもそうであるという可能性は、平和条約を結んだばかりの国同士がその直後に戦争を始めるのと同じくらい、低いと思う。

ゼロではないだろうが。


巴華だって、今の状態ではまだ気に入っているというだけで、好きにはなっていない。

今手を打っておけば、巴華がこの先元山くんを今以上、想い募ることはないだろう。


まだ間に合う。

何か良い打開策を考えなくては。


わたしは密かに計略をめぐらせていた。









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