2冊目<至る道を示す白>
遺跡の探索から数日、持ってる食料と香辛料を考えると一旦補充と休息を兼ねて街へ帰還しなければならない。
「帰ろうぉ~、美味しい食事が待ってるぞぉ~」
ここ数日、遺跡を探索した結果見つけた遺物は初日の物を含めて7つ。
『レガード』が2組、『フラメディ』が3つ、『シルクレート』が2袋。
『フラメディ』は所謂、閨事に使う薬の一種らしく子孫を残すことに躍起になってる人達の間で高く取引されている。必要ないので全部売る予定。
『シルクレート』は遺物を作る際に必要になる粉状の物でこれも割と高い値段で取引されているが、これは1つ私が買い取ることにしている。
交渉事は私よりコトノのほうが向いているので街に入った後、私とコトノはいつも通り別れて行動。
コトノの交渉は長引くので先に宿の確保と保存食と香辛料の買い足し、情報集めとやることは多いが時間は十分にある。
商会や〝研究者の集い〟へ遺物を売りつけるのが一般的だが『価値無し』と判断された物は買い叩かれることが多い。
なので大通りの広場はもっぱら場所を借りて自分で値段を付けて売ることが出来る露店を開いて処分していることが殆どだ。
本当に『価値なし』も多いが物珍しさや値段の安さから日が暮れる頃には殆ど売れてしまう事が殆ど。
稀に掘り出し物を見つけることもあるのでこうして街で休息と補給をするときは見て回ることも多い。
そんな中で私が気になった物が1つだけあった。
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「ケイトぉ~~」
片手で串焼きを頬張り、手を振りながら近づいてくるコトノの姿を確認して彼女を迎える。
「どうだった?」
「今回もしっかりと売りつけてきたよぉ。それじゃぁ、美味しい物食べにいこぉ」
「ねえ、コトノいま、何か食べてなかった……?」
「えへへ、我慢できなくて少しだけ……わたし、わるくないよねぇ?」
コトノは食べれるときは食べる主義なのか食料に困らない時は非常によく食べる。
探索中は人並みしか食べないのでこういう時に蓄えているのかもしれない。
彼女はアルマニアという人の姿を中心に動物の特徴を備え持つ、人種で不思議なことにアルマニアは必ずしも親の特徴を引き継ぐ訳ではないらしく時折諍いの元になることも少なくないという。
そんな不思議な彼女に、不思議な能力があっても不思議ではないはず。
「そんなことないよぉ」
「えっ……?」
……素敵な笑顔に迫力を感じるコトノにちょっとだけ怖いと感じてしまったのは内緒にしておきたい。
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美味しい食事が終わり、取っておいた宿の部屋にいたら今日の成果を確認し合う。
「『レガード』が1組、『フラメディ』が2本、『シルクレート』が、とりあえずこんな感じ」
そう言って、コトノが出してきた硬貨は、探索の結果としては上々で次の探索にも余裕を持って望めるだけの金額になっていた。
「『レガード』はなんか気になった方を残してみた、『フラメディ』は値段が微妙だったからやめておいたぁ」
「気になるって、いつもの勘?」
「うん、いつものぉ」
彼女の勘はよく当たる、だから何かしら必要になる可能性があるという事だ。
「探索の結果はほぼ情報通りだったね。目的の物は見つからなかったけど……」
「それ、なんだけど……これ、気になったから買い取ってきたけどどう思う」
「――これって」
見覚えのある金縁と黒い装丁。
「私の日記帳と同じ……
……の装丁だけ?」
「うん」
私の持つ『フェルトニーアの日記帳』はありふれている遺物の1つ。
その装丁だけを勘の良いコトノが気になったというのだ。
「それは、ケイトが、持ってると、いいよぉ……ふわぁぁ」
「コトノ、もう寝て良いよ」
食事に満足しているコトノが意識を飛ばしつつ揺れているのでこれ以上続けても意味はないだろう。
「うん、おやしゅみぃ……ケイト、も早めに、寝て……ね……すぅ……」
コトノの静かな寝息が聞こえてきたところで自分自身の日記帳を取り出して今回の成果を記帳していく。
探索中は難しいのでこういう時にまとめて書くようにしている。
今回の遺跡は普通の探索なら大成功と言っても良いが、やはり目的の物が見つからなくては意味がない。
日記帳に書いてて思い出したのがコトノの見つけてきた『日記帳の装丁のみ』、そして私が露店で見つけた『白い紙の束』
コトノの様に勘が良いわけではない私が気になった理由は
「日記帳の紙と似てるって何となく思っただけで思わず買ったけどどうしようか、これ」
コトノの寝息を背中に聞きながら独り言ちる。
日記帳の装丁と日記帳に似た紙質の束。
砕け散っていた欠片が1つになる感覚を覚える。
「もしかして、これ元は同じ日記帳の……?
だったら復元できるか試してみる?」
遺物として大量に複製されているこの日記帳の製法は私も知っている。
でも、素材が1つだけ足りない。
「明日、コトノと相談かな」
日記帳と『日記帳だったもの』を鞄に仕舞い、寝息を立てるコトノの寝台へ私も潜り込む。
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いつもの様な朝を過ごし一旦部屋へ戻りコトノに昨夜の思い付きを相談してみた。
「うーん……試すだけ試してもいいんじゃない」
「じゃあ、さっそく素材が売ってないか調べよう」
「…………あっ」
「どうしたのコトノ?」
「『レガード』使ってみる?」
唐突な提案に驚くがもしかしたら彼女の勘が働いたのかもしれない。
「コトノが気になって残したのこれのため?」
「たぶんそんな気がする……?じゃあ、はい」
手渡された札を持ち、遺物である『レガード』を起動させる鍵となる言葉を呟く。
「『テイロ』」
発動と同時に10枚の札が並び目の前に浮かんだまま静止する。
コトノの目を見て互いに頷く。
何も考えず、ただ自分の夢の事だけを考えて1枚の札を選ぶ。
残りの9枚は重なって手元に戻り、選んだ1枚は回り始め白い光に―――
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「この術は駄目だ!人が持っていいものじゃない!」
「だからって継承せず研究資料も全部破棄することはないじゃない!」
淡い意識の中で誰かが言い争っている声が聞こえる。
「……私がこの生み出した術を使いどうなったか見てただろうステラ」
「……街を、ここに住む民達を救ったじゃない。なんで駄目なのよ」
「この術は余波が大きすぎる……後先考えず作り上げた結果がこれだよ」
目の前に広がる荒れ果てた大地。
何もかもが消し飛び命の気配は無に等しい。
「同じような規模の群団がきたらまたこの力で荒れ果てた地を作れというの?」
『なら、私が守れば問題ないよね』
「ステラ、何を言って―――
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「――ト、ケイト!」
「コト、ノ?」
意識が飛んだのか、体を支えながらコトノが顔を覗き込んでいる。
手には引いた1枚のカード。
「導き?」
そう呟く光球が出現し札は燃え尽きた。
光球はそのまま何かを示すように円を描いている。
「私の鞄?」
「たぶん、そうだと思う」
鞄を開け中身を取り出す。
光球が示したのはコトノの見つけた『日記帳の装丁』と私が見つけた『白い紙の束』
光球は明滅し二つの遺物を包み込む。
感覚で分かる。今ならできるかもしれない。
「『復元』」
修復の法術を発現させ、光が治まるとそこには私の日記帳1冊だけが残っていた。
「え……?なんで?」