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第六話 理解

運動時間が終わりを告げ、俺とトキさんは檻の中に戻った。

 そして、勇者として召喚された者に共通するルールを教えもらう事になった。


「三百年以上前に召喚されたと言ってましたけど、トキさんの見た目は三十歳くらいに見えますよ?」

「ああ、老けるスピードが遅いみたいだ。これがまず一つ目のルールだ」

 このまま帰ることが出来なければ、千年以上はこっちで暮らさなきゃいけないのか。

「お前も知っていると思うが、勇者は努力で習得できるスキルとは違う、固有スキルを所持している。これが二つ目だ」

「はい」

「成長が速い事、そして傷の治りが速い事が三つ目と四つ目だ。この辺が基本情報になる」

「覚えときます」

「脱獄に必要そうな情報も頭に入れてもらうが、まずはお前のスキルの性質を掴むことだ。頼んだぞ」


 俺は黙ってうなずいた。もし、本当に長さと重さを計るだけのスキルだとしたら……。そんなネガティブな感情が浮かび上がってくるが、頭を振って気を取り直した。


「お前も色々あって疲れたろう。今日はもうゆっくり過ごして休んでくれていい」

「ありがとうございます」



 お言葉に甘えて、俺はトキさんと他愛のない会話をして時間を潰し、夕食を食べて消灯時間を待った。

 二段ベッドの上に寝転ぶと、明日の刑務作業ができるかどうか不安になった。農作業なんて小学生の時の芋ほりが最後だったと思う。

 

 いろいろな疲れが溜まっていたのか、考えすぎて目が冴えることは無く熟睡できた。

 朝食を食べ終え、看守たちに連れ出された農場はだだっ広い麦畑だった。ここから脱走できそうだが、地図も水筒も持っていない囚人では野垂れ死ぬだけだな。

 トキさんの後ろにくっついていたら看守に肩を叩かれた。

「お前はこっちだ、1969」

「あ…」

「しっかりやれよ、カズ」

「はい。トキさんも頑張ってください」


 俺は収穫した麦の束を倉庫に運ぶ仕事に回された。目の前には荷車が一台置かれていた。まさか、俺がこれを引っ張るのか?ロバや牛じゃないんだぞ。

「おら、速くやれや新人」

 囚人に肩をどつかれた。そいつは麦束を荷車に放り込むと易々と荷車を押し始めた。

「しょうがないか……」

 看守も俺を見てる。目を付けられない様にしっかりと働かなきゃいけないな。


「先ずは麦を、うわ!虫!」

「けっ、お嬢様かよ」

 別の囚人に笑われた。くそっ、気にしていてもしょうがない。さっさと荷車を引っ張ろう。

「はぁ、はぁ、重……」

「おい手伝ってやろうか」

 まさか優しい囚人が居るとは。俺は驚いてそいつの顔を見た。

「そのかわり、夜になったらイイ事しようぜ、ぎゃはは」

「おいやめとけ、トキのお気に入りだぞそいつ」

「げ、もう唾つけられてんのか。チッ」


 俺を馬鹿にしやがって!いつか、いやすぐに見返してやる。

「顔、覚えたからな……」

 二時間ほどこの仕事を繰り返したら休憩が与えられた。水が入ったコップを持ち、一人になれそうな倉庫の裏に行った。


「やることないなぁ…」

 以前なら飯田と喋ったり、本を読んだり絵をかいたりしてれば時間は潰せた。今は、大して長くもない休憩時間が辛く感じる。

「おい1969、もっとこっちに来い。隠れるような真似はするな」

「……はい」

 ここの看守、俺の囚人番号を全員覚えてるのか?俺の囚人服はオレンジ色の長袖とズボン、そして上下の白い肌着だけだ。どこで判断してるんだろう。

 「そうだ、スキルの練習をしてなかったな」


 計測を使うときは、まず対象の何が知りたいのかをイメージする必要がある。長さと重さだけじゃないイメージを持ってみよう。今俺が知りたいのは、例えば看守がどうして囚人番号を覚えてるのかだ。

 そんなに上手く行かないだろうが、取りあえず看守をよく見てみるか。

「んー、どうして、どうして……」

「……なんだ、1969」

「あ、いえ。ちょっとトイレに行きたくて」

「適当に済ませろ」


 対象の状態、洗脳。効果、中程度。


「マジかよ!」

「なにがだ!」

「ああ、なんでもないです!」


 走って物陰に逃げた。やったぞ、今のでかなり感覚を掴むことが出来た!対象の状態が、本来からどれだけ違うのかが解るみたいだ。


今ので俺の能力の使い方が分かりかけて来た。多分、できないと思っちゃダメなんだ。それが大事なんだ。

「いける、いけるぞ!」




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