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『 思い出したのです 』

  

  

 ゆっくりと目を開く。黒い円の中に、ぼんやりと薄暗い森の風景が見えた。まるで暗闇の中に、夜の森を描いた絵だけが、浮かび上がっている。そんな幻想にさえ思える。


「え!? こ、ここは?」


 カエデは、一瞬自分がどこで何をしていたのか、思い出せずパニックになりそうになる。

 この世界で始めて目を覚ました時の、不安と恐怖が蘇ってきた。

 だが、目の前にあるのは、穏やかな夜の森の光景。ただよう香りも、清廉なハーブを始めとする心地よい木々と花々の匂いだ。


「……いつの間にか眠っていたのです」


 カエデは、身体を起こす。自分が、大きな樹にあいたうろのなかに隠れて休もうと思っていたことを思い出していく。


 異世界になぜか突然放り出されたカエデは、シャーウッド村のケビンに拾われた。

 村の生活はけして、上手くいっていたわけじゃないけど、それでも悪くなかった。

 ケビンと一緒に彼の両親が残した預かり屋をすることになったときは、嬉しかった。

 だが、そこで気がついてしまった。自分がカエデではないことに。この世界が〈エルダー・テイル〉の模倣のような世界であることに。


「そうでした。……ボクは、リーチェだったのです」


 カエデは、リーチェの身体を動かしてゆっくりと立ち上がる。手足の鎧が、かちゃりと金属音を鳴らす。ふとももでローブのスカートがさらさらと流れる。

 その姿は、カエデがいつもゲームの中で見ていた、リーチェそのものだ。見た目の違いは、瞳の色と胸の大きさくらいしかない。


「でも、ボクはそれを受け入れられなかったのです」


 自分がしてしまった失敗を悔やむ。

 ケビンや村の人たちと違う存在であることが怖かった。彼らから恐れられたり、化け物のように扱われてしまうかもしれないと思ってしまった。

 臆病だったのだ。

 それが、結果的に、村を襲おうとするゴブリンたちにケビンがひとりで挑む切っ掛けを生み出してしまった。


「……いくら謝っても償いきれないです。

 それでも。ううん。だからこそ、何もしないなんてダメなのです」


 洞から足を踏み出して、森へと出る。木々の間からは、良く見えないが、既に月は中天を過ぎて、傾き始めているようだ。


「ゴブリンを退治するのです。

 それが、ジェイムスさんから引き受けた依頼です。

 それが、ボクのリーチェができる仕事なのです。

 それが……ケビンくんにしてあげられることなのです」


 ケビンの足を治して、そのまま森へと入った。シャーウッド村へ向かっているゴブリンの群れを倒すために。

 そして、最初の奇襲は上手くいった。ゴブリンたちは、村へ行くことと中断してカエデを追いかけ始めたのだ。


「でも……戦えるのですか、ボクは?」


 そのままひきつけながら、少しずつ倒していくつもりだった。

 でも……怪物(ゴブリン)もまた生きている、そのことを意識してしまった。

 同時に、倒した後に残ったドロップアイテムが、彼らがある意味作り物であることを示していた。

 重なり合った現実感とゲーム感。湧き上がった嫌悪感は、今も胸の中にずっしりと残っている。


「……いったいこの世界は……なんなのですか……」


 カエデの独り言に答えてくれる者など、誰もいない。

 それに、ゆっくりと考え悩む時間もおそらく残ってなどいない。

 ゴブリンたちは、今もリーチェを探しているはずだ。このまま隠れ続ければ、ふたたびシャーウッド村へと向かいだすだろう。


「結構、眠っていたみたいです。もしかすると、既に村へ向かっているかもです」


 眠ってしまったのは、カエデの計算外だった。自分で思っていた以上に、精神も身体も疲労していたという事なのだろう。

 せっかく、撒くことで稼いだ時間を消費してしまっている。


「作戦もなにも思いついていませんが……やるしかないです」


 とにかく、こうして考え込んでも始まらない。カエデは、よしっと気合を入れなおす。


「まずは、ゴブリンたちを探すです。近くにいるでしょうし……」


 カエデは、一本のマジックワンドを取り出して魔法を詠唱し始める。使う魔法は〈広域生物探知グレーター・ディテクト・ライフ〉。その名の通り、広い範囲の生物(というより、プレイヤーとモンスター)を探し出す、一種のレーダーのような魔法だ。


