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第14話「ンガイの森」

 西暦2325年、地球は度重なる戦争と環境変化に伴い、地球が人類にとって住みにくい星になるのは最早時間の問題となった。だが、人類はコロニー建造や月面基地の開発等、宇宙進出を果たす程の技術を手に入れ、やがて他惑星での移住計画も推し進めた。

 だが、その最中、突如として謎の巨大不明生物が現れ、人類に牙を向け、襲い掛かってきた。人類はその正体不明の巨大生物にありとあらゆる兵器で迎え撃ったが、巨大不明生物はあらゆる兵器も通用せず、人類を食い尽くし、人類はその巨大不明生物によって大半を滅ぼされた。

 やがてその巨大不明生物はデーモンビーストと呼称され、デーモンビーストによって人類の8割が死滅させられたその惨劇は「悪魔の審判」と呼ばれるようになった。それから数世紀に渡って地球はデーモンビースに支配され、僅かに生き残った人類は尚もデーモンビーストの支配に抗ったが、度重なる資源不足に陥り、それを補うために人類同士による争いが頻発に行われ、世界は混沌となっていた。

 悪魔の審判から800年後、西暦3125年、人類は対デーモンビースト用として人間が搭乗出来る巨大人型機動兵器を開発し、デーモンビーストを駆逐し、新たな国家を建設、徐々にその支配圏を取り戻しつつあり、人々は悪魔の審判以前の世界に戻れると確信していた。だが、人類は知らなかった、これから行われることはその悪魔の審判以上の脅威が襲い掛かってくることを…

 アメリカ、ウィスコンシン州の北部にある巨大な湖、リッグ湖。その周辺にある森はンガイの森と呼ばれている。この森はどの地図にも記載されていないどころか、GPSにすら観測されておらず、そもそもこの森が実在しているのかすら信憑性がかなり怪しまれている。

 しかし、この森に関する目撃情報はいくつかあり、米英戦争後に開拓者が、南北戦争前後には戦争によって家族と土地を失った人々が新天地を求めてこの森に踏みいったが、いずれも消息を断ち、生き残った者は誰1人いないとされる。

 この森周辺の付近に住んでいる住民によるとその森は空を覆い被さる程の木々に囲まれ、昼ですら、太陽の光が森の奥に届かず、夜になれば、外界から切り離された異次元空間のようだとされ、その森は悪魔の森と呼ばれ、誰1人立ち入らない場所となっている。

 南北戦争終結後、この森に関して興味を持ったある考古学者が調査に向かい、付近の住民の反対を押しきって遂にその森に入ってしまう。後日、調査に向かった学者の助手がその森に立ち寄ると森の中に半魚人のような不気味な姿をした存在が幾つか森の奥に現れ、その助手に向かってメモを投げ棄て姿を隠した。

 そのメモには調査に向かった学者と思われる血痕が付き、その内容には朽ちかけた掘っ建て小屋が並んだ居住区と先程現れた半魚人のような存在が何体もその居住区に住んでいて、更には木とコケに隠されたように置かれた平石とそれが被り物なのか、身体の一部なのかわからないとんがり帽子のような頭と顔のない奇妙な姿をした人型の生物のスケッチが描かれていた。

 そのメモを受け取った助手は学者は不慮の事故で死亡したことにし、学会には伝えず、そのメモは燃やしたのか、誰の手にも渡らぬよう何処かへ隠したとされるが、そのメモが今でも残っているのか不明である。

 しかし、その森にとんがり帽子のような頭をした存在がいるという噂を聞き付けた者は当時、活発に活動していた白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)ではないかとされ、彼等が自分たちの本拠地を隠蔽するためにそこで活動していたのではないかと議論が行われたが、残念ながら、KKKが関わっていたという証拠は何も発見されず、そのとんがり帽子のような頭をした存在の正体も明かされず、真相は闇の中とされ、それ以来、その森は禁忌の森として完全に立入禁止区域となった。

