8 新天地
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スタンベール家はバロンと名乗ることにした。リリアも豪商のお嬢様リアとして生きることになった。腰まであった髪も肩までに切りそろえた。軽くて楽になった。
新大陸として栄え始めた国は勢いがあった。そこへバロン家は広大な土地を買い、屋敷を建て農地を広げ小麦やじゃが芋等野菜を植え、薬草も植えていった。
品質のいいバロン家の薬はあっという間に受け入れられ、薬屋として大きくなっていった。そこを任せられたのが兄のカーチスだった。
兄は商運を逃さず相手を見極めて売り込んでいった。バロン家は大きな組織になっていった。
「リアが助けてくれるから頼もしいよ」
「薬品開発部や経理部を作りましょう。一人で頑張るのは良くないわ」
「そうだね、人を募集しよう。面接は父上と母上にお願いしよう。護衛部門も作った方が良いね。何かと物騒だ。責任者はクラウドにしようか」
クラウドに聞いてみると「お嬢様の側を離れたくないのでお断りします」
というそっけないものだった。
前の国で起きたことが心の傷になっていたのだ。
「自分はお嬢様にあの時拾われたから今生きているのです。お嬢様に何かあれば生きている意味がありません」
「そんなこと言うな、皆リアには負い目を持っているんだ」
「お嬢様が穢されるのを扉の外で立っていることしか出来なかった悔しさを一生かけて償いたいのです」
血を吐くように言い切ったクラウドをカーチスが見つめた。
「せっかく生まれ変わったのに過去を持ち出すなんて酷いと思わないか?お前の言い方だとリアの犠牲は何も生み出さなかったみたいじゃないか。これからのリアの生き方を尊重してやってくれ。それにあの国は滅んだよ。王族は皆処刑された」
「本当ですか?」
「元陛下の側近だった男が首謀者らしい。あまりの愚王ぶりに側で仕えていて嫌になったそうだ。それにリアは巻き込まれてしまった。
その男もうちの諜報が殺した。リアを見殺しにしようとした罰を与えたと報告があった。
王命があった時国外に逃げようとしたら使いが直ぐ来ただろう、その時の失敗を取り戻すべく躍起になって力をつけた。こっちの国でも役に立ってもらわないといけないと思っている」
クラウドは改めて自分だけが悔しい思いをしたわけではないと思い知った。
勿論一番の被害者はお嬢様で心身ともに大きな傷を負われた。ご家族も悔しかっただろう。屋敷にいた使用人達全員が悔しがっていたのを覚えていた。
皆それぞれのやり方で復讐を遂げ、あの国を滅ぼしたのだろう。
「そいつが母上が流した噂を上手に使ったんだ。自分勝手な王妃と周りの見えない王を潰すためにね。リアに送られてきた暗殺者の情報もわざと渡さなかったらしい。お前たちが凄腕で良かったよ、でなければリアは生きてはいられなかっただろう。感謝している」
「お嬢様をお守りするのは当然のことです。王は信じてた奴に裏切られたってことですか?」
「そうだ、王妃を思うように出来ない哀れな男なのにリアを弄ぶから自業自得だ」
凍ったような瞳のカーチスは遠い目をしていた。
☆
リアはクラウドから乗馬を習っていた。最初はそっと触れるだけから始めた。
「大人しいいい馬ですよ、可愛がってやってください。慣れたら餌やりもしてみてくださいね」
「名前は何ていうの?」
「お嬢様がつけてやってください」
「白くて綺麗だからスノウかしら、どう気に入った?」
スノウは気に入ってとばかりに頭を下げた。
「まあ、気に入ったみたい、よろしくねスノウ、私はリアよ。早く乗れるようになって広い農場を見回りに行きたいわ」
「行かれるときは私も一緒です。心配ですから」
「過保護ね、良いわよ連れて行ってあげるわ」
「ありがたき幸せでございます、お嬢様」
リアは最初にスノウに乗った時の目線の高さが忘れられなかった。こんなに高いとは思っていなかったのだ。身体が硬直してしまった。座っているだけで怖かった。でもこれを克服しないといけないのだ。クラウドが手綱を引いてゆっくり歩いてくれた。
クラウドって頼もしいのね、いつの間にか立派な青年になっていた。銀色の髪は硬そうだわ。肩幅もがっちりしてるんだ。あの時拾った少年は大人になって私を守ってくれたり、馬の練習にも付き合ってくれている。
「お嬢様そろそろ降りますか?」
「そうね、降りようかしら」
リアはクラウドに抱っこされてスノウから降ろしてもらった。おかしい、膝が笑っている。歩けなかった。
クラウドはスノウを他の者に任せリアを横抱きにして部屋まで連れて帰ろうとしていた。
「かなりの距離よね、重たくないの?」
「お嬢様はとても軽いです」
クラウドの顔が近い。金髪に緑色の瞳だ。睫毛も長い。無駄に顔が良くないだろうか。リアは初めてクラウドの顔が美形だと気が付いた。
「お部屋が近いわ、降ろして」
「申し訳ありませんが、きっと中まで入らないと駄目な気がします。エリーとマリーを呼んでありますのでお風呂に入れてもらってください。たぶん明日は筋肉痛で動けません」
「そんなことになるの?」
「何回か乗っていると慣れてきます」
「クラウドもそうだったの?」
「そうですね、訓練でしたから無理やり次の日も乗せられましたけど」
「努力したのね。護衛のみんな元気かしら」
「元気だと思いますよ、きっと旦那様が何かしら援助をされているはずです」
「そうよね、お父様ですものね」
「お嬢様は人のことばかり心配される。だから皆に好かれるんです」
一ヶ月もした頃ついに一人でスノウに乗れるようになった。ゆっくり歩くだけだが。クラウドが
「お嬢様素晴らしいです」
と褒めてくれた。嬉しかった。乗馬は楽しいとリアは思った。