第2章「乾きの号令」第4話~静けさの導き手~
暴動は、思った以上に激しかった。
気孔閉鎖の影響で、内部環境のバランスを崩した葉の中では、柵状組織や海綿状組織の細胞たちが、苦しみに声を荒げていた。
「俺たちは……何のために存在してると思ってるんだ!」
「二酸化炭素が入ってこなきゃ、光合成なんてできないだろ!」
激昂した細胞たちが地面を踏み鳴らし、抗議の声は波紋のように広がっていく。
その場にたどり着いた命繋の一行は、思わず足を止めた。
「すごい……」
トウカが、低く呟いた。
「こんなにも……苦しんでるんだ」
リュミエールは、言葉を失っていた。
暴動を前にして、胸の奥が締めつけられる。
これが、王国の現実なのだ。
だがそのとき、リネアが一歩、前に出た。
白銀の外套が、ざわめく熱気の中で凛と風を受ける。
「皆さん――静かに、私の声を聞いて」
その声は、驚くほど静かだった。
しかし、まるで空気そのものが共鳴するように、確実にその場を包み込む。
「あなたたちの苦しみは、わかります。気孔が閉じられて、空気も水も届かず、不安で仕方がない……」
暴動の声が、少しずつ、弱まっていく。
「でも、気孔を閉じたのは、命を守るため。蒸散が止まり、水の吸い上げが弱くなるのは確かに苦しい。けれど、開いたままでは乾きすぎて、細胞そのものが壊れてしまうのです」
ざわめきが消え、耳鳴りのような静寂が広がった。
「今は、ただ静かに――私たちを、信じて」
その言葉と共に、リネアは手を伸ばし、地にひれ伏していた細胞の肩にそっと触れた。
彼女の掌から、ほのかに光が溢れる。
「あたたかい……」
小さな声が漏れる。
「少しでも、回復の手助けができるなら。私は、全力を尽くします」
やがて、倒れていた細胞がゆっくりと体を起こし、別のひとりが、それを支えた。
「……本当に、守るためだったのか……」
柵状組織のひとりが呟いた。
「光合成ができなきゃ、生きてる意味がないと思ってた。でも……命があってこそ、なんだな」
「……俺たち、ちょっと焦りすぎてたかもな」
微かな希望が、そこに芽生えていた。
リュミエールは、その様子をただ黙って見つめていた。
「……すごいな」
彼の胸の内に、深い感動が染みわたる。
――伝える力。癒す力。そして、信じる力。
リネアの背は、小柄で華奢だった。
けれど、その存在は誰よりも大きく見えた。
次の瞬間、王国の空気がふっと変わった。
遠くから、葉擦れの音が風に乗って届く。
気孔が――再び、開こうとしていた。
ブラシノステロイドの働きとして、やりすぎかなとも思ったんですが、伸長成長などの「バランス」を取る役として、リネアを描いています。
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