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Episode16「グリスのプライド」

 西暦2325年、地球は度重なる戦争と環境変化に伴い、地球が人類にとって住みにくい星になるのは最早時間の問題となった。だが、人類はコロニー建造や月面基地の開発等、宇宙進出を果たす程の技術を手に入れ、やがて他惑星での移住計画も推し進めた。

 だが、その最中、突如として謎の巨大不明生物が現れ、人類に牙を向け、襲い掛かってきた。人類はその正体不明の巨大生物にありとあらゆる兵器で迎え撃ったが、巨大不明生物はあらゆる兵器も通用せず、人類を食い尽くし、人類はその巨大不明生物によって大半を滅ぼされた。

 やがてその巨大不明生物はデーモンビーストと呼称され、デーモンビーストによって人類の8割が死滅させられたその惨劇は「悪魔の審判」と呼ばれるようになった。それから数世紀に渡って地球はデーモンビースに支配され、僅かに生き残った人類は尚もデーモンビーストの支配に抗ったが、度重なる資源不足に陥り、それを補うために人類同士による争いが頻発に行われ、世界は混沌となっていた。

 悪魔の審判から800年後、西暦3125年、人類は対デーモンビースト用として人間が搭乗出来る巨大人型機動兵器を開発し、デーモンビーストを駆逐し、新たな国家を建設、徐々にその支配圏を取り戻しつつあり、人々は悪魔の審判以前の世界に戻れると確信していた。だが、人類は知らなかった、これから行われることはその悪魔の審判以上の脅威が襲い掛かってくることを…



 廃墟となった地下都市に潜むバスタドルスの包囲網を掻い潜り、マスクの男ことゲリング・ダグラスとアスモゲルデに乗ったグリスに付いていったラルドたちはゾーンに到着した。


 暴走したアモンボアがここに侵入した時に1度来てはいるが、その時は暴走したアモンボアを討伐するので背一杯だったため、詳しくは見ていなかったが、今回はゆっくり見ることが出来た。


 この地下都市には地上のメトロポリスに負けないような栄えた都市ということを物語っているビル群があったものの、それもほとんど使われず、先程の地下都市と同じ廃墟のような状態となっており、人々が住んでいる住居も丸でスラム街のような有り様だった。


 「ここがゾーン……いや、ジオフロント。」


 「そうだ! かつてはデーモンビーストによって地上を支配されたため、その避難地として、数世紀に渡り、地下都市ジオフロントとして地上のように栄えてはいたが、首都が旧ワシントンであるメトロポリスに移行したことによって必要のない土地として財団に認識され、財団にとって都合の悪い人間を追放するのにうってつけの場所になって今に至ったのだ…」


 「そんな…」


 「知らないのも無理は無い…ここの実態は財団が評議会議員を通じて、マスコミを抑え、情報統制をしているため、地上のほとんどの人間はこのことを知らない。今じゃ、ここをジオフロントではなく、ゾーンと呼ばれてるのもそのためだ。

 君の父上…いや、現財団会長も財団にとって都合の良い存在にするため、教えていない。

 君に辛く当たるのも、君が望まぬ形にならない故の八つ当たりに過ぎない…」


 「私…何も知りませんでした……」


 「けっ、気付くのが遅ぇんだよ!」


 「グリス! お前はもう少し口を慎め。」


 「あれは…?」


 ラルドが指差すと、街のあちこちにセネイト・ガーディアンが街中をウロウロしていた。


 「KCIAのセネイト・ガーディアンだ…」


 「セネイト・ガーディアン?」


 「現議長と現会長がデーモンビースト殲滅とテロ撲滅のために設立した中央情報局KCIA、そしてそのKCIAがテロ殲滅のために生身の兵士に成り代わる機械兵士として開発されたのが、あのセネイト・ガーディアンだ。」


