表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/64

第7章「侵食の果てに」第1話「影を抱く」

フローラが還り、

王国の“てっぺん”に花が咲いた日から数日。

王国は雪解けのように静かに動き始めていた。


「ここまで根が硬化するなんて……ねぇ、リュミエール、これ菌根菌の反応も変わってるって分かる?」

柔らかく揺れる光の下、ミコルの声が弾んだ。

地層の奥深く。

冷たい土をかき分けながら、リュミエールは根の先端を覗き込んでいた。

「すごい……ここ、巡りがすっかり閉じちゃってるのに、周りはまだ“生きてる”んだ……」

「生きてるどころか、菌根菌がどうにか繋ごうとしてくれてる。」


ミコルは指先で硬化した根を撫でながら、

かすかに眉を寄せる。


「本来なら、王国側から糖や養分を受け取れるはずなのに、

今はほとんど与えられない。それでも離れずに――

これじゃ共生っていうより……必死にしがみついてるって感じかな。」


ミコルの指が、細かく残された白い菌糸をすくう。

フォルミナ――あの“歪み”の在り方を知ったあとだからこそ、

リュミエールの目は、以前よりずっと深く土の奥を見つめていた。

「土の中って……なんでこんなに柔らかくて、なのにこんなに硬いんだろうな。」

「……答えが欲しいの?」

ミコルが笑う。

「まだ僕には、わからないです。」

そう言って、リュミエールは指先で土を払って、

根の奥に張り付いた菌糸をじっと確かめていた。


夢中で根に向き合うリュミエールの背を、

ミコルはふっと柔らかく見守った。


(……いい目をしてる。

この調子なら、うちの隊に来る日も――そう遠くないな。)


同じ頃。

焔牙隊の訓練場では、夕暮れの空気の中、

木剣のぶつかり合う音が乾いた音を立てていた。

「おう、トウカじゃないか。」

気配に気づいたジャロスが、巨大な剣を肩に担いで振り返る。

「……あ、ジャロス様。」

「珍しいな。今日はリュミエールと一緒じゃないのか?」

トウカは剣の柄をいじりながら、小さく肩をすくめた。

「今日は、ミコル様と根の調査だそうで。

お目付役はお呼びなしってわけです。」

「はっは!それじゃあ、お前、暇だな?」

「……はあ。」

「久しぶりに、俺が稽古つけてやる。」

「えっ――」

トウカが声を上げる間もなく、木剣が目の前に投げ渡された。

問答無用だった。


「……ッ!」

木剣が打ち込まれるたびに、腕に響く衝撃。

「どうした?いつもの“前へ”はどうした!」

「――っ、舐めないでください!」

一歩踏み込んで、トウカが食らいつく。

だが、ジャロスの剣筋は揺るがない。

剣が弾かれるたびに、足元が砂にめり込んだ。

「お前、あいつにくっつきっぱなしで、少し鈍ったんじゃないか?」

挑発する声が、不思議と背中を押すように響いた。

トウカは奥歯を食いしばり、ふっと鼻で笑った。

「……舐めないでよ、ジャロス様…!」


訓練が終わった頃には、月が昇りきっていた。

額の汗を手の甲で拭う。

呼吸が、まだ整わない。

剣先はぶれ、踏み込みも甘くなった――

それでも、最後の一太刀だけは諦めずに振り切った。

「……なんとか……」

「はっ……なんとか、か。足りん。」

木剣を砂に突き立て、ジャロスは揶揄うように笑った。

だがその目は、どこまでも真剣だった。

「リュミエールの“成長”に甘えるな。

あいつはどんどん前に行くぞ。

お前まで止まってどうする。」

短い叱責だった。

けれど、剣よりも痛かった。


静かな夜道を、トウカは一人歩いていた。

気がつけば、焔牙隊の訓練場からずいぶん離れていた。

「……置いていかれてる……のか、あたし。」

そう呟いた瞬間、胸の奥がすうっと冷えた。

彼を守るって決めたのに。

何かあれば真っ先に盾になるって、決めたのに。

あのときも、あの花を咲かせた時も、

フローラの隣にいるべきは、自分だったんじゃないのか――

「……あたし、何の役に立ってんだろ。」

道の端で立ち止まる。

焔のように熱かった自分の芯が、今はやけに脆く見えた。

――私の命に、意味はあるのか。

思わず指先が震えた。

夜風が髪を撫でる。

見上げた月が、ひどく遠かった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

小さな命の揺らぎの中に、何かひとつでも感じるものがあれば、とても嬉しいです。


トウカの心の葛藤を描いていきたいと思います。守るはずのリュミエールに、逆に守られている自分…自分の存在価値は…


ご感想やご意見、そしてブックマークなどで応援していただけると、

今後の執筆の大きな励みになります。


これからもどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