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Episode7「闇夜の刺客」

 西暦2325年、地球は度重なる戦争と環境変化に伴い、地球が人類にとって住みにくい星になるのは最早時間の問題となった。だが、人類はコロニー建造や月面基地の開発等、宇宙進出を果たす程の技術を手に入れ、やがて他惑星での移住計画も推し進めた。

 だが、その最中、突如として謎の巨大不明生物が現れ、人類に牙を向け、襲い掛かってきた。人類はその正体不明の巨大生物にありとあらゆる兵器で迎え撃ったが、巨大不明生物はあらゆる兵器も通用せず、人類を食い尽くし、人類はその巨大不明生物によって大半を滅ぼされた。

 やがてその巨大不明生物はデーモンビーストと呼称され、デーモンビーストによって人類の8割が死滅させられたその惨劇は「悪魔の審判」と呼ばれるようになった。それから数世紀に渡って地球はデーモンビースに支配され、僅かに生き残った人類は尚もデーモンビーストの支配に抗ったが、度重なる資源不足に陥り、それを補うために人類同士による争いが頻発に行われ、世界は混沌となっていた。

 悪魔の審判から800年後、西暦3125年、人類は対デーモンビースト用として人間が搭乗出来る巨大人型機動兵器を開発し、デーモンビーストを駆逐し、新たな国家を建設、徐々にその支配圏を取り戻しつつあり、人々は悪魔の審判以前の世界に戻れると確信していた。だが、人類は知らなかった、これから行われることはその悪魔の審判以上の脅威が襲い掛かってくることを…

 イギリス、ロンドン。そこで、ヘレナが後に行われる議長選で勝利するために、その支持を与えられるようになるため、総督と会談が行われるはずだった。

 だが、そこに現れたデーモンビースト、バジリスクの襲撃に逢い、彼女の護衛に当たっていた特務隊とデナム大尉率いる部隊の協力によって討伐することに成功するが、イギリス総督ロイド・ブロンドがバジリスクに補食され、更にその前日に起こったテロの影響で、会談は中止され、急遽、特務隊はデナム大尉の助言によってヘレナたちを連れ、統制連合艦隊のヨーロッパ軍事拠点であるノルマンディー軍事基地に向かい、そこでセラヴィムやその他ASの修理を行い、マッカーシー特務大佐が本部にいるホワイト副議長と通信を取り、今後の動向について話し、その間はその軍事基地で待機することになった。 マルコが他の整備士と共にセラヴィムの修理を行う中、他の整備士が話をし、


 「なあ、何でまた、ここで待機することになったんだ? 今のご時世、デーモンビーストによる被害が起こることなんて日常茶飯事みたいなもんだろ? わざわざこんなところに行かずとも、整備だけなら、ロンドンでも行えただろ?」


 「アホか、デーモンビーストによる被害が軍だけならともかく、今回は総督が喰われたんだぞ! ましてや、それにテロが影響してるともなれば、ロンドンは大混乱だぞ。

 もし、あのまま、彼処に留まって本国に知られたらどうする? それこそ、反財団派が益々、ハデに動かすチャンスを与えられ、今度の議長選で不利になるだけだぞ! だから、そうなる前にロンドンから離れて特務大佐が副議長に助けを求めているんだよ!」


 「随分、面倒な状況だな…」


 話している2人の整備士の元にオクタヴィス特務大尉が立ち寄り、


 「無駄口叩いている暇があったら、さっさと作業に集中しろ!」


 「へっ、へい!」


 オクタヴィスはセラヴィムの状況を知るべく、マルコの元を訪ねた。


 「どうだ? 機体の状況は…」


 「思ったより酷い有り様です。外装もほとんど剥がれててオマケに関節もガタガタです。特務少佐の手も借りたいぐらいです!」


 「となると、出撃は無理か…」


 「ただ、ちょっと不自然なところがありまして…」


 「不自然?」


  「水中で、バジリスクと戦っていた記録が機体の中に確認されましたが、その際、機体の出力が通常以上に上がっていたことが判明されました。」


 「どういうことだ?」


 「通常、ASはパイロットの脳波を機械が読み取ってそれに合わせて出力を調整するシステムが搭載されていますが、このセラヴィムにはそれがなく、パイロットの負荷関係無しに出力を引き上げてしまうんです。