 〈エルダー・テイル〉のユーザーインターフェースには、ミニマップがあり近くの敵や味方が表示されていた。そして、パーティでの戦闘する範囲ならば、それで十分事足りる。

 そのため、この魔法が実戦で使われることは、あまりない。そういう魔法が、存在していることさえ忘れているプレイヤーは、少なくないのだ。

 だが、カエデはこの手の「便利系魔法」を使うのが好きだった。常に、マジックバックの中には数本いれてある。困ったときに「こんなこともあろうかと」といいながら使うのは、一種の快感さえあるものなのだ。

 その面白さや大事さを教えてくれたのも〈アキバ〉で出会った仲間たちだったけれど。


「この世界ではこんな風に表示されちゃうのですか……」


 発動した魔法は、リーチェの身体を囲むリングを作り出した。宙に浮いている透明なフラフープみたいな感じだ。そのリングの上に、点と数値が表示されている。そちらの方向と距離にいるという事らしい。


「けれど、これじゃ見にくいのです。特に後ろがさっぱり見えませんです」


 ゴブリンと戦っていたときは、余裕が無くて気がついていなかったが、ゲームの時と今では、視点の位置が違っていた。

 ゲームの〈エルダー・テイル〉では、キャラクターの背中が見えるような、後ろに下がって少し上、あたりにカメラの位置が大体ある。

 だが、今の視点の位置は当たり前だが、顔の眼の位置だ。真横や、背中を見ることができないし、見えるの範囲も狭いような気がした。


「……あれ? 狭いのはおかしいです。視野って120度くらいはあるはずなのです。モニターで見えるより広い範囲が見えないとおかしいのです」


 カエデは首をかしげる。そしてすぐに気がついた。視線がまっすぐに固定されるからだ。

 すべてのウィンドウが正面に固まっている。まるでそこにモニター画面があるように。


設定調整コンフィグできるかな……」


 ゲームのときのように、指を使ってドラッグ&ドロップのイメージをしながら、ウィンドウを動かしてみる。

 すすすっと指の動きに合わせて動いた。


「できそうですね。それなら……」


 他のウィンドウも配置しなおしていく。移動や変更は、意識を集中することでも行えた。この調子ならば、アイコンのクリックも意識で押せるだろう。今までも無意識で押していたのかもしれない。

