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Episode4「教会の少女」

 西暦2325年、地球は度重なる戦争と環境変化に伴い、地球が人類にとって住みにくい星になるのは最早時間の問題となった。だが、人類はコロニー建造や月面基地の開発等、宇宙進出を果たす程の技術を手に入れ、やがて他惑星での移住計画も推し進めた。

 だが、その最中、突如として謎の巨大不明生物が現れ、人類に牙を向け、襲い掛かってきた。人類はその正体不明の巨大生物にありとあらゆる兵器で迎え撃ったが、巨大不明生物はあらゆる兵器も通用せず、人類を食い尽くし、人類はその巨大不明生物によって大半を滅ぼされた。

 やがてその巨大不明生物はデーモンビーストと呼称され、デーモンビーストによって人類の8割が死滅させられたその惨劇は「悪魔の審判」と呼ばれるようになった。それから数世紀に渡って地球はデーモンビースに支配され、僅かに生き残った人類は尚もデーモンビーストの支配に抗ったが、度重なる資源不足に陥り、それを補うために人類同士による争いが頻発に行われ、世界は混沌となっていた。

 悪魔の審判から800年後、西暦3125年、人類は対デーモンビースト用として人間が搭乗出来る巨大人型機動兵器を開発し、デーモンビーストを駆逐し、新たな国家を建設、徐々にその支配圏を取り戻しつつあり、人々は悪魔の審判以前の世界に戻れると確信していた。だが、人類は知らなかった、これから行われることはその悪魔の審判以上の脅威が襲い掛かってくることを…

 地球圏連合国首都メトロポリスの辺境にある教会、そこで夜11時頃にロウソクを持った1人のシスターが教会の中を見回りしていて、そこに蛇口が開けっ放しで水が出ているのを見付け、直ぐに蛇口をひねった。


 ピチャン…


 その時、蛇口を閉めたはずなのに何処か水の音がし、まだ他にも閉めてない蛇口があるか確認するが、どこもちゃんと閉めていた。シスターがホッとすると、


 ピチャン…


 尚も水の音がし、しかも今度はシスターの後ろから聞こえ、それに少し不気味さを感じたシスターは後ろを振り向くが、誰もおらず、水の跡もなかった。水漏れがないか、上も見るが、どこも異常はなかった。その時、


 ピチョン、ピチョン…


 突然、海から上がった、もしくは雨に濡れた人間が歩くような足音がし、その足音は段々とシスターの方へ近付いていった。

 シスターは周囲を見渡すが、何処にも人影らしきものはなく、ただ、その足音が徐々に近付いていくだけだった。恐怖の余り、シスターは教会から飛び出し、井戸のところにまで走っていった。井戸のところに付き、後ろを振り向くと誰もおらず、先程の足音もしなくなった。今度こそはと思い、一安心するシスター。その時、


 ゴゴゴゴゴ…


 突然、井戸から、何かが出てくるような音がし、シスターはそれに驚いた。それと同時にシスターの後ろから墨のような黒い水溜まりが現れ、そこから人型をした黒い何かが這い出て、目を赤く発光し、両腕を伸ばし、シスターがそれに気付いて後ろを振り向くと既に遅く、シスターはその黒い何かによって捕まれ、そのまま井戸の中へ放り込まれてしまった。


 「キャアァ~!!」


 その後、井戸からピチャンと水の音がし、鳴り止むと教会は静まり返った。そして、その教会の入口の前に1人の少年が立ち、井戸から出ている黒い霧のようなものがその少年の足元に集まり、少年はその場から立ち去った。


 


 


 

 アモンボア暴走事件から1ヶ月後、マルコは再びロックフェルド財団本部にいるヘレナとラルドを訪ねた。


「ブラッディさんから聞いたよ! まさか、特務隊に入隊するなんてね。」


 「まあ、ちょっと色々と問題はあったけどね…」


 「ちょっと、ヘレナ…」


 「だってそうでしょ。そのおかげで1ヶ月の謹慎処分になったわけだし…」


 「ま、まあ、そうだけど…」


 「まあ、とにかくこれで、ラルドは軍人になれたわけだし、そのおかげで俺も新型ASの開発にも協力出来る!」


 「新型ASって?」


 「うん、ブラッディさんはあのセラヴィムを解析して新たなASの開発を進めていて、どうやら、アモンボア暴走事件の一件でいいデータが取れて今の連合国軍のASよりも更に強力な機体に出来るようになったんだって!」


 「ラルド、あなた、いいカモにされちゃったわね…」


 それを聞いたラルドは少しヘタれ、


 「最初から僕はエサだったってことか…」


 「まあまあ、そう落ち込むことはないよ。そのおかげでASの開発が更に進んでより強力なデーモンビーストとも戦えるようになるんだし! それにもう、新型のASは大方完成していて、後は調整のみになったしね。」