 しかも、その時、機体の出力が上がった際にラルドの脳波に異常が感知され、パイロットの意思とは関係無しに起動したということが確認され、しかもこれは以前、セラヴィムがパイロット無しで起動した状態と非常に共通点が多いこともわかりました。」


 「コクピットから引きずり出したオルスター特務二等兵が意識不明の状態になっているのはそのためか…この機体の出力が上がった原因はわかっているのか?」


 「確かなことはわかりませんが、その時の記録によるとパイロットの感情に反応したとしか…」


 「パイロットの感情に?」


 軍事基地にある個室でヘレナはベッドで寝かせている昏睡状態のラルドの様子を心配そうに見ていた。


 「ラルド…」


 その時、眠っていたラルドはゆっくり目を開き、


 「ラルド! 気付いたのね!」


 「う~ん、ここは?」


 「パリ軍事基地よ。」


 「パリ軍事基地? 会談はどうなったの!?」


 「ブロンドさんがデーモンビーストに喰われて中止になって、マッカーシー特務大佐の指示に従ってしばらくここで待機することになったの…」


 「そうか…ブロンドさんが…僕があの時、ブロンドさんを離さなければこんなことに…」


 「ううん、ラルドのせいじゃないよ!」


 「でも、ブロンドさんを守れず、ヘレナを危険な目に逢わせてしまって…」


 


 ホワイト副議長との通信を終えたマッカーシーは司令室でオクタヴィスとデナムを集め、今後の動向について伝えた。


 「副議長が議長閣下を通じて各総督に護衛を強化するよう命じ、引き続き各国の訪問を行うことになった。これ以上停滞してしまったら、市民の不安を煽るだけになり、我々の立場も危うくなる。

