第三幕:完全悪との接触
謎の男は完全悪か?
ジキル博士の冷たい目が、
謎の男の行動見つめる。
やあ、君。本当の悪とは何か考えたことは?自分の衝動に正直なのか。
それとも、何かしらの問題を抱えているのだろうか。
病とは悪なのだろうが?
第二幕では、ジキル博士が悪の形をもとめてさまよい、酒場にたどり着いた。そして赤髪の男が、酒場に入ったところを見た。
彼はカウンター席が埋まっているのを見て、ちょっと肩をすくめた。
それから、その席に向かってあるくと、彼から目を逸らす客の後ろの襟首にスティックの柄を引っ掛け、強く引っ張った。
客は悲鳴をあげて、そのまま後ろに倒れた。
赤髪の男は、空いた席に座ろうとした。
客が何か口を開こうとしたが、赤髪の男は客の口をブーツで、素早く軽く踏んで見せた。
客は笑い始め、ブーツにキスをすると店から歩き去った。
「ジェニー。酒だ。いつもの」と少し高めの声が彼からでた。
「ええ、ヨナ。いつものねーー」とジェニーと呼ばれた給仕の女は震えながら、酒をグラスに注ぎ、彼の前に置いた。
「ーーいつものだ」と彼は不機嫌そうに言った。
女は、その酒を口に含み、彼のそばかすの顔に、怯えた顔を近づけて酒を呑ませた。男は女の腰に無遠慮に手を伸ばした。
他の客は視線を逸らし、彼らの話題に戻った。
ジキル博士は、その光景を唖然として見てた。悪魔の演じる悪夢の舞台を眺めている感覚だ。現実的には見えなかった。
やがて男は飽きたのか、グラスから酒を飲む。
それから、一人でぶつぶつ聞こえるように不平を言った。
今日の男は
ふざけたヤツさ。
返さぬ金を、ぐだぐだと
返す、返さぬ
繰り返し、オレは言ったさ
黙って払え
五体満足
あるうちに
どこかが欠けたら
見栄えが悪い
鏡を見たら
よりぶざま
結局、オレは仕事した
今頃川には浮いているさ
愚かな男の目立つ鼻
愚かな男の目立つ鼻ーー
ヨナは歌い終わると、グラスに残った酒を飲んだ。
「クソさ。この日も!」
そう言って、彼は更に酒を求めた。
ジキル博士は、彼の方に近づいた。
赤髪のヨナは、視線だけを彼に向けた。
「止まれ、近寄ったらブチのめす」
ヨナは敵意を込めた目をジキル博士に向けた。
「ーー奢らせてくれないか、ヨナ。
私はヘンリー・ジキルだ。」
彼は唇を舐めた。ひどく喉も乾いてた。
「少し話を聞かせてほしいーー話だけだーーそれだけだ。金もやるーー」
ヨナは、少年のような笑顔をみせた。
「ーーいいだろう。ーー財布をだせ」
ジキル博士は、彼が用意した財布を手渡す。がっしりとした高身長の男が、身を縮めて少年みたいな男に財布を手渡した。それはどことなく面白く、不自然だった。
「で、話すだけか?それとも、どこかで抜いてほしいのか?」とヨナは嘲るように言った。
ジキル博士の身体はブルっと震えた。
「話がしたいんだ。君の物語を聞きたいだけだ!」と彼は狼狽えた。
ヨナは、しばらく彼を眺めた。
「ーーオレの物語?」
ヨナはジキル博士を見つめながら、財布を給仕の女に投げた。
女は受け取ると、それを大切に握った。
「お前は誰だ?なぜ、オレのことを聞きたがる?」とヨナは問いかけた。
ジキル博士はしばらく悩み、こういった。
「悪を知りたい。私は君を完全悪だと思っている。だから、調べたいーー」
ヨナの目が丸くなった。
(こうして、第三幕は完全悪により幕を閉じる)
ついにジキル博士は話しかけた。
完全悪に心踊らせ。
酒を奢ると財布を渡す。