 例のレーダーリングも動かせた。小さく縮小して左前にちょこんと配置する。


「ゲームのときの感覚が戻ってきた気がするです」


 コンフィグをしながら、馴染んできたことに、リーチェは少し笑みをこぼす。そしてそんな自分は、やっぱりゲーマーなのだと、実感するのだ。

 同時に、自分にあったやり方が見えてくる。


「カエデは、プレイヤーなのです。スポーツ選手でも軍人でもないのです。

 だから、同じことをやろうとしても上手くできないです」


 夢で見たことで、思い出したこともその印象を強くしていった。ゲーム部屋でのプレイ。村での仕事の失敗。森の中で試した魔法。ゴブリンたちとの戦い。


「……もしかしたら、今からやることは後で後悔するかもです。

 間違っているかもですし、もっといい方法があるかもしれないです」


 設定を整えなおし、思いついた事柄を、実際に身体を動かして確かめていく。

 腕を伸ばして戻す。

 足をゆっくりと踏み出す。

 近くの樹に向かって走り出し、立ち止まり、手を前に突き出した。

 大体予想通りの結果が得られた。カエデがイメージしたことはおそらく可能だと。


「でも、ボクには、リーチェのプレイヤーということしか、今は無いですから……。

 なら、それを全力でやるのです。それが……ボクの本気なのです」



 暗い森をまっすぐに見つめる。

 その方向に、レーダーの点が複数固まって光っていた。きっとそちらにゴブリンたちが集まっているはずだ。

 ゴブリンと戦うことになれば、また、苦悶の表情を見ることになるだろう。苦悶の声だって聞くことになるだろう。

 そのたびにきっと、カエデは罪悪感を感じてしまう。それは、どうしようもない。


「悪いかもしれないと思いつつ、やらなきゃいけないって……結構つらいのです」


 それでも、戦うことを決めた。ならば、そこで立ち止まるわけにはいかない。

 ちょっとだけ弱気な笑みを浮かべた後、深く息をついて、表情を引き締めた。

 ブーツで湿った土を踏みしめて前に歩き出す。まとめた二本の髪のしっぽがゆらりと揺れる。白いローブが歩幅にあわせてひるがえる。


(装備ウィンドウ展開。選択)


 視線だけで、アイコンを操作して装備を呼び出す。

 左手に盾を。右手には、モーニングスターと呼ばれる、杖の先から鎖につながれた鉄球がぶら下がった武器を持つ。

 そう、相手を殴ることで倒す武器を。


「マジックワンドが足りないのなら、白兵戦闘をしなければならないです」


 カエデは、いままで殴り合いのケンカなど殆どしたことは無い。格闘系のスポーツにも縁がない。

 だから普通に殴りあうことになれば絶対に勝てるわけが無い。


「でも、ここは〈エルダー・テイル〉に限りなく近い世界で、ボクは限りなくリーチェなのです。

 そしてカエデは、プレイヤーとしてリーチェと、ずっと一緒に過ごしてきたのです」


 リーチェは、レベル90の冒険者なのである。

 〈エルダー・テイル〉ならば、レベル20程度のゴブリンなどに負けない。


「リーチェなら、ボクなら、この世界でもきっと勝てますです」


 自分にそう言い聞かせる。

 だが、ここはゲームじゃない。クリックしても自動的に殴り続けてはくれない。

 上手く戦える保障はまったく無かった。


「やる前から、あきらめちゃダメです。

 そう、ですよね」


 できるだけの準備はやったのだ。

 プレイヤーとして、リーチェの実力を引き出す方法も見つけれた。

 不安はあるけれど、立ち止まるわけにはいかない。


「……ケビンくん、最後にもう一度だけ、お話したかったです……」


 村の方をもう一度振り向いてから、歩く速度をあげる。

 やがて跳ねるように森を走り抜けていく。

 リングの点が示す先にいるはずの、ゴブリンを目指して。









 森というのは、一面に木々が生えているイメージがある。だが、実際は穴が開いたようにぽっかりと、木々が途切れている場所があるものだ。

 そこには、大きな岩場があったり、樹が生えるのに向いていない沼だったりする。

 リーチェが、探知魔法の点を追ってたどり着いた場所も、そんなぽっかりと開いた広場だった。

 枝と葉の天井が途切れて、夜空一面の星と、傾き始めた月がはっきりと見えた。


「なぜ、こんな場所に集まっているのです?」


 リーチェは、慎重に音を立てないように歩き、森と広場の境界に生えていた、ひときわ大きな樹の陰に隠れる。

 そのまま、そっと顔をだして、広場をのぞいた。

 暗闇でも森の中を移動できるように、既に〈ムーンフェイ・ドロップ〉の目薬は使ってある。


「あれは……」


 広場には腰の高さほどの草が、一面に生えていた。春風に揺られながら、月明かりで緑色に光る光景は、まるで翡翠色の海原のように美しい。

 そして海の真ん中には、三人の人影が立っている。影になっていてシルエットしかわからないが、ゴブリンにしては、背が高いのがふたりいた。なにより、小さな人影のシルエットは、カエデが良く知っているものだ。


