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Episode10「見えない敵」

 西暦2325年、地球は度重なる戦争と環境変化に伴い、地球が人類にとって住みにくい星になるのは最早時間の問題となった。だが、人類はコロニー建造や月面基地の開発等、宇宙進出を果たす程の技術を手に入れ、やがて他惑星での移住計画も推し進めた。

 だが、その最中、突如として謎の巨大不明生物が現れ、人類に牙を向け、襲い掛かってきた。人類はその正体不明の巨大生物にありとあらゆる兵器で迎え撃ったが、巨大不明生物はあらゆる兵器も通用せず、人類を食い尽くし、人類はその巨大不明生物によって大半を滅ぼされた。

 やがてその巨大不明生物はデーモンビーストと呼称され、デーモンビーストによって人類の8割が死滅させられたその惨劇は「悪魔の審判」と呼ばれるようになった。それから数世紀に渡って地球はデーモンビースに支配され、僅かに生き残った人類は尚もデーモンビーストの支配に抗ったが、度重なる資源不足に陥り、それを補うために人類同士による争いが頻発に行われ、世界は混沌となっていた。

 悪魔の審判から800年後、西暦3125年、人類は対デーモンビースト用として人間が搭乗出来る巨大人型機動兵器を開発し、デーモンビーストを駆逐し、新たな国家を建設、徐々にその支配圏を取り戻しつつあり、人々は悪魔の審判以前の世界に戻れると確信していた。だが、人類は知らなかった、これから行われることはその悪魔の審判以上の脅威が襲い掛かってくることを…

 チベット高原の南側にあるチベット自治区、この場所に特務隊と統制連合艦隊の一般機であるアルケーダとは別の機体で構成されている部隊と反連合国のテロリストが交戦していた。

 アルケーダとは別の機体で構成されている部隊と交戦している反連合国のテロリストはASは無く、悪魔の審判以前に使用されていた戦車と装甲車で迎え撃っていた。

 それらの兵器も悪魔の審判以前は最新兵器であったが、悪魔の審判時ではデーモンビーストには通用せず、世界各国を制圧しつつある地球圏連合国の主力を誇るASの前では無力であり、戦力は歴然であった。


 「クソッ! これ以上は持たねぇ‼」


 「耐えろ! この基地を渡されたら、ここも連合国は更に強大になる。それにここには連合国軍に対抗出来る救世主とも言える機体がある。あれに乗るパイロットが現れるまで持ちこたえるんだ!」


 「けどよ! そのパイロットが未だに現れねぇし、それにこっちにはASがない上に援軍だって来ないんだぞ‼」


 連合国軍の部隊は徐々にテロリストを押していき、これ以上持ちこたえることは出来ない状態になっていた。


 「駄目です! 隊長! 撤退しましょう‼」


 「しかし! ここを死守しないと…」


 「隊長‼」


 「やむを得ない…」


  戦況が劣勢になった反連合国のテロリストは撤退を始めた。連合国軍の部隊が追撃しようとするが、その部隊の隊長がそれを止めた。


 「追撃するな! 我々の目的はあくまでこの基地にある機体の鹵獲だ。これ以上の攻撃は必要ない。それにどうせ奴等には後はない。」


 撤退したテロリストの部隊は森の中を進み、部隊最初の時より半数以上を失い、別の基地に向かっていった。


 「サンドシャークとの連絡はまだつかないのか⁉」


 「隊長、彼処は期待しない方がいいです。我々と同じ反連合国といっても我々に協力してくれるとは限りません。それに得体のしれない賞金稼ぎだって雇ってますし…」


 「そうだぜ! 第一あの基地にある機体を死守しろとかいいいながら援軍だって寄越さないんだぜ! 俺たち騙されたんだよ‼」


 「とにかく、今は我々に協力してくれる仲間をあつめるのが先決だ。サンドシャーク以外にも反連合国の自警団はまだいる…奴等に対抗するためにもっともっと増やさないと…」


 その時、突然、闇夜から触手のようなものが現れ、1人の兵士を引きずり込んだ。


 「ウワアァ~‼」


 その声に気付いた隊長や兵士は攻撃の姿勢を取ったが、周囲にはその影も形も無かった。


 「何処だ…敵は何処にいる?」


 ギシャアァ~‼


 その時、何かの呻き声がし、声がした方を振り向くが、そこに何もいなかった。


 「隊長…」


  木が斬り倒されていくのと同時に巨大な足音が徐々に近付いていくと、周囲に幾つもの不気味な目が現れ、テロリストの部隊を睨み付け、その目の間から無数の触手が襲い掛かってきた。


