Episode19「コロニーへ」
西暦2325年、地球は度重なる戦争と環境変化に伴い、地球が人類にとって住みにくい星になるのは最早時間の問題となった。だが、人類はコロニー建造や月面基地の開発等、宇宙進出を果たす程の技術を手に入れ、やがて他惑星での移住計画も推し進めた。
だが、その最中、突如として謎の巨大不明生物が現れ、人類に牙を向け、襲い掛かってきた。人類はその正体不明の巨大生物にありとあらゆる兵器で迎え撃ったが、巨大不明生物はあらゆる兵器も通用せず、人類を食い尽くし、人類はその巨大不明生物によって大半を滅ぼされた。
やがてその巨大不明生物はデーモンビーストと呼称され、デーモンビーストによって人類の8割が死滅させられたその惨劇は「悪魔の審判」と呼ばれるようになった。それから数世紀に渡って地球はデーモンビースに支配され、僅かに生き残った人類は尚もデーモンビーストの支配に抗ったが、度重なる資源不足に陥り、それを補うために人類同士による争いが頻発に行われ、世界は混沌となっていた。
悪魔の審判から800年後、西暦3125年、人類は対デーモンビースト用として人間が搭乗出来る巨大人型機動兵器を開発し、デーモンビーストを駆逐し、新たな国家を建設、徐々にその支配圏を取り戻しつつあり、人々は悪魔の審判以前の世界に戻れると確信していた。だが、人類は知らなかった、これから行われることはその悪魔の審判以上の脅威が襲い掛かってくることを…
セラヴィムが謎の環礁に乗って特務隊の艦に戻る数十分前、ルナとアンティラクスを連れて巨大サメの怪物に襲われる時に現れた謎の環礁に気付いたラルドの脳裏に議長選の時に襲撃したベルゼボアに似たデーモンビースト同様に誰かによるテレパシーが聞こえた。
「闇に呑み込まれるな! ラルド。自分を見失うぞ!」
「あの環礁が話してるのか? それに僕の名前を知ってるってもしかしてあいつもルナと関係が…」
「こいつは私が引き受ける! ルナとアンティラクスを助けたいなら、このことは誰にも話すな!」
謎の環礁が巨大サメの怪物にぶつけた後、ラルドは気を失い、その後のことは覚えていなかった。しかし、テレパシーによる話はしっかり覚えていた。
艦に戻ったラルドはザエボスに捕らえられた後の状況を説明したが、ルナとアンティラクスのことは話さず、深海にある洞穴に逃げ込み、そこで交戦している時に巨大サメの怪物による襲撃を受け、ザエボスが貪り喰われ、逃げていたら、謎の環礁を目撃し、それに乗ってやり過ごしたら、艦のところに着いたという内容だった。
「では、あの環礁や巨大なサメのような存在も君は知らないと?」
「はいっ!」
「……そうか…やむを得ん。作戦は一旦中止だ! メトロポリスに戻る。」
捕獲対象のザエボスを失ったことによって作戦は中止され、特務隊は首都メトロポリスに戻り、ラルドは個室のベッドで考え込んでいた。
「あの時のデーモンビーストのようにテレパシーで話し掛けた環礁、スピリットビースト、そして、僕の過去の記憶は宇宙にある……
宇宙の何処に行けば、それがわかるんだ? いつも見るあのビジョンとも何か関係があるのか…?」
メトロポリスに戻り、作戦失敗の有無をヘレナに伝えた後、軍情報部にてマッカーシーとブラッディ、オクタヴィスはラルドの見た記憶の証言を元にあるものを調べていた。
「間違いない! 現存する僅かな資料やデータを見ても、オルスター特務二等兵の記憶にいた怪物は悪魔の審判で人類の8割を死滅し、文明を崩壊させたデーモンビースト第1号だ。ただし、コードネームは不明…」
「しかし、悪魔の審判は800年前のことですよ! もし、それが本当なら、彼がその時から生きていたということになりますよ!」
「確かにそれでは、彼は人間ではない。だが、彼の出身が地球ではないとしたら…」
「特務少佐は彼がコロニー出身者だと?」
「コロニーではコールドスリープや冷凍睡眠の技術があるということは知っているな?」
「しかし、その技術も出来ていたとしても、精々100年程度ですよ! 数世紀も生きていられるはずは……」
「そもそも、コロニーの人間はほとんどが悪魔の審判の生き残りの出身が多く、我が連合国より、悪魔の審判に関する資料とデータは多いはずだ。
