表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/64

第6章「芽吹の代償」第10話「花の還るとき」

茎頂の空気は、柔らかな光で満ちていた。

コアセルの核は静かに脈動を続け、花芽はゆっくりと輪郭を広げていく。


トウカの声が弾む。

「……咲いた……本当に……!」

ノアも小さく頷いた。

リュミエールはそっと息を吐き、微かな安堵を胸に刻む。


だが――

誰よりもそこにいるはずの存在が、風のように消えていた。


「……フローラ?」

振り返っても、風に揺れる影すらない。

リュミエールの瞳がかすかに揺れた。


「さっきまで……ここに……」

トウカが言いかけて、口を噤む。


その隣で、ノアだけは、わずかに目を伏せていた。

「……ノア様。どうして、そんなに冷静なんですか!」

トウカが思わず声を荒げる。


ノアは静かに光を見つめたまま、淡々と告げた。

「……花を咲かせる“使者”は、その役目を終えた時――

王国に還る。

古い文献に、そう記されている。」


「そんな……」

トウカの瞳が揺れる。リュミエールも言葉を失った。


「知ってたんですね……」

リュミエールが低く呟くと、ノアは僅かに肯定するように目を閉じた。


茎頂を満たしていた春の風が、そっと三人の間を抜けていく。

交わされぬ言葉が、花の香りに混じった。


そして、不意に――

「……でも、良かったじゃん!」

トウカがぽつりと零した声は、どこか強がるように弾んでいた。


「花も咲いたし、フローラは……ちゃんと役目を果たせたし……

フォルミナだって……もう脅威じゃないし……

ね? 一件落着……!」

背中を向けたままのトウカの肩が、微かに震えていた。


「……トウカ。」

リュミエールが静かに歩み寄り、そっとその背を抱きしめる。

「やめてよ……もう……」

振り返らないまま、トウカは声を押し殺した。


ノアは二人を見守りながら、小さく息を吐いた。

そして、ゆっくりと背を向ける。


「……私は先に戻る。報告が残っているので。」

立ち去ろうとするその足が、ふと止まった。


「……本当によくやってくれた。

王国を代表して――心から、感謝を。」


その声だけが、花芽の上を静かに撫でた。


茎頂に吹く風は、もう春を追い越そうとしていた。

遠い未来の種子を抱くかのように――

小さな花は、ただ静かに光を宿していた。


フロリゲンは分解されちゃうんですよね…。まぁそれを言ったら全ての植物ホルモンがそうでしょうけど…。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

小さな命の揺らぎの中に、何かひとつでも感じるものがあれば、とても嬉しいです。


ご感想やご意見、そしてブックマークなどで応援していただけると、

今後の執筆の大きな励みになります。


これからもどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