表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

Episode2「出会い」

西暦2325年、地球は度重なる戦争と環境変化に伴い、地球が人類にとって住みにくい星になるのは最早時間の問題となった。だが、人類はコロニー建造や月面基地の開発等、宇宙進出を果たす程の技術を手に入れ、やがて他惑星での移住計画も推し進めた。

 だが、その最中、突如として謎の巨大不明生物が現れ、人類に牙を向け、襲い掛かってきた。人類はその正体不明の巨大生物にありとあらゆる兵器で迎え撃ったが、巨大不明生物はあらゆる兵器も通用せず、人類を食い尽くし、人類はその巨大不明生物によって大半を滅ぼされた。

 やがてその巨大不明生物はデーモンビーストと呼称され、デーモンビーストによって人類の8割が死滅させられたその惨劇は「悪魔の審判」と呼ばれるようになった。それから数世紀に渡って地球はデーモンビーストに支配され、僅かに生き残った人類は尚もデーモンビーストの支配に抗ったが、度重なる資源不足に陥り、それを補うために人類同士による争いが頻発に行われ、世界は混沌となっていた。

 悪魔の審判から800年後、西暦3125年、人類は対デーモンビースト用として人間が搭乗出来る巨大人型機動兵器を開発し、デーモンビーストを駆逐し、新たな国家を建設、徐々にその支配圏を取り戻しつつあり、人々は悪魔の審判以前の世界に戻れると確信していた。だが、人類は知らなかった、これから行われることはその悪魔の審判以上の脅威が襲い掛かってくることを…

 「セラヴィム…? それがお前の名前…」


  ラルドが機体の名を呼んだその時、突然、何処からか地上すれすれで飛ぶセラヴィムと似ているが、セラヴィムと単眼のような頭部をした4機の機体が現れ、セラヴィムを囲んで巨大ライフルを突き付けた。


 「な、何だ? こいつら。」


 「動くな! そのデーモンビーストは貴様が倒したのか?」


 「(デーモンビースト? まさか、僕が倒したこいつの名前なのか?)」


 「応えろ! 貴様が倒したのか?」


 「そ、そうだよ!」


 「その声…貴様、子供か。見慣れない機体に乗っているが、一体何処の所属だ?」


 「所属? 所属なんてわからないよ。僕はキールさんに育てられていたから…」


 「なら、その機体は何処で手に入れた? そもそもASは軍しか所有していない。まさか、軍から奪ったのか!?」


 「ち、違う! 誤解だよ! これはシェルターの中にあったから、こいつを倒すために動かしただけで…」


 「ただの民間人が…それも子供がASを乗りこなせるわけがないだろう! ましてや、シェルターにあったなら、それこそ軍の施設という可能性もある。」


 「しかし、コンラッド少尉、我々の任務は逃げ延びたデーモンビーストを駆除することとマッカーシー特務大佐から命じられています。ここで時間を潰すわけには…」


 「いや、そのデーモンビーストは既に駆除されている。しかも、それを達成したのがあの所属不明の機体と民間人の子供だとしたら、尚更放っておくわけにはいかない。直ちに機体を鹵獲し、子供を確保する!」


 


 

 ラルドのいる場所から1キロ離れた場所で、ラルドとセラヴィムを確保した4機の機体と同型の機体が8機、辺りを警戒し、その中にはリーダー格と思われる機体も2機いた。


 「ここら一帯のデーモンビーストは粗方片付いたか…追撃したコンラッド少尉の部隊はどうなっている?」


 「現在、確認しています。」


 「それにしても、こいつら、報告では夜行性のはずなのに何故、こんな真っ昼間に活動を…」


 「デーモンビーストというのは、時代や環境の変化に応じて進化するタイプがほとんどです。こいつらも800年前とは比較にならないでしょう。」


 「確かにそうだな。それにしても、今回がシミュレーションではない実戦でしかも初戦闘にも関わらず、見事な腕だな! オクタヴィス大尉。」


 「これぐらいは当然です。むしろ、それぐらいじゃないとデーモンビーストの駆逐等、出来ませんよ。」


 「ふ、頼もしい限りだな。」


 「コンラッド少尉から通信が入りました。追撃した残りのデーモンビーストは全て駆除に成功しましたとのことです。」


 「そうか…ご苦労だったな。」


 「ただ…」


 「何だ?」


 「駆除に成功したのは我々ではなく、所属不明の機体で、その機体を鹵獲したとの通信です。」


 「所属不明だと? 一体何処の機体だ。」


 「それが…詳しいことは何も…」


 「まあ、いい。議長への報告のために直ちに本国へ帰投する。報告が漏れると色々と厄介だからな。取り敢えず、その機体も連れていけ。」


 「はっ。」


 「議長閣下には、どう報告するんです? その機体に関して…」


 「まあ、精々、珍しい機体が手に入ったということでいいだろう。」


 