 「そのセネイト・ガーディアンがどうしてここに…?」


 「反連合国のテロリストに参加している者がここにいるという可能性があるとして、その警戒と監視体制に当たっているのが名目だが、実際は反財団派の動きを監視しているのが主な理由だ。」

 

 「じゃあ、反財団派というのは…」

 

 「そう、こうした格差を無くすために活動しているに過ぎない…だが、財団にとっては自分たちの権力が奪われる恐れがあり、邪魔な存在でしかないのだ…」


 「そんな…ただでさえ、デーモンビーストが蔓延っているこの世界で財団がそんな弾圧染みたことを……」


 「権力者の考えることは古今東西、どこの時代も同じということだ…」


 「でも、あれだけ警戒されたら、僕たちも進めない…」


 「そのために私がいるのだよ!」

 

 ゲリングは足元のマンホールを開き、その中に案内させ、そこは廃棄された地下水道だった。


 「地下の中に地下水道があったなんて…」


 「この地下都市はデーモンビーストが蔓延る地上の代わりとしての人類の居住区として造られたものだ。だから、地上を模倣してこの地下水道も作られたのだ。

 最も、地上の覇権を取り戻すようになると、ここもほぼ意味を成さなくなったが、オカゲでここなら、セネイト・ガーディアンの警戒網は届かないので、アスモゲルデはここに隠している。」

 

 「それで、どこに向かっているんですか?」


 「隠れ家さ!」

 

 再びマンホールから出ると、既にそこは地下都市のスラム街であり、そこにある家に着いた。

 

 「ちょっと待て! ここ、俺の家じゃないか‼」


 「ああ、そうだ。何か問題でも?」

 

 「有りすぎだ‼ 何でコイツらを俺の家に居座らせるんだ⁉」

 

 「ここが一番適任だからだよ。ましてや、許可取ってるのもここだけだし…」

 

 「許可だと⁉ 一体誰の?」


 「あら~、来てくれたの?」


 その時、母親らしき人物が入口から現れた。

 

 「ご無沙汰してます! 奥さん。こちらの3名が例の者です。しばらくこちらで預かってもらえますか?」


 「構いませんよ! 当ての無い人をほぅっておけませんからね」


 「ちょっと! まさか、母さんまでこんな変なマスクの男を信用するのか⁉」


 「その人のことは以前から知ってるから、大丈夫よ! 最も、私の前でも仮面は外してくれないみたいだけど…」


 「企業秘密なんですよ。KCIAや財団関係の者に見られると色々と厄介なんでね…」


 その言葉にラルドは少し疑問を感じた。


 「さあさあ、上がって! 美味しいもの一杯用意してあるから!」


 「では、お言葉に甘えまして…」


 「たくっ!」








 ラルドたちがゲリングとグリスに保護され、ジオフロントにいる中、特務隊の艦は未だ立ち往生の状態にあり、マルコは艦内をウロウロしていた。


 「ヘレナはまだ行方不明…部隊も鑑も膠着状態……ああっ、もうっ! 一体どうすればいいんだ‼ イタッ! おい、ちゃんと前見て歩け! 邪魔だ!」


 目の前にいたのは落ち込んだ表情のノアだった。


 「そう…邪魔なのね……」


 「あっ…いや、その…前見てない俺が悪いんだ! 君のことじゃあ…」


 「結局、私…何も出来ることなんて無い……側にいただけで、ヘレナさんやラルドの何の力にもなれなかった……」


 「そんなことないよ! 君は立派に…って、そういえば、君はどうしてヘレナと同行することにしたの?」


 「わからない…」


 「わからないって……」


 「あの時、何かに怯えてヘレナさんの側を離れたくないって一緒に付いてきたけど、一体何を怖がっていたのかよく思い出せないの…」


 「えっ…どういうこと……?」


 「私、何だか時々、記憶が途切れてるの…私と最初に会った時のこと覚えてる?」


 「ああ、あの廃れた教会だったな…」


 「あの時もそうなの。何だか記憶が途切れてるし、それに前からあの教会にいて、暮らしたことがあるような気がするの…」


 「それは有り得ないよ! だって、あの教会、30年前に…⁉ (そういえば、俺もノアに会った時も微妙に記憶が途切れてる…確か、ラルドの休暇期間の時だ。何故か、あの期間の数日間だけ、余り覚えてないんだよね……)」


