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幕間:魂の共鳴

幕間:魂の共鳴

戦いは終わった。

村を脅かしていた賊徒は頭目を失い、算を乱して四散していく。遠くからは、助かった村人たちの歓喜の声が波のように押し寄せていた。


だが、その喧噪は、二人には届いていなかった。

飛燕と趙雲。

二人は、血と汗にまみれたまま、荒れ果てた地のただ中で、ただ呆然と互いを見つめていた。

槍を通じて流れ込んできた魂の熱が、まだ全身を灼き続けている。呼吸は荒く、鼓動は耳を裂くほどに響く。それでも目を逸らせなかった。


まず、飛燕の心に押し寄せたのは、これまでの人生で一度として味わったことのない巨大な嵐だった。


(なによ、この男……!?)

(私の槍筋を先読みしている? いや、違う。これは理屈じゃない。読んでいるのではなく――感じてるんだわ、私の魂の動きを!)

(そして、あの槍…! なんて正確で、なんて力強い…! 私の荒れ狂う力をいなすどころか、受け止めて、さらに大きな力へと変えてみせるなんて!)


彼女の心臓が、破裂するかのように高鳴った。

これまで幾度となく敵と槍を交えてきた。誰もが彼女の猛撃を恐れ、退き、敗れ去っていった。だが、この男は違う。

受け止めるだけでなく、その力を自分のものに変え、共鳴するように戦う。


(こんな男、初めて……!)


飛燕は、生まれて初めて、自分と対等以上に渡り合える存在と出会った。

それは恐怖でも屈辱でもない。ただ純粋な、魂が震えるほどの歓喜だった。


一方で、常に冷静沈着であるはずの趙雲の心もまた、激しく波立っていた。


(このおなご……何者だ!?)

(その槍は、型も何もない。ただの荒削りに見える。だが違う。その一撃一撃に、天賦の才と、一点の曇りもない魂が宿っている。まるで、荒れ狂う嵐そのもの……!)

(そして、あの連携だ。某の理詰めの槍に、彼女の予測不能な感性が加わった時……我らの武は、間違いなく次の次元へと昇華した!)


彼は、生まれて初めて理性の枠を超えて動く槍を目の当たりにした。

そこには隙も、怯えもなかった。あるのは、ただ生への直感と誇り。

自分の槍は冷徹に機を読み、必勝を導くもの。だが彼女の槍は違う。まるで生命そのものの脈動を武に変えたような、熱を帯びた一閃。


(危険だ。だが、美しい……そして、あまりに気高い)

(なんということだ、心が――躍る!)


戦いの興奮で飛燕の白い頬は朱に染まり、飛び散った血がまるで紅を差したかのように妖しくその美を際立たせていた。荒々しく戦っていた時とは違う。今目の前に立つのは、息を呑むほどに可憐な少女。だが、その瞳の奥に宿る光は、何者にも屈しぬ、生まれながらの王者の如き烈火の誇りだった。


彼女は彼にとって危険であり、未知であり、そして何より抗いがたいほどに眩しかった。


――そして、最後の一撃。


二つの槍が寸分の狂いもなく同じ一点を貫いた、あの奇跡の瞬間。

賊の頭目が呻きもなく地に沈んだその刹那、二人の視線が至近距離で交錯した。


言葉はなかった。

だが、槍を通じて響き合った互いの魂の熱が、雄弁に語っていた。


お前は、俺の半身だ。

お前こそ、私が探し求めていた魂だ。


その感覚は、夢でも幻でもない。

二人の心は、同じものをはっきりと受け取っていた。


飛燕は思う。

(父上でも姉様でも妹でもない。誰も触れることのできなかった、この魂の奥底に――彼は届いた!)


趙雲は応える。

(袁紹でも、公孫瓚でも、玄徳殿ですらも無かった。だが、この少女は……! 彼女の魂の奔流は、俺の冷たい槍を、熱で満たしてくれる!)


時間が止まったかのようだった。

村人の歓喜の声も、血の匂いも、吹き抜ける秋風すらも消え失せる。

ただ二人だけが、この世の中心に立っていた。


その瞬間、彼らは確信した。

互いが、互いにとって「特別」な存在であることを。

それは運命などという生易しい言葉では片付けられない。

魂と魂が共鳴し、互いを必要とした――この瞬間に刻まれた確信は、二度と消えることはない。


二人は言葉を交わさぬまま、ただ深く見つめ合っていた。

その瞳の奥で、烈しい炎と静かな氷が、確かに一つへと溶け合っていた。

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