私の推しは白雪姫
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?」
「それは女王様、あなたです」
女王は金槌片手に魔法の鏡に脅しをかける。
「そんなわけないでしょう。世界で一番美しいのは白雪姫に決まっているのよ」
魔法の鏡は本音を漏らす。
「めんどくさいな」
「私は魔法の鏡としてのプライドがあります。脅しで真実を曲げるわけにはいきません。世界で一番美しいのは、女王様です」
「私のこれは高い化粧品を使った化粧の結果でしょう」
「美しさとは、その化粧もふまえた上で評価されるのです」
「違います。白雪姫の自然な健康美が一番です」
「その健康美ですが、白雪姫は最近栄養不足で」
「それを早く言いなさいよ。栄養たっぷりのりんごを匿名で送るわよ」
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?」
魔法の鏡は答える。
「それは女王様、あなたです」
女王は大声を上げる。
「なんでよ?」
「やはり、女王様のその宝石ともたとえられる美しい瞳が決定打かと」
「私のことなんてどうだっていいのよ。白雪姫が一番でしょうが」
「白雪姫は働きづめで過労が顔にでてきてしまってます」
「この国の労働管理の責任者は何しているのよ」
「責任者はあなたですよ」
「長時間労働は禁止する法律をすぐに作るわ。それと税金も引き下げるわよ」
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?」
「それは女王様。あなたです」
「何でよ!」
「そもそも、白雪姫は美しくなりたいと思ってませんから、いくらあなたが匿名で支援していっても無理ですよ」
「美しくなりたいとは思わない心。それこそが美しいじゃないの」
「それっぽい言葉で、こっちを誘導しようとしても駄目です」
「私は昔、白雪姫に助けられたことがあるのです」
「それ、何十回もきいてますよ」
「この国の女王になり、私はわがままほうだいでした。ついにはこの城から追放され、女王では無くなった私には誰も助けてくれず、行き倒れになってしまったのです」
「やっぱり、最後まで話す気ですね」
「その私に、手をさし伸ばしてくれたただ一人が白雪姫だったのです。あの時にもらったりんご、今でも大切にしてます」
「変色してからコーティングしたから、あれ、毒りんごって言われてますよ」
「女王に返り咲き、私は白雪姫のように、困っている人に手をさし伸ばしたいと女王をしてますが、なかなかうまくいきませんね」
「あそこから、女王に返り咲けるのはすごいですね」
女王は魔法の鏡の前で号泣していた。
魔法の鏡には、白雪姫の結婚式の様子が映されていた。
結婚相手は隣国の王子で、豪華な式で大勢の人が祝福していた。
高価なウェディングドレスを身につけた白雪姫の姿を見て、女王は泣きじゃくる。
「よかった。幸せになってくれて、本当によかった」
「ええ、女王様がいろんな支援を続けた結果ですよ」
「今度こそ、ちゃんと答えなさいよ」
「はい。外見だけではなく、内面も考慮します」
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?」
魔法の鏡は、涙で化粧が落ち、ぐちゃぐちゃな顔面になっている女王に言った。
「それは女王様。あなたです」
おわり