 その時、ノアが窓の外を見て何かに気付くと、


 「ねぇ…あれ、何?」


 「ん?」


 鑑の前に現れたのはデナムのタイタロスと共に進撃した統制連合艦隊だった。


 「マッカーシー特務大佐! 只今戻りました!」


 「デナム大尉! これは一体どういうことかな?」


 「はっ! 現在、ヘレナ・ロックフェルド嬢は統制連合艦隊の元で保護され、その場所にお連れするため、戻りました。」


 「その情報…本当なんだろうな……?」


 「私が保障します!」


 マッカーシーは少し考え込んだが、


 「いいだろう! 案内してくれ!」


 「はっ!」








メトロポリスの評議会ビルの議長室では相変わらず、ヘレナの所在に関する情報は手に入らず、議員たちをかなり焦らせていた。


 「時期財団会長の安全は万全なんだな?」


 「それは抜かり無く…」


 「財団会長の後継は万全だというのに、問題はヘレナ嬢の所在か…KCIAからの情報もまだか?」


 「まだのようです…」


 「う~む…議長選まで残り一週間を切ったというのに…」


 「議長! 一刻の猶予もありません。やはり、再戦を検討すべきかと…もし、反財団のマクマリーが議長になれば、ホテップ社からの資金援助は得られなくなります! そうなれば、宇宙との関係もますます危うくなるかと…」


 「そうだな…もう流暢に待つ必要はないな。ならば、この際、ヘレナ嬢は切り捨てる! 現会長のハリー殿も同じだろうからな。だが、しかし、もし、彼女が生きててここに議長選の時に戻ったらどうする?」


 「そうなった場合の手筈は整えてあります! 万が一、彼女が反財団派の傀儡になる可能性もありますので、極秘に始末する手筈も万全です。」


 「そうか…」











 タイタロスと統制連合艦隊と共に特務隊の艦はヘレナが保護されているとされる場所に向かったが、前を歩く統制連合艦隊のアルケーダ部隊が蜘蛛の糸に絡まれて引きずり込まれ、周囲から多数のバルガ(雄)が現れた。


 「クソッ、こんな時にバルガか‼」


 特務隊と統制連合艦隊はこれを迎え撃ったが、予想以上に数が多く、劣勢に追い込まれていた。


 「クソッ! この数、尋常じゃないぞ‼ 一体何処から、これだけの数が⁉」


 「特務大佐! あれを‼」


 その時、バルガ(雄)の群れを率いるようにバルガ(雌)も現れた。


 「バカな! 普段巣にいるはずの雌のバルガが何故ここに⁉」


 「もしや、我々が討伐したロッキー山脈に巣を這ってた個体の生き残りか…あの後、辛うじて生き残って成長した個体が巣を破壊されたために放浪したまま繁殖したということか…」


 「全軍! 迎え撃て‼ 司令塔は雌だ! 雌を撃破しろ!」


 特務隊と統制連合艦隊が攻撃目標を雌のバルガにしたが、雄の群れが部隊の数を上回っていたため、それを防がれ、雌に攻撃を加えることは出来なかった。

 更に雌は巨大な前足で雄ごと部隊のASを踏み潰しながら、特務隊の鑑に向かって進んでいった。


 「しまった! 雄は囮で最初から鑑が狙いか! 不味い! 今の鑑にはASは無いほぼ無防備状態だ! 行かせるわけには…」 


 「特務大佐! 私が行きます!」


 タイタロスが向かおうとしたが、雄に阻まれてしまい、雌はそれにお構いなく鑑に向かった。

 特務隊の鑑は主砲で迎え撃ったが、雌はものともせず、鑑にのし掛かり、前足で鑑の甲板を引き剥がし、鑑の人間を1人1人見付けては糸で捕らえ始めていき、やがて、残ったのはマルコとノアだけとなった。


