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神様転生したはずが赤ん坊の自分に転生していた件  作者: 柿の木


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間話 高瀬真由が二人の“静かな共有”に気づき始める

 子供同士の関係というものは、分かりやすいようでいて、案外そうでもない。


 毎日くっついている子たちが、必ずしも一番深く繋がっているとは限らないし、逆にあまり一緒にいない子同士が、妙に空気を共有していることもある。


 高瀬真由がそれを何度も見てきたのは、教師という仕事をしている以上当然だった。


 だから、天城恒一と白石結菜の関係についても、最初はそれほど特別なものとしては見ていなかった。


 仲が悪いわけではない。


 よく話すわけでもない。


 でも、同じ教室の中で違和感なく存在している。


 それくらいの認識だ。


 だが、天城恒一を見るようになり、白石結菜にも視線を向け始めると、その二人の間にあるものが少しずつ別の形で見えてきた。


 たとえば、会話の短さだ。


 普通、一年生の“仲のいい子”同士の会話はもう少し表面に出る。


 一緒に遊ぶ約束をしたり、さっきのことを共有したり、好きなものの話をしたり、分かりやすい“仲良し”の形になる。


 だがこの二人はそうではない。


 話すときは短い。


 しかも、そこで必要なことだけが通っている感じがする。


 教師から見ると、まるで会話というより“確認”に近いときがある。


 それが最初に気になったのは、図工の時間だった。


 天城恒一が壊れた工作を直したように見えた、あの日のことだ。


 そのあと、白石結菜がごく短く彼へ話しかけていた。


 声は聞こえなかった。


 だが、その温度は分かった。


 ありがとう、でもない。


 ただ驚いているだけでもない。


 “何かを確かめている”空気だった。


 天城恒一もまた、それに対して必要なだけ返し、終わっている。


 それが妙に印象に残っていた。


 その後も、似たような場面があった。


 教室の空気が少し荒れた日、天城恒一の出力が微妙に落ちていると感じたことがある。


 表に出る回数が減る。


 誰かを助けるタイミングが一拍遅くなる。


 普段ならすぐ拾うところを、あえて待つ。


 それは真由にとっても好ましい変化だった。


 見すぎる子は、少し自分を引いたほうがいい。


 そう思っていたからだ。


 だが、その変化のすぐ前に、白石結菜が彼へ何かを言っていたのを、真由は見ていた。


 声は聞こえない。


 でも、あれはただの雑談ではなかった。


 しかもその後、恒一の振る舞いは本当に少し変わった。


 それは偶然かもしれない。


 だが偶然にしては、繋がりがよすぎる。


 そうやって細い線をいくつも見ているうちに、真由は少しずつ考えを修正するようになった。


 この二人は、ただ“よく見ている子同士”なのではない。


 互いの見方を、少しずつ支え合っているのかもしれない、と。


 昼休みの教室でも、同じようなことがあった。


 図書室へ行く子、外へ出る子、教室に残る子。教室の中の温度がばらける時間だ。


 その中で、天城恒一は本棚の前で少しだけ立ち止まり、白石結菜もまた別の方向からそこへ来た。


 二人は同じ本を取ろうとしたらしい。


 一瞬だけ間ができ、それから並んで机へ座った。


 周囲の子供たちは特に気にしていない。


 教師が神経質に見なければ、それは普通の光景だ。


 でも真由の目には、そこにある“静かな自然さ”がやはり引っかかった。


 無理がないのだ。


 気を遣いすぎてもいない。


 でも、勝手に距離が近すぎるわけでもない。


 そこにちょうどいい幅がある。


 そして、その幅を互いに理解しているように見える。


 それは小学生としては、少し珍しい関係だった。


 仲良しというより、共犯に近い。


 もちろん、悪い意味ではない。


 ただ、“同じものを見ている”者同士の静かな連帯感のようなものがある。


 図書室の帰り、廊下を歩く二人の背中を見ながら、真由はそんなことを思った。


 また別の日には、帰り支度の途中で白石結菜が給食袋をうまく入れられずに困っている子を手伝っていた。


 派手な動きではない。


 誰も気づかないかもしれない程度の手助けだ。


 だが、その直後に天城恒一が遠くからそれを見て、ほんの少しだけ肩の力を抜いたように見えた。


 まるで、“今日は自分が動かなくても大丈夫だ”と確認したみたいに。


 それを見て、真由ははっきり思った。


 ああ、この二人は、互いが“見ている”ことを知っているのだ、と。


 一方が拾えば、もう一方は少し引ける。


 一方が止めれば、もう一方は待てる。


 そういう意味で、二人は静かに役割を分け合っている。


 それが言葉にされているのか、本人たちにも無自覚なのかは分からない。


 だが少なくとも、教室の中ではかなり珍しい関係だ。


 真由はそこに危険を感じているわけではなかった。


 むしろ、いい方向へ育てば、この二人は教室の空気を支える側になるだろうと思っている。


 問題は、どちらかが無理をしたときだ。


 静かな共有は、時に強すぎる支えにもなる。


 お互いが互いを分かりすぎると、逆に外から見えなくなることもある。


 だから教師としては、そこを少しだけ見ておく必要がある。


 介入するほどではない。


 壊す必要もない。


 でも、見失わないことだけは大事だ。


 夜、自宅で記録をまとめながら、真由は小さくペンを止めた。


 天城恒一。


 白石結菜。


 それぞれ別に見ていたはずの名前が、最近は同じページの近くに浮かぶことが増えた。


 もちろん記録として並べるわけではない。


 だが頭の中では、もう二人は別々ではなかった。


 教室の中で、静かに何かを共有している二人。


 それが何かはまだ分からない。


 だが、たぶんそこに秘密めいたものがあるのだろう、と教師の勘は告げていた。


 そしてその秘密は、悪意のあるものではない。


 むしろ、教室の空気を壊さないためのものに近い。


 ただ、それでも秘密は秘密だ。


 教師が全部を暴く必要はない。


 でも、存在だけは見失わないほうがいい。


 高瀬真由はそう判断して、ペンを置いた。


 天城恒一と白石結菜。


 この二人の間には、もう“ただのクラスメイト”では言い切れない何かがある。


 それはきっと、今後の教室の中で静かに効いてくる。


 そして教師として自分がするべきことは、その繊細な距離を壊さずに、必要なときだけ支えることなのだろう。


 そんなことを思いながら、真由は窓の外の夜気に少しだけ目を向けた。


 子供の世界は小さい。


 でも、その小ささの中で生まれる静かな共有は、時々大人が思う以上に強い。


 あの二人も、きっとそういう関係に入り始めているのだ。

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