もし、彼がそれに関係しているのであれば、我々の知らないその惨劇の実態やデーモンビーストの正体も掴めるかもしれない。
議長に就任したヘレナ嬢はコロニーとの関係強化に務め、コロニーへの訪問を計画している。
彼が自身の過去を知りたがっているのなら、ヘレナ嬢の護衛として同行させ、データを集めさせましょう。」
「では、捕獲作戦は中止して、我々は議長の護衛に…」
「いや、捕獲作戦は今度も続ける! いくらデータが手に入っても、サンプルは欲しいからな。」
「しかし、オルスター特務二等兵だけ行かせるわけにはいきません。同行させるなら、オクタヴィス特務大尉かハイライト特務二等兵も護衛として同行させた方が…」
「いや、この件は既にマクマリー副議長とも話をつけていて、オルスター特務二等兵の他にもう1名統制連合艦隊の者を同行させることになった。」
「統制連合艦隊から? 誰です?」
やがて、コロニー訪問の件でラルドがヘレナによって呼ばれ、マクマリー副議長の推薦でグリスと共にその護衛につき、コロニー訪問の件を説明した。
「以上のことがコロニー訪問での流れよ。5日間辺り、そこにいることになるけど、よろしくね!」
「あ、ありがとう!」
ラルドの横にいるグリスはムスッとした表情で返事も顔も合わせなかった。
「ところで、ヘレナ。コロニーがあるなんて話、僕は聞いてないけど…」
「悪魔の審判以前から、コロニーの建造が行われたってことは知ってるわね?
これから行くコロニーはその時から、建造され、完成した場所なの!」
「でも、確か、悪魔の審判で人類は8割も死滅したんでしょ? そんな状態でコロニーにも生き残りがいるなんて思えないけど…」
「コロニー建造の関係者や移住を認められた人たちがそのままコロニーに居続けて、その子孫たちが築いた国家が今のコロニーよ。」
「コロニーにも生き残っていた人がいたなんて…、でも、どうやって宇宙に?」
「ホテップ社が運営している宇宙港があるのよ。 悪魔の審判の時からあった旧式だったのを先々代の議長の時に修復したから、それに乗って行くの。」
「本当に宇宙に…」
「でっ? 何でまた、俺が護衛に付いたんだ? 」
「言葉を慎め、グリス! 大体、貴様は…」
「いいのよ…あなたが私を認めないのは仕方ないわ。でも、いつまでもそんな関係のままにするわけにはいかない。
議長になった今だからこそ、ジオフロントの人たちともっと触れ合いたいの…
最も議長の仕事でそんな暇が無いかもしれないけど、でもせめて、あなただけでも、私は仲良くなりたい。だから、よろしくね。」
「まあ、任務なら引き受けるが、俺はお前を認めるつもりは毛頭ない。」
「それでも構わないわ。」
「(ヘレナ……)」
「それにマッカーシー特務大佐から聞いたと思うけど、ラルドには悪魔の審判とデーモンビースト第1号に関する資料とデータを集めることを任務として私と同行するのだから、それを忘れないでね。」
「それは問題ないよ。」
「じゃあ、早速出発ね!」
ロンドンにあるホテップ社の宇宙港に向かったラルドたちは宇宙港にある宇宙船に乗り込み、宇宙港を発射し、一気に大気圏を出、その窓から地球を見たラルドはその姿を不思議そうに見詰めていた。
「これが地球…綺麗。」
「私もこうやって地球を見るの初めてだけど、悪魔の審判で文明が崩壊し、デーモンビーストに荒らされても、地球は青くて綺麗な姿を維持してるのね。」
やがて、宇宙船は月に到達し、その裏側に来ると、そこにあったのは月の半分以上の大きさを誇る地球と同じ球体のものに巨大な建造物が接続されている巨大宇宙ステーションのようなコロニーだった。
「あれが…コロニー……」
「そう! あれがスペースコロニー、オデッセイよ!」
スペースコロニー、「オデッセイ」
直径180kmに及ぶ大きさを誇る球体には5000万人以上の人々が住み、その球体型のコロニーと接続しているターミナルはコロニーを移動させる程の出力を有し、スペースコロニーであると同時に宇宙船の役割も担っていた。
このコロニーが建造されたのは悪魔の審判から200年前、西暦2125年、50度を越える高温、氷点下30度といった急激な温度の上昇や低下に伴い、世界的な干ばつ化や南極の氷の80分の1が溶けたことによる海水の上昇で、地球環境が人類によって生活困難な状況になりつつある中、新天地を求めてコロニー建造計画が考案され、ホテップ社の資金援助と各国の総力により、建造が実行された。