 「クソッ、コイツ、全員捕まえてからゆっくり喰うつもりか…デーモンビーストの割にセコい奴だ…」


 ノアはマルコの後ろで怯え、その姿を見たマルコは彼女を庇い、

 

 「(クソッ! ヘレナを守れず、またこんな子まで失うわけにはいかない! ここで男を見せなきゃ…)

 ノアには一歩たりとも近付けさせない‼」


 しかし、その勇気も虚しく、マルコはバルガ(雌)の糸で壁に磔にされた。


 「マルコ!」


 「ノア…逃げろ……」


 バルガ(雌)は最後の1人となったノアにも目を付けた。


 「私…こんなところで死んじゃうの……ラルドやヘレナがいないと何も出来ないの…」

 

 その時、背後にあるセラヴィムに気付くと、

 

 「そんなのイヤ! 私だってやれることはあるはず!」


 バルガ(雌)がノアに向けて吐き出した糸を瞬時に避けると、ノアは並みの人間ではあり得ないような挙動と俊敏さでセラヴィムのコクピットに乗り込んだ。


 「止せ! ノア、そいつはラルドじゃなきゃ動かせない!」


 「動いて! 動いて!」

 

 しかし、いくらコントローラーを作動してもセラヴィムは応答しなかった。バルガ(雌)は前足でセラヴィムを捕らえ、コクピットのハッチをこじ開けようとした。


 「やっぱり、私には何も出来ないの…? 何も出来ないまま、ここで死ぬの……? 私はいらない存在なの……

 そんなのイヤ! ここで死にたくない‼ だから、動いて! 動いてよ‼」


 その時、突然、セラヴィムが起動すると同時に暴走状態と同じように目を赤く発光させるとミサイルポッドから数発、バルガ(雌)の顔に直撃させ、怯ませると蹴りだけでバルガ(雌)を鑑から引き離した。

 セラヴィムはすかさず、取り出したブレードメイスを持ってバルガ(雌)に襲い掛かり、負けじとバルガ(雌)はその動きを封じ込めるために糸を吐いたが、ノアの乗るセラヴィムはそれを予測していたかのように寸前で避け、装備していたナイフを投げつけ、目に突き刺した。

 悲痛の叫びを上げ、錯乱するバルガ(雌)は前足でセラヴィムを踏み潰そうとしたが、セラヴィムはそれを受け止め、その体格差にも限らず、そのまま投げ飛ばした。

 それを見たバルガ(雄)はセラヴィムに襲い掛かったが、セラヴィムはそれらの攻撃も悉く回避し、ブレードメイスで両断した。


 「特務大佐…セラヴィムが……」


 「バカな! オルスター特務二等兵はここにはいない…では、あのコクピットに誰が……」


 体勢を立て直したバルガ(雌)は突進を仕掛けるも、セラヴィムは慌てること無く、4発のミサイルを放った後、それをライフルで自ら撃破し、その爆風でセラヴィムの姿が一瞬見えなくなってバルガ(雌)は目標を外し、その一瞬の隙を逃さず、セラヴィムは死角に入って、バルガ(雌)の前足をブレードメイスで斬り落とし、転倒したバルガ(雌)の脳天を上からブッ刺すように突き刺し、バルガ(雌)はそのまま活動停止して