 「うっ、ウワアァ~‼」


 


 


 


 


 連合国軍の部隊はもぬけの殻となった基地に入り込み、そこにあったのは超重装甲が施された重装甲型の機体だった。


 「何だ、この機体は?」


 「識別番号は我が軍のASではありません。」


 「例の正体不明機と同じ機体か…直ぐにこの機体を鹵獲する!」


 連合国軍の部隊がその機体を鹵獲しようとしたその時、突然、壁が破壊され、そこから黒い影が現れ、凄まじい機動性で両腕の巨大な剣で連合国軍の機体をバラバラに粉砕していった。


 「何だ⁉ こいつは‼」


 反撃しようとするも、その隙を与えられず、先ず先にライフルやアックス等の手持ちの武器を破壊され、その後、四肢を一瞬の内に切断し、連合国軍の部隊は瞬く間に全滅していった。

 部隊を全滅させた黒い影が超重装甲型機体に近付こうとしたその時、破壊された壁の向こうからテロリストの部隊を襲ったのと同じ無数の触手が現れ、黒い影は瞬時に避け、無数の触手は粉砕された連合国軍の機体の残骸をかき集め、黒い影はその様子を静観していた。


 


 


 


 


 


 


 


 

 正体不明機率いる反連合国テロリストと20年以上前より更に進化したアクティオスの襲撃により、艦と部隊はかなりの損害を被りながらも、特務隊は何とか北京総督府に到着することが出来た。

 北京総督府、ここは地球圏連合国の首都に次ぐ程の都市であり、総督府は歴代皇帝の居城だった紫禁城を改装したもので、財団支部はすぐ側に隣接していた。艦から降りたヘレナたちと特務隊を待っていたのは北京総督のシェン・ウーだった。


 「よくおいでくださいました。ヘレナ嬢。」


 「お久し振りです。ウー総督。」


 「話は既に本国の議長殿から聞いている。テロリストのアンノウンと20年前より更に大型化したデーモンビースト第8号の襲撃を受けたそうだが、無事で何よりだ。

 マッカーシー特務大佐もオクタヴィス特務大尉もよく、ヘレナ嬢を守ってくれた。艦はこちらが責任を持って修復する。それまではゆっくりしていってくれ。」


 「お心遣い感謝します。では、早速会見の準備を…」


 「いや、私は財団の人間だ。会見を行えば、議長になった暁に財団出身の者を起用していくだろと反財団派の者が騒いだら、後々面倒になってヘレナ嬢の評判を落とされてしまう。

 テロリストの襲撃の後、ここに休息するだけで、会見を断ったことにしておけば、連中も文句は言わないはずだ。」


 「でも…」


 「ヘレナ嬢が私のことをよく知っているように、私もヘレナ嬢のことはよく知っている。今更話すこと等無いですよ。」


 「だからといって、何もしないわけには…」


 「でしたら、休息のついでにこの北京をゆっくり回っていくのはいかがでしょうか? 時期議長に現場視察は立派な仕事です。

 それに、ここは連合国の中でも最も復興が進んでいて治安も安定していてヘレナ嬢の望んだ平和が詰まっています。この街の人たちを御覧になって」


 「では、その現場視察の護衛を我々が…」


 「テロリストとデーモンビーストの襲撃で、特務隊の兵士と機体はかなり損害を受けてます。その状態でヘレナ嬢をお守りするには酷です。

 ですから、御安心下さい。我が北京総督軍は特務や統制連合艦隊すら凌駕する部隊が存在してますので、姫の安全は私が保障します。」


 「あなたがそこまで言うなら、反対はしませんが…」


 「では、ヘレナ嬢は私が用意した個室でごゆっくりして下さい。」


 「ありがとうございます。総督。それとですが、もう一つお願いがございます。艦で寝ている子もその個室で休ませてもらえないでしょうか…」


 「もう一人? 誰ですか?」


 「私が養っている孤児で、ノアって言います。」


 「ノア…まあ、いいでしょう。タオ!」


 ウー総督の呼び掛けに応じてチャイナドレスを着たロングヘアーの1人の女性が現れた。


 「はい、総督。」


 「私の秘書兼ボディーガードのタオ・ヤンだ。彼女は軒並み外れた体術の持ち主で、ヘレナ嬢の護衛に十分最適な女だ。各地の御視察には彼女が付いてくれるので、何もご心配はありません。

