第9章「奪う者、繋ぐ者」第11話「繋げ、夜明けの先へ」
ストラギアの侵攻は止まらなかった。
刃のぶつかる音が、土の層の奥で鳴り響く。
再び立て直したはずの前線が、あっという間に崩される。
「全軍、撤退だ!──ここはもう、持たねぇ!」
ジャロスの叫びが響いた。
兵たちは散り散りになりながら、命繋の拠点へと後退していく。
振り返れば、そこには黒々と這い寄る根。
どれだけ斬っても、次から次へと伸びてくる。
(……このまま、どこまで退きゃいい)
言葉にはしない。
けれど、脳裏にちらついた“最悪”の選択肢を、彼は何度も振り払った。
まだ終わらせるわけにはいかない。
───
「……戻ったのですね」
アウラが声をかける。
その前に立つリュミエールの顔は、どこか遠くを見つめるようで――
穏やかさの奥に、強い意志を宿していた。
言葉はなかった。ただ、深く一度頷くだけ。
それだけで、アウラは理解した。
そこへ、伝令が駆け込んできた。
「報告!命繋のジャロス隊、再び撤退……っ、ストラギアの勢い、止まらず……!」
会議の場が一瞬、凍りつく。
誰もが目を伏せる。
(やはり、だめだったのか)
沈黙を破ったのは、ノアだった。
「……もう、ここにいても仕方がないな。出るよ。せめて最期に、何か役に立てれば」
その声に、アウラが静かに顔を上げる。
「待ちなさい、ノア。リュミエール……何かを見つけたのでしょう?」
リュミエールは、顔を上げ、はっきりとした声で言った。
「花の根元に、種子が出来つつあります」
会議室に、静かなざわめきが広がる。
「未来へ、命を繋ぐ可能性が……あの場所に芽吹いていたんです。
王国を、“繋ぐ”道が、残されていました」
一瞬、空気が止まる。
リュミエールは、静かに言葉を継いだ。
「今のままでは……このフィトリアは、持たないかもしれません。
けれど、種子さえ守ることができれば、巡りを……命を、次へと繋げることができる。
それが、僕たちに残された……最後の手段なんです」
「王国そのものを……捨てるというの……?」
エリスが目を伏せた。
終わりを看取る者である彼女でさえ、その言葉には震えがあった。
「捨てるんじゃありません」
リュミエールの瞳は、まっすぐに前を見据えていた。
「“繋ぐ”んです。命の灯を、未来へ」
その言葉に、沈黙が生まれた。
「……なら、俺の出番だね」
カインが明るく笑って立ち上がった。
「巡りを、種子に集めるよ。繋いでみせる、ちゃんとね」
カインの声に、ジルヴァがゆっくりと頷く。
「その“時”が来たときに……芽吹けるように、整えておこう。
未来の扉を、確実に開けるために」
「乾燥にも備える。その子が芽吹くその時まで、絶対に守り切る」
シアが続け、穏やかだが揺るぎない意志をにじませた。
「……だが」
アウラが問う。
「種子の成熟まで、どれくらいかかる?」
全員が、カインを見つめた。
「……全部の巡りを集中させても、あと三回……三度、夜を越えなければ……」
どよめきが広がる。
(三度の夜……)
果たして、そこまで持ち堪えられるのか。
「やるしかない」
リュミエールが静かに言う。
「未来に命を繋ぐために。僕らの全てを賭けましょう」
リュミエールの言葉に、アウラはそっと目を細めた。
まっすぐに見つめ返すその視線には、迷いがなかった。
――何も言わずとも、伝わってくるものがある。
そして、ほんの一瞬だけ、アウラは微笑んだ。
「……ならば」
その声には、静かだが揺るがぬ力が宿っていた。
「──全軍、種子の成熟に向け、全力を尽くせ!」
号令が、城内に鳴り響いた。