 だが、西暦1867年、その森はあっという間に火に包まれ、僅か1日で焼け野原となり、その面影は影も形も無くなった。火災の原因は未だに不明で現地の住民によると全身が炎に包まれた不死鳥のような鳥が飛び去ったという目撃情報があったが、信憑性が薄く、その真相も闇の中とされている。

 ラルドとヘレナが会ったンガイ族と名乗った部族はかつてその森に住んでいた部族と語ったが、果たして彼等が本当にその森の出身なのか、またはその森の恐ろしさを後世に残すための詭弁で、実際はその周辺の住民だったのか、それすから誰も知る由もない。


 


 


 


 


 


 


 

 財団本部を訪れたホワイト副議長は控え室でブラッディ特務少佐と会っていた。


 「副議長がわざわざ私に用とは…緊急か、それとも内密のことですかな?」


 「実は折り入って君に頼みたいことがあるのだ。」


 「引き受けてやってもいいですが、今、私には手が離せない状態でして…」


 「新型ASの開発と量産化を急いではいるが、現状では資金が足りないため、その資金援助のために会長を通じてホテップ社に頼もうとしているのだろう?」


 「人が悪いですなぁ…そんな機密情報まで勝手に手に入れて…」


 「財団とホテップ社の連絡係でもある私に隠す必要があるとでも?」


 「敵わないですなぁ…で、私に何をしろと?」


 「確か、シカゴのパラディウス家の別荘に向かう予定なのだろう?そのついでといって何だが、あるお方をお連れして欲しいのだ。」


 「副議長殿は人使いも荒い…丸でパシりじゃないですか。」


 「本来なら、私がお連れしたいところだが、何しろ、例の爆破テロのオカゲで本国もかなり荒れてるからな。」


 「確かに…只でさえ、デーモンビーストだけでも手を焼いているというのに、テロリスト共のオカゲで軍上層部から新型ASの開発と量産化を急がされて、こっちは猫の手も借りたい状態ですよ!」


 「私と一緒に出れば、テロリストの標的にされる恐れがあるため、代わりに君にその役目を果たしてもらいたいのだ。」


 「一応、この私も軍内部では要人扱いではあるんですけどね…まっ、いいでしょう。そこまで言うなら構いませんが、しかし、それだけ用心するということは、もしかして会長のご養子ですか?」


 「察しがいいな。君も知ってる通り、現会長には時期会長となられるご子息がおられない。」


 「ユウナ殿があの事件で亡くなられたのですからなぁ…あれは不幸な事件でした……あの一件で財団もかなりの打撃を受けましたし、会長殿がヘレナ嬢につらく当たるようになったのもあの時からですからね…」


 「既に話は付けていて、ちょうどそのご養子となられる方はロンドンからシカゴのパラディウス家の別荘に向かわれて、現在そこにおられるそうだ。」


 「どんな方なのだ?」


 「ロックフェルド家の遠縁に当たり、パラディウス家とも親交のあるガイラ・イリウスのご子息だそうだ。」


 「ほぅ、イリウス殿の…」


 「CEO代理によると、聡明なお子だと聞いている。」


 「それなら、是非お会いしたいところだが、こう見えても私はAS開発部門の最高責任者だ。ASの技術が欲しいテロリストにとって私は無視できない存在だ。護衛無しに行けば、狙われるのは確実だが…」


 「それに関しては心配ない。オルドー元帥に頼んで、KCIAから護衛の特殊部隊を君につけさせといた。」


 「流石、準備が早いな。それなら安心した。では、早速シカゴのパラディウス家の別荘に向かうとするか。」


 「待て、お迎えさせるのは議長選後だ。急ぐ必要はない。」


 「こういう時だからだよ! 何せこれから何が起こるかわからない時代だ。出発を後回しにすると、いつ自分の命が狙われるかわからないからな。

 それに、時期会長となるご子息と交流を深めるチャンスにもなるからな。」


 「そうか…なら、君の自由にすると良い。ただし、オルドー長官には報告しといた方が良い。あの男は用心深いからな。」


 「十分承知だよ! 最もあの男なら、報告せずとも大体察すると思うがな。」


 