最も、完成までにはかなりの時間を有し、それまで後にジオフロントとなる地下都市の開発を行い、そこにコロニー移住の予定となる人々をそこに住まわせたが、地球を見捨てる行為だと主張する過激派環境保護団体を初め、コロニー移住の候補から外された国家や人々による反対派の妨害による停滞を受けたが、ホテップ社の全面的な支援もあって、中止されることはなく、建造は進められた。
完成まで80%にまで及んだ西暦2325年、デーモンビーストが出現した、後に悪魔の審判と呼ばれた惨劇によって文明が崩壊し、人類の8割が死滅した。
しかし、その一部の人間はデーモンビーストによって破壊される前に宇宙港のロケットで、コロニーに逃げ延びて、そこで生き残った。
コロニーに逃げ延びた人々は地球がデーモンビーストによる支配を受けたことにより、地球への帰還は困難と判断し、引き続き建造を進めてコロニーを完成させ、そこで後にアークと名付けた連邦政府を樹立し、地球とは独自の国家を築いた。
地球のようにデーモンビーストによる支配の影響を受けなかったため、コロニーの技術は急激に進歩し、数世紀を経て悪魔の審判以前の地球の技術を遥かに凌ぐ程となった。
悪魔の審判から500年後、過剰な人口増加による問題に悩まされ、その技術力によって向上した軍事力で地球上を蔓延るデーモンビーストを殲滅し、地球への帰還を計画し、地上に派遣隊を送ったが、人間を補食する巨大な類人猿に似た人型のデーモンビーストによって隊が全滅したため、地球への帰還を諦め、月面基地の開発や火星を初め、地球以外の太陽系惑星の移住計画を進めたが、いずれも失敗に終わった。
しかし、ASの開発に成功したロックフェルド財団を後ろ楯とする地球圏連合国が徐々に地球圏の支配を取り戻しつつあるのを知ると、地球再生のための技術を提供することを条件に地球への移住のための交渉を行ったが、前議長モーゲンソウは帰還を望むのであれば、連合国へ加盟せよと求め、それに対し、コロニー市民はコロニーを属国にすることに等しいと反発を受け、地球圏連合国への加盟を受け入れようとした前アーク大頭領は辞退し、新たにドン・ブレックがアーク大頭領に就任し、尚も交渉を続け、現在に至っている。
宇宙船がコロニー内部に入ると、そこは300m以上の超高層ビルが幾つも並び立つビル群となっていて、道路にはリニアモーターカーのような磁気を動力としている自動車が走り、街中や公園には子犬型のロボットを散歩に行かせたり、アームを装備したり、ASに似た作業用の機体に搭乗して工事等の作業を行っている人、またはそれを手伝うAIロボットの姿もあった。
ラルドとヘレナたちは簡易的なモノレールのようなものに乗り、首都メガロポリスにあり、700mを誇る大統領官邸コルサントに向かった。
そこにはKCIA のセネイトガーディアンに似たポリスガーディアンやコロニー製のASであるガーディアントルーパー等が周囲を警護していて、案内を受けて最上階にて、アーク大統領ドン・ブレックと会った。
「地球圏連合国最高評議会議長ヘレナ・ロックフェルドです。ブレック大統領、お会いできて光栄です。」
「貴女がこの度就任した議長殿ですか? 私もお会いできて光栄です。それにしても、こんな若い子が議長とは…将来が頼もしいですな!」
「いえ、そんな…」
「さて、本題ですが…今後での我が連邦と貴国との関係をどうお考えでしょうか?」
「我が連合国はASの開発によって軍事力を拡大し、デーモンビーストの魔の手から地球圏の4分の1を取り戻しつつあります。
しかしそれでも、進化し続けていくデーモンビースト全てに対処することが出来ず、技術力も貴国ほどではありません。
そこで、地球圏を我が連合国と貴国とで共同統治するための貴国との同盟を結びたいのです!」
「それは即ち、全てのデーモンビースト駆逐のために我が連邦の技術が欲しいと?」
「はいっ! 前議長は貴国に加盟を求めましたが、それは貴国の技術力欲しさに出した要求であり、対等なものではありません!
