表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様転生したはずが赤ん坊の自分に転生していた件  作者: 柿の木


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/38

第20話 初めての“依頼”と、クラスの問題解決役になる

 “頼られる”という状態は、ある日突然始まるわけではない。


 小さな積み重ねの結果として、気づけばそこに立っている。


 天城恒一がその位置に足を踏み入れたのは、宿題が始まって数日後のことだった。


 最初は些細なことだった。


「天城くん、ここどうやるの?」


 算数の時間、隣の席の男子が小さく聞いてくる。


 まだ授業中だ。


 本来なら先生に聞くべきだが、“今すぐ知りたい”という気持ちが先に出る。


 恒一は一瞬だけ考え、黒板をちらりと見る。


 高瀬真由は別の子を見ている。


 この程度なら問題ない。


「ここ、かぞえるだけ」


 短く、必要最低限。


「……あ、ほんとだ」


 それで終わる。


 大げさに教えない。


 目立たない。


 だが確実に“助けた”という事実は残る。


 こういうやり取りが、一日に一度、二度と増えていく。


 次第に対象が広がる。


「これでいい?」


「うん」


「ここ、わかんない」


「こう」


 気づけば、教室の中で“ちょっと分かる子”として扱われ始めていた。


 これは狙っていた位置だ。


 だが、ここから先が難しい。


 頼られること自体は悪くない。


 むしろ動きやすくなる。


 問題は、その“頼られ方”だ。


 過剰になれば、負担になる。


 そして目立つ。


 そのバランスを取る必要がある。


 その日、問題は休み時間に起きた。


 教室の後ろで、数人の男子が固まっている。


「これ、どこいった?」


「さっきここにあったのに」


「なくなった?」


 内容は単純だ。


 色鉛筆が一本足りない。


 だが問題はそこではない。


 “誰かが取ったかもしれない”という疑念が、空気に混ざり始めている。


 小学校一年生のトラブルとしては典型的だ。


 だが、この段階で止めないと、後に残る。


 疑われた側。


 疑った側。


 どちらも記憶に残る。


 恒一は少し離れた位置から様子を見る。


 まだ決定的な対立にはなっていない。


 だが、時間の問題だ。


「さっき○○くん、このへんいたよね?」


「え、しらないよ」


 矛先が一人に向きかける。


(ここで止める)


 今回は、言葉だけでいける。


 恒一は自然な動きで近づいた。


「どれ?」


「この色」


 赤だ。


 視線を走らせる。


 机の上、床、隣の席、椅子の下。


 すぐに見つかった。


 机の脚と床の間に、斜めに挟まっている。


 見えにくい位置だ。


「そこ」


 指をさす。


「え?」


 本人がしゃがみ込み、取り出す。


「あった」


 空気が一気に抜ける。


 疑いが消える。


 それだけで、場は元に戻る。


「よかったー」


「まじか」


 誰も謝らない。


 でも、それでいい。


 この年齢では、“なかったことになる”のが最適な終わり方の一つだ。


 そのやり取りを、結菜が少し離れた場所から見ていた。


 目が合う。


 ほんのわずかにうなずく。


 それだけで十分だった。


 放課後、別の形で“依頼”が来た。


「天城くん、これ教えて」


 今度は女子だ。


 ノートを持ってきている。


 完全に“教えてくれる人”として見られている。


(来たな)


 ここが分岐点だ。


 全部教えるのは簡単だ。


 だが、それは危険だ。


 教師の領域を侵すことになるし、周囲とのバランスも崩れる。


 だから答えは一つ。


「ここまでならいいよ」


 指で範囲を区切る。


 全部ではない。


 一部だけ。


「なんで?」


「ここからは、先生が言うところ」


 理由も添える。


 それだけで納得度が上がる。


「そっか」


 女子はそれ以上は求めなかった。


 ここで重要なのは、“教えない勇気”だ。


 助けすぎれば、依存が生まれる。


 依存が生まれれば、崩れたときに大きく歪む。


 だから、あくまで“補助”に留める。


 帰り道、大和がいつものように話しかけてきた。


「なあ、おまえさ、なんでもわかるよな」


「そんなことない」


「いやある!」


 大和は断言する。


 だが、その評価は軽い。


 重さがない。


 それがありがたい。


「でも、なんか聞くとわかる」


「たまたま」


「たまたまじゃねー!」


 笑いながら言う。


 その軽さが、今の恒一にはちょうどいい。


 家に帰り、宿題を終え、いつものように本を開く。


 知識の積み上げは順調だ。


 だが今日は、それとは別の思考があった。


(頼られるって、こういうことか)


 ただ“できる”だけではない。


 “聞けば返ってくる”という認識。


 それが形成され始めている。


 そしてそれは——


(使える)


 将来的に。


 人を動かす。


 場を整える。


 影響を広げる。


 その基礎になる。


 だが同時に——


(危ない)


 突出すれば、観測される。


 教師にも、周囲にも。


 だから今はまだ、薄く。


 必要なときだけ。


 そのラインを守る。


 布団に入り、目を閉じる。


 今日の小さな依頼。


 小さな解決。


 それが積み重なって、位置が変わる。


 “できる子”から、“頼られる子”へ。


 その変化は、静かに、しかし確実に進んでいた。

感想や評価をお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