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刻印監査局

エルミナ帝国中央塔最上階の会議室には窓がない。代わりに、空間そのものが外界と隔絶されている。多重封鎖式による完全干渉遮断領域。その中央に立つ男が、静かに報告を受けていた。


ゼルド・レクシオン。刻印監査局局長。


「対象、暫定コード紫電と一致。断式レベルを確認。零界兆候あり」


三名の監査官が跪いたまま告げる。ゼルドはわずかに目を細めた。


「継承は確定か」


「前任者カイル・ノクティスの消滅と同時刻に反応転移を確認。唯一性条件と一致します」


沈黙が落ちる。


会議室中央に巨大な立体魔法陣が展開された。アルクレシア大陸全域の魔力流動図。その一角に、ごく小さな歪みがある。黒紫の痕跡。


「……また、世界が選んだか」


ゼルドの声は低い。帝国は魔法によって成立している。物流、防衛、治安維持、軍事均衡。すべてが刻印式魔法陣の上に築かれている。その土台を否定する存在が紫電だ。


「排除許可を要請します」


監査官の一人が言う。ゼルドは即答しなかった。


「前任者の記録を出せ」


空間に古い映像と術式解析が展開される。過去三例。いずれも覚醒から数年以内に消滅。共通項は最終段階未到達。


「紫電は常に未完成のまま消える」


「では今回も時間の問題と?」


「違う」


ゼルドは視線を歪みに戻す。


「零界兆候が早すぎる」


室内の空気がわずかに張り詰める。断式、逆流、零界。理論上は段階進化型だが、零界に至った継承者はいない。それが覚醒初期に観測された。


「対象は不安定だ。しかし可能性がある」


「何の可能性ですか」


ゼルドは短く答えた。


「再刻だ」


その言葉に監査官たちの表情が硬直する。再刻――理論上の最終段階。魔法を消すのではなく、魔法構造を書き換える力。それは帝国を崩壊させ得るが、同時に帝国を完成させ得る。


「排除はしない」


「局長……」


「監視を継続しろ。追い込むな。成長を促すな。だが死なせるな」


命令は明確だった。


「世界が選ぶ修正機構を、我々が理解できぬまま排除するのは愚かだ」


ゼルドは立体魔法陣を消す。歪みだけが一瞬残り、やがて静かに消えた。


「少年がどこへ辿り着くか。それを見極める」


会議室は再び無音に戻る。


帝国は動かない。だが観測を始めた。


唯一の異端は、まだ未完成。


そしてその進化が、世界の未来を決める。

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