 しかも、ただデーモンビーストに襲撃されただけならいいが、テロも関わっているとすると更に厄介だ。以前のトルークフューリーの例もあるしな。」


 「しかし、どうするのですか? 計画通りにしてもまた同じ二の舞を踏むことになります。」


 「特務大尉、ラルドとセラヴィムは?」


 「先程、ヘレナ嬢から意識が戻ったとのことで、セラヴィムの方は損傷が激しく、修理には少なくとも3週間は掛かるとのことです。」


 「とすると、出撃は無理か…」


 「ですが…」


 「何だ?」


 「どうも、あの機体には奇妙な部分がありまして…」


 「奇妙なこと?」


 オクタヴィスがセラヴィムに関する資料をマッカーシーに渡し、それを見たマッカーシーは表情を変えた。


 「これは…」


 「どうかしましたか?」


 「あ、ああ…少し気になったことがあってね…」


 「気になる?」


 「それより、動ける機体はどれぐらいある?」


 「ルシファロイドは全く問題ありません! いつでも出撃出来る状態です。ただ、ロンドンでの戦闘で特務隊機の40%程が損傷を受けました。

 もちろん、それらも修復には1週間は掛かると思われます。」


 「ルシファロイドが無傷なのは幸いだったな。しかし、あれは確か、セラヴィムのデータを元に設計した機体だが、あれには異常はなかったのか?」


 「逆にあれにはこれといった異常はありませんでした。パイロットのブラッディ特務二等兵も問題ないですし…」


 「やはり、あの機体には我々の知らない機能が付いているということか…」


 「アウダ・オクタヴィス特務大尉! これからの護衛部隊の指揮は君に任せる。私は暫くここに残り、セラヴィムのことをもう少し調べてみる。」


 「なんでまた急に…?」


 「どうも、この機体には奇妙な部分がある。これ以上、作戦に関わるのは危険だ。本国にいるブラッディ特務少佐とも通信を取って調査する必要がある。

 それに、以前の戦闘に関わったとされるテロリストがまだ潜伏している可能性があるため、もう少しここに残り、警戒体制を取っておく。」


 「オルスター特務二等兵はどうするのですか?」


 「彼はここに残す。意識が戻ったとはいえ、後遺症が残っている可能性があり、出撃命令を出すわけにはいかない。

 今後、ヘレナ嬢の護衛の全般はブラッディ特務二等兵に任せる。1人とはいえ、これまでの戦闘で彼は兵士4人分の働きをしている。彼に任せれば万事解決だ。」


 「彼の実力は私も十分知っていますが、ロンドンの時の例もあります。流石に1人にやらせるわけには…」


 「でしたら、彼もつけましょう。」


 その時、その会話に割っては入るようにデナムとヤマトが現れた。


 「オルスター二等兵の代わりにハイライト二等兵をつけましょう。1人でも多くいた方がいいでしょう。」


 「ならば、デナム大尉はオクタヴィス特務大尉の指揮下に…」


 「いえ、私のタイタロスが先の戦闘でワイヤーブレードを損傷したので修理が完了するまでここに残ります。修復が完了次第、オクタヴィス特務大尉と合流します。」


 「わかった。では、オクタヴィス特務大尉はヘレナ嬢を伴い、ベルリン総督府へ…」


 「了解しました。」


 マッカーシーの命を受けてオクタヴィスはヘレナを伴い、ベルリン総督府へ向かう準備を行い、ヘレナは艦に乗る前にラルドやマルコに別れを告げた。


 「じゃあ、暫くね。」


 「ホントに大丈夫かい? 何なら、俺もいた方が…」


 「心配性ね、マルコ。クトラがいるから大丈夫よ! それにあなはセラヴィムの整備を任されているでしょ。」


 「そ…そりゃ、そうだけど…」


 「大丈夫だよ! マルコ。セラヴィムの整備が終わったら僕たちも合流すればいいだけだし。」


 「わ、わかったよ。」


 「じゃ、ベルリン総督府で待ってるわ。」


 「あの、ヘレナ! ノアは?」


 「あの子は私と一緒に行かせることにしたわ。女の子を軍事基地に置いていくわけにはいかないからね。」


 「ありがとう、ヘレナも気を付けて…うっ!」


 その時、ラルドに再び頭痛が襲い、苦しんだ。


 「⁉ ラルド、大丈夫? もしかしてまだ直ってないんじゃ…」


 「そ、そうだね。ちょっと休んでくる(でも、何かおかしい。セラヴィムに乗った時とは何か違う…)。」


 ラルドが部屋に戻った後、ヘレナは艦に乗り、ベルリンに向かって発進していった。


 




 引き続き、パリ軍事基地に留まったマッカーシーは本国にいるブラッディと通信を取り、セラヴィムのことを聞いた。


 「反財団派はイギリス総督の死を機に世論を味方に付けようと躍起になっているが、それも無駄だ。今回のテロに関して調査中のため、公式では伏せられているが、もしこれが反財団派と関わっていれば、マクマリー議員を支持する者は不利となり、ヘレナの支持率が上がるだけで議長閣下からすれば好都合。

 それに第一、国家が復活しているとはいえ、今の時代は800年前と違い、得体の知れないバケモノが蹂躙している世界だ。今更、そんなことをゴタゴタ騒いでも、意味が無いというのに…」