 「ところで、その新型ASって軍に送るんでしょ?」


 「そうだよ。」


 「だとすると、一体誰が乗ることになるの?」


 「まあ、特務大佐の判断によるから、まだ、それはわかんないけどね。」


 「名前は決まっているの?」


 「フフフ…それは見てのお楽しみだよ。ところで、ラルドは謹慎処分はもう解いているんだよね?」


 「まあ、そうだけど…」


 「この街、初めてなんだから、回っていかないの?」


 「ああ、そうしたいのは山々なんだけど…」


 「どうしたの?」


 「ラルド、外の世界に行くのはちょっと抵抗があるみたいなの。それに聞くところによると元孤児だから、まともに人と接したこともないようだし…」


 「そういうことか…でも、いつまでも慣れないわけにはいかないだろ? そうだ! 何なら俺が案内役として一緒に行って上げるよ。」


  「え、でも…そんなことして大丈夫なのかな? 前のデーモンビーストの暴走事件で僕の名前と顔は更に広まっているから、あんまり外に出るようなことは…」


 弱気なラルドの手をヘレナは優しく握り、


 「大丈夫、心配しなくてもあなたは大丈夫よ。」


 「でも、もし、マスコミとかに捕まって変に目立ったら君にも迷惑かかりそうだし…」


 「大丈夫よ! 私は連合国最高評議会議長になろうとしている女よ。新聞だろうとTVだろうと注目されているのは慣れてるから!」


 「そうだったね、余計な心配は要らなかったね。」


 「ま、まだ、なれるとは決まってないけどね。」


 ヘレナが嬉しそうにラルドと話す様子を見たマルコは少し羨ましそうな表情をし、ラルドはそれに気付き、少し気になっていた。


 「よし、そうと決まったら早速行こうぜ!」


 「あ…うん。」


 ラルドは案内するマルコと共にメトロポリス内を散策していき、それまではデーモンビーストとの戦闘でしか見られず、ゆっくり見れる都市中を見渡し、かつてキールの元で暮らしていた荒廃した街とは全く違う景色に圧倒されていた。その様子を見たマルコは、


 「こういう風景はやっぱり初めてかい?」


 「うん、僕が育ったところはこんな綺麗なところじゃないから…」


 「無理はないよ。悪魔の審判以前の状態に復興している街なんて世界中何処を探しても限られているからね…」


 「ねぇ、君って確か、ヘレナの幼なじみだよね…彼女とはどこまでの付き合いなの?」


 「そうだね…確かに幼なじみだけど、そこまでの付き合いではないよ。俺は元々この都市の地下にある都市の出身で、外とは隔離された世界で暮らしていた。

 もちろん、デーモンビーストによる脅威を受けないために暮らしていたということもあるけど、それでも俺はあの生活に耐えられなかった。そして親の反対を押しきって思いっきり外の世界に出て自由になったけど、外の世界はそんなに甘くなかった。

 何とか入れた学校じゃ、外の世界の人間は俺のように地下にいる人間のことをドブネズミのように扱っていた。」


 「(地下の人間…グリスと同じ出身なのか。)」


 「それに俺は機械いじりは得意だったけど、それ以外はさっぱりだったから、からかわれることもあった。でも、そんな俺に手を指し伸ばしてくれたのはヘレナだった。彼女は相手が誰であろうと優しく明るく接してくれた。

 俺にあんなことまでしてくれた人は彼女が初めてだった。でも、彼女は議長からの推薦によって財団への英才教育を受けるために学校を退学してしまった。

 そしてまた俺は1人になり、他の奴等から虐めを受けて、中には一生懸命作った大事なものまで壊されるという悪質な虐めまであったこともあった。何もかも嫌になった時に、学校を訪問したブラッディさんが俺の機械いじりの才能を見込んで拾ってくれて、ブラッディさんの指導でAS開発の技術や仕組み等、あらゆる面での教育を受けて今に至った。思えば、今の俺がいるのはヘレナとブラッディさんがいたからだ。」


 「じゃあ、マルコはヘレナのこと…うっ!」


 「何?」


 「いや、何でも…(もしかして、ヘレナのこと好きなんじゃないかと思ったけど、そこは言わない方がいいか…)」

 

 その時、人だかりとなっている教会を見付けると2人はその教会の方に向かった。そこには、警察が何かしらの捜査に当たり、警察に事情聴衆されている年配のシスターとラルドとほぼ同年代の修道女がいた。それを見ている一部の人々が話していた。


 「また、ここだってよ。」


 「次々から次々へとよく起きるわね。」


 「今度は誰なんだろうな?」


 「また…? ねぇ、一体、何のこと?」


  近くの人たちが話していたのを聞いて、それが気になったラルドはマルコに問いた。


 「この教会は地球圏連合国が建国される80年以上前のメトロポリスにあるもので、特に由緒正しい教会なんだけど、最近になってこの教会のシスターが次々に行方不明になる事件が多発したんだ。」


 「行方不明? そのシスターさんたちは何処へ?」


 「わからない。警察も何度も捜査しているけど、証拠すら全く掴めず、それに教会には血の跡が一切ないため、誰かに殺害されたわけでもなく、あるのは教会のところどころに幾つかの水溜まりがあるということだけ…」


 「それで、ここには誰が残っているの?」


 「今回で13人…ということは一番先輩のシスターと修道女の2人だけってとこだな。」


 「あと、2人…ん?」


 その時、ラルドは警察が事情聴衆している年配のシスターの隣にいる紫色のかかった黒髪のセミショートカットでラルドとほぼ同年代、大人しめな雰囲気をした修道女を少し離れた場所からじっと見詰めていた少年を見付けた。

 その少年は12歳ぐらいの年齢で、容姿はクトラによく似ており、見ようによってはクトラを少し幼くしたような容姿でもあった。


 「ねぇ、あの子はこの付近の子かな?」


 「どの子だい?」


 「ほら、あの子…」


 ラルドが指差した方向をマルコは見たが、


 「誰もいないけど…」


 「え、だってそこに…」


 ラルドがもう一度見ると、少年の姿はなかった。


 「あれ…?(おかしいな、さっき、彼処にいたのに…)」


 「取り敢えず、先を歩こうよ。ここはあんまりいい気分になれるところじゃないから。」


 「う、うん…」


 


 


 