 


 


 


 


 


 

 マッカーシーの命令を受けたヤマトとデナムは謎のASが向かった方向に向かって、ラルドとヘレナを捜索していた中、その行く手を阻むようにバルガ(雄)の群れの襲撃に会い、タイタロスとロバストハンターの持ち前のスペックを活かして次々と撃破していった。


 「今ので38体目…クソッ! キリがない…」


 「それにしても、近くに巣があるとしてもこの数は異常だ。雌がこれだけ産めるとは思えないし、何より、明らかに俺たちを絶対に通させないような雰囲気だ。」


 尚もバルガ(雄)の群れは湧き、タイタロスとロバストハンターが迎え撃つ構えを取ると、突然、その群れが1体ずつ両断され、別のASが2機の前に現れた。


 「お前は…」


 


 


 


 


 


 

 ラルドとヘレナの元を離れた少年は何かを感じて走り回っていたが、その様子は気付いた何かを追っているというより、気付いた何かに怯えて逃げている様子で息も荒かった。


 「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ!」


 少年は突然立ち止まり、辺りを見渡すと何かが森の中を走り去っていき、辺りを警戒しながらゆっくり歩幅を広げたその時、4~5mはあると思われる猟犬のような姿をした存在が襲い掛かって来るように現れ、少年がそれを避け、再び森の中に入った。

 少年は再び走り回ったが、徐々に黒い霧のようなものが周辺に広がっていき、濃くなっていくと目の前に空を覆い被さるような巨大な木々が現れ、霧はそこから流れていき、その奥は完全に真っ黒な空間だった。

 少年はその空間に恐怖を感じたのか、足が震えてそこを動かなかった。そこに後を追っていたヘレナが到着し、


 「もう、危ないでしょ! 勝手に離れちゃ! さあ、行きましょ。」


 

 空を覆い被さるような巨大な木々がある不気味な空間をヘレナも見たが、明らかに立ち入るような場所じゃないと察して少年を連れて離れようとしたが、


 「……ヘレナ…」


 突然、女性の声がした。


 「誰…?」


 「……ヘレナ…」


 「まさか…お母様なの⁉」


 「ヘレナ…こっちに来て……」


 「お母様なの⁉ 何処? 何処なの⁉」


 女性の声は不気味な森の中から聞こえ、その声を聞いたヘレナは少年を置いてそのまま不気味な森の中に入ってしまう。その後にラルドも駆け付け、少年の元に立ち寄った。


 「ここにいたのか! あれ? ヘレナはどこ?」


 その問いに少年は口が利けないのか、恐怖で話せないのか定かではなかったが、不気味な森の方に指を差し、その腕は震えていた。


 「(この震え…普通じゃない。それにあの森、上手く説明出来ないけど、明らかに普通の森じゃないことはわかる。あの森にヘレナがいるなら、尚更助けに行かないとだけど、この少年を置いていくわけにはいかない……なら…)」


 ラルドは少年の腕をしっかり握り、


 「いい⁉ 何があっても、絶対に僕の手から離さないでね! ヘレナ、待ってて…」


 少年の腕を握ったラルドはそのまま不気味な森の中に入っていった。

 森の中に入ったヘレナは少年の声を便りに道なき道を進んでいったが、周囲は漆黒の霧に完全に覆われていて入る前と違い、木々も霧と同化しているようにも見え、そこは丸で異次元空間のようだった。

 ヘレナは女性の声を便りに進んでいったが、漆黒の霧は更に広がり、何かに見られているような気配もし、ヘレナがそれに気付くと、霧の中に目を赤く輝かせた何かが複数存在し、それら全てがヘレナの方をじっと見詰めていた。