絶命した。

 司令塔であるバルガ(雌)が倒されたことにより、バルガ(雄)は動揺し始め、これ以上の行動は出来ないのか、全てその場から立ち去った。


 「助かった…のか……? それにしても、あのセラヴィムに誰が…」


 「凄い…相手の動きが見える……それにセラヴィムが応えるように私の思う通りに動いてくれる……いける…これなら、今度は私がラルドとヘレナを守れる。」


 有頂天になったノアはセラヴィムはそのまま鑑と部隊を離れて何処ぞへと走り去っていった。


 「何⁉ クソッ、逃がすか‼」


 「特務大佐! バルガの襲撃で我が隊はかなりの損害を被っています! 今、追跡するのは危険です!」


 「しかし、このまま、セラヴィムを逃すわけには…」


 「でしたは、特務大佐! セラヴィムの追跡は私がやります! 幸い、我が統制連合艦隊の損害は少ないです。残り隊は彼等に…」


 「でしたら、私もいきます! あのセラヴィムの動き、明らかに並みの人間のものではありません! ここは1機でも多く必要でしょう。」


 「わかった! デナム大尉、オクタヴィス特務大尉! セラヴィムの追跡を任せたぞ!」

 

 「はっ!」









 グリスの家で匿うことになったラルドたちはグリスの母のご馳走を頂くこととなった。


 「さあさあ、遠慮せず、食べなさい!」


 「ありがとうございます! 頂きます!」


 ラルドが美味しそうに食べる中、ヘレナだけは浮かない表情をして食事を躊躇っていた。


 「どうしたの? お嬢ちゃん! ちゃんと食べないと身体に悪いよ! それとも、何処か、具合でも悪いの?」


 「いえ…何でも……」

 

 「やうねぇ! あなたが財団のお嬢様だからって別にあなたを差別したりしないわよ!

 確かに、ここの人たちは財団を嫌っているけど、何も全員がそうってわけじゃないし、あなたがやったわけでも、あなたが私たちを差別しているわけじゃないでしょ?

 それに聞いてるわよ! あなたもあなたなりに国のために頑張ってるって!」


 「でも、私、あなたたちのこと何も知らなくて……」


 「もうっ! それで迷ったら、この先迷ったてばかりで前に進めないわよ! ほらっ、食事ぐらいちゃんと食べないと栄誉もつけられないわよ!」


 「ありがとうございます! 美味しい!」


 少し元気を取り戻して食事するヘレナの横で、少年は両手で食べ物を掴み、犬のように皿へ顔を突っ込みながら喰らいついていた。それを見ていたグリスの妹のマリアは、


 「コラッ! 何て食べ方してるの‼ ちゃんとフォークとスプーンを使って食べなさい!」


 マリアがフォークとスプーンを少年に渡すが、少年は使い方を理解していないのか、それを投げ棄て、尚も同じ食べ方をした。

 

 「もうっ! 何なのよ‼ お姉ちゃんの言うことぐらい聞きなさいよ!」


 「こらこら、マリア! そんなに怒ると立派なお姉ちゃんになれないわよ!」



 「でも!」


 「あの子、もしかして戦災孤児かしら?」


 「デーモンビーストに襲われている時に拾いました。両親はいないみたいですし、口も利けないそうです…」


 「可哀想に…ちゃんとした教育も受けられずに育ってきたのね…… マリア、せっかくだから、その子の世話、お願いね!」


 「え~⁉ 何で?」


 「前から弟欲しいって言ってたじゃない! だから、弟だと思ってちゃんと世話しなさい!」


 「しょうがないわね! じゃあ、お姉ちゃんと遊ぼうか! こっちにきて!」


 食事を終えたラルドとヘレナは、マリアと共に遊んでいる少年の様子を見た。少年は相変わらず口は利けないものの、マリアの言ってることは理解している様子で、マリアと上手くいっていた。


 「何とか、上手くいってるみたいだね!」


 「えぇ…」


 見守るヘレナにラルドは少し疑問を感じた。


 「ねぇ! お姉ちゃん! この子の名前なんて言うの?」


 「えっ…」


 「(参ったな…あの子に名前なんてわからないし、つけてないんだった…どうしよう……)」


 「カイル…カイルって名前よ!」

 