貴国の技術力が欲しいのは私も同じですが、我が連合国だけでは地球圏を取り戻すことは出来ず、貴国の協力は必要不可欠です。そのため、私は貴国とは対等な関係を持つため、同盟を検討しました!
もちろん、これは本国の議会からでも承認は得ています。後は貴国の承認さえ、得れれば…」
「なるほど…確かにデーモンビーストの厄介さは我が連邦も認識していますし、只でさえ、悪魔の審判以前でも劣悪な地球環境をデーモンビーストによって荒らされた後の地球再生を行える程の技術は我が連邦にありますので、貴国との協力は確かに必要不可欠ですね…」
「では…!」
「しかし…既に貴国でも話は聞いている通り、我がコロニーに反連邦政党が台頭していて、それを支持する市民や議員も少なくなく、承認はかなり厳しい状態となります。」
「しかし…それでは、両国の関係が…」
「ですが、同盟ではなく不可侵条約という形なら、可能です。
そもそも連中は我が連邦が貴国に屈する可能性があれば、それを口実に市民を扇動していて、例え、同盟でも、貴国に屈する行為として更にコロニーを混乱させるでしょう。
しかし不可侵条約なら、どうとでも言い訳は出来ます。それでよろしいですかな?」
「ありがとうございます! 地球の再生と人類の統一のために両国と親密な関係を…」
「こちらこそ。」
後日、連邦議会で承認が得られ、地球圏連合国とコロニー連邦アークとの不可侵条約が結ばれ、デーモンビースト駆逐と地球再生のためにコロニーは地球に技術提供を行うことを約束した。
その後、ヘレナはジグラットに居座り、しばらくそこで生活し、コルサント前のデモをポリスガーディアンとASのガーディアントルーパーが威嚇射撃をしている様子を最上階の執務室の窓から見ているブレックの元に大統領補佐官のアーマンド・コルプが立ち寄った。
「また、デモですか?」
「ああ、相変わらずだ。」
「本当に懲りない連中ですね。所詮、後ろ楯もいない無法者の寄せ集めに過ぎないというのに…」
「前大統領ネビルも後ろ楯がいなかったから、後ろ楯のいる前議長モーゲンソウの圧力に勝てず、無様に大統領選を降りた。」
「ですが、我々には地球にあるホテップ社本社とは別に逃げ延び、このコロニーに支社を置いたホテップ社の支援を受け、市民の支持も得て大統領選に勝利しました!
条件は地球と同じですが、いくら財団の者といえでも、あんな理想主義を掲げる小娘では我々の相手になりません!」
「だが、本社は地球にあるため、まだあちらに分がある…」
「では、あの小娘を傀儡にすると?」
「何しろ、ホテップ社は2000年以上世界経済を掌握し、君臨し続けたパラディウス家の企業だ。あれを味方につけることは即ち、世界を手に入れるに等しい。
それに我がコロニーの技術は地球にとっては喉から手が出る程、欲しい。このまま技術提供を行えば、地球は我がコロニー無しでは生きてはいけん。
いずれ、ホテップ社が地球に見切りをつけてこちらに付くのは目に見えている。
そうなれば、地球は我がコロニーの植民地となり、我等のが悲願である地球帰還計画は達成される。
そうなれば、官邸前で騒いでいる輩を黙らせるだけでなく、お払い箱に出来る。」
「それに我々には現在、開発を進めている月面に例の遺跡があります。あれを見せれば、ホテップ社は確実に我々に付くでしょう。」
「だからこそ、あの小娘議長をそこに招くようにした。あれを目の当たりにすれば、我々アークがその名の通り、地球に君臨する国家として連合国を傘下に出来、私は地球再生の救世主となる。」
「閣下の栄光は未来永劫語り継がれることになります。」
コルサントにいるラルドはヘレナを通じてブレックにお願いして、悪魔の審判に関する資料と文献を集めていたが、詳しい情報を書いているものは無かった。
「どう?」
「駄目だ! どの文献も似たようなことばっかりで、収穫はゼロだ。」
「せっかくここまで来たのに何の情報も得られないなんて…」
「(それにしても妙だ…ここにある資料や文献も連合国にあるのと全く同じのことしか書かれてない…
地球と違ってデーモンビーストの影響を受けていないということもあるが、地球と全く同じ情報しかないのは明らかに不自然だ…もしや、あの惨劇には地球、コロニー共に知っちゃいけないことでも…?)