 調査から十数時間経ち、夜の10時頃の教会、そこで一番先輩である年配のシスターが後始末を行い、お祈りをしていた。


 「ふぅ、大体これくらいかしらね。」


 「マリダさん…」


 その時、シスターの前に黒髪セミショートカットの少女が立ち寄った。


 「ノア、駄目じゃない! あなたは休んでなきゃ。」


 「でも、もしマリダさんもいなくなってしまったら、私…」


 「大丈夫よ! 確かに変な事件が起きているけど、私のことなら大丈夫! この教会を乱す奴がいるなら、私がやっつけて上げるから。」


 ピチャン…


 その時、何処からか水が落ちる音がした。


 「今のは…」


 「大丈夫、私が見てくる。あなたはここで大人しく待ってて。」


 マリダが部屋を出て音のする方へ向かっていった。音がした方に行くと蛇口がどれもちゃんと閉まっていて異常はなかった。


 「気のせいかしら…」


 ピチャン…


 しかし、再び水の音がし、


  ピチョン、ピチョン…


 更に水に濡れた人が歩くような足音まで聞こえた。


 それを聞いたマリダは箒を持ち、


 「どうやら、この教会に侵入する不届きものがいるみたいね。さあ、出てきなさい。そんな罰当たりな奴は私が退治してあげる。」


 しかし、足音は前から聞こえているにも関わらず、足音の主の黒い影は後ろから迫り、ゆっくりと近付いていった。


 「アアァ~!!」


 その時、マリダの悲鳴が聞こえ、それを聞いたノアは急いでその場所に向かうが、そこにマリダの姿はなく、水溜まりだけが残っていた。


 「マリダさん、マリダさん。何処なの!?」


 しかし、いくら叫んでもマリダの姿はなかった。


 ピチャン…


 その時、ノアの背後から水の音がし、それに怯えたノアはゆっくり後ろを向くと、突き当たりに黒い影が目を赤く発光してじっと見詰めていた。


 「ア、アァ…キャアァ~!!」


 ノアの悲鳴が響く教会の入口には昨日と同じ少年が教会をじっと見詰めていた。


 


 


 


 

 夜が明け、再びラルドとマルコが街を散策し、教会の付近にまで来ると、また昨日と同じ状態になっていた。


 「まただぜ。」


 「これで最後の1人になっちまったな。となると、明日でこの教会は終わりかな。」


 その様子を見たマルコは、


 「また起こったのか…一体どうなってるんだ、この教会は…」


 ラルドが気付くと、人だかりに紛れて昨日と同じ少年が立っていて、その少年の視線を辿って見ると、その先には泣き続けているノアがいた。


 「あの子、昨日もいた。やっぱりこの事件と関係があるのかな…」


 「と、とにかく先行こう。」


 「いや、待って。この教会、ちょっと調べてみたい。」


 「何言ってんだよ! 警察が何十年も調査してるのに未だに解明されていない事件なんだよ! 俺たちがやっても何の解決にもならないよ。」


 「でも、あの子を見るとやっぱりほっとけない。それにここで何が起こってるのか突き止めたい!」


 「全く、お前はホント余計なことに首突っ込むな。で、どうするの?」


 「僕はあの子に近付いて教会の中を調べる。」


 「俺はどうするんだ?」


 「夜になったら、教会の周囲を調べてくれ。もし、何かあったら通信機で知らせて。」


 「え…ちょっと待てよ! まさか、明日の朝まであの教会にいるの?」


 「僕の予想なら、事件が起こるなら、おそらく夜。その時に全てがわかるはずだ。」


 「で、でも、ヘレナにはどう説明するんだ? 多分怒れると思うが…」


 「何か適当な言い訳で誤魔化してくれないかな。」


 「適当な言い訳って…」


 「頼む、お願いだからそうしてくれないかな。」


 「わ、わかったよ。」


 ロックフェルド財団本部の宮殿で、洋服の手入れ等をしたヘレナの携帯にマルコからのメールが届いた。


 「ん? マルコから、どうしたのかしら?」


 ヘレナが確認すると、メールの内容は、


 「ごめん、ヘレナ。俺の同僚の技術者に捕まって飲みに行こうと誘われてラルドもノリノリで付いていっちゃったので夜はかなり遅くなります。」


 メールを読んだヘレナは、


 「何よ! そんなこと家に帰ればいつでも出来るのに、しょうがない子ね。それにノリノリって、ラルドって意外とこういうものは好きなのかな? ん? あれ、でもラルドもマルコも未成年だから、酒飲めないんじゃないの?」


 


 


 警察が去った後の教会で1人になったノアは井戸に座って悲しそうな表情で何もせず、ただじっとしていた。そんな時、教会に入ったラルドは少し照れながら彼女に近付き、


 「あの…」


 「ちょっといいかな…?」


 そのことを聞いて、ノアはさっきの悲しそうな表情から一変してキョトンとした。


 「だ、大丈夫。怪しいものじゃないよ。」


 「あなた、もしかしてここの人じゃないの?」


 「もしかしてわかるの? そう、僕はここの出身じゃなくて訳あってここで暮らすようになったんだ。僕はラルド、ラルド・オルスター。君は?」


 「私はノア。」


  「素敵な名前だね。この教会には前からいたの?」


 「前からって言っても、マリダさんや他のシスターよりずっと後だけどね。」


 応えたノアは何処か悲しげな様子で話していた。


 「もしかして君も僕と同じ違うところからここに来たの?」


 「みたいだけど、よく覚えていないの…」


 「小さい頃、雨の中、私はずっと1人でいたの…お父さんもお母さんも何処に行ったのかわからないし、どうして彼処にいたのかもわからなかった。

 そんな時、マリダさんが来て私を拾ってくれたの。マリダさんはとても優しくて私のような身寄りのないものを大切に育ててくれて嬉しかった。もちろん他のシスターも皆優しくしてくれた。私にとってマリダさんたちは家族で、ここは家なの。」


 その時、ラルドはノアの右腕にタトゥーのようなものが付いているのを見付け、そこにはボヤけていたが、英語表記でノアと書かれ、その上にはそれより小さい数字が書かれていた。


 「その腕は…」


 「うん、小さい時からあったものなの。いつから書かれていたかわからないけど、マリダさんによると、亡くなったお父さんとお母さんが忘れないように書いたんじゃないかって思って私にノアって名付けたの。」