 


 


  リーダー格の2機とその他6機の機体はセラヴィムを鹵獲した4機と合流し、ラルドとセラヴィムを連れてそのままある場所へと向かった。

 その場所は、現地球の大半を統治する地球圏連合国の首都メトロポリスだった。悪魔の審判と呼ばれる惨劇以降、人類はそれに怯えて暮らす生活を虐げられ、数世紀もの間、国家というものを持てる状態ではなかった。

 だが、そんな時、対デーモンビースト用人型機動兵器の開発に成功した軍事組織がデーモンビーストから徐々にその支配圏を取り戻し、やがて各所に散らばる小国や組織を吸収し、巨大な軍事国家へと成長していった、それが地球圏連合国である。

 地球圏連合国首都メトロポリスは旧ワシントンに置かれ、都市周辺には巨大な壁のようなシールドが張られ、デーモンビーストの侵攻を防いでいた。

 ラルドは軍の施設に入れられ、ラルドを拘束したオクタヴィス大尉とその上官は評議会ビルの近くにある官邸に向かい、そこで地球圏連合国最高評議会議長フランクリン・モーゲンソウに会った。


 「デーモンビーストの駆除ご苦労だったな。マルス・マッカーシー特務大佐 アウダ・オクタヴィス特務大尉。」


 「軍人としての任務を全うしたまでです。議長閣下。」


 「君たち2人には、これからの活躍に期待しているよ。 ASの開発によって我が地球圏連合国は各国を吸収し、今や世界を統一する国際国家として発展していった。いずれ、あの忌まわしい悪魔を一匹残らず駆逐出来るのも、そう遠くはない。」


 「人類の叡知を取り戻すため、満身していく所存です。」


 「ところで、君の報告書に所属不明の機体を鹵獲したとの報告があったが、これは一体どういうことだ?」


 「鹵獲したコンラッド少尉の報告によりますと、民間人が手に入れたもので、しかも、それでデーモンビーストを倒したとのことです。 最も軍から盗んだ可能性がありますので現在調査に入るところです。

 その調査の際、もし使えそうでしたら、我が軍に加えようと思うのですが…」


 「まあ、それに関してはお前に任せるが、今日は大事な日だ。余りそちらに専念しては困るのだが…」


 「もしや、例の財団会長のご令嬢の護衛ですか?」


 「そうだ、よく知っているな。オクタヴィス大尉。」


 「はい、かねがね噂は聞いています。時期最高議長の有力候補だということも…」


 「実は彼女は我が連合国に加盟していない各国に訪問する予定でな。万が一、デーモンビーストの襲撃にあった場合のことを想定して君たちに護衛を任せたいと思っている。」


 「わかりました。では、鹵獲した機体の調査は明日に回して我々は護衛の専念に…」


 「護衛は私にお任せください。あの所属不明の機体が万が一、我が連合国に反抗する勢力の手に渡ったら、それこそ彼女の議長選にも影響が出ます。特佐のミカエルをお貸しできれば、十分です。」


 「そうか…まあ、お前がそこまで言うなら、いいだろう。お前の実績は先程の実戦で証明されている。 では、護衛はオクタヴィス特務大尉、例の機体の調査はマッカーシー特務大佐に任せる。」


 「はっ!」


 議長室を退出したマッカーシー特務大佐はオクタヴィス特務大尉に質問した。


 「何故、護衛は全て自分に任せると言った? 私の腕を信用していないわけではないだろう。」


 「そもそも、特佐は護衛より未確認の機体の方にご興味があったのでしょう?」


 「気付いていたか…」


 「表情を見れば、わかります。議長閣下から護衛の任務を仰せつかった際の特佐の顔は余り乗り気ではありませんでしたから。」


 「正直言って私はあの機体に非常に興味を持っている。何しろ、たった1機でデーモンビーストを倒したという性能…ただのASではないことは間違いだろう。それも乗っていたのが民間人の子供だと聞くし…」


