4冊目<威を示す炎>
「次の災害が私達の生きている間に起きた時、私達が乗り越えられるだけの力を維持できていなかったらどうなると思ってるの」
そう問いかけられた私は何も答えられなかった。
「貴女のその術は必ず必要になる。その術自体が貴女を苦しめているなら私が―――
―――私が必ず貴女を、貴女の心も守る術があれば何も問題ないよね」
何もかもを焼き尽くす炎から大地と術を使う私の心を守る。
そんな手段があるならばもっと早く―――
「ごめんね、この前完成したばかりなの。貴女の術を見てから改めて構築しなおしたの」
それならば仕方がない。次があればの話になるだろうけど。
「そう、次があるなら。
次は絶対に―――『私が貴女も、貴女からも、何もかも守るから』」
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また……夢……?
「ケイトが寝呆けてるなんて珍しいねぇ」
コトノの声で一気に意識が覚醒した。
「あ、ごめん。なんか夢?を見てた気がして……」
私達は今、前回の情報から得られた新たな遺跡を探索をしており、数日が経過している。
「んー……大丈夫?疲れてるなら一旦帰還する?」
遺跡の探索中は安全を確保しているとは言え夢を見るような事は今まで一度もなかったはず。
けど――
「ううん、まだ物資は余裕があるし、疲れは……大丈夫」
私の夢の手がかりはまだ見つかっていない。
探索に焦りは駄目な事も理解している。
「ねぇ、コトノ。今日の探索なんだけど―――」
普段なら絶対にしない提案をコトノにしていた。
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「よし、それじゃやるよ」
私が手にしているのは残り9枚の札『レガード』
探索の最中ではあるが悩んだ末にコトノも快く了解してくれたから出来る事だ。
「『テイロ』」
9枚の札が展開しその中の1枚を選ぶ。
選んだカードは―――〝道化師〟
「はずれだねぇ……」
思わず破りたい衝動に掛かられるような絵札は破る前に燃え尽きた。
「……ここは何もないみたいね、次に行きましょう」
色々な感情を含んだ衝動は自身の体と心を動かす原動力に無理矢理変換し探索を進めることにした。
「残り8枚で、何か見つかればいいねぇ……」
心無し、コトノの声も小さかったのは気の所為だと思いたい。
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「『テイロ』」
通算5枚目の『レガード』を使うと―――
「幸運?」
引いた札の絵柄は四つ葉の絵柄。
札の表面と比べると物凄い違和感のある色使い。
札が淡く光ると弾け、光が私とコトノに降り注ぐ。
「なんか小さい祝福みたいだねぇ」
「そうね」
探索中に気を抜くのは不味いが気を張りすぎていても不味い。
そういう意味では私は気を張りすぎていたのかもしれない。
深く息を吸い、ゆっくり吐き出すと探索を再開することにした。
次の階層でに入ったところで何もせず進もうとする私にコトノが声をかけてきた。
「あれ?使わないの?」
「あ、ごめ――」
謝ろうと言いかけたところで普段のコトノなら事前に打ち合わせと多少違う行動をしても指摘することはない。つまり―――
コトノの目をまっすぐに見つめると静かにうなずいた。
「『テイロ』」
残り5枚の中から1枚を選ぶと強い光を感じ目を狭め光が収まるのを待つ。
光が収まり手に掴んでいた札の絵柄は―――
「宿命?」
「宿命ねぇ……」
コトノが何故か苦笑いをしていてるのが気になったが、この階層の探索を終えてから野営の準備を始める。
「ねぇ、ケイト」
夕食を終えて眠る前の準備をしているとコトノが声をかけてきた。
「私、誰にも言ってないことがあるんだ」
今まで長い間過ごして来たがここまで真剣な瞳を向けてくるコトノは初めてかもしれない。
「実は私―――」
コトノが話始めようとしたとき―――
空間そのものが脈打つような感覚を覚えた。
「ケイト!街に戻ろう!」
コトノが先ほどとは違う意味で真剣な声を上げる。
瞳には焦りも見えるので迷ってる暇はないと思い、赤い石で出来ている履物型の遺物を取り出し掲げて発動させるための言葉を紡ぐ。
「『帰還』」
瞬時に特定の地点に帰還が可能な使い捨ての遺物で街に戻ると既に街は騒然としている気配に満ちていた。
街に戻った後情報を集めた限りは大災害の発生する予兆を〝研究者の集い〟が公表し、緊急事態であることは容易に想像できた。
問題は大災害の内容だった。