ねぇ! ヘレナ。このコロニーに歴史資料館とかあるの?」
「最近、新しく出来たのがあって、明日公開されるって聞いたわ!」
「明日…参ったな。その日はヘレナがブレック大統領の招待で月に行くからな…」
「だったら、ラルドはそこに行った方が良いんじゃない?」
「でも、僕は護衛が…」
「大丈夫よ! 元々あなたはコロニーで悪魔の審判の情報を集める
任務のために私と同行した訳なんだし。」
「でも、護衛は1人でも多い方が…」
「大丈夫よ! グリスがいるから!」
「しょうがないな…」
「(能天気な奴だ…)」
不可侵条約を快くみず、尚もジグラット前にデモを起こしているデモ隊、それはブレックが言った反連邦政党、スパルタカス党であった。
スパルタカス党は80年前、マルクス・ウォッカという者が創設した政治結社で、コロニーに支社を置くホテップ社の資金援助もあって開発された作業用の小型ASやアーム等によってコロニー内での建築や作業効率等に大いに貢献し、コロニーの技術を飛躍的に上げてきたが、地球と違い、資源がコロニーと月でしか得られないため、数に限りがあり、そういったものを購入出来るのは現大統領のブレックを初め、ホテップ社を後ろ楯とする一大企業出身か資産家といった富裕層ぐらいで、それ以外の労働者等は低賃金しか与えられない企業しか働けず、コロニー内の辺境の地で多くの失業者と共に追いやられた。
やがて、不満が爆発した彼等は産業革命時のイギリスで起きたラダイト運動のような機械の破壊活動をコロニー各地で起こし、そんな彼等を指導するようになったのがマルクス・ウォッカだった。
マルクスは富裕層出身が機械を独占し、AI初め機械文明の発達が今のような不平等な世界を築いたとし、そのような世界を正すには発達した機械文明を破壊し、政府を乗っ取って自由で平等な社会を築くことが我々の行動だと煽動するとラダイト運動に乗じて軍倉庫を襲撃、クーデターを画策したが、まもなく計画を知ったアークの国軍によって鎮圧され、マルクス初め首謀者は処刑された。
「これで終わったと思うなよ! この私が死んでもスパルタカスは滅びん! 我が意思を受け継ぐ者が現れる限り、永遠に不滅なのだ‼」
処刑される直前、負け惜しみのような言葉を放ったが、その言葉通り、スパルタカス党は労働者の支持を集め、小さい政党ながらも解散されることなく存続し、党内部ではマルクスを神格視する者までいた。
このクーデターの鎮圧後、民間人による武装化の解除及びコロニーでの秩序安定維持のため、アーク議会は軍と警察を統合したポリスアーミーを結成し、対人用兵器であるポリスガーディアンやポリスアーミー専用のAS、ガーディアントルーパーが新たに開発された。
同時にAIや機械化技術は更に目まぐるしい発展を遂げ、犬や猫のクローン化は生命の冒涜だと主張した過激派環境保護団体の反対もあり、その代替としてペットロボットの開発、更に人間と同じような人格を形成できるAIを搭載した介護ロボット、親代わりとして孤児や身寄りの無い子供たちを世話するアンドロイドも開発される等、人々の生活に大いに貢献していったが、それはAIに支配されたおぞましい世界だと過激派環境保護団体と手を組んだ反AI団体も現れるようになり、やがてそれらも吸収したスパルタカス党は更に市民の支持を得て巨大な政党へと成長を遂げていった。
コルサントから数キロ離れた場所で現スパルタカス党総帥レニン・ブラッドが民衆の前で演説を行っていた。
「現在、コルサント内でデモを行っている我々の同士たちは血の通っていない冷血な機械によって取り押さえられている!