 「へぇ~、じゃあ、カイル! 今度はあや取り教えて上げよっか!」


 「ヘレナ、どうして名前を…」


 「私の弟の名前なの…」


 「弟? ヘレナに弟がいたの…」


 「うん…私の大事な弟なの……」


 「でも、君の弟に会ったこと無いけど、一体、その子は……」


 その問いにヘレナはしばらく黙っていたが、2人の元にグリスが立ちよった。


 「ここにいたか! 親父とゲリングの指示があるまで待機しろとのことだが、随分楽しんでるようだな…

 ところで、お前…地上に戻ったらどうするつもりだ?」


 「今はどうすればいいのか、わからないわ…」


 「全く! こんなんでよく議長になろうと思ったな…所詮は箱入りお嬢様ってことか!」


 その言葉にラルドはムッとし、


 「そんなことはない! ヘレナは頑張ってるんだ! カイルのような孤児のために孤児院だって作ってるし、お父さんに嫌われても、それでも憎まず、人々のためにやってるんだぞ!」


 「ラルド…もう、いいわ……私が甘いだけよ……」


 「ヘレナ…」


 その時、カイルが何かを感じ取って警戒する犬のように唸り声を上げ、同時にラルドも何かを感じ取った。


 「どうしたの?」


 「感じる…何かが来る……」


 「何かって…?」


 その後、突然、ジオフロント内で地震が起こった。


 「何⁉ 地震!」


 「いや…揺れ方が少し違う! これは……」


 ジオフロントの向こう側にある廃れた街跡から何かが這い上がってきて現れたのはモグラとネズミを合わせたような姿のデーモンビーストだった。


 「デーモンビースト‼ しかも、あんなタイプは見たことがない!」


 「とにかく、一刻も早く逃げないと!」


 「お前たちは母さんやマリアを連れて先に逃げろ! 俺はアイツを食い止める。」


 「そんな…1人じゃ、無理だよ! 僕も戦う!」


 「ふん! ASも無しにデーモンビーストと戦えるとでも言うのか?」


 「そ…それは……」


 「だったら、そんな奴は足手まといだ。とっとと逃げろ!」


 「ラルド、今はグリスの言う通りよ! 私たちも逃げましょ!」


 「わかった…でも1人だからって無茶するんじゃないぞ!」


 「ふん! お前に言われたくない!」


 ラルドとヘレナがグリスの母やマリア、カイルを連れてジオフロントの市民と共に安全地帯まで逃げる中、グリスはアスモゲルデに乗り込み、両手の巨大な鉤爪で街を破壊していくデーモンビーストに立ち向かった。

 モグラ型のデーモンビーストは巨大な鉤爪でジオフロントの街を削り取って中にいる人間を炙り出そうとした。


 「俺の街の人たちに手を出すな~‼」


 アスモゲルデはアモンボア討伐の際にも使用した巨大ランスで頭部を突き刺そうとしたが、デーモンビーストはその動きに勘づき、鉤爪でそれを受け止め、そのまま投げ飛ばし、その衝撃で崩れたビルの下敷きになってしまった。


 人々を安全地帯に誘導したラルドたちだったが、1人の女性が誰かを捜していた。


 「リノ~! リノ~‼」


 「どうしたんです?」


 「娘のリノの姿が見えないの! もしかしたら、まだ街の中に…」


 「私が捜します!」


 「あっ、待って! ヘレナ! 1人じゃ無理だよ!」


 「こんな私だって出来ることぐらいはあるわ!」


 そういって街の中に戻っていくヘレナの後にカイルも付いていった。


 「あっ、カイル! あの2人は僕が何とかします! それまでに何とか逃げてください!」


 「わかったわ!」



 ジオフロントの街で1人取り残された少女は大事な人形を探すために残っていたが、倒壊した建物の影響で入口を塞がれていて出られない状態になっていた。

 その瓦礫中を何とか渾身の力で引き上げたヘレナがリノと思われる少女を見付けた。

 

