10 クラウド2
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リアは父に呼ばれて執務室に来ていた。
「お父様、お呼びでございますか」
「知っていると思うがこのところカーチスとリアに縁談が殺到している。リアには無理に結婚して欲しいとは思わない。一生一人で生きていくのも有りだと思っている。私達が死んでもカーチスが守ってくれるだろう。だが幸せになって欲しいと思っているのだ。クラウドのことはどう思う?」
「私の護衛です」
「それだけか、そうか。あれはリアを裏切らないいい男だ。それだけだ、悪かった」
「お父様?」
「何でもない、気にしないで欲しい」
父様はクラウドを私の婿に考えているの?恋をしたことがないリアは戸惑ってしまった。貴族だった時は家の為に嫁いだ。身分のない新しいこの国は恋愛結婚が当たり前だ。以前のように変な男に捕まる前に結婚させたいのかもしれない。
でもクラウドの意志は?待って、私はどう思っているの?そういう目で見たことはなかった。
リアはクラウドが裏切ることはないと知っている。
燃えるような恋をしなくても穏やかに暮らしている夫婦をあの国で見てきた。
自由になって何も分からない娘が騙されるのをみすみす見逃したくはないのだろう。でも父様が言えばクラウドは逆らえない。どうしたら良いのか分からなくなったリアは兄に相談することにした。
「お兄様相談がありますの」
「忙しすぎて可愛い妹の顔を久しぶりに見た気がするよ。お茶を用意させよう。相談とはなんだい?」
「お父様が結婚相手にクラウドはどうかと仰るの。先にどう思うかと聞かれたから護衛ですって答えたのですけど。クラウドにも選ぶ権利がありますでしょう。お父様から言われたら断れないではありませんか」
「リアは嫌なの?」
「嫌ではありませんが、恋愛対象として見たことはありませんわ。変な男に騙される前に今度こそと思われたのは分かっているのですけど」
「クラウドが哀れになってきたよ、気づいていないのはリアだけなんて。もっと発破をかけるとしよう」
「お兄様無理やり命令されるクラウドが可哀想だと相談に来ましたのに、理由の分からないことを仰っしゃらないでくださいませ」
「クラウドは可哀想ではないよ、一人前の男だ。自分でなんとかして欲しいものだな。でもリアの可愛い顔が見れたから良いとしよう。今夜は夕食も一緒に食べよう」
「まあ嬉しいです。四人で摂るお食事は久しぶりですわね」
相変わらず仲の良い兄妹だった。
カーチスは廊下で見かけたクラウドに声をかけた。
「少し話があるんだが良いか」
「勿論でございます」
「では、その部屋にしよう」
カーチスはちょうど空いていた部屋に入り防音魔法をかけた。魔法は土地が違っても有効らしかった。
「リアに縁談が多く来ている。父上は無理に嫁がせる気はないが、あんな事があったとはいえリアは箱入り娘だ。言葉巧みに騙されたらと気を揉んでおられる。この国は身分がない、一層危険が多い。クラウド覚悟はできていないのか?」
「お嬢様は尊いお方です。自分などと釣り合うお方ではないと思っております」
「身分制度はこの国にはない。また変な輩に攫われてもいいと思っているのか?」
クラウドは苦しそうな顔をした。
「私が言えるのはそこまでだ。じゃあな」
クラウドはカーチス様が気にかけてくださっていることは知っていた。自分がリア様の手を取ることが許されるのだろうか。
護衛も執事の仕事も諜報だって出来る。リア様に想いを告げて砕け散ったら諜報を専門にして姿を隠せば良いのではないか。
そうしたらリア様に気まずい思いをさせなくて済む。クラウドの想いは斜め上を行っていた。
この頃クラウドの顔色が悪いとリアは感じた。だから
「クラウドちゃんと夜は寝ているの?お休みの日は何をしているの?まさか剣の訓練とかではないでしょうね」
クラウドは夜は護衛としてリアの部屋の前にいるのだが、夜扉の外には出たことはない彼女は気が付いていなかった。
それに休みといってもリアの側にいたいクラウドは普通の顔で護衛をしていた。
「ちゃんと休んでいます。立ったままで」
最後の方は小さな声だったのでリアには聞こえなかった。聞こえていたら命令してでも寝かせただろう。
ある夜スタンリーがお嬢様の部屋の前で蹲っているクラウドを見つけた。
恋心を拗らせて扉の前で動けなくなっているのかと思えば熱を出して動けなくなっていたのだ。
「しっかりしろ、クラウド歩けるか」
「スタンリーか、お嬢様をお守りしなくては」
「酷い熱だぞ、部屋に帰るぞ良いな。諜報後は頼んだ」
返事の代わりにカタンと音がした。
声で目が覚めたのか恐る恐る扉が開くとリアが顔だけ覗かせた。
「スタンリー、クラウドはどうしたの?」
「熱があるようなので部屋につれて帰って医者に診てもらいます」
「何故こんなところにいたのかしら、用事でもあったのかしら」
「詳しい話はまた後で、ではお嬢様おやすみなさいませ」