第1章「静かな兆し」第3話~巡りの途~
朝の光はまだ柔らかく、
命繋の本部の影を少しずつ伸ばしていた。
小さな広場には、
四人の姿が集まっていた。
「……眠れなかったの?」
トウカが隣に立つリュミエールを覗き込む。
彼は小さく首をすくめた。
「……ごめん、少しだけ。」
「はぁ……ったく。」
トウカは呆れたように肩を叩く。
「でも、それだけちゃんと考えてたってことだし。
いいさ、今日は背中押してあげる。」
声の端に混じる朝の冷たい風が、
やわらかく二人を揺らした。
少し離れた場所で、
ミコルが一同を見回して微笑む。
「さて。改めて、目的を確認しておきましょう。」
彼は土の欠片を指先でころころと弄びながら続けた。
「根の奥の異変の調査。
根の奥で何が組織を硬くするのか。
リグニンがどこで増えているのか――
それを土の声から読み解くのが、私の役目です。」
視線をノアへ向ける。
ノアは相変わらず真面目な口調で告げた。
「感染の可能性は消えていない。
過敏に反応する兆しがあれば封じる。
最悪の場合、戦闘になることも想定しておけ。」
リュミエールは息を呑む。
その肩を横でトウカが軽く叩いた。
「大丈夫だってば。
私がちゃんといるから。」
「……ほう。」
その声に皆が振り向く。
いつの間にか焔牙隊のジャロスが、
広場の入り口に立っていた。
長い髪を束ねたまま、目だけでトウカを見やる。
「お前がついてるなら心配ねぇな。」
トウカはばつが悪そうに眉を寄せる。
「……急に出てこないでくださいってば。」
ジャロスは笑った。
笑った目の奥には、迷いのない信頼とほんの少しの優しさが混ざっていた。
「……任せたぞ、トウカ。」
やわらかな朝の光が、
四人の背をそっと押した。
葉を抜け、茎をすり抜け、
道は静かに根の奥へと続いていく。
世界の深いところで、
まだ名もない揺らぎが、
彼らを待っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
小さな命の揺らぎの中に、何かひとつでも感じるものがあれば、とても嬉しいです。
だいぶ短くなってしまいました…。話を広げるのは難しいですね。
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