 ただ、彼女は規律に厳しいため、話し相手にはならないので、もう一人話し相手となる者もお付けしましょう。」


 「ありがとうございます。」


 「では、ヘレナ嬢。こちらへ…」


 それに続いてラルドやヤマト、クトラが付いていこうとしたその時、ウー総督が待ったを掛け、


 「あ、君たちは別の頼みがあるから、デナム大尉らと共にしばらく待っててくれないか。マッカーシー特務大佐とオクタヴィス特務大尉と話があるのでな。」


 「で、でも…」


 「ヘレナ嬢のことは彼女に任せれば大丈夫だ。それまでゆっくりしてくれたまえ。」


 「わかりました…」


 「それと、ブラッディ特務二等兵。君には別の用があるので、話が終わるまでヘレナ嬢とは別に用意した個室があるので、そこで待っててくれないか。」


 「わかった。」


 「では、マッカーシー特務大佐にオクタヴィス特務大尉。向こうで…」


 ウー総督に呼ばれたマッカーシーとオクタヴィスは総督府の個室で回収したガーフェラの亡骸と襲撃したテロリストのことについて話していた。


 「回収したデーモンビースト第7号ガーフェラの亡骸、確かに受けとりました。解剖はこちらで行い、完了次第、全ての機体に音波対策を施します。」


 「ありがとうございます。」


 「それと例の正体不明機とデーモンビースト第8号のデータを見たところ、これはかなり厄介なものになってますな。飛行ユニットに左右の腕に3つのブレード、キャノン砲とは…これだけの武装を持つ機体は私でも見たことがない。」


 「これだけの機体をテロリストが単独で開発出来るわけがありません。 考えられるのは…」


 「スポンサーが付いているということですか…しかし、これだけの機体を開発するには財団レベルの財力と技術力を持つ組織がいないと無理ですが…」


  「そんな組織がいるというのですか…第一、この地球に財団以外にそんな組織が存在するわけが…」


 「地球上じゃない可能性もあるかもしれません。」


 「まさか…あれが…」


 「確証はありませんが、可能性はあります。実際、中には我が連合国に反抗する者もいますし…」


 「もし、そうなれば…」


 「最悪の事態になる前に関係改善は尽くすべきです! ASを開発したとはいえ、我が連合国は全てのデーモンビーストを駆逐する程とは言えません。地球を取り戻すためにあれの技術力は必要不可欠です。 そのためには何としてもヘレナ嬢を議長にせねば…」


 「それなら、尚更、全てのテロリストを鎮圧する必要があります!」


 「こちらも出来る限りの援助と新機体の開発は行います。ですが、その前にマッカーシー特務大佐とオクタヴィス特務大尉に見せたいものがありまして…」


 「見せたいもの?」


 


 


 


 