 それを聞いてラルドは少し気になっていた。


 「(だとしたら、この数字は何の意味があるんだ?)」


 「ところで、どうして私のところに来たの?」


 「どうしてって…君が困っているからだよ。ここは妙な事件が起きて次々と人が消えて今は君1人だけになっている。

 だとしたら、次に狙われるのは間違いなく君だ。いくら警察がお手上げだからといってこのまま放っておくわけにはいかないよ!」


 「無理よ。シスターも何度も調べてみたけど、何もわからなかった。そして昨日、マリダさんまでも消えてしまった。次が私だって言うなら、それでいいわ。」


 「そんな…ねぇ、君はこの事件のことはどこまで知ってるの?」


 「わからない…ただ、わかるのは私が来てからこうなったということだけ、私が来るまでは何もなかったんだけど、私が来てからこの事件が起きてシスターが1人1人消えていった。

 シスターが私のことを疫病神かと言ってた時もあって、マリダさんはこの事件が起きたのは私のせいじゃないと言って励ましてくれたけど、私以外が狙われてもう誰もいなくなった。皆狙われているのに、私だけは狙われなかった。やっぱりこの事件は私がいるから、こうなったの。

 もし、次に狙われるのが私なら、この事件の責任として喜んで犠牲になるわ。」


 「そんなことあるわけないよ! そもそも君のせいという根拠も証拠もないのに、何でそんなこと考えるの!? もし、そうなら、僕が突き止めるよ! この事件の真相を。」


 「そんなこと…」


 


 


 

 そして、ラルドがそのまま教会に残って、夜11時、遂にその時は決まった。ラルドはノアと共に教会の中に入り、ラルドはノアを守るように周囲を警戒してノアから決して離れず、誰かが来た時にいつでも対処出来るように武器として夜になる前に教会の周囲を調べた際に見付けた鉄棒を身体に隠し、攻撃の姿勢を取った。そんな中、ノアは絶望した表情で、


 「無理よ、そんなことしても逃げられない。私を守ろうとしても犠牲になるだけ…これはもう運命みたいなもの。」


 「そんなことわからない!」


 「どうして、そこまで…」


 「僕も君と同じだから。」


 「え…」


 「僕もキールさんっていう優しい人に拾われ、そして、キールさんと仲間たちを失った。あの時は僕に力が無かったから、キールさんたちを死なせた。

 でも、今の僕はあの時とは違う。守れる力がある。だから、僕と同じ思いをする人がいるなら、そんな人を増やしたくない。」


 「ラルド…」


 


 

 教会の入口付近にラルドからの通信を待ってマルコが待機していた。


 「うう、寒い…しかし、こんなことして大丈夫かな。あいつ…念のため、ブラッディさんに報告した方が良かったかな。ん?」


 その時、1人の黒髪の少年が教会に歩きよった。


 「何だ、あの子? こんな時間に1人で来るなんて…」


 黒髪の少年は教会をじっと見詰めた後、突然、10代前半とは思えない跳躍力で壁を登っていき、教会の中に入っていき、マルコは驚きを隠せなかった。


 「何だ! あいつ。一体どんな生活してたらあんな身体能力出せるんだよ…」


 少年が教会の中に入ると、突然、教会全体の空間が歪むような現象が起きた。


 「? 何だ、この現象…こんなの見たことないよ。」


 教会の外の異常に気付いていないラルドはノアの周囲を警戒していた。


 ピチャン…


 その時、何処からかピチャンと水の落ちる音がし、その音を聞いたノアは震えだし、怯えるような目をした。


 「また、あの時と同じ…また、誰かが連れていかれちゃう…」


 「え…それってどういうこと?」


  ピチョン、ピチョン…


 その時、海から上がった、もしくは雨に濡れた人間が歩くような足音がし、その音に気付いたラルドはノアを見ると、ノアは何者かが来るかのように怯えていた。


 「聞こえる…誰かが近付いてくる足音が…」


 足音は次第に近付いていき、ラルドは隠していた鉄棒を取り出し、敵が何処から現れても攻撃出来るように、ノアの周囲を警戒していった。

 そして、その足音が徐々に近付いていき、ラルドの背後にまで迫ると、ラルドは直ぐ様、背後に回って鉄棒を振り回すが、振り向くと姿はなく、水溜まりしかなかった。足音がした黒い影はいつの間にか、振り向いたラルドの背後におり、怯えているノアに手を伸ばそうとした。

 しかし、その時、ラルドはそれを読んでいたかのように、再び背後を向き、鉄棒で思いっきりその影をぶん殴った。黒い影は身体から水を撒き散らしながら倒れていった。


 「大丈夫?」


 「う、うん…」


 ノアの安否を確認した後、ラルドは鉄棒を構えながら倒れた黒い影が何者か確認するため、懐中電灯でその姿を照らした。照らすとその姿は人型ではあったが、人間ではなく白い目をした半魚人のような姿をしたもので、頭に付いている魚の尾は長い尻尾のように伸び、垂れ下がっていた。


 「何だ、こいつは…」


 謎の半魚人は瞳をギョロッと動かすと、突然、何事もなかったかのように起き上がり、両手を抱えながら近付いていった。ラルドは尚も鉄棒で殴るが、半魚人は水を撒き散らしながら少し怯んだ程度で、倒れずそのまま近付いていった。

 ラルドは諦めず殴り続けるが、全く効果はなく近付き、ラルドは殴りながら後退するしかなかった。ラルドの後ろに隠れて後退したノアは何かに気付き、後ろを振り向くと背後には更に何体かの前にいるのと同じ半魚人が同じポーズをし、呻き声を上げながら近付いていった。


 「キャアァ~!!」


 ノアの悲鳴でラルドも後ろの半魚人に気が付き、左右を警戒しながらノアを護衛するが、徐々に逃げ場を失うだけだった。万事休すかと思われたが、ラルドは目の前に逃げられる範囲にある窓に気が付き、鉄棒でその窓を思いっきり割った。


 「さあ、あそこから逃げよう!」


 ラルドはノアの手を握り、割った窓を飛び降り、脱出した。ラルドはノアを連れて教会から出ようと走るが、その時、ラルドとノアの周囲に黒い水溜まりが近付くように現れ、そこからさっきと同じ半魚人が数十体以上現れ、ラルドは再び鉄棒を構えた。


