第6章「芽吹の代償」第9話「芽吹の証」
北の空気は、ほんのりと冷たかった。
けれどその中にも、春を越えていく命の鼓動が確かに感じられた。
トウカが、足元の霜を蹴りながら口を開いた。
「ねえ、リュミエール。……いつ気づいてたの? フォルミナのこと。」
リュミエールは、少しだけ遠くを見てから笑った。
「薄々は感じてた。でも……西の花を見たとき、確信したんだ。
あれは綺麗だった。あんなにも形が揺らいでいて、けれど美しかった。
……あれで、王国を壊すつもりなんて、あるはずがないって思えた。」
その言葉に、トウカも小さく頷く。
「うん、綺麗だったよ……すっごく。」
横でノアが小さく笑みを漏らす。
「……変化を受け入れないと、未来は閉じる。そういうことか。」
真面目な声だが、どこか柔らかかった。
フローラは、空にかかる雪雲を仰ぐように目を細めた。
「……羽と器がないから、あれは不完全。でも……あんなのが咲いてもいいよね。」
誰も反論しなかった。
小さな歪みも、きっとどこかで命を繋ぐ。
──
北の塔に辿り着いたとき、
リュミエールたちは、もはや迷いを残していなかった。
そっとコアセルを呼び出すフローラの手が震えない。
光の核が、茎頂に静かに浮かぶ。
「〈エリオリア〉起動――異常なし。」
「籠れ――籠護の衣。」
衣が空間をやわらかく抱く。
「〈ラルファイン〉起動――異常なし。」
「纏え――馨花の紗。」
紗がひらりと舞い、衣の内側を彩った。
トウカが笑う。
「……心配なんか、もういらないよね。」
ノアが静かに頷いた。
「揺るがない。」
フローラが深呼吸をし、最後の言葉を告げる。
「〈カルクレイン〉起動――異常なし。」
「翔べ――継命の羽。」
羽は光の筋を纏い、衣と紗の内側を通り抜けていく。
茎頂に、静かな呼吸のような輝きが生まれる。
フローラがそっと息を整えた。
「来たれ――受月の器。」
その言葉に応えるように、
光の中心で“器”がふわりと芽吹き、
羽と重なり合って核を成した。
それは、確かに“芽吹き”だった。
「……ありがとう、みんな。」
フローラの声に、光がそっと強まった。
衣、紗、羽、器――すべてが芯に集まっていく。
淡い輝きが、やがて小さな種の輪郭を形作る。
「……これで、王国の未来は繋がる。」
トウカが目尻を押さえながら笑った。
「咲かせたんだね……!」
雪雲の切れ間から、一筋の光が塔を照らした。
芽吹きの証が、確かにそこにあった。
一つの株の中にいろんな花が咲き乱れてますが、ファンタジーの範囲でご容赦ください(笑)
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