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第十四話:連合解散

第十四話:連合解散

「諸君、董卓は滅びた。我らの大義は、ここに果たされたと言えよう」

軍議の席で、盟主・袁紹が重々しく、しかしどこか安堵したように口火を切った。その言葉は、この面倒な戦を終わらせるための、都合の良い宣言に過ぎなかった。


だが、その空気を読まずに、公孫瓚こうそんさんが鋭く切り込んだ。

「盟主、何を仰せられる。帝は、未だ賊の手にありますぞ! 我らの真の目的は、帝を救出し、漢室を復興することではなかったのですか!」

彼は、袁紹との対立もあり、ここで正論を吐くことで、盟主の権威を失墜させようとした。


その言葉に、袁術がせせら笑った。

「公孫瓚殿は、お固いな。では、帝を救い出した後、誰がその面倒を見るのだ? 誰が、あの燃え尽きた洛陽を復興させるのだ? その莫大な費用は、一体どこから出す?」


「それに」と別の諸侯が続く。「帝を宮殿に迎え、再び朝廷が開かれたとしよう。そうなれば、我らは帝の臣下に戻り、そのご命令に従わねばならん。もはや、自由に兵を動かすことも、領地を広げることもできなくなる。果たして、それが我らにとって得な話かな?」


彼らの本音が、次々と漏れ出す。

帝は、救い出してしまえば、金のかかる厄介者であり、自らの野望の枷となる存在。むしろ、遠い長安で賊徒の傀儡となっている今の状況こそが、彼らにとって最も都合が良いのだ。

「董卓を討つ」という、兵士や民を納得させるための「建前」は、もはや不要となった。


「それに」袁紹の軍師・沮授が進み出て、冷静に付け加えた。「李傕、郭汜も西涼の古強者。董卓軍の主力をそのまま受け継いでいる。我らが長安へ進軍すれば、多大な犠牲は免れまい。かの曹操殿ですら、追撃の末に大敗を喫したのです。そのような割に合わぬ戦、すべきではありますまい」

沮授は、ここにいない曹操の敗北を例に出すことで、追撃の危険性を巧みに強調した。


もはや、議論の余地はなかった。

「我らは、これより自領へ帰還する!」

袁紹がそう宣言すると、それを皮切りに、諸侯たちは我先にと撤収の準備を始めた。巨大な陣営は、数日のうちに、まるで蜃気楼であったかのように、がらんとした空き地へと変わっていく。その欲望に満ちたざわめきを聞きながら、呂布の脳裏には、かつて并州を蹂躙した匈奴の略奪者たちの、飢えた目が重なった。

(結局、同じか。掲げる旗の色が違うだけで、やっていることは奪うことしか考えぬ獣どもと同じではないか…)


連合の醜態を、傍らの丁原は、苦々しい、しかしどこか冷めた目で見つめていた。彼の長い経験は、この連合がこうなることを、初めから予期していたのかもしれない。

「奉先、我らも帰るぞ」

丁原が、疲れた顔で呂布の肩を叩いた。「今は、力を蓄える時だ。この并州が、乱世の最後の砦となるやもしれん」


呂布は、黙って頷いた。

(行くと言った舌の根も乾かぬうちに、このまま引き下がるのか…)

彼の胸の内には、滎陽で陳宮に宣言した「誰が止めようと、俺は行く」という言葉が、苦い棘となって突き刺さっていた。長安では、董卓に代わって李傕・郭汜が帝をないがしろにしている。まさに「動きがあった」時だ。

だが、どうするというのだ。この疲弊しきった兵を率いて? 信頼もできぬ、背後からいつ牙を剥くやも知れぬ諸侯たちを背にして? そして何より、自分たちの力だけで、あの混沌を鎮めることができるというのか?


…できはしない。

彼は、痛いほど、その現実を理解していた。自分の「武」だけでは、天下は正せない。その事実が、彼の誇りを、そして無力感を苛んでいた。

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