 


 


 


 

 教会から聞こえたノアの悲鳴に気付いて教会の入口付近で見張りをしていたマルコは通信を開こうとしたが、一切、応答がなく、更に教会全体の空間の歪みがさっきより強くなっていた。不味いと思ったマルコはブラッディ特務少佐と通信を開き、


 「聞こえますか? ブラッディさん!」


 「何だ? こっちは取り込み中なんだが…」


 「それが、メトロポリスに由緒ある教会に空間が歪むような現象が起きて、何だか只事じゃないような気がして調査隊を呼ぶことは出来ますか?」


 「調査隊を? 弱ったな。それにはマッカーシー特務大佐の許可も必要で、私の独断では出せないんだが…」


 「何とか誤魔化すことは出来ないんですか?」


 「厳しいな、それなりの理由が無いし…」


 「とにかく応援をお願いします!」


 「わかった、出来るだけのことはしよう。少し待ってくれ。(あの教会に空間が歪んだ現象だと…)」


 ブラッディ特務少佐に携帯で事情を話し、暫くしたら、マルコの元にクトラが現れた。


 「え? クトラだけなの?」


 「父上が調査隊を出すのに少し手間取っているようで、その間に俺が代わりに出た。。状況は?」


 「それが、いくら通信開いてもラルドから応答が出ないんだ。それにさっきより教会全体の空間のネジ曲がりが強くなって中々近付けないし…」


 それを聞いたクトラは空間のネジ曲がった教会を見詰めると、


 「問題ない、直ぐに乗り込む。」


 「え、そんな…通信だって効かないし、あの空間のネジ曲がりが何なのかわからないんだよ。もし下手に入ったら…」


 「問題ない。中に入って直ぐに障害を排除する。それと父上に何処か適当な機体を出すよう伝えろ。」


 「え? 機体を…」


 「中にいるのはデーモンビーストクラスのものだ。反撃に備えて直ぐに出撃させろ。」


 「そんな! 軍の出撃許可も無しにいきなりASを出撃させるなんて無茶だよ! 下手したらそれこそ軍法会議ものだよ。それに今、出せる機体なんて…」


 「なら、父上が今造っている新型を出せ。」


 「はっ? そんな無茶な…そんなことブラッディさんが許すわけ…」


 「非常事態だから必要だといって直ぐに伝えろ。言い訳は父上がしてくれる。やれ。」


 「わ、わかったよ。」


 マルコは渋々携帯を取り出し、ブラッディ特務少佐に連絡した。その連絡にブラッディ特務少佐が応じ、


 「おう、マルコか。どうした? 調査隊はまだ出せんが…」


 「ブラッディさん、お願いです。今すぐ例の新型を出撃させてください!」


 「何!? いきなり何を言っているんだ? 第一、あれはまだ調整中で…」


 「クトラがそうするよう言ってきて、それに中がどうなってるかわからない状態で調査隊を待っては手遅れです。お願いします!」


 それを聞いてブラッディ特務少佐は暫く考え、


 「わかった、直ぐに出そう。」


 「本当ですか!?」


 「ああ、そういった事情なら引き受けよう。」


 「でも大丈夫なんですか? いくらブラッディさんの許可があってもASを出撃させるなんて、しかもデーモンビーストも出てないのに街中に…」


 「心配ない。言い訳は全てこちらがする。君は何の心配もせず、クトラの指示に従ってくれ。」


 「わかりました。」


 通信を切ると、ブラッディ特務少佐は携帯をゆっくり下ろし、溜め息をついて、開発中の新型を見詰めた。


 「少々、面倒なタイミングで来たな。だが、こいつの性能を試すいい機会だ。」


 


 


 


 教会では、依然として襲い掛かってくる謎の半魚人は健在で、ラルドは鉄棒で半魚人を殴り、果敢に立ち向かうが、半魚人は何度倒れてもゾンビのように立ち上がり、次々と襲い掛かってきた。


 「くそっ、これじゃキリがない!」


 「キャアァ~!!」


 その時、ノアの悲鳴が聞こえ、気が付くと既にノアは既に半魚人に捕らえていた。 


 「しまった!」


  「ラルド…助けて…」


 ノアの必死の抵抗も虚しく、ノアを捕らえた半魚人はそのまま井戸の方へ向かった。


 「くそっ、その子はいかせない!」


 


 ラルドはそうはさせじと助けに向かうが、既に半魚人の群れに行く手を阻まれ、その間にノアを捕らえた半魚人はノアと共に井戸の中へ入ってしまった。


 


 「ノア~!! くそっ、」


 ラルドは目の前の半魚人の群れに対処出来ず、やむを得ず、半魚人の群れから離れた場所に逃げ込んだ。


 「くそっ、あの子を守るって言ったのに…どうすればいいんだ…」


 ラルドが諦めかけたその時、ラルドの前に昨日の昼に会ったクトラと似た黒髪と雰囲気をした少年が立っていた。


 「君はあの時の…」


 その少年はラルドに付いてこいと言わんばかりに手を振り、走っていった。半信半疑ながら、ラルドはその少年の後を追い、突き当たりのところに着き、そこには空間が歪んだようなものが出ていた。


 「これは…」


 それを見詰めた少年はゆっくりとその歪んだ空間を指差した。それを見て、ラルドは何か察し、


 「もしかして、彼処にノアがいるのか?」


 その問いに少年はゆっくりと頷いた。


 「わかった、ありがとう。」


  ラルドは疑いなくその歪んだ空間に向かい、吸収されるようにその歪んだ空間の中に入っていった。ラルドが歪んだ空間の中に入った後、後を追った半魚人の群れが現れ、その少年にも襲い掛かかろうとしたその時、半魚人がその少年を見ると、動きを止め、丸でその少年を怯えるかのようにゆっくりと後退していった。その時