 やがて、霧の中に潜んでいる何かは徐々に距離を詰めていき、霧の中のため、はっきりとその姿を確認出来なかったが、人ではなく、半魚人のような姿をしたものだった。

 霧の中に潜む半魚人はヘレナを連れ出すかのように霧の中から手を伸ばし、それらが無数に現れた。その光景にヘレナは平静さを失い、必死になって走り回った。

 しかし、いくら走り回っても、不気味な木々と漆黒の霧ばかりで出口に行き着くことは無かった。そのため、半魚人の手から逃げ回っても体力を消耗するだけで遂に力尽きてしまい、霧の中に潜む無数の半魚人の手はかなり近付いていった。


 「ヘレナ…こっちよ!」


 その時、再び女性の声がし、その声の方向を見ると朽ちかけた掘っ建て小屋が現れ、急いでその小屋に入って扉を閉めた。半魚人はその小屋の周辺を囲み、壁に這いつくばっていたが、中に入る様子は無かった。

 少し安心すると蝋燭が突然、灯され、ヘレナの前に30代前半くらいのヘレナと同じ金髪碧眼の女性が椅子に座って佇まっていた。


 「お母様…お母様なの⁉」


 「ヘレナ…会いたかったわ。」


 「お母様‼」


 目の前の女性が自分の母エリザベスだと確信したヘレナは女性に抱き付き、泣き崩れた。


 「でも、どうして…だってお母様はあの時……」


 「そう…私はあの時死んだ後、魂がここに来たの。」


 「魂…?」


 「ここは魂の牢獄、死んだ人間の魂が集まり、彷徨う場所。でも、永遠に彷徨っていく内に、やがてその魂はあの霧に飲まれ、外のあの姿のようになっていく…私はこの小屋にいるから、それは避けられたけど、それは同時にここから出ることが出来ないの…そう、私はずっとこの小屋の牢獄に閉じ込めれたままなの……」


 「そんな…それじゃ、お母様は2度と出ることが出来ないの…?」


 「でも、方法がある。それはあなたよ!」


 「私…?」


 「そう! 生きているあなたと私の魂が1つになれば、私はあなたの中で生きていられることが出来る。そうすれば、あの醜い姿にされた人たちの魂とも1つになって苦しみから解放される。」


 「苦しみから解放される……」


 「あなたは皆のために議長になって幸せな世界を築こうとしているけど、でもこの世界に幸せなんてない。皆苦しみ続けるような残酷な世界なの。

 でも、ここなら皆と1つになって何もかも解放されて自由になれる! そしていずれは現実の世界も変えられ、あなたの望む幸せな世界が生まれるわ!」


 「私の望む幸せな世界…」


 「そうよ! もう、お父様だってあなたを認めてくれる。もう一度一緒に家族として暮らせるのよ!」


 「もう一度、家族と一緒に…」


 「愛しい私の娘ヘレナ…私と1つになって……」


 女性が母親のようにヘレナを優しく抱き、ヘレナはすっかり大人しくなったが、抱いた女性が不気味な笑みを浮かべるとその素顔は不気味な仮面に変貌していった。


 


 



  霧の中、少年を連れてヘレナを探しに行くラルドはヘレナが女性と出会った小屋に似たある居住区を見付け、一軒ずつその中を調べたが、誰も住んでおらず、人の形跡すら見当たらなかった。


 「一体、ここは何だ? それにこの感じ、何処かで……」


 トッ、トッ、トッ!


