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第四十九ノ二話:決闘の約束

第四十九ノ二話:決闘の約束

「もう、いいわ…」


探り合うような言葉のやり取りに、飛燕が痺れを切らしたように、吐息混じりに呟いた。

彼女は趙雲の目の前に吸い寄せられるように一歩踏み出すと、その真っ直ぐな瞳を、もはや隠すこともしない灼けるような熱を込めて潤ませながら、囁いた。


「あなたがどこの誰かなんて、もうどうでもいい。あなたは、強い。私が…生まれて初めて焦がれた魂よ」


その、あまりにも唐突で、あまりにも純粋な告白。

趙雲は一瞬だけ驚きに目を見開いた。だが、すぐに彼の常に冷静な表情が、慈しみに満ちた穏やかな笑みへと変わった。


「…それがしもまた、同じだ」

彼の声は静かだったが、飛の魂を震わせるほどの確かな熱を帯びていた。

「貴女の槍は、嵐そのもの。だが、その嵐の中に、某は一点の曇りもない気高い光を見た。あれほどまでに美しい武は、生まれて初めてだ」


もはや言葉は不要だったのかもしれない。ただ互いの瞳を見つめ合うだけで、二つの魂は深く、そして確かに共鳴していた。


「ならば!」

飛燕の声が弾む。

「ならば、もう一度! あの時みたいに、あなたの全てを私に見せて!」

彼女の瞳が、懇願するように趙雲を射抜く。

「そして、私の全てをあなたに知ってほしい! 言葉なんかじゃ足りない! 私たちは、槍でしか本当に語り合えないのだから!」


「…ああ、その通りだ」

趙雲もまた、力強く頷いた。

彼もまた渇望していたのだ。

目の前の嵐のような少女と、もう一度、邪魔の入らない場所で、ただ純粋に互いの武の全てをぶつけ合いたい、と。

この心に燃え盛る、初めて知った熱情の、その正体を確かめたい、と。


「よかろう。その願い、我が魂、喜んでお受けする」


趙雲の、静かな、しかしこれ以上ないほど力強い承諾の言葉に、飛燕の顔がぱっと花が咲いたように輝いた。

逸る彼女を、趙雲がその大きな手で優しく制した。


「いや」

彼の声には有無を言わせぬ響きがあった。

「貴女と某の勝負だ。この世で最も美しい舞台が必要だ。これはただの殺し合いではない。互いの武の真髄を懸けた、一度きりの神聖なとなるはずだ」


彼の指が、夕日に照され黄金色に輝く、近くの美しい渓流を指し示す。

「あそこでは、いかがかな。川のせせらぎが、我らの勝負の証人となってくれよう」


その、あまりにも詩的で、そして自分たちの戦いをどこまでも気高く、どこまでも特別なものとして扱おうとする彼の言葉に、飛燕はもはや反論などできなかった。ただ、その大きな魂に抱かれるように力強く頷いた。

「…望むところよ」


二人は村人たちに、山賊を追い払った礼には及ばぬとだけ告げると、約束の場所である渓流へと並んで歩き出した。

夕暮れが二人の影を、長く、長く、まるで未来永劫を誓うかのように大地に伸ばしている。


戦いを前にしているはずなのに、その雰囲気はどこか穏やかで、そして、ようやく運命の相手と出会えた喜びと高揚感に満ちていた。


言葉はなくとも、互いの魂はすでに理解していた。

これから始まるのは、ただの一騎打ちではない。

二人が本当の意味で結ばれるための、神聖な儀なのだ、と。

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