 ダン、ダン、ダン、


 突然、銃声がし、次々と半魚人が倒れていった。その後ろに現れたのは拳銃を撃ち込んだクトラだった。全ての半魚人を撃ち倒し、拳銃を降ろし、その少年と後ろの歪んだ空間を見て、状況を察した。


 「そこにいるのだな? 誘導したのはお前か?」


 その問いに少年は応えず黙っていた。


 


 

 歪んだ空間の中に入っていったラルドは不思議なところに迷い込んだ。そこは教会ではなく、海岸沿いのような場所だったが、そこは深夜とは違った暗さとなっていて丸で最初から太陽がなかったようなものだった。周囲には幾つかの家のようなものはあったが、人の気配は一切無かった。また、その家には見たことのない文字も刻まれていた。それに惹かれるように興味を示したラルドだったが、ノアを助けるべく、道を進んでいった。

 海に出ると、更に驚くべき光景が待っていた。海が墨のように黒く塗りつぶされたような漆黒のものになっていたのだった。それを見たラルドは信じられないような表情をした。


 「キャアァ~!! 離して!」


 その時、ノアの悲鳴がし、振り向くと半魚人たちがノアを漆黒の海に連れていこうとし、ノアはそれに抵抗していた。


 「ノアを離せ~!!」


 ラルドは果敢に半魚人に突撃し、ノアを半魚人たちから引き離した。


 「早く逃げろ!」


 「ラルドは?」


 「大丈夫、僕も直ぐに行く。」


 「うん!」


 そう言うと、ノアはその場を離れ、ラルドは半魚人の群れに立ち向かうと、上空から突然、イナゴの大群のようなものが上空を覆うように現れ、それに気付いた半魚人たちはその場を離れ、次々と漆黒の海に入り、逃げていった。

 イナゴの大群のようなものは徐々に近付き、こちらに迫っていったが、しかし、近付くにつれ、その姿が露になるとそれはイナゴではなく、3~4mをした緑色の蟻と翼竜を合わせたような不気味な姿をした生物だった。

 その内の一体は逃げるノアの前に現れ、立ち塞がった。それを見たラルドは直ぐ様、ノアの元に向かったが、蟻と翼竜を合わせた不気味な飛行生物はさっきの半魚人は無理やりノアを連れ回すようなことはせず、警戒心を解くようにゆっくりとノアに寄り添い、怯えていたノアも徐々に恐怖心が消えていった。

 そして、その飛行生物は何かを話すように口を動かし、ノアはそれを音読するように話した。


 「イア! イア! ハスター! ハスター クフアヤク ブルグトム ブグトラグルン ブググトム アイ! アイ! ハスター!」

 

 意味不明な呪文を唱えたノアの元に次々と不気味な飛行生物がその周囲を囲むように集まっていた。そして、ノアが警戒心を無くすと、飛行生物は口を大きく開き、そこから巨大な舌が現れ、その舌がもう一つの口になってノアを飲み込もうとした。それを見たラルドはそれを阻止するため、飲み込もうとした飛行生物を突き放し、ノアをその場から解放した。

 飛行生物は邪魔された腹いせに再び口からもう一つの口のような舌を出してラルドに襲い掛かったその時、銃撃がし、その銃弾1つ1つが飛行生物に直撃し、次々と倒されていった。現れたのはセラヴィムによく似たASだったが、腕に突起のようなものが付き、天使の名を冠するセラヴィムと違い、堕天使のような雰囲気を纏ったもので、それに搭乗していたのはクトラだった。


 「何だ、あの機体…そうだ! ノアは?」


 ラルドがノアの元に向かうと、ノアはその場からじっと離れなかった。そして、ノアは再びさっきの呪文を唱えた。


 「イア! イア! ハスター! ハスター クフアヤク ブルグトム ブグトラグルン ブググトム アイ! アイ! ハスター!」 


 「どうしたんだよ!? ノア! しっかりしてよ!」


 呪文を唱えたノアの目は正気を失っており、呪文を唱えた後、飛行生物がノアの身体を掴み、飛び去っていくと上空から更に飛行生物の群れが現れ、ノアを掴んだ飛行生物の元に集まっていった。

 集まった飛行生物の大群は何か巨大なものへと姿を変えていき、やがて飛行生物の大群は巨大な根のような触手を何本か持ち、前には先端が鎌になっている2本の触手と後ろには先端が巨大なつぼみのようなものになっている触手も生え、胴体には黄色い衣のようなものを羽織ったような60mクラスの巨大な植物の姿へ変わっていった。

 クトラの乗る新型は腕に装備されているミニガンで、その巨大な植物怪獣を攻撃したが、その植物怪獣は全く通用せず、鎌で攻撃し、クトラの乗機は腕の突起でそれを受け止め、植物怪獣はもう一本の鎌も攻撃するが、クトラの乗機はもう片方の腕の突起でそれも受け止めた。

 しかし、植物怪獣は胸部から真珠のようなものを目玉みたいに開き、そこから光線のようなものを吐き、攻撃を仕掛けたが、クトラはそれも予測していたかのようにそれを回避した。

 その様子をラルドはただ、見ているだけだったが、その時、漆黒の海から更に複数の半魚人の群れが現れ、ラルドに襲い掛かってきた。ラルドが攻撃の構えをすると、銃声がし、拳銃を持ったマルコが現れた。


 「遅れて済まない!」


 「いや、とにかく来てくれて嬉しいよ。」


 「あれは何なんだ?」


 「わからない。いきなり僕とノアに襲い掛かってきたんだ。でも気を付けていくら銃を撃ってもあいつらには効かないみたいだよ。」


 ラルドの言葉通り、撃ち込まれた半魚人はゾンビのように立ち上がり、再び襲い掛かってきた。


 「とにかく、ここは俺たちだけで時間を稼ごう。後はクトラがやってくれるはず…」


 「クトラ? あれに乗ってるのクトラなの!? あの機体は一体…」


 「あれだよ! ブラッディさんが言ってた機体。あれこそ、君のセラヴィムのデータを元に開発された新型AS、ルシファロイドだよ!」


 「ルシファ…ロイド。」


 クトラの乗るルシファロイドは巨大な植物怪獣に引けを取らない程のパワーを見せ付けるが、それでもまだ、プロトタイプということもあり、徐々に巨大な植物怪獣が押していくようになった。