 その時、誰かの足音がし、少年がそれに怯えて気付いたラルドが振り向くと、そこに死んだはずのキールが現れた。


 「キール…さん……?」


 「久し振りだな、ラルド…」


 

 「そんな…だってキールさんは……」


 「そう、私は死んだ。だが、魂はここで生きている。」


 「魂…?」


 「ここは謂わば、黄泉の世界…死んだ人間の魂が交差する場所だ。もちろん、他の子供たちもここにいる。

 だが、死んでいない人間であるお前なら、俺たちを救える。」


 「それはどういうこと?」


 「君が俺を受け入れれば、俺と子供たちの魂は1つになり、君の身体の中で生きることが出来る。 そうなれば、君も俺たちも苦しみから解放され、永遠の幸せを手にすることが出来る!」


 「永遠の幸せ…」


 「そうだ。もう、君はこれ以上頑張る必要はない。俺たちと1つになるんだ。」


 その言葉に何か刺さり、更にキールに酷く怯えている少年に気付いたラルドは、


 「違う! キールさんはこんなこと言う人じゃない‼」


 いつものキールじゃないと悟ったラルドは目の前のキールに殴り込むとキールはヘレナと会ったのと同じ不気味な仮面をした神父の姿に変わった。


 「君は我を受け入れないようだな…」


 目の前の神父を見て、ラルドはノアと初めて会った教会でラルドたちを襲った半魚人のような存在のことを思い出した。


 「(この感じ…あの時、教会で僕とノアを襲ったあの半魚人と似た感じがする……ということはコイツも…)」


 「どうやら、君たちは招かれざる者のようだ…」


 神父が仮面を取ると、その中には素顔は無く、更に神父の服であるキャソックを脱ぎ捨てるとその中にも姿は無く、脱ぎ捨てられた服だけが残ったが、周辺の霧がその元に集約すると素顔が無いとんがり帽子のような頭部と幾つもの触手を持った人型の生物が出現した。

 その姿にラルドはンガイ族と名乗った部族の住居で見た絵巻に描かれたとんがり帽子のような人間を思い出した。


 「アイツは…まさか、あの時言ってたンガイの森って…まさか⁉」


 「我は混沌の使者…我を受け入れないお前たちは消え去れ!」


 謎の人型の存在が触手で襲い掛かってくると、ラルドは少年を少し離れさせ、触手を避けると取り出した拳銃で撃ち込んだが、全く歯応えがなく、更にナイフも取り出して銃を撃ち込みながら近付き、ナイフで切りかかったが、触れることが出来ず、すり抜けてしまった。

 人型の存在は触手でラルドの首を締め、捕らえた。ラルドはナイフでその触手を斬りかかろうとしたが、その存在が丸で亡霊か虚像かのようにすり抜け、全く通用しなかった。


 「クソッ、何で⁉ 何でアイツは僕に触れて逆に何で僕がコイツに触れられないんだ…⁉」


 ラルドが触手による拘束から抜け出せない中、少年は震えてはいたが、自分を助けたラルドをほっとけないのか、力を振り絞って人型の存在に立ち向かったが、やはり触れることは出来ず、片腕で首を掴まれ、2人とも捕らえられてしまった。


 「我を受け入れない者はここにいる必要も存在も必要ない。あの女のように受け入れれば、苦しみから解放されるというのに……」


 「あの女……ヘレナのことか! 彼女をどうした⁉」


 「運命と共に我を受け入れた。もうじき、苦しみから解放されるだろう…」


 「違う! お前は苦しみから解放させるような奴じゃない‼ ヘレナがお前を受け入れるもんか!」


 混沌の使者と名乗る人型の生物は両腕を槍状に変形してラルドと少年の胸に突き刺し、徐々に黒く侵食していった。


 「グッ、グワアァ~‼」


 「全て意味を為さない……ん…?」


 その時、突然、巨大な火の粉が襲い掛かり、拘束を解いてその場から離れるとラルドは少年を連れてその場から逃げ去り、何とか致命傷は免れた。

 火の粉によって霧が晴れ、現れたのは全身が炎に包まれ、ンガイ族の住居の絵巻に描かれた不死鳥に似た翼をしていたが、胴体こそはその不死鳥とは似ても似つかない悪魔のような姿をしたデーモンビーストだった。