 「情勢はわかっています。それよりも、セラヴィムのことに関して他に話すことはないのですか⁉」


 「何故、そのことを? あの機体に関しては以前、私が報告した通りだが…」


 「では、以前、セラヴィムが無人の状態で起動した時と同じような奇妙なことが起こったのですか⁉ 明らかに機体に何かしらの異常性があるとしか思えません!」


 「それを言うなら、機体に異常があるというより、彼に何かあるということではないかね?」


 「それはどういうことですか?」


 「以前も言った通り、あの機体に何人かのテストパイロットを乗せたが、誰1人あれを乗りこなすどころか、起動させることすら出来なかった。

 我が軍のASとは違う構造を持っているのは確かだが、それ以外は他のASとは大差なかった。

 だとすれば、彼にあの機体を開発した者と何かしら関係があるとしか言えないと思うが…」


 「それは…」


 「まあ、私も一応、調べているが…如何せん、議長殿から新型の開発を急ぐように言われているので、そこまで手が回らんがな…」


 「わかりました。お時間を取らせて申し訳ありません。では、失礼致します。」


 通信を切ったマッカーシーは今の言葉を聞いて再びキールの名を思い出した。


 (「キール・ブロッケンマイヤー?」


 「その少年の証言によりますと、孤児だったその少年を拾った自警団の男だそうです。」


 「自警団…最近頻発しているあれか。」


 「800年前の悪魔の審判の影響もあって、我が連合国及びどの国家や軍にも所属していない組織が存在し、中には私設軍隊まで持っている勢力もいるとか…」)


 「もし、それが奴だったら、あるいは…いや、まさかな…」


 ヘレナを伴うオクタヴィス率いる特務隊は無事、ベルリン総督府に着き、そこでベルリン総督ウォルト・エンシェンバッハに招かれ、その会見を行い、パーティー等のもてなしも受けたが、ヘレナは豪華なドレスを着ていたが、余り乗り気でない表情をしていた。


 「大丈夫ですよ! ヘレナ嬢。このベルリンは欧州でも随一の防衛力を持ちます。ロンドンのようなことは起こりません。」


 「そうですか…」


 そこにオクタヴィスが間に入り、


 「総督、ヘレナ嬢はお疲れなのだ! 余り刺激するようなことを言うのは感心しませんな。」


 「いえ、私はヘレナ嬢にここが安全だとお伝えしただけです。」


 「だとしても、こんな派手なパーティーに招待するのは少々不謹慎だと思いますがね…」


 「そう、固いこと言わずに…」


 「いえ、私は大丈夫です! ただ、少し1人にしてください。」


 そう言うとヘレナはその場を離れ、テラスの方で外の様子を見ていた。そこにクトラと共に彼女の護衛を任されたヤマトが彼女の元を立ち寄った。


 「ロンドン総督を死なせたのが自分のせいだと思っているのか?」


 「元々、ホテップ社に訪問するつもりはなかったの。財団の人間である私がホテップ社を訪れば、資金援助を求めてきたと反財団派の人から誤解されるようになるから、断るべきだったのに…」


 「君は何で議員になったんだ?」


 「え…?」


 「誰かに強制されたものなら、無理になる必要はない。自分の人生は自分だけのものだ。誰のものでもない…」


 「ううん、議員になったのは私の意思なの。私、デーモンビーストに親を殺されて財団に保護された子供たちを何度も見てきた。

 私にはちゃんと親がいて何不自由ない生活をしているけど、世界には私のような人間ばかりじゃない。だから、私はそんな子たちを増やさないように、皆が幸せに暮らせる世界にしたくて議員になったの。」


 「全ての人間が平等に幸せに暮らせるわけじゃない。貧困になる者、生まれた時から親を失った者、望まない生活を強いられている人間だって沢山いる。ましてや、この世界じゃ、生きるだけで精一杯のはずだ。」


 「あなたはどうして軍に入ったの?」


 「似たようなものさ…家族や仲間をデーモンビーストに殺された。これ以上悲しみを増やさないために俺はデーモンビーストを駆逐する。」


 「そう…私と同じなのね…」


 2人の様子を同じく護衛のクトラが見守っていたが、その横にパーティーに参加できず、ずっと潜んでいるノアに気付き、じっとその様子を見ていた。


 


 



