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エルフになるとは  作者: 月目亜夏
7/20

最終決定

 夕暮れ時にやっとアランカールに着いた。国内最大の都市なだけあってここは夜でも賑わっている。初日に使った乗り場を通り過ぎ教会に向かう。見慣れた修道士に声をかけると直ぐに目的の場所に通してくれた。

「お帰りなさい、ミオルさん。」

 もう夜だというのにリルは書類の山に埋もれている。忙しいようで視線は下を向いたままだ。

「これ、返す。助かった。」

 リルから受け取っていた証明書を机の空いている場所に置く。リルはそれを一瞥だけする。

「どうでしたか。」

 声だけはずっとこちらに向いている。

「まぁ、なんというか。」

 成果がない、訳ではないがイマイチ自信が持てない。今回の旅で色々な人と会った。そもそも俺はただの冒険者で人を見る目があるわけでもない。

「なにか悩みがあるようでしたら、ききましょうか。」

 そこでリルの手が止まる。机を指で叩くと職員が入ってきて書類が運び出され、それを見届けてからいつもの対面テーブルに移る。

「はい、どうぞ。」

 話を促され、とりあえず今回の旅の道順を説明する。

「旅自体も楽しめたようでよかったです。」

 話し終える時機を見計らってリルはそうコメントをする。不意にリルの年齢に対して疑惑が生じる。見た目は若いのに俺へ向けられた視線が親のようだ。

「それで。」

 短く話を促す。言動の一つ一つが知的だ。

 散々依頼を達成しようと頑張っているが、リルがこのまま国王を続けて神殿長を別な人に変えた方が楽な気がする。まぁ、それをリルが気付いてないはずはないだろう。

「そういえば。」

 別に話が変わるわけでもないが、そう前置きをしてクリストと今日会った店の店主の話をする。クリストに会ったときからリルに意見を聞きたいと思っていたのだ。

「そう、ですか。面白い人ですね。」

 自分の下にいるそんな不穏分子に対しそう言って笑っている。いつもの笑顔とは少し違う。リルが本当に笑うなんて珍しい。

 リルはしばらく笑い、定期報告の時恒例のあのやり取りをする時と同じ口調で話し始める。

「ミオルさんは今日、どんな選択をしましたか。」

 さっきまでの笑顔が嘘のようににこやかに笑っている。

「例えば朝、起きるかまだ寝ておくか。無意識でも選択をしたのではないですか。」

 そう言われて今日1日を思い出す。リルが例えたような小さなことも数えれば、数百の選択をしている。

「同じように、我々生き物は生まれてから死ぬまでの間に選択を続けます。」

 そこで一度俺の反応を確認する。

「人間は、幼い頃は未熟ですけど。1年も経つと知らず知らずのうちに選択を始めるようになりますよ。」

 さらにそう付け加える。

「そう、ですね。」

 何が言いたいのだろうか。今のこの現状は自業自得だから云々といったことを説く性格ではないだろう。

「私が例に出したような小さな選択はさほど影響ありませんが、例えば結婚について、仕事について、時には重大な決断をすることもあるでしょう。そういうとき、人々は私たち宗教をつい頼ってしまうのです。」

 それ以外の何かを頼ることもありますけど、と付け加える。

 それは俺も理解できる。俺は割と小さい頃から旅をしたいと夢を見ていて、冒険者という職を選ぶことに迷いはなかったが、その先の人生に不安を感じることがあった。その時俺が親に頼ったのと同じだろう。

「まぁ、宗教に対する心の持ち様は人それぞれで違います。その青年が言うように宗教に頼りすぎてる一面もありますけどそれもまた選択した道です。」

 いつもの様にそこで話を切る。

「宗教は親に影響されることは多いので、それでその青年が肩身の狭い思いをしてる様なら申し訳ないですけど。」

 クリストはなんだかんだ楽しそうだったからリルが気に止む必要はないだろう。

「これで何か役に立ちましたか。」

 気づけば窓の外は真っ暗だ。

「あぁ。ありがとう。」

 リルの話はわかりやすい。意見を教えるのではなく、知識を与えて俺の意見にさりげなじく影響を与えてくれる。

 さんざん知識を与えるだけ与えて後は俺次第と全部丸投げだ。

 けれどそのおかげで少し自信が出た。自分の選択にではなく、リルが選んだ俺と言う人物にだ。

「そろそろ結論は出ましたか。」

 下の階から人の声も聞こえなくなった頃リルはそう切り出す。

 これがきっと、俺にとっては人生最大の選択だろう。

 リルが国王候補者を書くための紙を用意する。この紙が契約書代わりとなり、ここに名前を5人書けばリルとの契約、冒険者としての依頼は終了する。

 既に書かれた3つの名前に2つ追加する。こうして呆気なく俺とリルとの関係は終わった。

 ここから先は、俺の選択があっていようと間違っていようと後はリルの領分だ。

「ありがとうございます。色々あると思いますから、まだ1ヶ月くらいは孤児院で働いていてください。」

 そこで話は終わり俺は部屋を出る。もう辺りはすっかり暗く、心細いロウソクだけが廊下を照らしている。

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