 「コイツはあの絵巻の…いや、違う!」


 炎に包まれたデーモンビーストはラルドと少年を狙って火炎を吐いた。


 「我が森を焼き尽くした忌まわしき存在…再び現れたか……だが、招かれざる者を焼き尽くすというなら、我が手を出す必要はない。我が森を焼き尽くされた無念を味わうがよい。」


 人型の存在はそう言うと霧の中に姿を消した。デーモンビーストは引き続き、ラルドと少年に襲い掛かり、少年を連れて必死に逃げていった。

 火の粉はヘレナの周辺にも行き届き、気付いたヘレナが振り向くと、ラルドと少年がデーモンビーストに追われていた。


 デーモンビーストが周囲を焼き尽くす音がし、その近くにラルドと少年が逃げている姿にヘレナは気付いた。


 「ラルド!」


 「この森を焼き尽くし、私たちの魂を消し去ろうとする忌まわしき存在が再び、荒らしに来たのね……このままでは、いずれあの子たちもあの忌まわしき存在に焼き尽くされてしまう。そうなる前にヘレナ、私を受け入れなさい。」


 「はい、お母様…」


 少年を連れてデーモンビーストから逃げ惑う中、ラルドはヘレナがある女性と一緒にいたヘレナに気付いたが、ラルドの目にはその女性はさっき混沌の使者と名乗る人型の生物が扮していた不気味な仮面をした神父の姿になっていて、ヘレナに向かって思いっきり叫んだ。


 「ヘレナ! ソイツの言うことを聞いちゃ駄目だ‼」


 「ラルド…⁉」


 「ソイツの言うことを聞いたら、君が君じゃなくなる‼」


 ラルドの声に気付きはしたものの、既にその目は正気を失っていて、女性から離れようとしなかった。ラルドが神父の手から離すよう、その場に向かったその時、デーモンビーストが止めを刺すように火の粉をラルドと少年に向けて放った。

 不意打ちで放たれたため、避けられないかと思われたが、それを阻止するように霧の中から何かが現れ、その火の粉を自ら受け止め、直撃を阻止した。現れたのは所属不明の潜水艦に撃墜され、海中に沈んだはずのルシファロイドだった。


 「ルシファロイド……もしかして、クトラか⁉」


 「大丈夫か? オルスター特務二等兵。」


 「僕は大丈夫だけど、ヘレナが……」


 「悪いが、コイツを抑えるので精一杯だ。ヘレナは任せた!」


 「もうっ! こういう時だけ都合がいいんだな…」


  ラルドは戦闘に巻き込まれそうにない場所に少年を案内し、


 「いいかい! 絶対にここから離れないでね。」


 少年に忠告を伝え、ヘレナの元に向かうと、それを阻むように霧の中から教会でノアを付け狙ってきたのと同じ半魚人が何体か現れ、立ちはだかった。


 「コイツはあの時の……やっぱり同族か!」


 デーモンビーストはさっきより更に強力な火炎を放ち、ルシファロイドは左腕で防いだが、左腕のアームブレードが高熱で溶解していた。

 あれをまともに受けるのは危険と判断したクトラは取り出したハンドガンで牽制して、もう片方の腕でスナイパーライフルを放ち、徐々にダメージを負わせてから倒す戦術を取り、デーモンビーストを翻弄したが、それに対抗するために火炎や火の粉ではなく、火矢のようなものを口から出し、攻撃を仕掛けた。

 ルシファロイドはそれを避けるも、火矢は爆破物として機能するもので、その範囲は広範囲に渡り、退避したルシファロイドにも影響を与えた。

 また、この火矢は誘爆の効果もあり、周囲に放った2、3発の火矢の内1発が爆発して残りがそれに誘爆し、その爆破を諸に喰らったため、ルシファロイドはかなり苦戦を強いられていた。

