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側妃リリア  作者: もも
9/10

9  クラウド1

読んでいただきありがとうございます

 クラウドはあの日リリア様に拾われてから彼女を生きる希望として慕っていた。

平民だが裕福な家の子供だったクラウドは幼い頃から見目が良かった。運悪く両親と来ていた旅行先で攫われてしまった彼は、奴隷市場で売られかけた。

運動神経の良かったクラウドは本能で危険を感じ大人の隙を付いて逃げ出した。その先にあるのがたとえスラム街だとしても、自由でいればいつか抜け出せるのではないかと逃げ込んだ先は想像もしていなかった世界だった。



路地裏には汚物が散らばり大人も子供もお腹を空かせていた。女は春を売り病気が蔓延していた。油断をすれば慰み者にされそうな世界を何とか逃げ切った。クラウドが着ていた服もあっという間に薄汚れ異臭がするようになった。ギャングのような組織がありクラウドは直ぐに手下にされた。


盗みは勿論、食堂のごみ箱を漁るのも当然で、食べられるのは腐った部分だけだった。嫌がると立ち上がれないほど暴力を振るわれた。道端で息も絶え絶えのクラウドの髪を掴み、まだ若いボスが下卑た声で言ったのがようやく聞き取れた。


「こいつ顔がいいじゃん、好きものの変態に売ろうぜ。顔を殴らなけりゃあ良かったな。当分気を失ったままだろう、また取りに来ようぜ」 

「そうだな、美味いものが食いたいな」



その場の危機は去ったようだった。クラウドは何とか身体を起こし大通りまで必死で逃げた。

そこから意識がない。気づいたら大きな馬車から降りてきた同じ年くらいの可愛い女の子が助けてくれたようだった。それがリリア様だった。



どれくらい振りだろうか、お風呂に入れてもらい洗濯された使用人の服に着替え、食べ物を貰って漸く人心地が着いた。人攫いにあってどれくらい経っていたのか分からなかった。

とても大きなお屋敷に拾われた。自分の家も大きいと思っていたが比べものにならなかった。どうやら貴族の家のようだ。自分の父親くらいの年の人がこの屋敷の御主人なのだろう。

「お父様お願い、この子を助けてください。ドレスも宝石もいりません」

「スラムから逃げて来たようだ、もう遅いかもしれない。家の騎士団に入れてみよう。駄目なら直ぐに逃げ出すだろう」

部屋の隅でそんな会話を聞いた。



遅いって何が?僕が犯罪に手を染めているかもしれないってことかな。生きるために色々やったけど心まで腐った訳じゃない。このお嬢様のために死ぬ気で頑張ろう。恩返しをするんだ。クラウドはこの時リリア様に忠誠を誓った。





後でご主人様に呼ばれて、名前と生まれた国とどうしてスラムにいたのかを聞かれた。

「そうか、良く頑張ったな。リリアがお前の目が綺麗だと言うんだ、裏切らないでやってくれ」

「はい、頑張ります」

こうしてクラウドは剣の訓練と執事としての見習いを始めたのだった。


実の親を忘れたわけではなかったがもう死んだ者として諦めているかもしれない。今さら混乱させてどうすると子供だったくせに、クラウドは思ってしまっていた。


侯爵は人をやってクラウドの祖国で両親を探させたが、平民の裕福な家というだけでは手がかりが少なく諦めざる負えなかった。





 王家の策略によって婚姻が決まった時には、家を守るために嫁がれるリリア様の為に屋敷全体が泣いていた。

この時クラウドは諜報の仕事も覚えることにした。想っても届かない人を助けるために。

















ーーーーーーーーーーーーーー




 結局クラウドはリアの護衛伴執事となり、スタンリーはカーチスの秘書伴護衛に、クリスが旦那様の秘書伴護衛になった。リアと夫人の侍女はマリーとエリーがすることになった。二人は護衛も出来る。



大きな組織になると危険が付いてくるものだ。知らない者が多くなった今、周りを信用できる者で固めたかった。






人を募集するのに最初は簡単な筆記試験と面接だけで済ませていたが、条件が良い為か応募者が増えてきた。優秀な者を採用するために高等学院以上の卒業と筆記試験に面接をすることにした。両親と兄が担当になった。




働く者が増えたので二階建ての大きな建物を造り事務部と薬品開発部、営業部を作り大きな食堂も作った。父と兄とリアは二階でそれぞれ秘書と一緒に執務をしていた。広い農場を見回るのは三人の内二人と決めていた。それ程広大だった。

薬草畑はリアが任されていた。薬草の香りの中でリアは癒されるのを感じた。

母は屋敷を管理した。

崩壊した祖国から元使用人たちがもう一度働きたいと家族を連れて移住して来るようになり、バロン家は嬉しい悲鳴をあげた。

屋敷の周りに従業員用の家が沢山建つようになった。




大富豪のカーチスとリアには縁談がひっきりなしに来ていた。断っても断っても切りがなかった。

カーチスは所作が綺麗な上、美形で大金持ちと何拍子も揃った優良物件だが、商談以外では近寄りがたいと言われていた。本人も今は仕事のほうが面白かった。


仕事で出なければいけないパーティーは仕方なく出ていたがそれ以外は断り続けていた。



日に焼けて少し健康そうになったリアもうず高く釣り書が来ていたが、まだまだそういう気にはならなかった。心に受けた傷はそう簡単には塞がりそうもなかった。兄があの国は滅んだよと教えてくれたが何とも思わなかった。もっとすっきりするのかと思っていたのに感情は少しも動かなかった。


クラウドとマリーが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのを他人事のように受け取っていた。思いのほか自分は傷ついていたのだと改めて知った。




 クラウドは一生をお嬢様の側で支えようと心に決めていた。害をなす者はどんな手を使ってでも排除しようと誓った。そのために何でもこなせる完璧な執事を目指すことにした。




リアは農場の見回りを馬に乗って楽しそうにするようになった。クラウドは帯剣し拳銃も身に着けていた。侯爵家の諜報だった者も周りを固めていた。


「こうしてホワイトに乗って外を走るのは気持ちが良いわね」

「そうですね、お嬢様がおっかなびっくり馬に乗られたときのことを思い出すと凄い進歩です」

「それは褒めているの、それとも貶してるの?」

「褒めてます」

「それなら許してあげる。今年も薬草も野菜もいい出来具合ね」



クラウドは元気そうに笑うリア様を見て心から安心した。以前からの週間で扉の前で護衛は止めていない。夜中にうなされている時があるのだ。部屋に入る訳にいかず悔しい思いをしていたが、こうして馬に乗って活動をした日には聞こえてこなくなった。

少しだけほっとしていた。

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