  ウー総督によって用意された個室で、ヘレナはノアをベッドに寝かせたが、ノアは何かに魘されているようだった。


 「うっ…ウウゥ…ハッ‼」


 「大丈夫?」


 起きると目の前にはヘレナが付き添い、そこは北京総督府の個室だった。


 「ここは…?」


 「北京総督府よ。あなたはデーモンビーストに襲われてずっと眠っていたのよ。何か魘されているみたいだったけど、大丈夫なの?」


 「夢を見たの…」


 「夢?」


 「教会にいたの…私を世話してくれた優しい人たち、でもいつの間にか黒い海に来て皆それに呑み込まれた…そこに1人の少年がいた。」


 「黒い海…1人の少年…」


 「それが何なのかわからない…私には記憶なんてないのに、どうしてあんな夢を見たのか…それが怖くなって…ねぇ! ラルドは何処にいるの⁉」


 「ラルドはここにはいないけど、でも大丈夫よ。ここは北京総督府の軍がいるから、安全よ。それに私もいるから。」


 「そっ…」


 「そうだ! 私と一緒に街に行かない?」


 「街に?」


 「そう、いつまでもここに置いてくわけにはいかないし、街に出れば、気も紛れるかもしれないし。」


 「そういうことなら、俺に任せてよ!」


 そこにマルコが現れ、


 「マルコ! どうして?」


 その後にタオも現れ、


 「総督閣下がヘレナ様の話し相手として用意した者です。」


 「俺はブラッディの元にいた時でも、よくここに来ていたから、ここのことはよく知っているから、案内するよ!」


 「そうね、あなたなら、ノアも少しは楽しくなってくれそうだし、いいかしら?」


 「うん…」


 「お待ちください! ヘレナ様。その格好では目立ちすぎます。いくらここが安全とはいえ、ヘレナ様を狙うテロリストが潜伏している可能性があります。ここに合わせた服にお着替えしましょう。そちらのお嬢様もいかがですか?」


 「はい…」


 


 


 


 


 


 


 マッカーシーとオクタヴィスを財団支部の地下に赴いたウー総督は2人にある映像を見せ、その映像に映っていたのはチベット高原の基地にあった重装甲型の機体だった。


 「この機体は…」


 「先日、我が軍の部隊がチベットで活動しているテロリストの反乱を鎮圧している時にテロリストが守っていた基地からこの機体を発見した際に送られた映像です。」


 「特務大佐、これは…」


 「ああ、私も初めて見る機体だ。」


 「無理もありません。この機体はフレームこそは我が軍のASに似てはいるものの、識別番号にどの軍のASと合致しないのです。」


 「我々が中東で戦ったアンノウン、正体不明機と同じような機体というわけですな。」


 「その通り! 最もこの機体が中東と同じテロリストのものかは定かではありませんが、この機体を鹵獲し、解析すれば、テロリストの技術力及びそのスポンサーを明らかになりますし、それに…」


 「あの正体不明機と同じ高性能の機体を我が軍でも量産出来るということだな。」


 「そうです! しかもこの機体、映像から見た限りでは超重装甲で施されていることもあって、対空機銃及び対空速射砲の砲撃すら動じない程の防御力を持っていると推測し、これを戦力にすれば、テロリストはもちろん、特務大佐が苦戦したとされるデーモンビースト第8号にも十分対抗出来ますでしょう!」


 「しかし、映像はあっても何故、その機体がこちらにないのだ?」


 「それは…」


 ウー総督が更に映像を切り替え、


 「これは…」


 「この後、部隊が何者かに襲われ、その正体不明の存在によって部隊が全滅された。その後、派遣部隊を出したが、それも通信が途絶えて行方不明となり、未だに帰投していない。」


 「まさか、テロリストが…」


 「可能性はありますが、我が軍の部隊を一気に全滅させる等、テロリストごときが出来るとは思えませんが…」


 「では、デーモンビーストだと…?」


 「もしかしたら、例のデーモンビースト第8号の他にも進化した個体がいるかと…」


 「そうなると、かなり厄介だな…」


 「特務大佐! では、ヘレナ嬢がこちらで休息している間に我々がその機体を鹵獲しましょう!」


 「そうだな。では、直ぐに出撃の準備を…」


 「お待ちください…」


 「何でしょうか? 総督。」


 「例の正体不明機とデーモンビースト第8号との戦いで特務隊はかなりの損害を受けていますので、部隊は私が出します。」


 「では、指揮は私がします。」


 「いや、しかし…特務大佐も先の戦闘で大分疲れているはずじゃないですか…それにミカエルも損傷も…」


 「かといって、ここでくすぶっているわけには…」


 「ならば、私がデナム大尉と共に指揮を取り、部隊の捜索に参ります。」


 「オクタヴィス特務大尉…いいのか?」


 「特務大佐程の指揮は取れないかもしれませんが、私はこれまで大した戦績を残していません。今こそ結果を出すべきです!」


 「しかし…」

 

 「いいでしょう。私が許可します。」


 「総督!」 


 「少しは部下を信用したらどうですか? あなたはここのところ働きすぎですから、少しでも休むべきですよ!」


 「…わかった…だが、無理はするなよ。」


 「わかっています!」


 「しかし、もし仮に鹵獲出来た場合、あの機体には誰を乗せるつもりですか?」


 「オルスター特務二等兵にハイライト二等兵の2人のどちらかと考えています。」


 「オルスター特務二等兵にハイライト二等兵ですと?」


 「そうです! オクタヴィス特務大尉が指揮を取っている間、セラヴィムの解析はあなたに任せ、問題があれば、改良もお願いしますが、もしあの機体が予想以上に危険なものだとしたら、これ以上彼をあの機体に乗せるわけにはいきません。なので代わりの機体には申し分ないかと…」