 「子供? あれに子供が乗っていたのですか?」


 「コンラッド少尉の報告ではそうあった。」


 「しかし、通常ASの搭乗には最低でも5ヶ月の訓練が必要です。素人ではまともに乗ることは出来ませんし、ましてやデーモンビーストまで倒すなんて…」


 「だからこそ、あの機体に何かあると思っているのだ。だが、もし、その例の子供がただの子供ではないとしたら、あるいは…」


 「しかし、ただの子供にそんな力が…」


 「あくまで可能性の話だ。ところで、そろそろ例のお嬢のところに行った方がいいんじゃないかな? 評議会ビルで、彼女の演説が始まっているそうだが?」


 それを聞いたオクタヴィス特務大尉は腕時計を見て慌てて、


 「あ、しまった! では、これにて失礼します。」


 


 


 


  官邸の近くにある評議会ビル内での演説場、そこで多くの議員が


 「悪魔の審判から800年、我々人類はあらゆるものを奪われ、全てを失い、絶望の淵に立っていました。悪魔の審判以前…いいえ、その惨劇後も我々人類は思想や人種、価値観の違いや資源の奪い合いによって幾度ともなく愚かな争いを繰り返してきました。

 しかし、ASという新たな兵器を開発した我が地球圏連合国はその悪魔から再び地球を取り戻すために戦い、周辺諸国をまとめて今や、地球を取り戻しつつあります。それでも未だ、地球圏連合国に加盟しない国はありますが、デーモンビーストと呼ばれる悪魔を共通の敵として我々人類は1つにならなければなりません!

 ASは人を殺すための兵器ではありません。悪魔を駆逐するための希望の存在なのです。そして、その悪魔から地球を取り戻した後の今後の我々の行く末と平和のために、皆さん、どうか私に力をお貸しください。」


 殆どの議員が少女の演説に拍手喝采を挙げ、議会はかなりの盛り上がりを見せた。


 「流石、財団会長のご子息だ。他の候補者とは丸で格が違う。」


 「全くだ。まだ、15歳の子供だというのに、ここまでのカリスマ性があるとは…」


 「しかし、これで時期議長は決まったも同然ですな。これからは財団が直接我が連合国を指導することになる時が来たのですから。」


 「今や、我が地球圏連合国がここまでの軍事国家になれたのも財団の力あってのことだ。」


 「中々、素晴らしい演説でした。ヘレナ・ロックフェルド嬢。」


 演説をした少女の元に評議会議長のフランクリン・モーゲンソウが現れた。


 「議長閣下!」


 「若いのに、お強い志を持っておられる。」


 「止してください。私はそんな…それにまだ、子供ですし…」


 「いやいや、君は大した逸材だよ! 他の議員共は自己の利益か、今の現状を維持するかというような連中ばかりの中、君だけは今後の平和のことをしっかり考えている。まさにこれも若さ故のことだ。」


 「そんな、大げさな…」


 「君なら、時期議長は任せられる。私は背一杯君を応援しているよ。」


 「あ、ありがとうございます。」


 モーゲンソウ議長との対面を終えたヘレナは評議会ビルを出、車に乗った。


 「随分とお疲れのようですね、ヘレナ様。」


 「選挙活動のために、学校も行けなくなったけど、この世界には学校に行くことが出来ない子供たちは一杯いる。その子たちのためにも、頑張らないと…」


 「その意気ですよ、お嬢様。」


 


 


 


  評議会ビルから数百m離れたところに軍の施設が点在し、そこにラルドとセラヴィムは入れられ、施設に入ったマッカーシー特務大佐は鹵獲したセラヴィムのところに向かった。


 「ご苦労、例の機体はこれかな?」


 「はい、こちらになります。」


 「確かに見たことない機体だ。照合は出来たか?」


 「綿密な調査を行ったのですが、どの軍にも所属しておらず、オマケに過去の履歴にもこのような機体に合致するものは見当たりませんでした。」


 「まさにアンノウンという訳か…」


 「ただ…」


 「ん?」


 「装甲を調べたところ、どうも最近の機体ではないらしく、推定では数百年前の機体の可能性があり、また我が軍のASとはかなり異なった構造をしていることも判明しています。」


 「この機体が倒したデーモンビーストは?」


 「コンラッド少尉の報告によりますと、推定45mの大型のデーモンビースト第2号ベルゼボアとのことです。」


 「45mクラスのものをたった1機でか? 武器は?」


 「ナイフとメイス状の剣のみです。」


 「(デーモンビースト第2号、ベルゼボア、小型や中型タイプなら、それなりの腕を持つ者ならAS1機で殲滅出来るが、大型の場合、一体相手でも最低、2、3機は必要だ。

 だが、そいつをたった1機でしかも近接武器のみで倒したということはパイロットも相当なものだというのか?)

