11 想い
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クラウドの熱は疲れから来たものだった。寝ていないのが原因だとバッサリ医師のダニエルから言われた。
呆れ返ったスタンリーはクラウドを脅し眠るように手配をした。リアの護衛はマリーがすることになった。
スタンリーから倒れた理由を聞いたリアは自分の迂闊さを反省した。そういえばクラウドってずっと側にいてくれたんだわ、いつもいるから当たり前のように思っていた。まさか夜も扉の外にいたなんて気が付かなかったけど。
高熱だけだと聞いたリアは、クラウドの部屋を様子を見るために訪れることにした。
クラウドは熱で真っ赤な顔をして苦しそうに眠っていた。時折「リリア様・・・」とうなされていた。
リアはクラウドの頭のタオルを冷たいものと交換した。直ぐに温くなるので氷魔法を使ってひんやりとさせた。
「リア様、替わります、お疲れでしょう」
マリーが声をかけたがリアはクラウドの側を離れようとしなかった。
「私のせいで倒れたんですものこれくらいさせてほしいの」
「まさか夜も扉の外でお守りしていたなんて誰も考えませんよ。一途過ぎでしょう」
「そんなに危なっかしく見えていたのね、反省だわ」
「意味が違うかと思いますが、まあ少しは進展すると良いですね、クラウド」
マリーは苦しそうな顔のクラウドに向かって呟いた。愛する方に看病されて幸せじゃないのと想いながら。
マリーはクラウドが拾われてきたときからお嬢様の侍女だったので、彼が見つめている人が誰なのか分かっていた。マリーが弟のように思っている彼の想いが実りますようにと願っていたのだ。
朝焼けが部屋を照らす頃、クラウドの睫毛が動いた。映ったのは憧れの人だった。これはまだ夢だ。それなら覚めないで欲しい。
「自分の部屋にリア様がいるなんて夢だ。神様ありがとうございます。リア様好きです。夢の中でも良い、想いが告げられるなんて幸せなのだろう」
真っ赤になったリアがクラウドの額に手を当てた。
「夢ではないわ、今の言葉は本当なの?もう熱は下がったみたい。随分無茶をしていたようね、病気になったらどうするつもりだったの?先生から睡眠が随分足りないって聞いたわ」
「あわわ、申し訳ありません。本物ですか?もしかして聞かれて・・・体力には自信がありましたしリア様のお側から離れるのは心配でたまらなく、立ったまま眠れる訓練も受けておりましたので支障はないかと過信していました」
「さっきの言葉をもう一度言って」
「立ったまま・・・」
「違うわ、夢だと思っていた時のことよ、ずるいわ、誤魔化さないで。ちゃんと聞きたいわ」
「こんなベッドの上ではなくちゃんとした場所で言いたかったのですが。リア様ずっと昔から好きです。一生貴女だけに愛を捧げると誓います」
「嬉しいわ、私だけを想ってくれるの?よそ見しない?」
「ずっと昔から貴女だけを見ていたんです。リア様、元気になったらやり直しをさせてください」
「良いわよ、規則正しい生活をすると約束してくれればね」
真っ赤な顔のリアは気恥ずかしくて威張ったように言った。
あまりの喜びようでもう眠りそうもないクラウドにリアは眠り薬入のお茶を飲ませた。無理やりでも眠らせないと身体にも思考へも良くないと思ったからだ。
クラウドはこんな形で想いが通じるとは正直思っていなかった。思いがけない僥倖に何度も頬をつねってしまった。
ぐっすり眠った後の彼は身だしなみを整え旦那様夫妻のところへ行き、お嬢様に求婚する許可を貰いに行った。
「漸く気持ちが通じたのか、リアが良いと言えば私たちは賛成だ。分かっているだろうが不幸にすることは許さない」
「間違ってもその様なことは致しません。リア様は私の光であり希望でした。あの時助けていただけなかったら今の私はいませんでした。尊く輝く太陽のようなお方です。一生愛をもって慈しむと誓います」
「ああ、そのようなことは本人に言ってやってくれ。リアを守りたくて寝る時間を削っていたと聞いた。それでは本末転倒だ。これからはリアの為に規則正しい生活をしてくれ」
「リア様にも叱られました。善処致します」
「せっかくだ、二人でお茶でも飲みに行ってくると良い。リアをデートに誘ってやってくれ」
「はい、ありがとうございます。では失礼致します」
旦那様夫妻に許可を貰えたクラウドは、早速リア様に贈る指環と花束のことを考えることにした。