第9章「奪う者、繋ぐ者」第1話「土に落とす声」
嵐が過ぎ去り、
王国は再び立ち上がった。
けれど、
完全な復興にはまだ程遠かった。
裂け目を繋ぎ止めた幹には
深い傷が残り、
外壁にはひびが走ったままの場所も多い。
誰もがそれぞれの役目を担い、
傷ついた巡りを取り戻すために
忙しい日々を過ごしていた。
ある者は
崩れた外壁を舗装し、
またある者は
物質の通路を点検して
断たれた巡りを少しずつ繋ぎ直していた。
王国の根元――
淡い光がわずかに滲む場所で、
ミコルとリュミエールが
小さく息を潜めて座り込んでいた。
「……リンが不足してる。」
ミコルが根の奥を見つめたまま、
ぽつりと呟いた。
「この前の嵐で
土壌中のリンが
だいぶ流されてしまったんだ。」
リュミエールは目を伏せ、
湿った土を指先で撫でた。
「……菌根菌は?」
「呼んではいる。
でも、供給が追いつかないんだ。」
ミコルの声には、
わずかな焦りと
それを隠すような静けさが混ざっていた。
「……もう少し呼んでみようと思う。
儀式をするけど――
一緒にやる?」
リュミエールは顔を上げた。
揺れる根の奥の巡りに、
自分の役目を増やす余地があると
小さく胸の奥で感じた。
「……ぜひ、やらせてください。
出来ることを一つでも増やしたいんです。」
ミコルは短く笑って、
その横顔を見つめた。
「……そう言ってくれると思った。」
根に指先を添えると、
ミコルは淡い呼び声を落とす。
じわりと伝わる信号が
土の奥を通って広がっていく。
「こうだ。
根の先を軽く撫でるように、
信号を滲ませるんだ。」
リュミエールも呼吸を整え、
同じように手を当てた。
けれど――
根の奥に信号が届く感覚が、
途中で途切れてしまった。
「……うまく、いかない。」
リュミエールの声が、
わずかに滲んだ。
ミコルは笑って首を振った。
「すぐに出来るものじゃないさ。
これから何度もやる機会はある。
少しずつ、うまくなっていけばいい。」
その言葉が、
ほんの小さな救いになった。
夜の帳が下りた頃、リュミエールは再び王国の根元にやってきていた。
リュミエールは根元にそっと手を当てると、
もう一度だけと小さく息を吐いた。
さっきはうまくいかなかった。
土の奥に呼びかけようとしても、
何かが途中で滞るように信号が途切れてしまう。
ミコルのやり方を思い返しながら、
根の内側に小さく声を落とす。
――来てくれ。
菌根菌たち……
リンをもう一度、巡らせてくれ。
けれど返ってくるのは、
湿った土の重さだけだった。
「……くそ……。」
声は誰にも聞こえないように土に落ちた。
夜が深くなっても、
リュミエールは立ち上がろうとしなかった。
もう一度、もう一度と、
何度も信号を送る。
呼びかけは、
かすかに根の先で微かな脈を打つようで――
けれどまだ“集う”という確信には届かない。
それでも――
出来ることを増やしたいその一心で、
同じ呼び声を何度も土に落とし続けた。
そんな彼の後ろ姿を、
影の奥でそっと見つめている人物がいた。
ミコルは何も声をかけずに、
遠くから短く頷いた。
根の先に灯る
かすかな兆しを信じるように。
リュミエールとミコルの師弟関係を描いてみました。ただ,あまりシグナルを出しすぎると…ご存じの方は,今後の展開が予測できるかと思います。お楽しみに!