 深夜11時半頃、ラルドとヘレナはパリ軍事基地とベルリン総督府とそれぞれの個室で就寝し、マッカーシーマルコと共に尚もセラヴィムの解析を行っていた。


 「やはり、いくら調べてもフレームの構造以外は我が軍のASとそれほど差はない…か

 (ブラッディ特務少佐がこれをベースに開発したルシファロイドも調べて比較したいところだが、生憎、ルシファロイドはベルリン総督府にあって調べられない、となると…)。

 マルコ、確か君は特務少佐と共に機体を調査してルシファロイドを開発していたそうだが、あれはセラヴィムとどこまで同じだ?」


 「え? どこまでと言われても…フレームや機動性、戦闘力はそれに合わせたぐらいで…」


 「それ以外は?」


 「い、いえ、そこまでは…開発のメインはブラッディさんがやってましたので、俺はその手伝いをやったという程度で…」


 「結局、こいつに関してそれほどの情報は得られてないということか…」


 「ただ…」


 「ただ、何だ?」


 「開発中にブラッディさんが言ってましたが、これだけの性能を持つ機体を完成するには余程の技術陣と相当の人手がないと不可能だと…」


 「つまり、国家ぐるみで誰かが完成させたということか…(仮に奴が生きていて、これの完成に関わっていたとすると、バックに国家レベルの組織の存在がいるということか?)」


 その時、突然、端末の記録映像が乱れてきた。


 「? おい、一体何が起こった?」


 「特務大佐!」


 「これは何事だ⁉」


 「基地の通信システム全てに障害が起こっているそうです!」


 「外部からの通信は出来ないのか?」


 「それも無理のようです。」


 「直ぐに復旧作業にかかれ!」


 「はっ!」


 

 同様のことはベルリン総督府にも起こり、


 「パリ軍事基地との通信が取れないだと?」


 「はい、どうも通信障害が起こっておりまして…」


 「(これ以上、ヘレナ嬢にあの総督の相手にするわけにはいかないから、明日にこのベルリンを起つのを特務大佐に報告しようと思ったが、面倒なことが起きたな…) 復旧にはどれぐらい掛かる?」


 「原因が不明なため、どれぐらいになるか…」


 「ちぃっ、出来るだけ早くしろ!」


 「はっ!」


 


 


 

 「ウッ…ウッ、ウッ~!」


 同時期、ヘレナとは別の個室で就寝しているノアは酷くうなされていた。夢の中に黒い影の少年がゆっくり近付いて、ノアは必死に逃げ続けていた。その夢に出てくる少年は何度も何度も現れ、ノアの恐怖を更に駆り立てていた。


 「ハァッ!! ハァッ、ハァッ、ハァッ!」


 恐怖の余り、目を覚ますが、眠ることすら出来ない状態となり、部屋を飛び出して廊下を走り、ベランダのところまで行った。 そこで、ヘレナが寝ている隣の部屋で見張っていたクトラはそれを目撃し、ゆっくりその後を付いていった。


 「ハァッ! ハァッ、ハァッ、ハァッ…」


 場所を変えて呼吸を整え、少しは落ち着いてきたが、彼女が抱いている恐怖を払拭した訳ではなかった。再び個室に戻れば、また先の夢を見てしまうのではないかと怯え、そこから離れることは出来なかった。


 「怖い…」


 (「大丈夫だよ。君を1人にさせないから」)