 そして、巨大な植物怪獣は後ろの触手の先端をルシファロイドに向け、先端のつぼみが開くとそこから高圧のガスを発射し、それを見たクトラは咄嗟の判断でそれも回避するが、そのガスに直撃した建物が溶解していくように崩れていった。

 植物怪獣が鎌の付いた2本の触手で攻撃し、ルシファロイドはそれを両手の突起でまとめて受け止め、植物怪獣は後ろの触手のつぼみを開き、攻撃を仕掛けたが、ルシファロイドは自ら植物怪獣に押し負けるように後退し、一気に上がるとその衝撃を利用して跳躍し、そのまま植物怪獣の後ろに回って先端がつぼみの触手を掴んだ。

 植物怪獣は他の触手でルシファロイドを捕らえようとするが、ルシファロイドは掴んだ触手を思いっきり鷲掴みにして無理やり先端のつぼみからガスを発射させ、襲い掛かってきた触手を溶解させた。

 しかし、その溶解した触手の箇所から無数の飛行生物が分裂して現れ、ルシファロイドに取り付き、ルシファロイドは身動きを封じられ、地面に拘束された。それを見た植物怪獣は残った触手でルシファロイドの身体を拘束し、胸部の目のようなものから光線を放ち、更に鎌の付いた2本の触手で嬲り殺しにするように攻撃した。

 ルシファロイドはプロトタイプながらも、他のASすら凌駕する耐久性を持っていたため、それに耐えていたが、植物怪獣は人が搭乗していることを最初から知っていたように主にコクピットを攻撃していて、パイロットのクトラが引きずり出されるのは時間の問題となっていた。

 植物怪獣が胸部の目を開き、強烈な一撃を与えようとしたその時、突然…


 グオォ~…


 漆黒の海から巨大な呻き声が聞こえ、ラルドとマルコを囲った半魚人の群れがそれを聞くとその声に恐れたのか、またはその声に従ったのか定かではないが、直ぐ様、漆黒の海へと還っていった。


 「何だ? 何が起こったんだ?」


 「今の声、今までのデーモンビーストとは違う雰囲気というか、威圧感も感じる。」


 同時にそれを聞いた植物怪獣も海の方を向いた。攻撃の手が緩んだのを見たクトラはルシファロイドの腕に装備されているミニガンで拘束した飛行生物を蹴散らし、植物怪獣に殴りと蹴りの一発を御見舞いし、植物怪獣は後退していった。

 植物怪獣は後ろの触手のつぼみで炭酸ガスを放つが、既にそれを読んでいたクトラは問題なく回避した。そして再び後ろに回ると先端がつぼみの触手を掴み、植物怪獣は鎌の付いた触手で攻撃するが、ルシファロイドはさっきと同じく触手を力強く握って先端のつぼみから炭酸ガスを出し、鎌の付いた触手を溶解させ、更に溶解した触手の箇所から分離した無数の飛行生物も腕のミニガンで撃ち落とした。

 その後、ルシファロイドはつぼみの触手を足で押さえ付け、残りの触手も腕の突起で斬り刻んでいった。植物怪獣は胸部の目で攻撃を仕掛けるが、ほとんどの攻撃を見切ったクトラには通用せず、それも難なく回避した。

 ほとんどの触手を失った植物怪獣は再生を行うが、多少時間が掛かるような様子で、クトラはその隙を与えないように容赦なく攻撃を仕掛けた。その時、植物怪獣は低い呻き声を上げ、それに呼応するように上空から飛行生物が無限に湧くように現れ、それを見たクトラはミニガンでそれを撃ち落としながら、近付き、植物怪獣に止めを刺そうとしたその時、


 「待て~!」


 ラルドの叫び声が上がり、それを聞いたクトラは攻撃を止めた。


 「待て、クトラ。彼処にはノアがいるんだ! だから、下手に倒したら、ノアの命まで…」


 それを聞いたマルコは驚愕した。


 「何!? まさか、あの巨大生物の中にあの子が…」


 それを聞いたクトラは目の前の植物怪獣を見詰め、ノアがそこにいることを察するように、


 「彼処か…」


 その時、植物怪獣が呼んだ飛行生物が植物怪獣の元に集まり、身体の再生を謀ろうとした。それを見たクトラはそうはさせじと右腕の突起を更に伸ばし、植物怪獣に向かって勢いよく走っていった。


 「や、止めろ! クトラ!! そいつを攻撃したら…」


 しかし、ルシファロイドは攻撃する寸前に右腕の突起を引っ込め、手を出すと、小さな触手で隠されている植物怪獣の顔に突っ込み、手が緑色の液体まみれになりながらもそこから何かを取り出し、更に左腕の突起で植物怪獣の頭部を両断してその場から離れた。切断された植物怪獣の頭部から多数の飛行生物が現れ、それらが上空に向かって飛び去って行ったかと思いきや、ラルドたちとルシファロイドに向かって襲い掛かってきた。ルシファロイドは液体まみれの右手を降ろし、掴んだ何かをそこに置いた。

 ルシファロイドが掴んでいたのはノアだった。それを見たラルドはノアの元に駆け寄り、


 「ノア! ノア! 大丈夫か!?」


 しかし、ラルドがいくら応答してもノアは目覚めなかった。ラルドは直ぐに脈や息があるか調べたところ、息は辛うじてあり、気絶しているだけだった。

 飛行生物は尚も襲い掛かり、ルシファロイドはそれ両腕のミニガンで撃ち落とすが、さっきより更に増え、いくら倒しても何度でも湧いていき、最早ミニガンの弾が切れるのは時間の問題となった。

 そして遂にミニガンの弾が切れ、飛行生物の群れがルシファロイドに向かって一直線で襲い掛かり、ルシファロイドは両腕の突起で全てを斬り刻む体制をしたが、


 グオォ~!