 「あなたがリノね! ここは危険よ! 早く逃げましょ!」

 

 「うん、ありがとう! お姉ちゃん!」


 しかし、そこにデーモンビーストが鉤爪で瓦礫を掘り起こしてヘレナとリノを見付け、狙いを定めてアリクイのような長い舌を伸ばして捕らえようとした。しかし、デーモンビーストが鉤爪で瓦礫を掘り起こしてヘレナとリノを見付けると、バジリスクのような長い舌を伸ばして2人を捕らえようとした。怯えるリノを守るようにヘレナは抱き抱え、

 

 「お…姉ちゃん……」


 「大丈夫! お姉ちゃんが守るから!(私の命はいい…せめてこの子の命だけでも……)」


 デーモンビーストが2人を捕らえようとした瞬間、、瓦礫から現れたアスモゲルデが舌を掴み、そのまま引きちぎった。


 「勝手に死のうとするんじゃねぇぞ! お嬢様ごときがカッコつけやがって…」

 

 「グリス…」

 

 「とっとと逃げろ! 死にたいのか‼」


 「行こう、お姉ちゃん!」


 「う…うん……」


 「ありがとう! お兄ちゃん!」


 手を振るリノにグリスは少し笑みを浮かべたが、直ぐに体勢を立て直してデーモンビーストと対峙した。

 デーモンビーストは舌を引きちぎられたため、声を出せないものの、唸るような表情で睨み付け、両手の鉤爪で引き裂こうとして襲い掛かり、アスモゲルデは新たに装備したドリルランスで迎え撃った。

 アスモゲルデのドリルランスをデーモンビーストは鉤爪で受け止め、ドリルランスをそのままドリル回転させたが、鉤爪が砕かれるのは時間の問題となっていた。

 しかし、その最中、リノを連れて逃げていくヘレナを見付けるとデーモンビーストは口から黒い煙をヘレナとリノに向いて吐き、その煙を吸ったヘレナとリノは呼吸困難になり、更に身体が痺れて動けなくなった。


 「な、何……この煙…息が…身体が動かない……」


 「小賢しい奴め!」


 アスモゲルデは直ぐ様片手でライフルを取り出したが、デーモンビーストはアスモゲルデの目の前にも黒い煙を吐き、周囲の視界を一気に失った。


 「くっ! 煙で俺を撹乱させる気か…だが、いくら見えなくても、音を拾えば、位置等…」


 しかし、黒い煙は僅かな隙間を通ってコクピットの中まで入っていった。


 「何⁉ ゴホッ! ゴホッ‼ まさか、これが狙いだったのか⁉」


 ヘレナたち同様にコクピット内で呼吸困難になったため、アスモゲルデは沈黙してしまい、動けないのを良いことにデーモンビーストは鉤爪でアスモゲルデを引き裂くように攻撃し、機体の装甲が全て引き裂かれると遂にアスモゲルデは倒れた。

 その後、デーモンビーストは直ぐに止めを刺さず、目標をヘレナとリノに変えてゆっくりと近付き、巨大な手を伸ばして捕らえようとしたその時、黒い煙の中からカイルが現れ、人間とは思えない挙動でデーモンビーストに跳び移り、頭部まで昇ると片手でその目を突き刺し、デーモンビーストの片目を潰してしまった。

