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『 森で拾いものなのです 』

  

  

 春の日差しが穏やかに照らし、風は柔らかく温かい。そんな陽気の森の中を、少年がひとりで歩いている。

 彼の右足は、ひざから先はなく、木を削ってつくった杖を使って身体を差えていた。ひょっこひょっこと不器用に、獣道を進んでいく。

 その道を見つめる表情は、暗く冷たい。まるで、そこだけが冬の曇り空で、冷たい風が吹きつけているように。


 杖の先が、地面にはっていた蔦に引っかかった。がくんと前につんのめる。


「ちくしょうっ。またかよっ」


 彼は、毒づきながら、力任せに杖を引っ張った。中々切れない。


「バカにしやがってっ」


 さらに引っ張ろうとした瞬間、蔦が唐突に切れる。


 片足しか支えがない少年は、引っ張った勢いのまま後ろに倒れた。

 潰した草の汁が、ズボンに緑色のしみを作る。


「ちくしょう……」



 空から鳥の鳴き声が聞こえてきた。



 座ったまま、少年は空を見上げる。

 枝の隙間から、空が見えて、そこにくるくると円を描いて飛ぶ一羽の鳶の姿が見えた。


(俺にも翼があれば、こんな足でも自由に飛べたのかな……)


 片足の少年は、自由な鳥に、乾きさえ感じる嫉妬を覚えた。





 少年の名前は、ケビンという。苗字はない。あえて名乗るとすれば、シャーウッドとなる。生まれ育った村の名前だ。歳は、今年で15になった。

 特徴といえば、ツンツンと跳ねまくっている短い茶髪くらいだろうか。このあたりの子供としては、背も体格も普通……だった。2年前までは。


 2年前ほどまえ、シャーウッドの村が怪物に襲われたことがあった。

 そのときに、ケビンは、右足と両親を失う。

 村長が、親代わりを申し出てくれたので、生きていくことはできた。

 けれど、それから彼は、気力を失ってしまった。



(……しょうがないじゃないか)


 木々に遮られて、見えない鳥に向かって、言い訳するようにそんなことを考える。

 しょうがない。どうしょうもない。


 15歳といえば、成人として認められるような歳だ。

 ケビンの友人たちも、自分の畑をわけてもらったり、他所へ働きへ出たりしている。

 可愛かったあの子は、先月に隣村へ嫁に行った。


 ひとりだけ置いていかれた。そんな気がした。


(けど、あいつらが悪いわけじゃない。

 わかってる。そんなことはわかっているんだ)


 ぎゅっと右手の杖をにぎしりめる。ぎりぎりと木が軋みをあげる。


(しょうがないんだ…………。

 ちくしょうっ、ちくしょうっ)


 苛立ちをぶつけるように、杖をふりまわして、そばの木に思いっきりぶつける。


 カーン


 乾いた硬い音が森に響いた。

 木の陰から、リスらしきものが、飛び出して茂みに逃げていく。


「……知らなかったんだ。そこにいたなんて」


 揺れる茂みに向かって、ケビンは小さく呟く。

 そして、杖を使って身体を起こして立ち上がり、再び、森の中を歩きはじめた。





 ケビンは、キノコ取りを日課にしていた。


 少年が住む、シャーウッド村は、森のそばにある小さな村だ。そんな村でできる仕事なんて、いくつもない。まして男がやる仕事になれば、大抵が力仕事になる。

 だが、片足しかない彼は、満足にこなせなかった。

 それを見かねた、木こりのウォレンから、これならできるだろうと、分けてもらった仕事なのだった。


(余計なお世話だよ、ちくしょう)


 最初は、腹が立ったし、余計なことをされたと、ケビンは反発した。

 だが、村に住む者は何らかの仕事をするのが決まりだ。貧乏な村には、怠け者を食べさせる余裕などない。


 それに、こうやって森の中を歩くには、杖を使う練習にもなった。

 また、村人たちからの視線にさらされないところも、ケビンは気に入っていた。

 あの、同情と哀れみとさげすむ目から、逃れることができる事が。


(そこだけは、感謝してやるよ、ウォレン)


 皮肉交じりに、心の中でウォレンに言い放つ。本人にはいえない。そんなことをいったら、あの大きな男はきっと悲しそうな顔をするに決まっているのだ。

 それは、それでまた腹が立つ。なぜ俺が悪いのに、アイツが申し訳なさそうにするのかと。



(ちくしょう……。いい天気だな、腹が立ってくる)



 ウォレンのことを忘れるために、強引に天気へ八つ当たりをする。

 だいたい、この仕事をケビンが真面目にする必要はない。

 彼が、キノコを取って、村のみんなに配れば、喜んではくれる。

 けれど、その家の奥には狩人たちが取ってきた鹿や、たくさんのキノコがすでにあるのだ。


 やりきれなかった。



(ちくしょう……。学校にいけば、もっと他の仕事ができるのに……)


 こんな小さな村には『学校』なんてない。

 だいたい、村で生きていくなら、言葉をしゃべれて、数を数えれたらそれで十分なのだ。

 この村で文字が読めるのは村長と、街へ学びにいっている、その息子くらいなものだろう。


(……俺だって……俺だって)


 俺だって、なんだろう? と少年は自問する。

 俺だって町で勉強したら、役に立てる? 仕事ができる?

