表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/64

第5章 「落ちゆく者たち」第4話「灯火の願い」

朝の空気は、どこかしんと澄んでいた。

遠くから聞こえる鳥のさえずりが、やけにやさしく胸に沁みる。

落葉の日まで、あとわずか。

それでも、柵状組織の集落には、いつもと変わらぬ光があった。

昨日、あの知らせを受けた場所に、トウカたちはまた足を運んでいた。

「おはようー!」

笑顔で駆け寄る子どもたちに、トウカが一瞬だけ、目を伏せる。

その明るさが、かえって胸に刺さるようだった。


「えっと、お願いっていうのはね」

一人の子が、そっと声をかけてきた。

「私たちが集めてた宝物、ちゃんと残しておきたくて……」

リュミエールとトウカが顔を見合わせる。

「……宝物?」

「うん。大事なもの。最後に、置いていけたらって。

でも、燃やしちゃうのはイヤだから、どこか別の場所に……」

「だったら……カイン様なら!」

トウカがはっとしたように声を上げた。

すぐに、リュミエールたちは柵状組織の集落を飛び出した。

目指すは、碧苑――育みの環を巡らせる者 カインのもと。

澄んだ水音が響く中、温かな風が吹き抜ける。

リネアの先導で苑の奥へ進むと、眩しい光の中からカインが顔を出した。

「あれ?どうしたの、そんな真剣な顔して」

軽く首を傾げる彼に、リュミエールは事情を説明する。

最後まで話を聞いたカインは、少しだけ視線を空に向け、そして笑った。

「……そっか。そういうことなら――もちろん、いいよ!」

声は明るく、けれどその奥に、ちゃんと優しさがあった。

「宝物ってのはね、仕舞い込むもんじゃないんだ。誰かの手に届いて、また何かを守る――そういうふうに、生きてくもんだよ」

「届けるよ。ちゃんと、必要な場所に。その子たちの想いごと、ぜんぶ、運んであげるから!さぁ、そうと決まれば、急いで彼らの元に向かおう!」


カインとともに戻った集落では、子どもたちが宝物を手にして待っていた。

それは、まるで光を凝縮したような、小さな輝きだった。

一つひとつ、形も色も違う。

柵状組織の子どもたちが、それぞれの思いで集めた“ひかり”たち。


カインは、そのすべてを丁寧に受け取っていった。

手のひらに乗せるたびに、彼の瞳がほんのりと滲む。

そして――


「……紅葉……」

トウカが、呆然とつぶやく。

子どもたちの体が、少しずつ、色を変えていく。

燃えるような赤、優しい黄、やわらかな橙――

まるで、心の奥に積もった思いが、葉の色に溶け出したみたいだった。

「……きれい、だね」

リュミエールがぽつりとつぶやいた。

でも、その美しさに比例するように、別れの時も迫ってくる。

「うぅっ……」

堪えきれずに、トウカの頬を涙が伝う。


そして、落葉の日。

一人の子が、トウカの手をぎゅっと握った。

「こわくないの?」とトウカが尋ねると、

「うん。ちゃんと、終わらせるって決めたから」

そう言って、笑った。

リュミエールは、静かに目を閉じる。

(この願いが、せめて冬を越える灯火になるように……)


エリスが、そっと腕を掲げた。

「……これより、離層の形成を開始します」

空気が変わる。静かに、けれど確かに。

魔法のような静けさとともに、柔らかな光が集落を包んだ。

トウカはもう堪えきれなかった。

膝から崩れ落ち、嗚咽を押し殺すように顔を伏せる。

その震える背を、リュミエールがただそっと支えた。

彼もまた、涙を滲ませながら、終わりの瞬間を見つめていた。

そして――

ひとひら、ふたひら。

季節の静寂をまとって、命はそっと枝を離れた。

音もなく。まるで、夢の続きをなぞるように。


紅葉ですね。落ちゆく葉が持つ、まだ使える栄養素を他の組織に分配し、結果として光合成に必要なクロロフィルが抜け、相対的にカロテノイドの割合が高くなることで起きる現象です。まだ解明されていないことも多い、神秘的な反応なんですよね。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

小さな命の揺らぎの中に、何かひとつでも感じるものがあれば、とても嬉しいです。


ご感想やご意見、そしてブックマークなどで応援していただけると、

今後の執筆の大きな励みになります。


これからもどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