 「なるほど…しかし、もしセラヴィムに問題があったとして、オルスター特務二等兵が乗っても問題がないくらいに改良が出来た場合はハイライト二等兵はその予備分ということですか?」


 「そうだ!」


 「しかし、そのハイライト二等兵という者は信用してよろしいのでしょうか? あの男は反財団派の中心的な人物であるマクマリー議員を支持している統制連合艦隊に所属するスカル・デナム大尉の部下ですよ! それにヤマトという名前にどうも不吉な気が…」


 「総督閣下ともあろう者が随分、疑り深いんですな。彼は確かに統制連合艦隊の者ですが、彼はデナム大尉と共に特務隊と共にデーモンビーストと戦い、これまで何度もヘレナ嬢の護衛を全うしてきました。私が保障します!」


 「まあ、特務大佐がそこまで言うなら、反対はしませんが…ただ、その実力がわからなければ、私も認めることは出来ません。それに例え、セラヴィムの改良が出来てもオルスター特務二等兵にそれなりの実力が無ければ…」


 「でしたら、その鹵獲作戦にオルスター特務二等兵とハイライト二等兵を加えましょう!」


 「いいんですか? 特務大佐…」


 「彼はブラッディ特務二等兵と比べたら、まだ未熟だ。だからもう少し経験を積ませる。」


 「彼には荷が重いのでは?」


 「その時は君が守ってやればいいさ。」


 「わかりました…」


 「では、よろしいですか? 総督。」


 「いいでしょう…しかし、失敗は許されません。もし失敗すれば、テロリストの勢力は更に強大になるでしょう。」


 「承知の上です。」


 「では、オクタヴィス特務大尉。直ぐに出撃の準備に取り掛かれ!」


  「はっ!」


 


 


 


 


 


 総督府の外でヤマトやデナムと共に待機しているラルドの元にオクタヴィスが立ち寄った。


 「オクタヴィス特務大尉。」


 「新たな任務が出た。総員、直ちに出撃の準備に取り掛かれ!」


 「新たな任務とは?」


 「旧チベット自治区で活動しているテロリストが隠している正体不明機の鹵獲だ。特務隊は先の戦闘でほとんどが負傷しているため、総督閣下から御借りした部隊で出動する。指揮は私が取るので、その指示に従って欲しい。」


 「了解しました!」


 「オルスター特務二等兵、ハイライト二等兵も私の指揮に入ってもらう。」


 「わかりました!」


 


 


 


 


 


 


 北京総督府の個室でヘレナとノアはタオによってチャイナドレスに着替えた。


 「うん、2人ともよく似合っているよ!」


 「そうかしら…逆に目立ちすぎて何だか、恥ずかしいわ。」


 「ノアもそう思わない?」


 「こんな服着るの初めて…」


 「ですが、あの格好よりは安全です。それに先程の格好と比べれば先ず気付かれるとはないでしょうし。」


 「とにかく街に出れば、その服もその内慣れるから、さっ、行こう!」


 「しょうがないわね。ノア、行きましょう。」


 「はい…」


 


 


 


 


 


 


 

 ポイントに向かったオクタヴィス率いる部隊は旧チベット自治区にある基地の方へ進行していった。


 「部隊が消息を絶ったのはこの辺りか…ん?」


 その時、目の前にバラバラにされた北京軍の機体の残骸があちこちに散らばり、しかも粘着液のようなものが付いていた。


 「特務大尉、これは…」


 「どうやら、北京軍のもので間違いないようだ。十分に気を付けろ! 敵は近くにいる。」


 部隊がゆっくり進む中、ラルドが何かに気が付き、後ろを振り向いた。


 「どうした? ラルド。」


 「いや、何でもない…」


 ラルドとヤマトのアルケーダが部隊に付いていくと、その背後に突然巨大な目のようなものが現れ、空中浮遊しながら、部隊の方を向くと透明化するように姿を消していった。

 散らばる北京軍の機体の残骸の跡を追ってチベット自治区の森の中に入っていくと目の前に破壊されたコクピットが現れ、そのコクピットから通信機が雑音だが、作動していた。


 「これは…」


 「特務大尉、ここは私が…」


 デナムがタイタロスから降りて通信機を聞くと、


 「…敵は…見えない敵だ…」


 「見えない敵だと…」


 通信機を聞いた後、目の前から巨大な舌のようなものが現れ、デナムはギリギリながらも瞬時に避けるが、別の角度から現れた舌に足を捕らえられ、そのまま森の中に引きずり込まれた。


