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第八ノ二話:虎牢関の戦端

第八ノ二話:虎牢関の戦端

反董卓連合軍の前に、ついにその威容が現れた。洛陽の東方を守護する天下無双の関、虎牢関である。切り立った断崖に挟まれ、天にそびえるかのような巨大な関楼。その威圧感は、遠望するだけで連合軍の将兵たちの士気を鈍らせるに十分であった。


軍議の席で、盟主・袁紹は諸侯に虎牢関攻略の先鋒を問うたが、我こそはと名乗り出る者はいない。汜水関で華雄に手こずった記憶が新しい。ましてや、董卓本隊が相手では、先鋒は死地に赴くのと同義であった。


その時、静かに立ち上がった者があった。并州刺史・丁原である。

「盟主、ここは我が養い子、呂布奉先に先鋒をお任せいただきたい。并州の武の神髄、諸侯にお見せしよう」


その場にいた誰もが、丁原の顔を見た。驚きと、そしてわずかな安堵の色が広がる。呂布は、傍らに立つ丁原の横顔を見た。その瞳には、自分への絶対的な信頼が宿っている。(親父殿は、俺に全てを託そうとしておられるのだな。この連合軍の士気を上げ、董卓の鼻を明かし、そして俺自身の武名を天下に轟かせよ、と…)彼の武人としての血が、滾るように熱くなった。


「お任せください、盟主、親父殿」呂布は、居並ぶ諸侯たちを見渡し、静かに、しかし腹の底から響くような声で言った。「この呂布奉先、この赤兎と共に、必ずや虎牢関の門をこじ開けてご覧にいれます」


翌日、払暁ふつぎょうと共に、呂布は軍の先頭に立ち、虎牢関へと進んだ。やがて、眼前に迫る虎牢関の巨大な城門が、きしむような音を立てて開かれ、中から現れたのは、異様な威圧感を放つ一軍であった。先頭に立つ将の姿に、連合軍の兵士たちからどよめきが起こる。


筋骨隆々とした、熊のような巨躯。全身には黒ずんだ異国の鎧を纏い、露出した顔や腕には、蛇やさそりを模したような禍々(まがまが)しい刺青いれずみがびっしりと刻まれている。その手に持つのは、見たこともないような形状の、巨大な鉄の棍棒――鉄蒺藜骨朶てつしつりこつだ

兵士たちの間から、囁き声が漏れた。

「あれは…! 董卓が西域から金で雇ったという、傭兵部族『黒沙団』の頭目ではないか!」「奴らの残虐さは、羌族きょうぞく以上だと聞くぞ…」


呂布は、周囲の動揺を肌で感じながら、改めて目の前の敵を観察した。(傭兵…金で動く獣か。だが、その気迫は本物だ)


「貴様が并州の呂布か! 飛将とやらも、董卓様の金と地位の約束の前にはただの雛鳥よ! その赤い馬、美しいな! 褒美として、この黒沙様が故郷の砂漠へ持ち帰ってくれるわ!」


「黙れ、蛮族!」呂布も言い返した。「貴様のようなけがらわしい奴が、このかんの聖なる関を守る将か! 道を開けねば、貴様のそのみにく頭蓋ずがいを、この方天画戟で砕き割ってくれるぞ!」


もはや言葉は不要だった。両者の馬が猛スピードで交錯し、方天画戟と鉄蒺藜骨朶が激しく打ち合わされる。ゴォォンッ!と、鼓膜を破るかのような重い衝撃音が、曠野に響き渡った。呂布は、戟を通して伝わってくる、人間離れした膂力りょりょくと、鉄蒺藜骨朶の異様な破壊力に、思わず息を呑んだ。(こいつ、とんでもない怪力だ…! まともに打ち合えば戟がもたんかもしれん!)


一方の黒沙もまた、呂布の想像を絶する技量に驚愕していた。(なんだ、この小僧の戟捌きは…!? まるで生きているようだ!)


数十合、互角の攻防が続く。戦いは膠着し、互いに次の一手を窺う、息詰まる時間が流れていた。

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