第七幕:契約という何か
赤髪のヨナが現れビジネスを持ちかける。
ジキル博士に拒むことはできるのか?
やあ、君。信頼していた相手を侮辱して、自分で切り捨てた後なのに、裏切られたんだと怒る。そんな時、あるだろ? 感情は時に記憶を都合のいいものに変えるんだ。
第六幕では、研究の助手であるソフィアを侮辱して追い出したジキル博士の様子を見た。
これは破滅の一つだ。
まともな世界から離れていく。
まるで錨を海底に落としてきた船のよう。波にゆられて、どこか違う岸に流れ着く。
ジキル博士もそうだった。
彼はしばらく考えて、自分の軽率さに気づいた。だけど、彼女の裏切りに腹も立てていた。
彼は机に向かって、書き物を始めた。
「この姿では、ボクはハイドに、エドワード・ハイドにはなれない。
変身薬の開発が必要不可欠だ。
ボクと同等の知能を持つ男が必要だーー」彼は友人たちを思い出した。
彼はこう呟いた。
「ヘイスティ、ーーヘイスティ・ラニョン!」
その名は、彼の大学時代の友人の名だった。彼もまた、科学者であり優秀だった。
「彼なら、きっとボクの研究のすごさがわかる!すぐに、連絡をーー」
彼は外にでようとした。
その時、目の前の扉がノックされた。
「ごきげんよう。ヘンリー・ジキル博士」と声がした。聞き覚えのある声だった。
扉を開けて、現れたのは赤髪のヨナだった。
「長い夜になるな、ジキル博士ーー」
彼は疲れてた。ため息を吐き、部屋の中に入った。そして長机に尻を乗せた。
彼は鋭い目で、辺りを見回した。
「ーーさて、オレが来たのは遊びじゃあない。おっぱじめるためでもない。
ビジネスってヤツだーー」
彼は机の上に無造作に置いてある紙を拾って読んだ。
「完全な悪の人間『ハイド』。なるほどな、博士の話はここからーーふん。いけすかねぇーーおい、逃げるなよ」彼はジキル博士の動きを警戒した。
「ビジネス?」とジキル博士は、ヨナに聞き返した。
「オレのボスが、アンタの研究を知りたがっててね。蜘蛛の糸を垂らしたのさ。ーーここに。」彼は再びため息を吐いた。
「アンタのような科学者が組織に欲しいんだとよーーどうだい、博士?
ーー乗ってみないか?」
ジキル博士は後ろにたじろいた。
「その組織は、彼は私の欲しいモノを用意できるのか?」
「ーーできる。」とヨナはうなづく。
「どんな非合法でも。お気に召すままーー」と言って歌い出した。
悪を求める科学者よ
蜘蛛の糸が垂らされた
ここは地獄、救いはない
お前は女を逃したが
糸は男を捕まえた
男は黙って糸をみた
蜘蛛の糸
救いがあるのか
そう聞くが
糸は首を横に振る
救いは神の御心よ
お前は神を軽んじる
神はお前を救わない
お前は蜘蛛のエサなのさ
吸い尽くされ
干からびて
虚空に消えて
それまでだーー
「博士、これはビジネスだ。
だが、アンタは食い尽くされる
救いなんかない。
殺してやる慈悲をかけたら
明日はオレが川に浮かぶ。
そこまでしてやる義理はねぇ」と彼は微笑んだ。
「ーーさて、何が必要だ?」
その言葉を聞き、ジキル博士は不敵な笑みを浮かべた。
その顔は、まるで類人猿のように醜く変貌して見えた。
(こうして、第七幕は蜘蛛の糸により幕を閉じる。)
ジキル博士の心の中の完全悪が、
不敵な笑いを浮かべている。
ファウストの魂による破滅の囁きが君には聞こえる!




