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第6章「芽吹の代償」第6話「変異の螺旋」

春を抱いた東の空気は、どこか湿り気を帯びていた。

リュミエール、トウカ、フローラ、ノア――四人の足取りは決して速くはないが、迷いはなかった。

「ノア様って……フローラのこと、知ってたんですか?」

何気ないトウカの問いに、ノアはわずかに眉を寄せた。

「名としては。封衛隊長を任されたとき、文書で学んだ。ただ……実際に“在り方”を目にするのは初めてだ。」

「在り方って……ちょっと硬くない?」

ぽつりと口を挟んだのは、フローラだった。

微笑みながら首を傾げるその声に、ノアは静かに瞬きをした。

「え……どこか、おかしかったですか?」

きょとんとしたノアの顔に、思わずリュミエールとトウカは視線を合わせた。

(相変わらずだな……)

(ほんと、ノア様は……)

言葉にはしない、けれど二人の目の奥には、同じ苦笑が浮かんでいた。

フローラはそんな二人を横目に、小さく胸を撫で下ろす。

――わたしを“知っている”と言われると、少しだけ安心する。

でも、次は……失敗しない。

ゆるやかに笑みを浮かべても、その瞳はかすかに揺れていた。

王国の東端、“芽吹きの端”と呼ばれる場所に到着した。

中央とは違う、静かな“てっぺん”がここにもある。


フローラはそっとコアセルに手を伸ばした。

指先に触れた瞬間、光が細く集まり、中心がゆっくりと螺旋を描く。

(……順番、どうしよう……)

前回の記憶が、胸の奥で小さく疼く。

最後の最後で裏切られたあの感触が、まだ指先に残っているようだった。

(……いいよね……)

誰に問いかけるでもなく、独り言のように。

瞼を伏せたその頬に、春の光がわずかに当たった。

「〈エリオリア〉起動――異常なし。」

淡く灯る光の輪郭が、静かに脈動する。

フローラの唇がかすかに緩んだ。

(……よかった……今度は、大丈夫……)

「――籠れ。籠護のろうごのころも

静かに繭のような光が膨らみ、

まだ何もない空間をそっと抱くように、輪郭を編んでいく。

その光は、

これから芽吹く“芯”を待つように、

息をひそめて輝いていた。

ホッとしたように、フローラの肩がわずかに緩む。



「〈ラルファイン〉起動――……」

だが、光は僅かに揺れるだけで――

沈黙。

「……起動しない……?」

わずかに目を伏せた瞬間、外縁の光がゆらりと広がった。

籠護の衣が、空いた輪郭を覆い隠すように、もう一枚――

光の層が静かに重なる。

(……このままじゃ……)

不安が胸を締め付ける。

――また、咲かないの?

「〈カルクレイン〉起動――!」

焦る声。

息が詰まる。

けれど立ち止まれない。

次の瞬間、中心に呼び出された“器”は――

規則を無視するように、さらに一つ芽を出した。

衣、衣、器、器。

輪郭が歪み、整わないまま空を裂いて揺れる。

フローラの指先が小さく震えた。

「……また……失敗……?」

淡い風が、形をなさぬ花の上を通り過ぎていった。


フローラの肩が小さく震える。

掌を胸にあてて、声にならない息が零れる。

(どうして……また……)

かすかに滲む涙の奥で、微かに残った光が揺れていた。

しかし、リュミエールは笑っていた。

「まだ“次”がある。……行こう。南へ。」

ふと隣に立ったノアが、その背にそっと声を重ねる。

「……何度でも。“守る”のが私の役目ですから。」

淡い若葉の匂いを運ぶ風が、東の空に一筋の光を残していった。


ABCモデルにおいて、それぞれの遺伝子が壊れると、どのような形態の花になるのか、描いてみました。あとは、ノアのキャラも理解してもらえるように描いてあります。融通が効かないんですよね、この男は。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

小さな命の揺らぎの中に、何かひとつでも感じるものがあれば、とても嬉しいです。


ご感想やご意見、そしてブックマークなどで応援していただけると、

今後の執筆の大きな励みになります。


これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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