 その隙に1本の火矢がルシファロイドの右肩に直撃し、その爆破で右腕が破壊され、衝撃でルシファロイドの各部も損傷し、体勢を崩した。


 「首元…両足の関節…腰部損傷……」


 ルシファロイドはその場から離れず、片腕だけとなった左腕でスナイパーライフルを構え、狙撃の体勢を取った。デーモンビーストは尚も火矢で攻撃を続けたが、そこから1歩も動かず、あるところを一点集中して狙った。

 何本かの火矢による爆風の中、クトラは引き金を引き、その1発の弾丸がデーモンビーストの口内に直撃し、中で生成されている火矢が体内爆破して腕や下顎、足の関節部分が破壊された。

 同時にルシファロイドも狙撃する前にデーモンビーストの火矢による攻撃によって体勢を維持できず、遂に倒れてしまった。

 怒り狂ったデーモンビーストはルシファロイドに襲い掛かり、コクピット部分を掴んで握り潰そうとしたその時、霧の中からロバストハンターも現れ、その拳でデーモンビーストを殴り飛ばした。


 「クトラ! 大丈夫か⁉」


 しかし、返事はなく、コクピット内のクトラは気絶していた。


 「あの時の戦闘で無理したか…」


 立ち上がったデーモンビーストは今度はロバストハンターに襲い掛かってきたが、バスターアンカーで怯ませ、投げつけたアックスで頭部をブッ刺して遂に倒した。

 しかし、気付くと既にヘレナは洗脳されたように霧の中から作り出された異次元空間の中に入っていき、ラルドも無数の半魚人に拘束され、身動きが取れない状態になっていた。

 ヤマトは助けに行こうとしたが、両腕が無数のバイアキーに捕まれ、更に両足は地面に発生した異次元空間から出現したハスターの鎌の触手に捕らえられ、こちらも身動きが取れなくなっていた。

 その時、上空から霧を払うようにデーモンビーストの火矢より遥かに巨大で強力な火の粉がデーモンビーストを跡形もなく粉々に焼き尽くしてしまい、周囲を焼き払った。

 その様子を見たヘレナの母に扮した黒い神父がガーフェラ以上の不気味で巨大なコウモリに姿を変え、ヘレナを捕らえて開いたゲートのような異次元空間に入っていき、少年も半魚人に拘束されそうになったが、それを振り切り、黒い神父が変身した巨大コウモリの足に捕まり、異次元空間に入っていった。

 同時にデーモンビーストを消一撃で滅させた火の粉が生物のように意思を持ってその異次元空間の中に入っていき、半魚人に拘束されたラルドも別の異次元空間の中に呑み込まれていった。

 その後、霧が全て晴れ、周囲にあった木々が全て消え、焼け野原の跡のような光景に変わり、ロバストハンターを拘束していたバイアキーやハスターの姿も消えていた。


 「取り逃がしたか……」


 しかし、その後、特務隊とは別の部隊がロバストハンターの前に現れた。


 「ヤマト・ハイライト二等兵だな? 我々と来てもらおうか。」


 「この部隊は……」


 To be continued

 次回予告


 混沌の使者と名乗る人型の生物が変身した巨大コウモリが作ったワープゲートのような異次元空間にヘレナと少年が呑み込まれ、それとは別にラルドは半魚人と共に別の異次元空間に呑み込まれると、そこは誰も住んでおらず、使用されていない廃棄された地下都市だった。

 そこで、ラルドは恐竜のような姿をしたデーモンビーストの集団に襲われたが、その時助けたのは意外な人物だった。


 次回「彷徨う亡者」地下の廃墟で少年は何を見る?

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― 新着の感想 ―
心理的な揺さぶりと視覚的な恐怖で緊張感のあるお話でした。特にキャラクターのトラウマや喪失の痛みにまで踏み込んでいた点が印象的です。また気になるところで終わったので次なる展開が待ち遠しく感じます。
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