 これに乗っていた例の民間人の子供は?」


 「現在、コンラッド少尉が尋問を行っていますが…」


 「その民間人についてわかったことは?」


 「ラルド・オルスター、年齢14歳…」


 軍の施設にある尋問室、そこで連行されたラルドはコンラッド少尉による尋問を受けていた。


 「ラルド・オルスター、年齢14歳、元孤児か…もう一度質問する。あの機体はどこで手に入れた。」


 「だから、何度も言ってるじゃないですか。シェルターに入ったところ、たまたまあってそこに僕の仲間を殺した怪物が入ってきてそいつらを倒すために乗っただけです。」


 「なら、操縦方法はどうやって知った?」


 「わからない、ただ、コクピットに接続されているヘルメットと義手を被ったり、嵌めたりしたら、モニターが表示されている通りにしただけなんだ。」


 「確かに、ASはパイロットの脳波に作用して起動する機体、だが、基本的にASはパイロットの脳波に従って動くだけ、機体がわざわざ指示を与える等、有り得ない。」


 「本当なんです! 信じてください。」


 「とにかく機体に関しては技術者で綿密に調査するとしよう。それと最後の質問だが、お前をシェルターに入るよう、指示されたようだが、一体誰に…」


 「それは…」


 コンラッド少尉の報告はマッカーシー特務大佐の元に伝わった。


 「キール・ブロッケンマイヤー?」


 「その少年の証言によりますと、孤児だったその少年を拾った自警団の男だそうです。」


 「自警団…最近頻発しているあれか。」


 「800年前の悪魔の審判の影響もあって、我が連合国及びどの国家や軍にも所属していない組織が存在し、中には私設軍隊まで持っている勢力もいるとか…」


 「キール・ブロッケンマイヤー…過去の軍の履歴にこの名前があるか調べてくれ。」


 「了解しました。」


 「この名前、何処かで…」


 


 


 それからしばらく後、ヘレナは連合国の加盟を拒否するメキシコに存在する国家に訪問するための準備をし、財団が用意した旅客機の元に向かい、そこにミカエルの前に立つオクタヴィス特務大尉の姿があった。


 「ロックフェルド嬢、あなた様は我々連合中隊が責任を持ってお守りいたします。」


 「あなたは?」


 「連合軍中隊隊長、アウダ・オクタヴィス特務大尉です。モーゲンソウ議長の特命であなたの護衛を任されました。」


 「そうですか、よろしくお願いいたします。」


 「では、こちらへ…」


 オクタヴィス特務大尉の誘導に従ってヘレナは旅客機に乗り、それを確認したオクタヴィス特務大尉はミカエルに搭乗し、中隊を連れて旅客機と共に飛び立った。

 オクタヴィス特務大尉の搭乗するミカエル率いる中隊が旅客機に手を振れまいと言わんばかりに旅客機の周囲を囲った。ヘレナは窓からその姿を見詰めたが、何処か不安げな表情をしていた。

 上空まで飛び立ち、オクタヴィス特務大尉が周囲を見渡したその時、突然、目の前に赤い体色をし、特徴的な鶏冠を持ち、プテラノドンに似た姿をした体長18m位のデーモンビーストが12体現れた。


 「特尉、あれは!」


 「デーモンビースト第3号フューリー…あれが来たか。こちらにとっては話にならないザコだが、あれにはあいつが来る。とすると…」


 「どうします? 特尉、攻撃しますか!?」


 「慌てるな、我々の任務はあくまでロックフェルド嬢の護衛だ。下手に戦闘を起こすと、彼女の安全が保障出来ない恐れがある。それにあれはこちらが攻撃しない限り、襲ってくることはない無害なタイプだが、あれがいるということはブラックリストに載っているあれが来る。出来るだけ、あれから離れて飛行せよ。」


 オクタヴィス特務大尉が搭乗するミカエルは旅客機に合図を送り、それを見た旅客機のパイロットはその合図に従い、中隊と共にフューリーの群れを避けるように飛行したが、その時、突然、何処からか別の砲撃がし、その砲撃がフューリーの群れに直撃し、それによって混乱状態となったフューリーの群れはミカエル率いる中隊が護衛する旅客機に向かって飛んでいった。