 「ラルド…」


 その時、ラルドの声がしたと同時に、彼女が後ろを向くと、その姿があった。


 「ラルド…」


 しかし、ラルドは何も言わず、そのまま立ち去った。


 「待って!」


 ノアはその後を追ってそのまま総督府から出てしまい、それを見張りの兵士が気付いた。


 「おいっ! 貴様、何をしている⁉」


 その時、森から霧のようなものが現れ、総督府周辺を覆った。


 「何だ、これは…?」


 見張りの兵士が辺りを見渡すと、背後に総督府がいつの間にか無くなり、周囲の森も無くなっていた。


 「お、おい、何が…一体、どうなっちまったんだ⁉」


 状況が読めず、困惑する兵士の目の前にメトロポリスの街が現れた。


 「お、おい! どうなっている⁉ ここはベルリンじゃないのか?」


 動揺する中、現れたメトロポリスの前に兵士たちの家族と思われる人物たちも現れた。


 「父さん、母さん…」


 「兄さん…どうしてここに?」


 現れたメトロポリスの街と人々は後退していき、それに惹かれていくように兵士たちは銃を下ろしてゆっくりとその後を付いていった。その様子をベランダから見ていたクトラは耳を研ぎ澄まし、何か異常を感じたかのように中に戻っていった。


 




 同時刻、パリ軍事基地。ラルドは個室のベッドで横になっていたが、バジリスクとの戦闘中で何故、自分の意識が無くなり、セラヴィムが勝手に起動したのか気になって寝付けないでいた。


「あの時の僕はどうして、ああ、なったんだ? 水の中であいつに負けそうになって怖くなった後の意識が無くなっていてその後の記憶を覚えてない。

 どうして思い出せないんだ。僕がおかしくなったのか、それとも、セラヴィムに何かあるっていうのか?」


「(ラルド!)」


 その時、突然、ノアが呼んでいるかのような声がした。


 「今の声…ノア?」


 声を便りに個室を出、見張りの兵士に気付かれないよう、外に出ると、目の前の森からノアが助けて助けてと何度も聞こえ、彼女に何かあったのかと思い、そのまま森の中に入っていった。


 


 


 総督府内部ではオクタヴィスらは尚も通信システムの復旧に苦戦していた。


 「まだ、直らんのか?」


 「はい、通信障害の元の電波が中々特定出来ず…」


 「(この通信障害、かなり広範囲のものだ。テロリストでは、これだけのことは不可能だ。となると…)」


 「特務大尉!」


 「何だ?」


 「我が特務隊の兵士が次々と総督府を離れて森の中へ入っていきます!」


 「何だと⁉ 直ぐに連れ戻せ!」


 「それが…」


 「特務大尉!」


 声がしたと同時にクトラが何かを伝えに現れた。


 「ブラッディ特務二等兵か。悪いが、今は…」


 「総督府周辺に特殊な音波が流れてて、兵士たちはその音波によって幻覚を見せられ、こちらの命令が聞こえない状態になっています。妨害電波もそれによるものかと…」


 「何⁉ 特殊な音波だと!」


 「情報は少ないですが、数十年前に通信手段が全て遮断され、通った人間が幻覚を見せられたかのような不審な行動を取った事例があるそうです。 

 最もこれは軍ではなく、民間人が残した記録のため、信憑性に関しては何とも言えませんが…」


 「根拠はあるのか?」


 「ここの通信システムがほぼ使いものにならない程の妨害電波を民間人やテロ組織が出せるとは考えられません。ましてや、外の兵士が任務を放棄して持ち場を離れるという不審な行動を取っているのがそれを物語っています。」


 「そういえば、このベルリン周辺に電波が遮断されたことが時々あります。」


 「ちょっと待て! 外の兵士がその音波でおかしくなったなら、お前も外に出たということか⁉ なら、何故、お前は平気なのだ⁉」


 「耳鳴りがした程度ですが…」


 「だったら、尚更、何故その程度で済んだのだ?」


 「理由はわかりませんが…多分、精神力の強い人間にはあの音波は効果ないと思われます。」


 「(精神力の強さだと⁉ 入隊初日のあの異常な身体能力といい、特務少佐はこの少年に一体、どんな教育と訓練を施したのだ…)」


 「オクタヴィス特務大尉!」


 「ハイライト二等兵か! 実はちょうどお前も呼ぼうとしていたところで…」


 「知っています!」


 「ッ⁉」


 「特殊な音波で外部の人間がそれに惑わされて動けない状態なんでしょう?」


 「何故、それを…」


 「ブラッディ特務二等兵が突然、持ち場を離れてその後を追って状況を聞いていましたので…なので、ヘレナ嬢には指示があるまで部屋から一歩も出ないよう伝えました。」


 「仕事が早いな。」


 「事前に把握することも兵士として必要なことです。」


 「良い答えだ。ここにあるASで動けるものはあるか⁉」


 「殆どの機体は音波の影響でシステムがフリーズしていて、ろくに動けない状態になっています。ただ、ルシファロイドだけは僅かな影響は受けてはいるものの、システム自体に特に問題はありません。」