「ケビン、くん?」


 思わず、声をあげて樹の陰から出てしまった。

 人影の方もこちらに気がついたらしい、こちらを明かりで照らしてきた。どうやらランタンのシャッターを開けてこちらに向けたようだ。


「カエデッ」


 ランタンの明かりに照らされた少女を見つけて、ケビンは嬉しそうな声を張り上げた。そのまま、草をざわざわと掻き分けながら、リーチェの方へと近づいてくる。

 ケビンと一緒にいた村の男たちも、ケビンの後を追いかけ始めた。


「こ、こないでですっ」


 叫んでしまった。もっと他に言いたい言葉はいっぱいあったはずなのに。カエデは、今まで胸や瞳の色が嫌いだったが、こういう素直になれないところも嫌いになりそうだった。

 当然、ケビンと男たちの動きは止まってしまう。距離は縮まらなくなってしまう。

 森の外側にいるリーチェと、草原の中にいるケビン。それは二人の世界が異なることを象徴しているかのようにカエデには思えた。


「なんでだよっ。俺は、お前を探していたんだぞっ」


 ケビンもリーチェの声に負けるものかと張り上げた。そして、止まっていた足を動かして、再び前に進みだす。リーチェの魔法で癒された足で距離を縮めていく。


「俺は……お前に会いたいから、ここまで、来たんだ、ぞっ」


「な、何をしているんですかっ」


 リーチェは、動けない。

 ケビンに近づくことはできない。ケビンの思いを踏みにじり奪って村を飛び出したのだ。いまさら傍になんていることはできない。

 ケビンから離れることもできない。それは、失いたくなかったぬくもりだったから。冒険者と名乗るのを躊躇するほど怖かったことだから。



「ボクは……ボクは、キミを傷つけたんですよ!? 裏切ったんですっ。

 それに、ここにはゴブリンたちがいるんですよっ。危険なんですよっ。

 早く村に戻ってくださいですよっ。ケビン君が、ボクを追いかける理由なんて無いはずですっ」


 だから、せめて叫ぶ。もうこないで欲しいと。


「無いなんて決めるなっ。俺が追いかける理由は、俺が決めるんだっ」


「あ、う……」


 ケビンは、まっすぐに近づいてくる。草に絡まってゆっくりとしか進めないけれど、それでも一歩ずつ近づいてくる。


「大体、いつもそうなんだ、カエデは。

 勝手に考えて、勝手に決めて、勝手に行動して……。

 俺だって、俺だって、色々考えているんだっ。俺だって、やりたいことがあるんだっ」


「で、でも……」


「わかってるよっ。わかったよっ。俺じゃダメだって。

 カエデは、ずっとずっと俺たちより強いんだってっ。

 でもさ、だからってさ、ひとりにしておけるわけないだろっ」


 とうとう、手が届くほど近くまでケビンはやって来た。

 服は春先だというのに汗でびっしょりと濡れている。顔には、涙と鼻水が乾いた跡が白く残っていた。だが、今はただ強い意志が宿った目で、小さな少女をじっと見つめている。


「ど、どうしてですか?

 ボクは強いんですよ。ケビン君たちが思っているより、きっとずっとずっと……」


 カエデには、ケビンが追いかけてきてくれたことが嬉しかった。思ってもみなかった。

 だから、わからない。どうしてそこまでしてくれたのかが。


「俺がやりたいって思ったからだ。

 じいさんに聞いた。カエデは、やりたいことをやるために、森に入ったんだよな?