 「何!? 今の砲撃は何処から?」


 砲撃した方向には雲の中にいたため、その全貌は見えなかったが、別のASらしき影が存在し、その影は直ぐ様、姿を消した。


 「ヘレナ様をお守りするのだ!」


 中隊の一般兵士の搭乗するASは向かっていくフューリーを撃ち落とそうと砲撃し、何体か粉砕することに成功し、旅客機に近付く前に全て撃破出来そうになったその時、突然、中隊と旅客機の背後からフューリーに似てはいるが、フューリーと違い、猛禽類のような姿をし、黒い体色をした体長65mはある別のデーモンビーストが現れた。


 「と、特尉!」


 「こいつは…」


 不意を突かれた中隊は現れた巨大なフューリーの姿をしたデーモンビーストに対応できず、その巨大なフューリーは邪魔だと言わんばかりに翼で中隊を凪払い、オクタヴィス特務大尉の搭乗するミカエルや旅客機まで巻き添えを食らった。


 「キャアァ~!!」


 巨大なフューリーによって旅客機は粉砕され、乗っていたヘレナとその警護は粉砕された旅客機から振り落とされた。中隊を凪払った巨大なフューリーは生き残った小型のフューリーにかぶりつき、鷹が小鳥を食らうように補食していった。

 巨大なフューリーが最後の一体に目を付けると、その一体は更に混乱し、どさくさに紛れて旅客機から振り落とされたヘレナを前足で掴んで逃げ、巨大なフューリーはそれを追った。


 「特尉、大丈夫ですか?」


 「かすり傷だ。それよりヘレナ嬢は?」


 「例のフューリーに捕えられ、先程の大型もその後を追ったそうです。」


 「(さっきのはトルークフューリー、フューリーの突然変異種で、フューリーを補食するデーモンビースト。奴はフューリーより狂暴でフューリーがいるところに必ず現れ、これまで我が軍にも襲ったケースがあり、ブラックリストにも載っている奴だ。まさか、あれに遭遇するとは…) フューリーはどの方面に飛んでいった?」


 「我が連合国首都メトロポリスとのことです。」


 「ちぃっ、よりによって彼処に行ったか! 不味い…ヘレナ嬢がデーモンビーストに襲われたところを市民に見られたら、我が軍の失態を晒されることになる。それだけは何としても避けないと…直ぐに奴の後を追う! 何としてもヘレナ嬢を取り返すのだ。」


 「はっ!」


 


 ヘレナを捕えたフューリーとそれを追うトルークフューリーはメトロポリス上空を飛び、街の人々は大混乱した。フューリーとトルークフューリーがメトロポリス上空に現れたという報告はセラヴィムを調査しているマッカーシー特務大佐の元に届いた。


 「何? 2体のデーモンビーストがメトロポリス上空にだと!」


 「はっ、現在軍の出撃命令が下っていて、これの駆除に当たっていますが…」


 「上空ということは飛行タイプのデーモンビーストか…だが、メトロポリスは都市周辺や上空にもシールドが張っていて侵入不可のはずたが…?」


 「それが、ちょっと厄介なことになっていまして…」


 「厄介なこと?」


 「巨大なデーモンビーストが追っている小型のデーモンビーストにヘレナ嬢が捕えられていると目撃した市民から情報が入りました。」


 「何!? ヘレナ嬢が! 確かにこれは不味いな…よし、私も出る。コンラッド大尉や他の隊にも指示を出せ!」


 「あの機体と民間人の少年はいかがいたしましょう?」


 「機体はこのままにし、民間人の子供にはその場に待機するよう伝えろ。ただし、警備の者はこの場から離れるな。」


 「はっ!」


 


 


 

 一方、その頃、ラルドは未だ、コンラッド大尉による尋問を受けていたが、その時、1人の兵士が入り、コンラッド大尉にマッカーシー特務大佐による出撃命令が出たことを伝えた。


 「そうか…直ぐに準備を。悪いが、急用が出た。お前は命令が出るまで待機しろ!」


 そういってコンラッド大尉は部屋を退出した。ラルドはそのことに気になってはいたが、下手に逆らうのは不味いと思い、その指示に従って部屋の中に待機した。コンラッド大尉が尋問室から離れ、見張りの兵士が1人のみになった時、別の兵士が現れ、見張りの兵士に声をかけた。


 「交代の時間だ。」


 「え? まだ、そんな時間じゃないだろ?」


 「デーモンビーストが街に現れたため、奴を駆逐するためにも1人でも人員が多い方がいいと急遽、交代を早めろと上からの命令があってな。」


 「そんな命令が来てたのか…それにまだ、あの民間人から目を離す訳にはいかないし…」


 「とにかく、そういう命令が来たんだ。それに従え。」


 「わかったよ。」


 見張りの兵士は渋々それに従い、別の兵士と交代してその場から去った。見張りの兵士去った後を見た別の兵士はこちらの手にかかったかと言わんばかりに笑みを浮かべ、ポケットに突っ込んだ左手からガムを取り出し、それを食べ、直ぐに出すと胸のポケットから小型の端末のようなものを取り出し、それをガムの中に入れ、尋問室のドアに付けた。