 「ならば、ブラッディ特務二等兵。お前はルシファロイドで持ち場を離れた兵士たちの後を追い、連れ戻せ! 我々は通信システムの復旧が終わり次第、直ぐに向かう!」


 「了解しました。」


 「そして、ハイライト二等兵。お前は引き続きヘレナ嬢を護衛しろ! こちらの指示があるまで一歩も出してはならん!」


 「わかっております。」


 


 


 

 森の中を突き進む中、ラルドはノアを探し続けたが、ノアの姿は見当たらなかった。


 「何処だ! 一体、何処にいるんだ⁉」


 (「ラルド…」)


 その時、突然、男の声がし、目の前に現れたのは死んだなずのキールだった。


 「キール…さん?」


 しかし、キールは何も言わず、背を向けて森の中に入っていった。


 「キールさん!」


 同時に草影から1m程の物体が飛び掛かり、襲い掛かってきた。ラルドは持ち前の反射神経で回避したが、謎の物体は避けられた後、再び草影に隠れた。


 「何だ、今の…」


 謎の物体が気に掛かっていたが、突然現れたキールとノアのことを優先して尚も道なき道を進んでいった。しかし、進むごとに森は霧が濃くなってさっきより不気味さを増していった。丸で森の奥に何か凶悪な存在が潜んでいるかのような感じであった。


 「この森、何かおかしい…丸で何かの幻影を見せられているかのようだ…この森に何かいるのか? いや…」


 ラルドは以前、ノアを守るときに正体不明の半魚人が現れたのと漆黒に染まった海がある謎の空間に入った時のことを思い出した。


 「似ている…あの時と…でも、今回はそれとは少し違う…」


 その時、目の前にいつもの何かに怯えたような表情のノアが立っていた。


 「ノア!」


 それを見たラルドは走ったが、足元にある何かに突っ掛かって転倒してしまう。見るとその足元にはミイラ化された遺体が転がっており、ノアのいたところを向くとそこにノアの姿はなく、突然、目の前に手がぶら下がり、上の木々や森のあちこちにミイラ化された人間佇んでいた。


 「何だ、これは…」


 「ウッ…ウッ…ウゥッ…」


 その時、誰かの呻き声がし、それに気付いて近付いてみると、そこにはさっき、ラルドを襲った物体と似たような1m程のダニのような生物が兵士の背中に取り付いて巨大な牙が身体に食い込み、その兵士は血が抜かれているように徐々に皮膚が薄くなっていき、体格が骨になるように細くなり、ゆっくりミイラになっていった。

 それを見たラルドは怯えてゆっくり下がっていったが、ミイラ化された遺体に身体が当たり、その音をダニのような寄生生物が気付いてしまった。

 ラルドに気付いた生物は獲物を変えていくように近付いていき、同時にミイラ化された遺体や木々から同一の個体がウジャウジャ現れ、一気にラルドを包囲してしまった。


「ウッ…ウワァッ~‼」


 To be continued

 次回予告


ラルドを襲った巨大なダニのような寄生生物はパリ軍事基地やベルリン総督府にも襲撃し、軍がそれを迎え撃つ中、クトラは音波の主を特定したが、その主が寄生生物ではなく、その寄生生物に指令を出しているものだと気付いた。

 


 次回「飢えた吸血鬼」その機体は少年を戦いの運命へ導く。

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