今や、我がコロニーはAIとそれを利用する者共によって支配され、我々のような労働者や環境保護団体は蔑ろにされている。
このまま進めば、人類は機械によって支配され、いずれ滅びるであろう! だが、そうならないためにも、我々がすべきことは…
そうっ‼ 我々の生まれ育った母なる地、地球を取り戻すことだ!
そうすれば、我々は人類としての命と誇りを取り戻すことが出来るのだ‼」
ウオォ~‼
支持者の歓声を上げる中、側近が横で何かを伝えると、その場を離れていった。
「ポリスガーディアン共がこの辺りにも来るとは…相変わらずしぶとい奴等だ。」
「幸い我々の本拠地は知られてませんが、いずれ早急に手を打つ必要があります。」
「心配ない。我々の本拠地はブレックごときに知られはせん。最も知ったとしても、まず手は出せんがな…」
「ですが、ブレックの元に潜ませた我が党の工作員からの報告によると、月面基地建設の際に発掘された例の遺跡をブレックの目に止まり、明日、例の小娘を月面基地招待の際にその遺跡を公開するつもりだと報告がありました!」
「何だと⁉」
「未だ、国民の支持は我が党にあるとはいえ、不可侵条約に加え、あの遺跡を好材料にされては、奴の一人舞台にされてしまいます! 早急に手を打ちませんと…」
「なら、丁度良い。例の傭兵を出撃させろ!」
「あの傭兵をですか⁉ しかし、あれは我々の蜂起の時に使うべきでは?」
「あの遺跡をブレックごときに渡っては我等の蜂起は叶わん。それに蜂起の前に奴等の性能を試すいい機会だ。指示を出せ!」
「はっ‼」
「それに党員に歴史資料館にも手を回すよう伝えろ。」
「はっ…」
「ブレックがあの遺跡を見付けたなら、奴は悪魔の審判の情勢や300年前の地球派遣のことまで市民に公表する可能性が高い。先手を打って阻止しろ!」
「了解しました!」
場所は変わって地球ではデーモンビースト殲滅とテロ鎮圧のために特務隊が新たに入隊した者を選抜していた。
「どうかね? 今回の入隊者に選抜出来そうなのは…」
「1人だけです。それもセメタリーファングに配属し、テロ鎮圧でも戦功を上げ、少尉になった特務少佐のご子息に次ぐ程の者です。
しかも、その逸材がブラッディ特務少佐が引き取っている子とは…まさか、ブラッディ少尉と同じ教育でも施したんですか⁉」
「いや、あれは彼女自身が鍛えたもので、それに入隊も彼女の願望で、私はあくまでそれに応えたに過ぎない。
最も、あれだけの能力を持っていることは私自身、想定外だったよ。」
マッカーシーとブラッディの元にある人物が現れた。
「来てくれたか。君には特務隊に配属してもらった。今後の活躍に期待しているよ。」
「はいっ! この度着任したノア・アベラス特務二等兵、特務隊としてデーモンビースト殲滅のために尽力していきます!」
To be continued
次回予告
歴史資料館に向かい、悪魔の審判に関する情報を集める中、スパルタカス党によるテロに逢い、その工作員に拉致されそうになったラルドを救ったのはコロニーの辺境にある廃れた廃ビルに拠点を置く自警団暁と名乗るジャンク屋だった。そこに匿われたラルドはコロニーの実情を知ることになる。
その一方、ヘレナとグリスはブレック大統領の招待で月面基地へ赴き、そこで発見された遺跡を目の当たりにするが、そこに今までとは違う異形の姿をした3体のデーモンビーストが現れた。
次回 「自警団暁」