 そして、その後、携帯を取り出し、メールを打つように仕草を取った。それと同時に軍の倉庫では街に現れたデーモンビーストを迎え撃つために機体の出撃を行い、慌ただしい中、その様子を見ていた1人の整備士は何か連絡が入ったように携帯を取り出し、それを見ると、人気のない場所に移動し、パソコンを取り出し、予め設置されていた装置を操作するように打ち、最後の作業としてキーを押すと、予め設置されていた装置が爆発し、一般兵士や倉庫にあるASも巻き込んで混乱状態となった。


 「何だ! 何があった!?」


 「わかりません! 突然、倉庫内部で爆発が起こりました。」


 「くそっ! こんなときに…」


  倉庫が爆発した音にラルドも気付き、見張りの兵士もそれに気付くと、ポケットに隠していたスイッチのようなものを押し、ドアに貼り付いたガムが爆発し、それを確認した見張りの兵士は直ぐ様その場から離れた。

 尋問室にいたラルドも倉庫の爆発に気付いたが、窓の外で、連合国軍の一般機体がトルークフューリーに攻撃を行われていて、それに目がいっていた。


 「いいか! ヘレナ嬢を捕えている小型フューリーは狙うな。我々が排除するのはあの大型だ。全機、集中攻撃!」


 マッカーシー特務大佐の命令に従い、連合国軍兵士が搭乗する一般機体はトルークフューリーに何度も砲撃したが、トルークフューリーは一切応えなかった。


 「くそっ、どうなってやがる。本来なら、これで奴の身体に風穴を開けられるのに!」


 砲撃によってヘレナを捕えているフューリーを中々捕まえられなかったため、トルークフューリーは段々連合国軍の一般機体の方に攻撃の矛先を向け、口から緑色の光線のようなものを出し、連合国軍の一般機体を攻撃、破壊していき、それを一般機体に搭乗していたマッカーシー特務大佐も驚きを隠せないでいた。


 「データにはあの大型には飛び道具は一切持っていないはずだったが、まさか、進化しているというのか!? しかも、これ程の威力とは…」


 トルークフューリーは口から放った緑色の光線で連合国の一般機体のみならず、街中にも放ち、次々と周囲を破壊していった。


 「特務大佐、これ以上は危険です! ここは一旦体制を立て直しては…」


 「だが、これ以上被害を出すわけにはいかん。増援が来るまで持ちこたえろ。」


 その時、突然、上空から放たれた別の砲撃がトルークフューリーを直撃し、トルークフューリーは少し怯んだ。


 「今の砲撃は…」


 そこに現れたのはオクタヴィス特務大尉の乗るミカエルだった。


 「アウダか…」 


 「特務大佐! ここは私に。この事態は全て私の失態です。責任は私が取ります!」


 オクタヴィス特務大尉の乗るミカエルはトルークフューリーに砲撃し、トルークフューリーはそれに気付いてミカエルに襲い掛かるが、ミカエルはそれを瞬時に避け、右腕のブレードを展開してトルークフューリーの脳天に刺したが、貫通することが出来ず、トルークフューリーはそれを振り払い、緑色の光線を放ち、ミカエルはそれをブレードで防いだが、ブレードの一部がその攻撃により溶解していた。


 「ちぃっ、」


 「駄目だ。あれじゃ、やられる。でもこのまま黙って見ているわけには…」


 その時、突然、ガンガンとドアを叩く音がし、それに気付いたラルドは恐る恐るドアに近付き、ドアを触れるといつの間にかドアが開き、しかもドアの一部が壊れていた。


 「どうして、ドアが? もしかしてさっきの爆発によって? いや、それにしたら、周りの被害がそれ程ではない…」


 ドアを開けたラルドは辺りを見渡すが、人影は一切無かった。


 「一体、誰が…いや、考えるのは後だ。とにかくこのまま黙って見ているわけにはいかない。あれを倒すにはセラヴィムしかいない。」


 尋問室から出たラルドはそのままセラヴィムのいる場所に向かって走っていったが、その様子を角で待機していた見張りの兵士が不敵な笑みを浮かべていった。


 