 俺を止めたんだよな?」


「その通りなのです」


「ならさ」


 ケビンは、にかっと笑って見せた。いい笑顔だ。カエデは、彼がこんな風に笑ったのは見たことが無い。いつも、何かに対して不満を抱えている子だったから。

 それだけに、その笑顔がどんな宝石よりも眩しく見える。お日様よりも温かく感じる。


「俺もやりたいことをやりたい。やるんだ。

 俺は、お前をひとりになんかさせたくない」


「だからって……バカですよ」


 悲しく無いのに、涙が零れてきた。

 出会って数日しか立っていない。そんな人間に、そこまでのことができるのだろうかと、カエデは自分に問いかける。できないだろうなと自重気味に答えが返ってきた。

 現代に生きていくうえで、そう簡単に人を信用していたら詐欺にあってしゃぶりつくされるのがオチだから。


「それに、ジャマをしにきたわけじゃないぞ」


 ケビンは、背負っていたバックをおろして口をあけて見せた。


「マジックワンド……。こんなにいっぱい」


 そこには、ぎっしりと魔法の杖が詰め込まれている。良く見ると、それ以外にも色々と押し詰められているようだ。

 だが、すべてに見覚えがある。リーチェが、銀行に預けていたままのアイテムたちだ。


「店から、持ち出せるだけ持ち出してきた。

 どうせ、全部カエデのなんだろ? かまわないよな」


 いたずら小僧のような言い方に、カエデは小さく笑みを零してしまう。

 自分は、また勘違いをしていたのだと、ようやく悟る。


「俺たちも運んできたんだぞ」


「重かったんだからなあ」


 ようやく追いついた男たちも、同じように袋を下ろしながら、カエデに笑いかけた。ずっしりと重いその音は、中身がぎゅうぎゅうにつめられていることを語っている。


「なあ。俺たちにも手伝わせてくれよ。

 俺たちの村なんだ。俺たちだって守りたいんだよ」


「村長もお、言ってたからなあ。カエデもお、シャーウッド村のお、村人のひとりだってえ」


「ダメっていっても、勝手にするけどな。

 勝手にしている、カエデがいくら止めても無駄だぞ」


 カエデは、一歩だけケビンに近づいく。そしてそのまま、手を広げて抱きしめた。


「お、おい!?」


 投げ飛ばされたときのことを思い出したのだろう。ケビンがびくりと警戒する。


「ありがとう。ありがとう、ですよ」


 ぎゅっと優しく抱きしめる。背が低いから、ケビンの顔を見ようとすると、彼の胸の辺りから見上げてしまったけれど、かまわない。今は、彼がそこにいることを実感したかった。夢でないと確かめたった。その手に触れたかった。


「俺も悪かったんだ。むきになって……認めて欲しくて……。

 だから、お前に叱られて良かったんだ。俺のほうこそ、ありがとう、だ」


「一緒に守るですよ。ボクたちの村を」


 カエデは、しっかりと告げる。ボクたちの村と。自然と、カエデの表情には、雪解けのような笑顔が浮かんでいた。

 その瞬間、ケビンは衝動的に小さな少女を抱きしめる。そのまま消えてしまいそうに感じたから。


「ああ、守ってやろうぜ、俺たちで」


「俺もいるんだけどな」


「若いっていいよなあ」


 抱き合うふたりの横で、にやにやと笑う男たち。

 それに気がついて、ふたりは慌てて離れた。


「ば、ばか!? そ、そういうじゃないからなっ!?」


「照れなくていいぞ。男はそのくらいじゃなきゃな」


「いい土産話になるなあ。みんなあ、喜ぶぞお」


 からかうふたりに、ますます顔を赤くしてむきになるケビン。もう、あのいじけて諦める事しかしなかった少年はそこにはいなかった。

 それを見て、カエデはしっかりと心に決める。

 たとえ、モンスターも同じように生きている存在だとしても……もう引き下がらないと。彼らを守りたいと思う、自分の願いを叶えるために、戦って見せると。


「みなさん」


 リーチェの真面目で静かな一言で、騒いでいた三人はぴたりと止めて、彼女の方を振り向く。


「力を貸してくださいです」


「もちろんだ」


「いくらでも貸すよお」


「俺たちは、何をすればいい?」


 うなずく三人に、カエデは思いついた作戦を伝える。

 彼らには、ゴブリンを倒すことは難しい。マジックワンドを使うことも殆どできないはずだ。

 だが、戦いとはダメージを与えるだけでは無い。


「少し長い説明なりますです。

 しっかりと覚えてくださいです」


 そしてリーチェは、施療神官クレリックなのだ。

 団体戦パーティこそが彼女の本慮発揮なのである。

 プレイヤーとしての戦い方。

 ゴブリンと戦う覚悟。

 一緒に戦ってくれる仲間たち。

 全てがそろった。もう、負ける要素は、何も無い。


「みんなでシャーウッド村を守るのですよ。

 えい、えい、おーっ」


「「「おーっ」」」


 四人の力強い声が、シャーウッドの森に響き渡った

  

  

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