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エルフになるとは  作者: 月目亜夏
8/20

再び旅へ

「ミオル、いつか絶対会いに来いよ。」

「おにいちゃん、またね。」

「ミオルさん。お元気で。」

 旅から1ヶ月。子どもたちと、正式に孤児院の職員となったバリトンさんに見送られ孤児院を後にする。

 そしてリルにも出立の連絡をするためにと寄った教会。平日は来訪者も少なく静かなはずの教会が、なぜか今日は騒がしい。修道士たちが慌ただしく走り回っている。俺が声をかけても素通りし、仕方なく自分でリルの部屋へ行く。リルの部屋がある3階に足をかけると、それまでの喧噪が嘘のように静かになる。

 重い扉の前に立ちノックをすると、しばらくして扉が自動で開く。

「ミオルさん。どうしましたか。」

 扉の前で呆然と立ちすくむ俺にリルがそう声をかける。

 適当に返事をしながら部屋に足を踏み入れると、また勝手に扉が閉まる。

「リル、誰この子。」

 リルの執務机に座りちょっかいを出している男性が口を開く。

「ミオルさんです。さっき言ってた少年ですよ。」

 作業をしながら少し面倒そうに応えている。

「それで、どうしましたか。」

 そこでリルは視線を俺に向ける。相手にされず残念そうな男性は気に掛かるが、リルは無視を続けている。

「いや、今日出るから最後に顔見せようと。」

 ついでに折角俺が関わった候補者の件の進展を知りたいと思っていたが、男性の方が気になる。

「そうですか。今日ですか。ありがとうございます。先日渡した報酬は足りました。」

「ああ。」

 俺は腰に下げている袋を確認する。薬草最終の依頼などはギルドを通して報酬が渡されるが、今回のような場合は直接やり取りされる。お陰で依頼書に書かれていたより多くもらえて嬉しい誤算だ。

「でしたら、本当にありがとうございます。」

 リルはそれだけ言ってまた視線を戻そうとする。

 俺も特に用事はなく気まずい沈黙が流れる。

「リル。なんで私を紹介しない。」

 その静けさが嫌だとでも言うように男性が口を開く。

「気になるなら自分で名乗ってください。」

 リルは素っ気なく返している。俺は例外だとして、リルがこれほど砕けた口調で会話をしているところを初めて見た。

「はぁ、リルと喋ってても埒が明かない。」

 しばらくの口論を経て、男性は1人俺に近づいてくる。

「どうも、息子から聞いてるよ、ミオル君。私はケインバーグ、よろしくね。」

「息子、ですか。」

 理解の追いつかない頭で、ケインバーグさんの言葉を反芻する。

 年齢的にリルと同年代に見える。それに。

「そうそう、君の思っているように私はエルフ。でもリルも正真正銘私の息子だよ。」

 俺の視線に気付いて自分の耳を示しそう説明する。耳長族(みみながぞく)とも言われ、人間に近い外見と長い耳が特徴のエルフ。マゼンダ国には多くいると知っていたが、ここで見るとは思っていなかった。

 しかもリルの父親を名乗っている。

 通常エルフは子を作らない。豊富な魔力を持つエルフの、その体から漏れ出る魔力によって生まれる妖精。それが100年の歳月を経て成長した姿が、エルフだ。だから子を持つはずはない。

「けれどリルは。」

 リルはどうみても人間だ。人間離れはしているが、エルフのような特徴はない。

「まぁ、私は少し異端でね。恋をしたんだ。」

 なぜか照れている。

 まぁ、恋を知らないエルフが恋をする、なんてよくおとぎ話で聞くことだ。

「そうですか。それじゃ。」

 一通り説明が与えられたことで俺の関心は途切れた。これで本当に用事もなくなり、俺は出口に向かう。

「またいつか、こちらに寄ったときは顔を見せてください。」

 そう言ってリルは一瞬だけ顔を上げる。扉の前で礼をして、部屋を出て教会も出る。


「それで、なんで着いて来るんですか。」

 教会の塀まで続く道を、人の視線に耐えながらそう口にする。

「私もちょうど帰るところだから。」

 白々しい嘘をつく。人間とエルフという異端な組み合わせの俺らを避けるため、さりげなく作られた道が悲しい。

 かといって強くも言えずそのまま歩き続ける。バルカルト街を抜け、アランカールを出る。隣の町にある冒険者ギルドへと向かう。その間も後ろにエルフがいる。俺から離れる気配はない。

「これ、お願いします。」

 依頼書を提出し、受領証を受け取る。

「見せて。」

 俺の手に握られた依頼書をエルフは奪い、目を通す。それで興味をなくしたようでまた返ってきた。

「・・・あの。ケインバーグさん。」

 いい加減この自由なエルフに怒りが湧いてきた。リルの父親にしては性格が似ていない。

「どうした、ミオル君。」

 なぜ俺がここに留まっているかと不思議そうに尋ねてくる。一応エルフだから怒りを飲みこみできるだけ丁寧にやんわりと気持ちを伝える。

「あの、なんでついてくるんですか。」

「え、だめ。」

 そんな俺の気遣いも無意味なようだ。

「いや。ダメでは、ないですけど。」

 だめかと聞かれると返答に困る。それほど迷惑しているわけではない。少し緊張はするけれどエルフが一緒に行動するというのはどちらかというと得が多い。

「じゃいいでしょ。ほら行くよ。」

 俺の返事を受けてケインバーグさんは嬉しそうに出口へ向かう。そんな俺らのやり取りを遠巻きに見ていた人たちが、さっと道を空ける。これからのことを考えると気が重い。

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