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第9章「奪う者、繋ぐ者」第2話「次こそ」

翌朝。

王国を包む大気は、

先日の嵐などまるで無かったかのように澄み切っていた。

根の層の奥――

細い光の筋が土の奥を照らす場所で、

ミコルとリュミエールが膝をついていた。

「……準備はいいかい?」

ミコルの声に、

リュミエールは唇を噛んで頷いた。

指先は土に触れているのに、

指先から先が

自分のものではないように冷たい。

昨日の夜、

何度も練習した手順を思い出す。

それでも不安と緊張が、

喉の奥で小さく跳ねていた。


ミコルはそれを察したように、

リュミエールの肩をそっと叩いた。

「大丈夫。

もし今日呼べなくても、

次がある。」

根の奥に流れる水の音が、

ふっと落ち着きを与えてくれた。

「成功するまで、

何度だってやればいいんだ。」

短い言葉が、

生きているもののように

じんわりと染み込んでいくようだった。


リュミエールは息を吐き、

指先を根の表皮に当て直した。

小さく声を落とすように――

根の奥に向かって、

自分だけの呼び声を落とした。

(……集まってくれ。

リンを運んでくれ……。)

呼びかけが、

土の奥でわずかに震えた。

見えない菌根菌たちが、

呼びかけに小さく応えた…気がした。



けれど――

あと一歩、何かが届かない。

「……あっ……。」

ふっと、

手応えが途切れた。

リュミエールは

肩を落とし、

手をそっと土の上に置いた。


「……だめ、でした。」

声は誰にも届かないほど

小さかった。

土の奥では、

菌根菌たちの気配が

また遠のいていった。


ミコルは笑って、

リュミエールの肩を軽く叩いた。

「短期間でここまで出来る奴なんて、

僕は他に知らないよ。」

言葉の端に、

どこか誇らしさが滲んでいた。

「ほら、見ててごらん。

これがお手本だよ。」


ミコルは根に手を添え、

短く呼吸を整えると

ゆっくりと信号を落とした。

呼び声は土に溶け、

根の深くへ静かに沁みていく。


すると、

湿った根の層が

かすかに脈を打つように波打った。

何かが集まる。

土の奥から、

小さな“気配”が蠢く。


すると、

土の奥からぬるりと影が姿を現した。

無数の菌糸を束ねたような体が、

ゆっくりと蠢きながら

根の先端に集まっていった。


「リン、ない。

もっと、いるか。」

菌根菌の声は

その声は、

湿った土に溶けるような

不思議な響きだった。

「リンは不足してる。」

ミコルは淡々と応える。

「だから――

集めてきてくれないか。」

根の奥で、

菌根菌が静かに震えた。

「リン、集める。

食糧、いる。」

「もちろんだ。

王国から光合成産物を授ける。

……それでいいか?」

「……悪くない。」


菌根菌たちは

いくつかの小さな光を残し、

すっと土の奥へ姿を消した。

ミコルは短く息を吐き、

振り返ってリュミエールを見やった。

「――こうやるんだ。」

ミコルの目は言う。

次は君の番だ、と。

少なくともそれはリュミエールにはそう感じ取られた。


リュミエールは拳を握り、

土の奥に集まっていった菌根菌を

黙って見送った。

次は――

必ず自分の手で呼ぶ。

(……次こそ。)

胸の奥で芽吹いた小さな決意が、

土の奥へと静かに落ちていった。


今回はちゃんと菌根菌との「共生」関係になりました。植物側に栄養素が十分に存在していれば,一方的な搾取となり,「寄生」となります。そのお話は第2章へ。まだご覧になっていない方は,ぜひそちらもご覧になってください。

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