 爆発が起こった倉庫では機体が何体か爆発によって破壊され、負傷者も多数出た。


 「くそっ、こんなときに爆発とは…出撃可能な機体はどれぐらいいる?」


 「現在、6機ですが、どれもさっきの爆発で起動出来るのがやっとというところです。」


 「ちぃっ、これでは特務大佐の足手まといにしかならないではないか。」


 「コンラッド少尉、1機が勝手に起動しています!」


 「何だと!? 一体、誰が?」


 起動したのはセラヴィムで、爆発によって軍が混乱している隙にラルドが乗り込んでいた。


 「セラヴィムなら、あいつを倒せる。」


 


 


 


  都市ではマッカーシー特務大佐率いる連合国軍の一般機体が尚もトルークフューリーに砲撃してきたが、トルークフューリーにとっては全くの無意味で、既にヘレナを捕えているフューリーの直ぐ側まで迫っていた。

 余りの恐怖に言葉が出ず、目を瞑り、トルークフューリーがフューリーを食らい付こうとしたその時、突然、何処からか、巨大なメイス状の剣が投げ飛ばされ、その剣がトルークフューリーに直撃し、それに驚いたフューリーがヘレナを離してしまった。


 「キャア~!!」


 フューリーに離され、そのまま落下していくヘレナをビルとビルをジャンプしながら移動したセラヴィムは彼女を受け止め、落下を阻止した。

 セラヴィムに受け止められ、気が付いたヘレナは初めて見るセラヴィムを見て唖然とし、セラヴィムのコックピットハッチが開くとラルドが姿を現した。


 「ここは危険だ! 早く逃げて。」


 「あなたは?」


 「説明は後だ。早く逃げて!」


 しかし、フューリーに食らい付いたトルークフューリーがセラヴィムに気付き、フューリーを丸飲みしてセラヴィムに向かって襲い掛かってきた。


 「駄目だ、間に合わない。君、これに乗って!」


 「え…」


 「いいから! このままじゃ、死んじゃうよ!」


 「う、うん…」


 戸惑いながらもヘレナはセラヴィムのコクピットに乗り込み、ラルドと2人乗りになった。


 「行くよ、セラヴィム。」


 巨大なメイス状の剣を振りかざしたセラヴィムはビルの屋上から思い切りジャンプし、その飛躍でメイス状の剣をトルークフューリーの頭部に突き刺した。

 剣の1/3がトルークフューリーの頭部に食い込んだが、それでもトルークフューリーはまだ無事なようで、トルークフューリーはセラヴィムを振り払い、セラヴィムは当たる寸前に体制を変え、ビルの屋上に着地することが出来た。

 しかし、休む暇を与えることなく、トルークフューリーは緑色の光線をセラヴィムに向けて放ち、セラヴィムはメイス状の剣でそれを受け止めた。


 「キャアッ!」


 コクピットにラルドと一緒に乗っているヘレナは思わず目を瞑ったが、剣は愚か、セラヴィムの装甲はどこも溶解されたところがなく、無傷で、それを見たマッカーシー特務大佐とオクタヴィス特務大尉は驚きを隠せなかった。


 「ミカエルでさえ、耐えるのがやっとのあの攻撃を耐えただと…一体何なんだ? あの機体は…」


 光線が効かないのを悟ったトルークフューリーは後ろ足による攻撃に切り替え、セラヴィムはそれも剣で防いだが、体格差もあって後退していくだけだった。


 「くっ、これじゃやられる。」


 「ねぇ、ここは逃げて。そうしないとやられるわ。」


 「駄目だ、ここであいつを倒さないとこれ以上被害が出ることになる。それにもうあの時みたいにまた人が死んでいくのを見たくはない…」


 セラヴィムは巨大な剣を振りかざし、負けじと反撃に入るが、剣をトルークフューリーの後ろ足で受け止められ、逆に振り払われてしまう。


 「ウワァッ!」


 「キャアッ!」


 「駄目だ、闇雲に戦っても返り討ちに遭うだけだ。それにあいつは前の奴と違い、空も飛べる。セラヴィムの跳躍力ではこちらの攻撃は届かない。

 例え、届いたとしても、剣が通用しないのはさっきの戦いで明白…どうすれば…そうだ! 確か、あの時…」


 その時、ラルドが思い出したのはかつて海賊団に襲われ、それをキールの機転によって撃破した時のことだった。

 海賊団はAK-100を持った20人の兵士と戦車一台で構成されていて、対しキールはラルドを含めた孤児たちを地下に逃げさせ、自分はM-16を持ってそれを迎え撃った。

 自警団として何度もラルドたちを守ってきたキールは射撃の腕もプロ並みで、1人1人正確に海賊団の兵士を射殺してきたが、多勢に無勢な上に戦車もあったため、キールにとってはかなり不利な状況だった。

