第5章「落ちゆく者たち」第1話「祝宴の余韻」
杯が並ぶ卓のまわりに、温かな笑い声が満ちていた。
勝利を祝う夜。ひとときの安堵が、緊張をゆるめる。
中央の席には、ジャロスを中心に五人の上官たちが集っていた。
モネ、ノア、ミコル、リネア。王国の柱ともいえる顔ぶれだ。
「いやぁ、あれは痺れたな。詠唱を始めた時点で勝ちを確信したぞ、俺は」
ジャロスが酒を片手に、モネを指さす。
「兄様、それは酔いすぎです」
モネがやや頬を紅潮させ、控えめに笑う。
「でも……少し、誇らしかったです」
「……君にしては、素直だな」
ノアが淡く微笑んで、静かにグラスを持ち上げた。
「風が、こちらにも届いていたよ。戦場の空気はざわついていたけれど……君の風には、静かな芯が通っていた。」
「それは、きっとあの場にいた兵たちも同じように感じたでしょうね」
ミコルが、グラスの縁を指先でなぞるようにしながら言った。
「感謝の声が届いているよ、いくつも」
「私も、それを耳にしました」
リネアが静かにうなずく。
「直接はお見かけしませんでしたが……貴女の風が、森を守ってくれたのだと」
「本当に、ありがとうございます、モネさん」
モネは少し戸惑ったように笑い、目を伏せた。
「……皆さんに、そんなふうに言っていただけるなんて」
柔らかな光の下、五人はまるで家族のようだった。
この場にいる誰もが、分かり合っているという安心感がそこにはあった。立場も違えば、考え方も違う。それでも、皆、同じ方向を見ていた。
少し離れた場所。
リュミエールとトウカが、向かい合って腰を下ろしていた。
「ほんと、いろいろあったよね……」
グラスを手にしたまま、トウカがぽつりと言った。
「水不足に、菌根菌の反乱、虫の群れまで……なんなの、この数日」
「……うん。終わった感じがしないくらいだ」
リュミエールが小さく笑った。
「でもさ」
トウカが目を細める。
「ちょっとは……いや、けっこう成長したんじゃない? あんた」
「えっ、僕が?」
「気づいてないの? 前だったら、たぶんあの場で震えてたと思う。でも今は――」
言葉を続けようとしたところで、遠くから声が飛んできた。
「おい、リュミエール! こっち来い、空いてるぞ!」
ジャロスが、酒を片手に手を振っている。
「……あ、はい!」
慌てて立ち上がるリュミエールに、トウカがくすっと笑った。
「なんだかんだ、目ぇかけられてるよね」
「そ、そうなのかな……?」
卓に合流すると、空気は一段と賑やかになった。
「やっとお越しですね、継環騎士団のホープ」
ミコルは静かに杯を掲げ、柔らかく目を細めた。
「今回の任務、見上げた働きぶりだと聞きました。頼もしい限りです」
「いえ……たまたま、です」
「その“たまたま”を形にできるのが、真の実力というものですよ」
「ミコルさん……」
リネアが穏やかに口を挟んだ。
「褒めすぎは、少し酷ですよ」
そんなやりとりを受けて、ふとリュミエールがつぶやいた。
「……そういえば。柵上組織の方々、どうしてるんでしょうか。気になるな」
その言葉に、リネアが小さく頷いた。
「私も、少し様子が気になっていました。リュミエールさん、ご一緒しませんか?」
「え、いいんですか?」
「ええ。あの方々に光が届くように、風の通りも整えておきたいですから」
静かな夜の底で、次なる再会の兆しが、そっと芽吹いていた。
ここはつなぎの回ですね。各キャラの特徴を描いてみました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
小さな命の揺らぎの中に、何かひとつでも感じるものがあれば、とても嬉しいです。
ご感想やご意見、そしてブックマークなどで応援していただけると、
今後の執筆の大きな励みになります。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。