 ……この村で、文字が読めることでできる仕事があるのだろうか?


 ケビンには、思いつかなかった。


「……っ。ちくしょうっ」


 そして今日も彼は、森の中をキノコを探して、杖をついて歩く。









 女の子が落ちていた。


「え? な、なんで?」


 キノコを探して森の奥へ来たケビンは、キノコではなく女の子を見つけた。

 驚きがまず最初で、次に警戒心が沸き起こる。こんな場所に、人が来ることなど殆どないのだから。


(誰だこいつ?)


 音を立てないように、起こさないように、そっと近づく。

 近づくと、静かに寝息を立てている。

 どうやら、気を失って寝ているらしい。怪我などは無いように見えた。


(変な女だな……)


 安全そうだと確認すると、じっと観察をしてみた。一体何者なのだろう?



 顔つきは幼く、背は低い。たぶんケビンの肩くらいしかない。


 だが、それ以外は、見慣れないものばかりだ。


 まず髪の毛が黒い。そして長い。村には、赤や茶色、金色はいても、黒い髪のヤツなんて一人もいない。

 髪型も変わっていた。頭の後ろで二つに分けて、妙な飾りで根元だけまとめてある。

 恐る恐る触ってみると、指の間をさらさらと流れ落ちていった。


 着ている服も、見たことが無いものだった。神官様の着ているカソックに似ているが、こんな風に袖がなかったり、裾に大きな切れめがあったりはしない。

 生地も、白くてすべすべしていて、肌触りがいい。ずっと触っていたくなる。ケビンが着ている麻を編んで作ったごわごわするシャツとは段違いだ。


「う……」


 服を触っている手が、膨らんでいる胸に触りそうになって、慌てて手を引っ込めた。

 小さい身体なのに、そこだけ大きい。触りたくなるのは悪魔の誘惑に違いない。


(つ、次だ次)


 手足は細い。村のみんなは、畑仕事などでたくましい腕をしているを見慣れていると、よけいそう感じた。

 こんなに細いとクワも持てない気がした。

 顔は、汚れていた。まるで畑仕事したばかりみたいに泥だらけだ。眉がよっていて、少し苦しそうにしている。





「なんだ、こいつ……」


 顔つきと背の低さから、少年は自分より年下のは13~14くらいだと見当をつける。


(……胸でけえから、もうちょっと上かもな)


 着ている服は上質だし、いいもの食べているような健康的ですべすべした肌をしている。きっと良い所のお嬢様なのだろう。

 髪の色が変だから、もしかすると遠い国のやつかもしれない。



(でも、そんな奴がなんでこんなところに?)


 ケビンは、腕組みをして、しばらく考える。

 そしてこの近くにある、あるモノを思い出した。


(〈フェアリーリング〉、なのか?)


 〈フェアリーリング〉と呼ばれている輪っかがある。それくぐると、はるかに離れた場所へ行くことができる魔法の輪、らしい。

 〈冒険者〉と呼ばれる者たちが、遠くの場所へ短時間で移動するためにつかうと聞いたことがあった。

 だが行き先は、月の満ち欠けや魔力の流れで変わるらしく、何も知らない人が入ると、どこへ行くのかわからないそうだ。


 そのような危険な場所なので、村人はみんな、村長からここへは絶対に近づいてはいけないと、戒めれている。

 だけど、誰も近づかないからこそ、この周辺にはキノコが良く生えている場所だった。

 なので、少年は月に一回は、ここへこっそりとやってきては、キノコを取っていのだ。


 そして今日は、その取りに来る日で……女の子を見つけることになった。



(危ないヤツじゃ……無い、よな?)


 モンスターでは無いみたいだし、小さくて弱そうな女の子にしか見えない。

 こんな相手なら、片足がないとはいえ、ケビンにだって押さえ込むことができそうに思える。


 目を覚まさないかどうか試すように、柔らかいほっぺたをぷにっと突っついてみたが、すこしだけ反応したて、眉を動かしただけ。

 悪い夢を見ているのか、表情は少し苦しそうにしていたが、深く眠っているようだ。

 この様子なら、しばらくは起きないだろう。



(とにかく、誰か呼んでくるか……)



 このまま、ほっておくのも、悪い気がしてきたケビンは、ひょっこひょっこと杖をついて村への道を戻り始める。

 村長は、『男は、女を守っていかなきゃならんのじゃ。なぜなら男の魂を守ってくれるのは女じゃからな』と言っていた。意味は良くわからなかったけれど。

 だから、村人の誰かに頼めば運んでくれるだろう。


(しょうがないじゃないか……。背負って歩けないんだから)


 ケビンは、ひとり村への道を歩るいていく。

 小さな女の子さえ背負って歩けない事が、少しだけくやしかった。

  

  

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