 しかし、キールは自分が育てた子供たちを死なせまいという一心でこの状況を打開するために冷静に分析していった。 

 その時、キールが立てた打開策とは、敵の最高戦力である戦車が砲撃する寸前にその砲口をピンポイントで狙撃し、自壊に追い込むというものだった。成功の確率は極めて低いまさに博打のような戦略だったが、子供たちの命という重荷を背負っている彼には最早自分の命すら厭わない覚悟を持っていたため、一切躊躇せず、それを実行し、海賊団の砲撃を誘い込むように自身の身を隠し、砲撃を開始しようとした直前に持ち前の腕で狙撃に成功し、海賊団の壊滅に成功したのだった。


 「あの時のキールさんなら、そうするはずだ。なら、今度は僕がやるんだ!」


 「君、一体、何をするの?」


 「大丈夫、必ず君は守るよ。」


 その時、セラヴィムはトルークフューリーの攻撃が届かないように後退し、その後、トルークフューリーを挑発するように手を振り、トルークフューリーはその挑発に乗って後ろ足による攻撃を止め、光線を吐く体制に入った。

 それを見たラルドはセラヴィムを剣をトルークフューリーの口に当てるよう、体制を取った。


 「ギリギリまで引き付る…勝負はその一瞬だ。」


 トルークフューリーの口から緑色の光線が放たれようとしたその寸前、


 「今だ!」


 セラヴィムは持ち前の跳躍力でトルークフューリー目掛けて飛び、巨大な剣をトルークフューリーの口にブッ刺した。その瞬間、トルークフューリーの頭部は爆破し、それに続いて全身も爆破された。

 爆風によって落下していくセラヴィム、しかし、ラルドは咄嗟に巨大な剣を近くのビルに突き刺し、落下速度を緩め、無事に地上に降りることが出来た。


 「もう、大丈夫だよ。」


 「あ、ありがとう。」


 「そこのAS、動くな!」


 ホッとしたのも束の間、地上に降りたら降りたらで、セラヴィムはあっという間に連合国軍のASに取り囲まれてしまった。


 「貴様の軍の意向に背き、許可なくASを起動した。このまま拘束する!」


 「待って!」


 その時、セラヴィムのコックピットハッチが開き、ヘレナが姿を現した。


 「ヘレナ嬢…」


 「この人は私の命の恩人です。処罰される人間ではありません。」


 「ヘレナ嬢があの機体に…まさか、本当にあの機体が彼女を助けたというのか!?」


 「お言葉ですが、ヘレナ嬢、その者は待機せよという軍の命令を聞かず、挙げ句、爆破のどさくさに紛れて、ASを起動して基地から脱走した謂わば、脱走犯なのです。 

 むしろ、これは軍事裁判にかけるべき行為です。例え、あなたを助けたといっても擁護出来ることではありません。」


 「そうですか…でしたら、たった今、この少年は私が雇います! それならよろしいですか?」


 「何!? それはどういうことですか!」


 「言葉通りです。私はこの少年の雇い主になったのです! ですから、その責任は私が取ります。それなら文句はありませんよね?」


 「で、ですが…」


 「ハハハハハハ! 面白い。なら、その少年はあなたに任せましょう。」


 「特務大佐!」


 「(なるほど、流石は財団の令嬢にして時期最高議長候補と言われるだけのことはある。こうできゃ、国のトップは務まらん!)」


 それを聞いたラルドは状況が理解できなく、あわてふためき、


 「え、ちょっと、どういうことなんですか!?」


 「言ったでしょ? 君は私の元で暮らすの。よろしくね、ASのパイロットさん。」


 「え、エェェ~!!」


 


 To be continued



 次回予告


 ロックフェルド財団の令嬢ヘレナに雇われるようになったラルドは財団の保護下に入ったが、軍に背いたことにより、セラヴィムを接収されてしまうこととなった。

 しかし、セラヴィムを預かった財団出身の技術士官がラルドに興味を持ち、彼の推薦により、その息子と共に軍に入隊することが決まった。

 初めての軍、セラヴィムとは別の機体の搭乗、慣れない機体での戦闘でラルドに待ち受ける試練とは!?


 次回「試練」その機体は少年を戦運命へ導く。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