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5 決意

読んでいただきありがとうございます

 陛下はそれから毎晩リリアの元を訪れるようになった。一週間目の夜初めて抱かれた。本当に引き返せないところに来たのだと一筋涙が溢れた。

大きな親指が涙を拭った。




「リリア済まないが結婚式は簡単になる」

「覚悟はしておりましたのでかまいませんわ」

「これから忙しくなるので暫く来れない。寂しいだろうが我慢しておくれ」

「そうですか、では今度来られる時に陛下の瞳の色の青い指環が欲しいです。会えなくても存在を感じたいのです」

「可愛いことを言うのだな。簡単なことだ。用意しておこう」



告げられた通り陛下の訪れは既に一ヶ月以上無かった。

月のものが来たので妊娠はしていない、計画通りだった。

側近から薔薇の花束が一週間に一度届いた。メッセージカードには「元気にしているか。足りないものがあれば言うように」と簡単な言葉が添えられていた。



完全に後継を産む道具だと考えていると思ったが、元々そんなに知らない人だ。身体のつながりのある他人だと思えば苦しくも何ともない。

家族を守る為にここにいるのだから。










結婚式は本当に簡素なものだった。王族と侯爵家の令嬢が挙げるようなものではなかった。父が手を血が出そうになるくらい握りしめていたのが見えた。






「エリーお庭を散歩しようかしら」

「よろしいですね、お気持ちが晴れますわね」



規則正しく植えられた色とりどりの薔薇の花はリリアの心を癒してくれた。


「エリー家の方は皆お変わりはないのかしら」

「お手紙を書かれてはいかがでしょう」

「そうね、そうするわ。メリッサにも書くわ。学院時代がなつかしいわ。あの方たちの様子はどう?」

「よくお通いです」

「やはりね、薬が無くなりそうなの。用意しておいてね」

「かしこまりました」




リリアは子をなすつもりは毛頭なかった。

子供を王妃様に取られて玩具にされるのはごめんだ。自分の手で可愛がって育てたい。政治の真ん中に投げ込むなど寒気がする。


最初の謁見の時の茶番劇はリリアにもわかるほどだったのだ。

素直に王命で子が欲しいから側妃になれと言えば良いものをいかにもリリアが良いと言わんばかりの芝居をして見せたのだ。陛下ともあろう人が。

国家元首として尊敬する気持ちが駄々下がりだった。



国内貴族からも外国からも暗殺者が放たれて来た。クラウドやスタンリー、クリスが身を挺して守ってくれた。好きでもない男のために殺されるなんて嫌だ。その前に死んでしまいたい。苦しまない毒などいくらでもある。スタンベール侯爵家は薬草を多く扱い、その効能にはとても詳しいのだから。




妊娠しやすい日を調べてあるのだろう。陛下はそういう日に訪れるようになった。

「今夜もとても美しいね。月の妖精のようだ」

相変わらず口先ばかり上手だ。言葉が頭の上を滑っていく。

「陛下も色っぽいですわ、くらくらいたします」

「可愛いね」

「王妃様は離宮に行かれましたか?」

「中々出ていかないんだ、嫌になるよ。それより私を見て」


(そうでしょうね、あなたの最愛ですもの。嘘つきは地獄に落ちれば良いのよ)



夫を誰かと分けるなんて死んでも嫌だった。それなのに汚れていく。リリアは心が壊れていく芝居を少しずつ始めることにした。


半年経った頃から食事を減らし痩せるようにした。

体調が悪いからと夜のお相手も断ってもらった。

「お妃様は体調が優れないと仰られて眠っておいでです」

「懐妊したのではないか?医者を呼ぼう」

「食欲はなさそうですが、月のものはあります。ご懐妊ではないと思われます。もはや心の問題ではないかと考えております。きっと陛下の御心が未だに王妃様に向いているのではと疑っておられるのです。お医者様はかかりつけの侯爵家のお医者様をお呼びしてもいいでしょうか?」

「宮廷医が良いと思ったのだが、幼い頃から診てもらっているのならその者が良いかもしれぬな。頼んで良い」

「ありがとうございます。では早速手配いたします」



次の訪問の時はわざと弱々しい声で


「エリー。どなたかいらっしゃるの?お父様かしら、それならお会いしたいわ。お父様、お父様」

「お妃様、侯爵様ではございません。陛下失礼致します」

「ああ、構わない」



部屋に入り扉を閉めて防音魔法を張ったエリーは

「おいたわしい、お嬢様。早目にあの薬をお使いになりますか?」

「そうね、もう少し我慢するわ、絶望は深いほうがいいもの。猿芝居もいい加減にして欲しいものだわ。その前にお父様達にお会いしたいわ」

「失望感が出せませんよ」

「エリーったら厳しいわね。子ができないことで社交界では凄い噂になっているのではなくて?」

「候補になろうと十歳から三十までの御婦人が名乗りを上げていらっしゃるようです」

「十歳はさすがにお気の毒だわ。種無しとは思わないのかしら、不思議だわ」

「お妃様になれば贅沢三昧とでも思っていらっしゃるのでしょう」

「愛も自由もないのに、愚かなことね。じゃあ用意だけお願い、宜しくね」

「はい、お任せくださいませ」




リリアは離宮に住んで以来、訪れがある時には避妊薬を飲んでいた。いざという時の毒薬も常備していた。貞操の危機も二度ほどあった。侯爵家の隠密とクラウド達が守ってくれたが穢されるよりは死を選ぶつもりだった。死んでからまで噂の種になるなど御免だった。







王家は何も動かなかった。







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