 「しまった! ウワァ~‼」


 「デナム大尉!」


 その後まもなく、また別の角度から舌が北京軍の機体を捕らえ、引きずり込んだ。


 「クソッ、散開しろ!」


 オクタヴィスの指示に従い、北京軍の部隊はそれぞれ周囲を警戒したが、巨大な舌は不規則に現れ、次々と北京軍の機体の手足を掴んで引きずり込んでしまう。


 「クソッ! 敵は一体何処に入る⁉」


 何処からともなく現れる舌に対処出来ない北京軍の前に突然、巨大な目がギョロリと現れ、北京軍を睨み付けた。北京軍はすかさず発砲するが、その目は突然、宙を舞った後、姿を消し、今度は背後に現れ、発砲しては姿を消し、また別の角度から現れる等、丸でおちょくるように北京軍を翻弄した。

 北京軍が混乱しそうな中、今度はその周囲にその目が複数現れ、一斉に軍を睨み付けた。それに怯えた北京軍は撹乱して周囲の目に一斉に撃ち込んだ。


 「待て! 闇雲に撃つな‼」


 一斉射撃の後、その目は再び姿を消し、静まり返ったが、その後、木が斬り倒されていくのと同時に巨大な足音が徐々に近付いていき、目の前の空間が歪むように見えると同時に見えない何かが姿を現すとそれは首や背中、掌、尻尾、腹に幾つもの目が付き、赤みがかかった巨大なカメレオン型のデーモンビーストだった。

 北京軍は再び発砲しようとするが、さっき闇雲に撃ち込んだため、既に弾切れになってしまった。その様子を見たデーモンビーストは突如、顔が2つに割れるとそれは巨大な口であり、そこから唾液まみれの巨大な舌が北京軍の機体を捕らえ、一瞬で機体が両断され、そのままパイロットごと丸呑みしてしまう。

 北京軍は銃を捨て、ナイフやアックスに武器を変え、迎え撃とうとしたが、掌の目がギョロリと開くと同時に営利な鉤爪を振りかざし、コクピットごと貫通し、爪とコクピットに潜血が飛ばされた。その様子を見てラルドは怯えた。

 オクタヴィスのミカエルとヤマトのアルケーダが攻撃を仕掛けるが、それを全て鉤爪で受け止め、ヤマトのアルケーダを尻尾で凪払い、続けて鉤爪でオクタヴィスのミカエルに襲い掛かったが、ミカエルはそれを受け止め、デーモンビーストの動きを止めた。

 しかし、デーモンビーストの顔が開いた口から出した舌が更に襲い掛かり、ミカエルはそれを片腕で受け止めた瞬間、その腕が簡単に切断された。それを見たラルドは助けようとしたが、尻尾の目が開くと、その尻尾がラルドのアルケーダを叩き付け、鉤爪でラルドのアルケーダを鷲掴みにし、更にオクタヴィスのミカエルを尻尾で凪払い、そのまま森の中に入って逃げていき、目を覚ましたヤマトはその後を追いかけようとし、デーモンビーストの背中と尻尾の目が開いてそれに気付くと後ろ足で蹴り払おうとしたが、ヤマトはそれを避け、尻尾にブレードを突き刺し、しがみついた。

 デーモンビーストは振り払おうとしたが、中々離れず、仕方なくそのまま森の中に入っていき、姿を消した。


 


 


 


 


 


 


 


  チャイナドレスを着たヘレナとノアはマルコとタオの案内で北京中を回り、街中を散策し、そこには悪魔の審判の爪跡が何一つ残らない程、しっかりしていた。


 「凄い…メトロポリスでさえ、まだ悪魔の審判によって壊された跡がまだ残っているのに、ここは何て美しい街なの。」


 「当然さ! ウー総督が巨大な資金力を街に寄付したから、ここまで復興が出来たんだよ。それにここの財団支部は新型AS開発の拠点でもあるから、独自の軍もいるから、治安も安定してるしね!」