 再び、さっきと同じ巨大な呻き声がしたと同時に、漆黒の海から巨大な津波が押し寄せてきた。ラルドは辺りを見渡し、歪んだ空間までの距離を見るが、迫ってくる津波の速度からしてとても逃げきれる状態ではなかった。


 「駄目だ…今走っても間に合わない。それに気絶しているノアを運んでいくとなると余計間に合わなくなり、間違いなくあれに呑み込まれる…どうすれば…」


 津波を見て状況を判断したクトラは直ぐ様ルシファロイドの両手でラルドとノア、マルコを掴み、歪んだ空間に向かって走っていきその中に入っていき、津波から逃れた。押し寄せてきた津波は頭部が切断された植物怪獣や飛行生物の群れ、そして海辺やその付近にあった建物、歪んだ空間等、全て呑み込んでいった。

 津波を逃れ、歪んだ空間を抜けたルシファロイドに掴まれたラルドたちは元の教会のあった場所に戻ることが出来た。


 「ゲホッ、ゲホッ! ありがとう、クトラ。」


 ルシファロイドがゆっくり降ろし、地に着いたラルドは周囲を見渡すが、そこで驚くべき光景が待っていた。夜明けまでまだ間があるにも関わらず、昼間になっていてしかも教会は既に数十年経ったかのようにすっかり廃れていた。そんな中、ノアが目を覚まし、


 「ノア! 大丈夫なの?」


  「う、うん、平気。」


 「良かった。」


 「ところで、あなた、私の名前知っているみたいだけど、誰?」


 「え…僕だよ! ラルド、ラルド・オルスターだよ!」


 「わからない…さっきまで何をしていたか思い出せない…それにここはどこ? どうして私はここにいるの…」


 「どうなってるの…まさか、さっきの巨大生物の影響で記憶を…」


 その時、マルコも気が付き、


 「いたた…」


 「マルコ! 大丈夫?」


 「ああ、大丈夫だけど…ところで、俺たちここで何をしているんだ? それにその子は誰?」


 「覚えてないの? この教会で起こった事件を探るために来たんだよ!」


 「いや、俺が覚えているのはラルドと一緒にこの街を回っている間だけ…どういうわけか、途中で記憶が飛んでて何も思い出せない。」


 それを聞いて慌てて時計を見たラルドは日にちがマルコと一緒に街に出た時の日にちになっていた。


 「そんな…マルコ! この教会で何が起こったか知っている?」


 「ここに? この教会は確か、地球圏連合国が建国される80年前から既にあったけど、どういうわけか、30年前にこの教会にいたシスターが突然姿を消し、それっきり放ったらかしになって今、この状態になっているところだ。」


 「それって…」


 それを聞いて驚愕したラルドはクトラにも質問した。


 「く、クトラ! さっきまでのこと覚えている?」


 「何を言っている? この新型の実践テストを行うためにここに来たら、貴様らがいた、それだけだ。」


 「(どういうことだ…さっきまでの出来事が丸で最初から無かったことになっている。じゃあ、さっきのは幻なの?)」


 ラルドは目の前のルシファロイドを見るが、ルシファロイドの装甲にはさっき飛行生物と植物怪獣と戦った時の傷跡がちゃんと付いていた。


 「(いや、さっきのは幻じゃない。あの傷が付いているのが何よりの証拠だ。でも、だとしたら、どうして僕は覚えているの? それにここの教会が80年前からあってその時に廃れているのはどういうことなの? まさか、ここのあの空間によってここの時空が歪んで変わってしまったってことなの…)」


 


 


 


  最高評議会ビルの最上階の議長室で、執事がモーゲンソウ議長の元にある報告をしていた。


 「軍の倉庫からAS1機が出撃したそうだが、これは?」


 「ブラッディ特務少佐が新たに開発した新型ASの最終テストのために出撃したとのことです。」


 「場所は?」


 「80年以上前にあった廃れた教会跡地です。連合国建国前から既にあったと聞いていますが…」


 「ああ、その内、撤去する予定が例のトルークフューリー襲撃の件で後回しになったとこか…まあ、手間が省けて助かる。」


 「ただ…」


 「何だ?」


 「現地の近くにいた市民から、そこに空間がネジ曲がったような現象や身元不明の少年がウロウロしていたとかいう目撃証言がありましたが…」


 「それがどうした?」


 「あ、いえ…」


 「我々の目的は一刻も早くあの悪魔共を一匹残らず、駆逐し、再び地球を我々人類の手で取り戻すことだ。下らんことに時間を費やすな!」


 「申し訳ありません。」


 ラルドとマルコがノアを助けるためにデーモンビーストとは違う謎の存在と戦ったことはラルドしか覚えてなく、そのことはニュースや新聞にも取り上げられず、誰にも知られることはなくなったが、その事件後、廃れた教会には尚もネジ曲がった空間の跡が残り、その空間を抜けた先にある漆黒に染まった海の深海に巨大なタコの触手が無数に現れ、丸で何かを待っているかのように蠢いていき、ルシファロイドと植物怪獣が戦っていた時に半魚人を海へ還らせた時の呻き声を再び上げていた。


 グオォ~…


 To be continued


 

 次回予告


 訓練生を経て遂に特務隊の入隊を果たしたラルド、議長選を有利にするため、各国への訪問を決意したヘレナ・ロックフェルドの護衛という、最初の任務に当たることになったが、その安全航路を確保するために偵察に向かった部隊が次々と行方不明になる事件が発生。

 情勢を探るべく、ラルドは特務隊として調査に向かったが、そこで巨大な何かの巣が発見され、そこには巨大なクモの巣で捕らえられたASの姿があった。


 次回「恐怖の糸」その機体は少年を戦いの運命へ導く。

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