 デーモンビーストはカイルを振り払おうと暴れる中、ラルドも現れ、ヘレナとリノの元に立ちよった。


 「ヘレナ! 大丈夫?」


 「身体が…動かない……息が…出来ない……」


 「(もしかして、この煙、ガスみたいなものか…) 待って! 確か…ここに……

 良かった! 予備に持ってたガスマスクがあった! それにちょうど2人分だ!」


 ラルドは取り出したガスマスクをヘレナとリノに着用した。


 「大丈夫かい⁉ 2人とも!」


 「何とか…大丈夫だけど、それより、ラルドは? マスク無しだけど……」


 「僕なら、大丈夫! 何かよくわかんないけど、僕は平気みたい!」


 ラルドがヘレナとリノを背負ってその場から離れようとするのに気付いたカイルは直ぐ様デーモンビーストから離れ、その後を追って走り去っていった。

 体勢を立て直したデーモンビーストは逃がすまいと再び襲い掛かろうとしたその時、コクピット内にあったガスマスクを着用して体勢を立て直したアスモゲルデがドリルランス持って再びデーモンビーストに攻撃を仕掛け、鉤爪で受け止めようとしたが、間に合わず、腹に直撃し、緑色の血が流血した。それによって重傷を負ったデーモンビーストはこれ以上の戦闘は不利と見て攻撃を続行せず、その場から去った。


 「たくっ! あの胡散臭い仮面野郎はこんなときにどこほっつき歩いてやがる! そのオカゲでこっちはかなり手こずったと言うのに! それにしても…アイツとあのガキ、ガスマスク無しで、何故平気なんだ…? それにあのガキ、明らかに人間の動きじゃなかったし……」









 ジオフロント内でアスモゲルデがデーモンビーストを討伐した中、それを見て見ぬふりをして、ある調査活動をしていたKCIAの部隊はジオフロントの都市から少し離れた場所で、あるものを発見した。


 「目標のものを確認! これより、回収作業に入る!」


 ブラッディリーパーが見付けたのは少し埋もれている研究所跡のようなもので、それを掘り起こそうとしたその時、背後から何者かかの影がブラッディリーパーを一刀両断し、更に反撃する隙を与えず、残りの機体も全て撃破した。現れたのはラルドたちを救った正体不明機であり、そのコクピットにいたのはゲリングだった。


 「ふっ、KCIAの新型といっても、所詮、私のベルセスの敵ではないようだな。それにしても、テロリスト捜索を口実にやたら、ここを調査していたのはこういうことだったのか!

 確かに、これをここの人間に知られたら、奴等にとっては色々と面倒だからな。」


 掘り起こした研究所の中にはカプセルがあったが、既に割られて中身はもぬけの殻だった。


 「この様子では、相当の経ったわけではなさそうだ…」


 更に研究所跡の向こうを見ると、アスモゲルデが討伐したデーモンビーストとは別の何かが掘ったような通路があり、その向こう側にアスモゲルデが討伐したデーモンビーストの幼体と思われる個体が多数いたが、それらを巨大な手が掴み、一体ずつ貪り食っていた。

 そこにそのデーモンビーストが立ちよったが、既にその幼体は1体残らず全て食い尽くされており、遂にはそのデーモンビーストも背後から幼体を食い尽くした個体に捕らえられ、同様に貪り食われてしまった。


 ギシエェ~‼


 To be continued

 次回予告


 ゲリングに連れられてマクマリー議員と会うヘレナだったが、そこに待っていたのはヤマトと共にいたブラッディで、彼女を議長にするために議長選で辞退するようマクマリー議員と取引する代わりに財団以外の者を議員にすることを彼女に求めたのだった。

 議長選が迫る中、ラルドとカイルが何かの気配を感じ取ると、ヘレナたちのいる場所をデーモンビーストが襲撃し、そこに追ってくるようにノアの乗るセラヴィムまで現れた。

 だが、そのデーモンビーストは今までとはかなり異なる動きをしていた。果たしてその正体とは…そしてヘレナは何を決断するのか…

 次回「ヘレナの決意」少女の下した決意はやがて人々の意思を動かす

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― 新着の感想 ―
それぞれのキャラクターに隠された過去や謎が見え隠れしてきて、続きが気になります。
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