 「ノア、あなたもこんな街、初めて?」


 「ええ、私もこんな美しいのを見たのは初めて。」


 「そうだ! せっかくだし、ここの料理でも食べていかない? メトロポリスでは食べられない絶品だからね。」


 「でしたら、お近くの中華料理店までご案内しましょう。」


 タオの案内で中華料理店に行ったヘレナたちはそこで食事を取った。


 「美味しい‼ こんな美味しい料理、メトロポリスでも食べたことないわ。ノア、どう?」


 「私もこんな美味しいもの食べたことない。」


 「当然さ! 中華料理は北京にしかない料理だからね! それに円卓なんてのもここオリジナルだし!」


 「フフ、」


 「何かおかしい? ヘレナ。」


 「今日のマルコ、随分楽しそうだなって。」


 「そうかな? いつもと同じだよ! それにここのことはウー総督に色々教えてもらったからね。」


 「ねぇ、ヘレナ。ウー総督って誰なの?」


 「北京の総督よ。といっても御父様のお仕事で時々会っているぐらいだけどね…」


 「ウー総督はこの中国で代々続く名家の当主だよ!」


 「マルコ、知っているの?」


 「知っているも何も、ウー総督はブラッディさんとは昔馴染で、ブラッディさんから色々聞いているからね。」


 「ウー総督は財団出身ってのは御父様から聞いていたけど、ウー家は初めて聞いたわ。」


 「ウー家は北京の名家でも最も高い資金力を持っていて宦官を通じて歴代皇帝に仕えて続いた名家なんだよ。清帝国時代にイギリスの使者が乾隆帝の会見を求めて来た時にその使者当然と一緒にいたパラディウス家の人と親密な関係を結び、大戦後にパラディウス家がホテップ社を創設すると北京支社のCEOとなって代々管理し、財団設立後も北京の財団支部も管理しているんだよ。」


 「パラディウス家とも関係があったなんて…」


 「意外とヘレナも知らないんだなぁ。財団のロックフェルド家だってパラディウス家と似たような関係だろ?」


 「パラディウス家とホテップ社のことは御父様とブラッディさんしか知らないし、それに彼処は財団と違って表向きは非公式な存在となっているからね。それにラルドがさっきからいないけど、何処にいるの?」


 「何でも、テロリストがチベットに隠している新型機を鹵獲するためにその部隊と一緒に行ったってタオから聞いたけど…それにまた正体不明のデーモンビーストがそこにいるらしいし…」


 「それって大丈夫なの⁉」


 「それなら、心配ないよ! ここの軍のASは本国の軍が使用しているアルケーダより遥かに強力だから、余計な心配はいらないよ。最も相手がイレギュラーじゃなきゃね…」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 ヤマトが目を覚ますと、そこには機体の残骸があちこちに散らばっており、目の前にデーモンビーストが鉤爪でコクピットのハッチをこじ開け、腹から出した舌でパイロットを捕らえ、1人ずつ呑み込んでいった。

 その様子にヤマトは一瞬、目を背けたが、近くに生存者がいないか探すが、直ぐ横にラルドの乗るアルケーダが倒れていた。ヤマトは直ぐ様通信での応答を試みるが、返答はなく、ラルドは気絶している様子だった。

 辺りを見渡すとラルド以外の生存者はいないようだったため、ラルドを救出してその場から離れようとするが、機体が何かに固定されているような感じになっていて中々動くことが出来ず、気付くと手足に粘着液のようなものが付いていてラルドのアルケーダも同様だった。

 しかし、右腕だけは取れそうな様子だったため、食事に気を取られているデーモンビーストに気付かれないよう、右腕を粘着液から剥がし、ライフルを取ろうとしたその時、偶然に岩が崩れてその音に気付いたデーモンビーストが背中と尻尾の目を開け、後ろを振り向いた。

 ヤマトは即座に取ったライフルで迎え撃とうとしたが、デーモンビーストの口のように開いた顔から出た舌で捕らえられ、捕らえられたライフルが丸で液状化するように溶解していった。その際に気絶していたラルドが気付き、必死に機体を動かそうとするが、粘着液の影響で動けず、ヤマトのアルケーダが手を伸ばそうとするが、デーモンビーストは鉤爪でラルドのアルケーダの手足を突き刺し、ヤマトとの距離を離した。


