第9章「奪う者、繋ぐ者」第6話「命を繋ぐ者たち」
一日更新できませんでした。ここから再び書き上げます。よろしくお願いします。
王国の根は、静かに大地を這っていた。
光を求め、水を吸い上げるために、幾重にも重なり合うように。
その中に――
ひときわ異質な“それ”はあった。
表皮の色、組織の構造、繋がるはずのない巡り。
フィトリアのものとは明らかに違う根が、
絡みつくように伸びていた。
まるで、他者の体内に爪を立てるように。
「これは……フィトリアのものじゃない……」
ミコルの手が震え、眉間に皺が寄る。
「侵略……されているのか?」
「ミコル様!」
リュミエールは息を飲み、すぐに顔を上げた。
「急いで報告しましょう!」
二人はすぐに立ち上がり、駆け出す。
根の通路を抜け、巡りの道を渡り――
報告は、皓塔の会議室に持ち込まれた。
アウラを中心に、五耀星が集う。
命繋の隊長たちも顔を揃えていた。
ミコルは深く息を整え、報告を始めた。
「王国の根に、別の王国のものと思しき根が絡みついていました。
……侵略されている恐れがあります。」
重苦しい沈黙。
誰もが息を呑んでいた。
最初に口を開いたのは、アウラだった。
「ならば――これ以上、広がる前に、王国の構造を変える必要があります」
その声は静かだったが、芯が通っていた。
「侵入を許した部位の成長方向を変え、絡みつかれた箇所を断ち切る。
……構造を“ずらす”しかありません」
「構造変化なら、セルロース繊維の整備が必要だな」
低い声で応じたのはジルヴァだった。
彼はアウラの隣に立ち、しっかりと腕を組んだ。
「繊維の向きを制御する。それなら私がやろう。指示をくれ、アウラ」
「私も動くわ」
エリスが前に出る。
その頬には珍しく険が走っていた。
「寄生された箇所の巡りは、もう正常じゃない。
中途半端に残しておけば、広がるだけ……」
彼女は眉を寄せ、はっきりと言い切る。
「……やむを得ないわね。あの部分の細胞の生命は…私が断ち切ります。」
カインが口を挟んだ。
「けど、生命を断ち切るってことは、そこへの供給は止まるってことだ」
彼は指を鳴らし、懐から数枚の記録紙を取り出した。
「抜かれた分をどう補うか。それは俺の仕事ってわけだな」
にやりと笑い、仲間たちを見回す。
「備蓄が減ってるエリアには、余ってるところから流してやる。誰も置いていかない。そう決めたからな」
「カイン様。供給ラインの再調整は私が受け持ちます」
リネアがぴたりとその隣に立ち、すでに帳簿を開いていた。
「偏りが起きれば、王国全体の流れが乱れます。
細かい調整は、どうぞお任せを」
「……水分の流出にも、注意が必要ね」
ぽつりと、シアが呟いた。
彼女の視線は、遠くの幹の外を見つめていた。
「乾燥が始まったら、すぐに気孔を閉じる準備をしておくわ。
もう、命をこれ以上削らせたくないもの」
沈黙が一瞬だけ戻った。
その中で、ノアが静かに口を開いた。
「防壁を展開します」
澄んだ声だった。
「王国全体を包むように。侵入を、それ以上許さないために」
「助かるよ、ノア」
ミコルが肩を落とし、ふっと微笑んだ。
「こっちは……菌根菌を通して、他国への伝達を急ぐ。
侵食が広がってるなら、僕らだけじゃ済まない」
その眼差しには、静かな闘志が宿っていた。
「“知らせる”のも、命を守るための仕事だからね」
「……さて。命繋は全戦力、戦闘体制に移行だ」
ジャロスの声は低く、だが全体に響いた。
「状況は不透明。だが、侵略が事実なら……
迎え撃つ。それしかない」
誰一人、迷うものはいなかった。
命を守るために、自分の力を惜しまぬ者たち。
アウラが、静かに口を開く。
「――行きましょう。
私たちの王国は、まだ終わっていない」
本作に登場する主要キャラクターたちは、それぞれ植物ホルモンを擬人化した存在として描かれています。ここではその対応関係と役割を、簡単にご紹介します。
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■ アウラ(オーキシン)
成長の方向性を決定し、組織の構造を調整する役割を担う。
王国の指導者的存在であり、変化の指針を示す者。
■ ジルヴァ(ジベレリン)
細胞の伸長や発芽に関わり、セルロース繊維の配置を整える。
アウラの補佐として動き、構造変化を支える実直な存在。
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■ カイン(サイトカイニン)
物質の分配や細胞分裂を促し、栄養の流れを管理する。
奔放に見えて計算高く、誰一人見捨てない優しさを持つ。
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■ エリス(エチレン)
対応ホルモン:エチレン
老化や細胞死を司り、不要な組織を断ち切る。
感情を秘めたまま、必要な「終わり」を告げる者。
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■ シア(アブシジン酸)
乾燥やストレスへの応答を担い、気孔を閉じて命を守る。
静かだが内に強さを秘め、極限状況に備える者。
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■ ジャロス(ジャスモン酸)
攻撃への防御応答を引き出し、外敵からの王国を守る。
命繋の指揮官として、先陣を切る戦闘の象徴。
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■ ノア(サリチル酸)
病原体への防御応答を担い、免疫記憶のように王国を守る。
沈着冷静で、静かな結界を張る守護の存在。
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■ ミコル(ストリゴラクトン)
菌根菌との共生を促し、遠方への信号伝達も行う。
ネットワークの管理者として、王国と他国を繋ぐ調停者。
■ リネア(ブラシノステロイド)
環境変化に応じて成長を調整し、栄養や成分のバランスを取る。
静かに王国の調和を支える、理性的な補佐役。