 「何だ、コイツ…俺をラルドから遠ざけようとしている…」


 粘着液とデーモンビーストの鉤爪でアルケーダは四肢を封じられ、武器を取ることはおろか動くことすらままならないのを見たラルドはコクピットからの脱出を伺ったが、デーモンビーストは腹の口から出した舌でコクピットの部分を掴み、それを阻止した。

 デーモンビーストの不可解な行動に疑問を持ち、目的はわからずとも、ラルドが狙いだということを理解したヤマトは救出しようとするも、機体が思うように動けない状態にいた。

 その時、残骸となっている北京軍の機体の横にアックスがあることに気付くとそれを拾って粘着液の付いた箇所を切断し、更にアックスをデーモンビーストの顔に向けて投げつけ、目に突き刺さった。


 ギシャアァ~‼


 その苦痛にデーモンビーストはラルドの乗るアルケーダを離し、その隙にヤマトのアルケーダはラルドのアルケーダのコクピットハッチを無理やりこじ開け、自身も機体から降りた。


 「ヤマト!」


 「今の内に逃げるぞ!」


 「でも、機体を捨てた状態じゃ…」


 「この機体じゃ、逃げることも戦うことも出来ない。今の内に逃げるぞ!」


 デーモンビーストは突き刺さったアックスを引き剥がし、ラルドを連れて逃げていくヤマトの姿に気付き、逃がすまいとその後を追っていった。

 全速力で走っていっても65mもあるデーモンビーストに追い付かれるのは時間の問題となった。


 「不味い! 追い付かれる‼」


 「(やはり、狙いはラルドか…しかし何故、そこまで執拗に拘る? もしや、奴は…)」


 必死にラルドを連れて逃げるヤマトは寺院跡まで来ると、その中に逃げ込み、周囲を見渡して必死に何かを探すと地下水路に続く道を見付け、直ぐ様そこに隠れてじっとした。

 追いかけてきたデーモンビーストは巣に逃げ込んだ虫を探すように鉤爪で寺院跡を破壊しながら探し、ラルドとヤマトの頭上にはそれがわかるように揺れていった。寺院跡を破壊してもラルドとヤマトの姿は見当たらず、自分の身体のサイズでは見付けることは困難と判断した後、腹の口から出した無数の舌を寺院跡のあちこちに建物の瓦礫に触れながら探し回った。

 ラルドとヤマトは音を出さないように静かにしたが、1本の舌が地下水路に続く道に気付き、その中に入っていった。気付くと目の前にその舌が現れ、周囲に触れながらゆっくりと近付き、ヤマトはラルドの口を塞ぎ、音を出さないよう、ゆっくりその場から離れていったが、ラルドが咄嗟に出した足に舌が触れ、それに気付いた舌がラルドの足を捕らえた。

 ヤマトはラルドの両手をしっかり掴み、それを阻止しようとするが、舌の力も強力でヤマトもろとも引きずり込まれそうな状態だった。


 「不味い、このままでは2人とも奴に捕まる。一か八か…」


 ヤマトは片方の手を離し、拳銃を取り出してラルドを捕らえた舌に至近距離で撃ち込んだ。舌はその苦痛で地下水路内で暴れまくるが、ラルドは絶対に逃さまいと離す様子は無かった。ヤマトは尚も弾切れになるまで撃ち込むが、弾が切れても尚、舌は離さず、引きずり出そうとしたが、流石に無傷とはいかず、舌の力が弱まって外れかかっていた。

 そのチャンスをヤマトは逃さず、ラルドを舌から離し、それに気付い舌は再度捕らえようと試みたその瞬間、暴れまくった衝撃で地下水路が崩れていき、ラルドとヤマトはその瓦礫の中に埋もれてしまった。デーモンビーストはゆっくり舌を戻すが、そこにラルドの姿はなく、諦めて空間に溶け込むように姿を消してその場から離れていった。


 To be continued

次回予告

 

 姿を隠す神出鬼没のデーモンビーストの襲撃によって部隊と離れ、消息不明となったラルドとヤマトを探すため、マッカーシーはウーが用意した総督護衛部隊を連れ、チベット自治区を捜索したが、そこに例のデーモンビーストが現れ、その襲撃を受けてしまうが、そこに鹵獲対象の正体不明機が現れ、その危機を脱した。だが、その機体に乗っていたのは意外な人物だった…


 次回「堅牢な救世主」その機体は少年を戦いの運命へ導く。

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